「――あああぁぁぁぁぁッ、もぉッ!!」
河川敷に、タマちゃん先輩の怒号が響き渡っていた。
「なんッ、やねんッ!! アイツはぁッ!!」
それと共に彼女は、アンダスローのフォームで石を川に投げ入れる。川面に跳ねさせる意図があるんだろうけど。一向に成功する兆しが無かった。
「あぁーッ、もうッ!! 手頃な石無くなってもうたわッ!! クソッ!!」
「……なんというか」
それを私たちは、土手の上から見守っているのだけれど。マックイーンさんが、ぽつりと言っていた。
「こう……また『彼女』とは、別の意味で難しい子ですわね」
「……はい」
……簡単なことではないとは思っていた。
難しい戦いになるだろう、と考えてはいた。
でも、話せばきっと分かり合えると思っていた……
まさか……あそこまで頑固だなんて。想定外だった。
「冷徹なまでに現実的で、冷酷なまでに合理的……なるほど確かに、若くして一流企業の秘書を務めているだけのことはありますわ」
「……昔から
かつてあった色々を思い出す。それはいい思い出じゃない。きっとヒスイちゃんにとっても、苦い思い出。
「あの子……全部を言っちゃうんです」
そう。
全部を言っちゃうんだ、あの子は。
闇の底から、何も言わなかったカペラちゃんとは、対照的に。
光の頂点から――彼女は、何もかもを言う。
「正しいことだから、間違っていないから。そういう確信を持っているからこそ、思っていること、考えていることを、全部言う。だから……カペラちゃんみたいな、感情的な子との衝突が絶えなかったし。……ほんの数回だけですけど、先生と口論したこともありました」
本当に数えるほどだったし、どんな内容だったかも知らないけれど。
彼女は――大の大人相手に、真っ向から張り合っていた。
今日のように。
恐れず、怯えず――
「……でも、悪い子じゃないんです」
でも、そう。
あの子も――悪気があるわけじゃないのだ。
「悪気があって言ってるんじゃないんです。実際、私たちを……バカにした感じじゃなかったでしょう? あの子は本当に……本当に、真実を言っているだけ。相手をバカにしたいんじゃなくて、自分の考えを、嘘偽りなく、伝えてるだけなんです」
「ある意味、下手な嘘つきより質が悪いですわね……」
「……社会に揉まれて、少しは裁量っていうのを学んでてほしかったんですけどね」
タマちゃん先輩が掴みかかった時――あの子は、いつものことと言っていた。
きっと、取引先の人とかとも、たびたびあぁいうトラブルを引き起こしてるんだろう。
それでも変わらない、曲がらない、彼女の信念。
自分に絶対の自信があるからなのか。それとも……譲れない使命や目的が、あるからか。
……それとも。
「どうするのです? 理詰めではほとんど勝ち目はないではありませんか」
「えぇもう、本当に。あんまりもたもたもしてられないのに……次はいつ会えるかもわからないし」
「いっそ拉致でもしますか。そしてレースにまた興味を持てるよう、催眠学習を……」
「あなたの発想普通に怖いです……」
「ああぁぁぁッ、もうッ!! あかん!! 収まらへんッ!!」
冗談っぽく笑うマックイーンさんの傍ら、タマちゃん先輩が、何度目かの怒号と共に、荒々しく土手に上がってきていた。
「おい! 学園まで競争や!! ビリッケツはジュース奢りな!!」
「え? ちょ――」
「よーい、どんっ!!」
「た、タマちゃん先輩!?」
で……私たちが反応する間も与えず、どどどど……と、走り始めてしまった。
「……キてますね。だいぶ」
「当然ですわ。私たちは……レースに真剣なのですから」
嘆くように息を吐いたマックイーンさんは、言う。
「私たちだけではありませんわ。学園に通う誰もが、レースという競技に真剣に向き合っています。誰も、テキトーに――それこそ、遊びのように走ってなどいないでしょう。それをあんな風に言われたら……誰だって怒りますわ。実際……
……私も少々、不愉快でした」
「……マックイーンさん」
「あ」
と、いけない、とばかりに、彼女は手を口に当てていた。
「ご、ごめんなさい。今の、オフレコでお願いします……」
「あはは……」
「おーい! 何ボーっと突っ立っとんねん!!」
お口が悪くなったからだろう。彼女が苦笑いすると同時に、タマちゃん先輩が、ちょっと前の方から呼びかけてきて来た。
「置いてくでー!!」
「はーい! 今行きますわ! さ、行きましょう」
「はい――っ」
「?」
マックイーンさんに頷き、走り出そうとした瞬間。
クラっと来た。
倒れそうになるけれど、寸でのところで踏み止まる。
「……大丈夫ですか?」
「は、はい。あはは。ちょっと疲れてるのかな」
不安そうに声を掛けてくれるマックイーンさんに答え、二人、一緒に走り始める。
最終目標、有マのこと。三冠のこと。ヒスイちゃんのこと……
考えなくちゃいけないことも、解決すべき問題も。
……山積みだった。