16年度の卒業生   作:Ray May

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雨の日◎ p6

 ヒスイは店外へと出たかと思うと。

 雨の中を、傘も差さずに歩く。

 シービーもまたそれに着いていくが――

 そこに、先ほどまでの和やかさはない。

 

「……ねぇ」

「……」

「ねぇってば!」

 

 呼びかけにも関わらず、ヒスイは止まらない。

 立ち止まりもせず、前を歩き続ける。

 

「……ごめんね」

 

 それに追い縋りながら。

 シービーは言う。

 

「やっぱり、ちょっと急すぎたよね。アタシなりに色々考えたつもりだったんだけど……空回りしちゃった」

 

 申し訳なさそうに。

 雨の中。

 それでも、先ほど買った服の収められた紙袋を、彼女に差し出そうとする。

 

「でもさ、」

 

 追いながらそうするのは、なかなかに難しかったが。

 

「これ、折角買ったんだし。お詫びって意味でもさ。せめて受け取って――」

 

 なんとか、差し出して――

 

「――っ!」

 

 ヒスイは。

 そこで立ち止まり。

 振り返り様――

 その紙袋を、弾いていた。

 

「……」

 

 弾かれた袋は、地面に落ち。

 中身も、若干だが、外に出る。

 言うまでもなく、ずぶ濡れになってしまったそれを。

 

「…………」

 

 シービーは、ゆっくりと持ち上げる。

 既にすっかり、重くなってしまった服の数々。

 

「……なんなんですか」

 

 ヒスイは。

 雨に打たれながら、言った。

 

 

「――なんなんですかあなたはッ!!」

 

 

 いや、言ったというより、叫んでいた。

 

「いきなり押しかけてきたと思ったら、こちらの許可もなく方々に連れ回して!! どういうつもりですか!? 私に個人的に恨みでもあるんですか!?」

「……そういうわけじゃないよ」

「あなたのせいで、予定が全部狂ったんですよ! わかりますか!? 今頃家に落ち着いてゆっくりしてるところなのに、あなたのせいで、あなたのせいで!! 全部滅茶苦茶です!! こちらが求めてもいないのに、勝手に連れ歩かないでください!!」

 

 それまでの彼女が嘘であるかのように。

 感情を吐露するように、吐きつけるように。

 

「――迷惑ですッ!!」

「……」

 

 シービーの瞳は。

 悲しげ――とは違っていた。

 もちろん、いつもの楽しさとも無縁。

 かといって、虚無でもなく――

 その色は。敢えて言うならば。

 

「…………」

 

 ――『侮蔑』。

 に、近かった。

 

「……わかった」

 

 ヒスイが、それに気づいたかどうかは定かではない。

 ただそれでも、シービーは、答える。

 

「迷惑かけてごめんね。もう……放っておくことにするよ」

「……」

「……でも、最後にひとつだけ答えてほしい」

 

 色のない声色で。

 抑揚のない声で。彼女に、言う。

 

「……キミは、どうしたいの?」

「……何度も」

 

 そう、何度も。

 ここ最近、何度も、繰り返し聞いた、言葉。

 

「何度も、言ってるじゃないですか……」

 

 その真意など。

 問うまでもない。

 

「私がどう思うかどうかなんて、」

 

 だから。

 それまでそうしたように、彼女も――

 

「関係が――」

 

 同じように。

 答えようとした。

 

「――っ」

 

 が。

 その時。

 シービーは確かに、していた。

 いかにも苛立たしげに――

『舌打ち』を。

 

「うっさいなぁごちゃごちゃごちゃごちゃ」

 

 そして。

 その声は、刹那、どす黒い色に変色し。

 

「――!?」

 

 同時、両手が伸び。

 ヒスイの頬を捉え。

 そのまま――引き寄せる。

 逃れようもなく。

 ヒスイは――間近で。シービーと、相対させられていた。

 ヒスイの瞳は、戸惑いと恐怖に染まり――

 シービーは――

 激昂に。

 憤怒一色に――染まっていた。

 

「――聞いてんだよアタシは!! 神がどうとかじゃなくて!!」

 

 その感情のままに。

 シービーは言う。

 

 

()()()()()どうしたいのかって!!」

 

 

「――……」

 

 その言葉の含意を。

 ヒスイは、すぐには汲み兼ねた。

 いや、汲み兼ねたというよりも――

 汲み取ることを、躊躇ってしまった。

 それを汲んだところで。

 待ち受ける結末と感情を――

 彼女は、よく知っているからだ。

 

「……キミがどういう事情で、『そういうこと』をしているかはわからない」

 

 なおも口を閉ざすヒスイに――

 シービーは続ける。

 

「でも『それ』が『どういう選択なのか』は、ちゃんと自覚しておいた方がいい」

「……選択」

「今日、関わってみてわかったよ」

 

 雨は止まない。

 止まないまま、二人を打つ。

 

「キミのそれは――勇気じゃない」

「……」

 

 シービーは。

 離れる。

 無情なまでに、背を向ける。

 

「……じゃあね」

 

 そして――

 豪雨の中を。立ち去っていた。

 

「……」

 

 ヒスイは。

 路地の真ん中で、雨に打たれながら、頭上を見上げる。

 そこには、一切の光も見出せず。

 ――それに、唄うなど。

 とても、出来そうにはなかった。

 

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