16年度の卒業生   作:Ray May

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遊びはおしまいっ! p6

-◆◇◆-

 

 

 

「――あああぁぁぁぁぁッ、もぉッ!!」

 

 

 河川敷に、タマちゃん先輩の怒号が響き渡っていた。

 

「なんッ、やねんッ!! アイツはぁッ!!」

 

 それと共に彼女は、アンダスローのフォームで石を川に投げ入れる。川面に跳ねさせる意図があるんだろうけど。一向に成功する兆しが無かった。

 

「あぁーッ、もうッ!! 手頃な石無くなってもうたわッ!! クソッ!!

「……なんというか」

 

 それを私たちは、土手の上から見守っているのだけれど。マックイーンさんが、ぽつりと言っていた。

 

「こう……また『彼女』とは、別の意味で難しい子ですわね」

「……はい」

 

 ……簡単なことではないとは思っていた。

 難しい戦いになるだろう、と考えてはいた。

 でも、話せばきっと分かり合えると思っていた……

 まさか……あそこまで頑固だなんて。想定外だった。

 

「冷徹なまでに現実的で、冷酷なまでに合理的……なるほど確かに、若くして一流企業の秘書を務めているだけのことはありますわ」

「……昔から()()なんです。あの子。天才、神童……誰もがそう持て囃していましたし、実際何をやらせても完璧にこなす、文字通りの優等生でした。でもだからこそ……あの子は、自分のやってること、言ってることが、だいたい正しいということをちゃんと理解してる」

 

 かつてあった色々を思い出す。それはいい思い出じゃない。きっとヒスイちゃんにとっても、苦い思い出。

 

「あの子……全部を言っちゃうんです」

 

 そう。

 全部を言っちゃうんだ、あの子は。

 闇の底から、何も言わなかったカペラちゃんとは、対照的に。

 光の頂点から――彼女は、何もかもを言う。

 

「正しいことだから、間違っていないから。そういう確信を持っているからこそ、思っていること、考えていることを、全部言う。だから……カペラちゃんみたいな、感情的な子との衝突が絶えなかったし。……ほんの数回だけですけど、先生と口論したこともありました」

 

 本当に数えるほどだったし、どんな内容だったかも知らないけれど。

 彼女は――大の大人相手に、真っ向から張り合っていた。

 今日のように。

 恐れず、怯えず――

 

「……でも、悪い子じゃないんです」

 

 でも、そう。

 あの子も――悪気があるわけじゃないのだ。

 

「悪気があって言ってるんじゃないんです。実際、私たちを……バカにした感じじゃなかったでしょう? あの子は本当に……本当に、真実を言っているだけ。相手をバカにしたいんじゃなくて、自分の考えを、嘘偽りなく、伝えてるだけなんです」

「ある意味、下手な嘘つきより質が悪いですわね……」

「……社会に揉まれて、少しは裁量っていうのを学んでてほしかったんですけどね」

 

 タマちゃん先輩が掴みかかった時――あの子は、いつものことと言っていた。

 きっと、取引先の人とかとも、たびたびあぁいうトラブルを引き起こしてるんだろう。

 それでも変わらない、曲がらない、彼女の信念。

 自分に絶対の自信があるからなのか。それとも……譲れない使命や目的が、あるからか。

 ……それとも。

 

「どうするのです? 理詰めではほとんど勝ち目はないではありませんか」

「えぇもう、本当に。あんまりもたもたもしてられないのに……次はいつ会えるかもわからないし」

「いっそ拉致でもしますか。そしてレースにまた興味を持てるよう、催眠学習を……」

「あなたの発想普通に怖いです……」

「ああぁぁぁッ、もうッ!! あかん!! 収まらへんッ!!」

 

 冗談っぽく笑うマックイーンさんの傍ら、タマちゃん先輩が、何度目かの怒号と共に、荒々しく土手に上がってきていた。

 

「おい! 学園まで競争や!! ビリッケツはジュース奢りな!!」

「え? ちょ――」

「よーい、どんっ!!」

「た、タマちゃん先輩!?」

 

 で……私たちが反応する間も与えず、どどどど……と、走り始めてしまった。

 

「……キてますね。だいぶ」

「当然ですわ。私たちは……レースに真剣なのですから」

 

 嘆くように息を吐いたマックイーンさんは、言う。

 

「私たちだけではありませんわ。学園に通う誰もが、レースという競技に真剣に向き合っています。誰も、テキトーに――それこそ、遊びのように走ってなどいないでしょう。それをあんな風に言われたら……誰だって怒りますわ。実際……

 

……私も少々、不愉快でした」

 

「……マックイーンさん」

「あ」

 

 と、いけない、とばかりに、彼女は手を口に当てていた。

 

「ご、ごめんなさい。今の、オフレコでお願いします……」

「あはは……」

「おーい! 何ボーっと突っ立っとんねん!!」

 

 お口が悪くなったからだろう。彼女が苦笑いすると同時に、タマちゃん先輩が、ちょっと前の方から呼びかけてきて来た。

 

「置いてくでー!!」

「はーい! 今行きますわ! さ、行きましょう」

「はい――っ」

「?」

 

 マックイーンさんに頷き、走り出そうとした瞬間。

 クラっと来た。

 倒れそうになるけれど、寸でのところで踏み止まる。

 

「……大丈夫ですか?」

「は、はい。あはは。ちょっと疲れてるのかな」

 

 不安そうに声を掛けてくれるマックイーンさんに答え、二人、一緒に走り始める。

 最終目標、有マのこと。三冠のこと。ヒスイちゃんのこと……

 考えなくちゃいけないことも、解決すべき問題も。

 ……山積みだった。

 

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