ヒスイは店外へと出たかと思うと。
雨の中を、傘も差さずに歩く。
シービーもまたそれに着いていくが――
そこに、先ほどまでの和やかさはない。
「……ねぇ」
「……」
「ねぇってば!」
呼びかけにも関わらず、ヒスイは止まらない。
立ち止まりもせず、前を歩き続ける。
「……ごめんね」
それに追い縋りながら。
シービーは言う。
「やっぱり、ちょっと急すぎたよね。アタシなりに色々考えたつもりだったんだけど……空回りしちゃった」
申し訳なさそうに。
雨の中。
それでも、先ほど買った服の収められた紙袋を、彼女に差し出そうとする。
「でもさ、」
追いながらそうするのは、なかなかに難しかったが。
「これ、折角買ったんだし。お詫びって意味でもさ。せめて受け取って――」
なんとか、差し出して――
「――っ!」
ヒスイは。
そこで立ち止まり。
振り返り様――
その紙袋を、弾いていた。
「……」
弾かれた袋は、地面に落ち。
中身も、若干だが、外に出る。
言うまでもなく、ずぶ濡れになってしまったそれを。
「…………」
シービーは、ゆっくりと持ち上げる。
既にすっかり、重くなってしまった服の数々。
「……なんなんですか」
ヒスイは。
雨に打たれながら、言った。
「――なんなんですかあなたはッ!!」
いや、言ったというより、叫んでいた。
「いきなり押しかけてきたと思ったら、こちらの許可もなく方々に連れ回して!! どういうつもりですか!? 私に個人的に恨みでもあるんですか!?」
「……そういうわけじゃないよ」
「あなたのせいで、予定が全部狂ったんですよ! わかりますか!? 今頃家に落ち着いてゆっくりしてるところなのに、あなたのせいで、あなたのせいで!! 全部滅茶苦茶です!! こちらが求めてもいないのに、勝手に連れ歩かないでください!!」
それまでの彼女が嘘であるかのように。
感情を吐露するように、吐きつけるように。
「――迷惑ですッ!!」
「……」
シービーの瞳は。
悲しげ――とは違っていた。
もちろん、いつもの楽しさとも無縁。
かといって、虚無でもなく――
その色は。敢えて言うならば。
「…………」
――『侮蔑』。
に、近かった。
「……わかった」
ヒスイが、それに気づいたかどうかは定かではない。
ただそれでも、シービーは、答える。
「迷惑かけてごめんね。もう……放っておくことにするよ」
「……」
「……でも、最後にひとつだけ答えてほしい」
色のない声色で。
抑揚のない声で。彼女に、言う。
「……キミは、どうしたいの?」
「……何度も」
そう、何度も。
ここ最近、何度も、繰り返し聞いた、言葉。
「何度も、言ってるじゃないですか……」
その真意など。
問うまでもない。
「私がどう思うかどうかなんて、」
だから。
それまでそうしたように、彼女も――
「関係が――」
同じように。
答えようとした。
「――っ」
が。
その時。
シービーは確かに、していた。
いかにも苛立たしげに――
『舌打ち』を。
「うっさいなぁごちゃごちゃごちゃごちゃ」
そして。
その声は、刹那、どす黒い色に変色し。
「――!?」
同時、両手が伸び。
ヒスイの頬を捉え。
そのまま――引き寄せる。
逃れようもなく。
ヒスイは――間近で。シービーと、相対させられていた。
ヒスイの瞳は、戸惑いと恐怖に染まり――
シービーは――
激昂に。
憤怒一色に――染まっていた。
「――聞いてんだよアタシは!! 神がどうとかじゃなくて!!」
その感情のままに。
シービーは言う。
「
「――……」
その言葉の含意を。
ヒスイは、すぐには汲み兼ねた。
いや、汲み兼ねたというよりも――
汲み取ることを、躊躇ってしまった。
それを汲んだところで。
待ち受ける結末と感情を――
彼女は、よく知っているからだ。
「……キミがどういう事情で、『そういうこと』をしているかはわからない」
なおも口を閉ざすヒスイに――
シービーは続ける。
「でも『それ』が『どういう選択なのか』は、ちゃんと自覚しておいた方がいい」
「……選択」
「今日、関わってみてわかったよ」
雨は止まない。
止まないまま、二人を打つ。
「キミのそれは――勇気じゃない」
「……」
シービーは。
離れる。
無情なまでに、背を向ける。
「……じゃあね」
そして――
豪雨の中を。立ち去っていた。
「……」
ヒスイは。
路地の真ん中で、雨に打たれながら、頭上を見上げる。
そこには、一切の光も見出せず。
――それに、唄うなど。
とても、出来そうにはなかった。