16年度の卒業生   作:Ray May

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ウママニア p5

 そう、先ほどまでは、朗らかに、柔らかなムードで集っていたというのに。

 彼がそれを告げた瞬間に。

 

「………………」

 

 誰もの瞳が――

 燃え始めたからだ。

 まるで、重賞のレースに臨むかのように――

 めらめらと。

 燃え盛っていたからだ――

 

「……あ」

 

 その注目を一身に浴びた西崎は。

 それまでの誇らしげな笑みを、瞬時に、困ったようなそれに変えていた。

 

「え、えーっと……」

 

 それから、起源を伺うかのように。

 

「お、お嬢様方……?」

 

 戦々恐々と、彼が言った時。

 

「!」

 

 メジロマックイーンが――唐突に、挙手をする。

 

「は、はい! なんでございませう!?」

「……僭越ながら」

 

 いつになくおどおどと対応する彼にも構わず、メジロマックイーンは、そう前置くと。

 言っていた。

 

 

「――勝負服に、着替えてきてもよろしいでしょうか?」

 

 

「――!?」

 

 続けられた言葉に――

 西崎は、目を見開く。

 

 勝負服――本来なら、一部の重賞レースにおいて、彼女らが着用する、いわば正装。

 それを着ることで、不思議と力が湧き出てくる、彼女らにとっての、『バフ装備』でもあるのだが――

 

 今は、そのためのレースではない。

 公式ですらない――模擬レース。

 そのために、勝負服を引っ張り出すというのは――

 

「い――いやいや」

 

 さすがの西崎も、二つ返事での承諾は、しかねた。

 

「お、落ち着けマックイーンさんや? あのな? 一応これ模擬レースで、いくらスイーツが欲しいからって――」

「……トレーナー。私からもお願い」

「!?」

 

 そんなマックイーンに。

 スズカが加勢し。

 

「んー、じゃあゴルシちゃんもそれで!」

「ま、やるからには、ボクも本気でやりたいしねぇ」

「おぉ! よくわかんないけど、ターボも着てやりたいぞ!」

「勝ってオグリにご馳走するんや……!」

「え、えと、じ、じゃあライスも!」

「シー! ならエルも着たいデース!」

「……」

 

 次々と。

 次々と。出走者たちは同調し。

 客席からの歓声もあって、場は手が付けられなくなりつつあった。

 

「…………」

 

 ――軽率に、スイーツなんぞで釣るべきではなかった。

 次はもっと考えないとな――と思いつつ。

 西崎は、片手で顔面を覆っていた。

 

「……、わかった。但し急いでな」

 

 そして。観念したように。

 そう言って、手を叩く――

 

「ほい、ゴー――」

 

 ――という、合図も待たずに。

 彼女らは、一斉に、元来た道を、戻り始めた。

 

 ドドドドド……と、砂埃を上げながら、走り去り。場には、西崎、ガーネットカペラ、ヒスイレグルス、そしてサファイアミザールが残される。

 

「……お前は行かなくていいのかよ」

「へ?」

 

 肩を落とす西崎の傍ら、カペラは、ミザールに問いかける。

 

「あたしらはそもそもデビューしてないからあれだけどさ。お前はあるんだろ? 勝負服。着てこなくていいのか?」

「え……い、いや。別にそこまで本気でほしいわけじゃ……」

「いや……ミザール。お前も行ってこい。さもないと、先輩に捻り潰されるぞ……」

「……」

 

 西崎もまた、それに続く。助けを求めるように、ミザールはヒスイの方を見るが。

 

「……」

 

 彼女も彼女で。

 黙々と、ウォームアップに勤しんでいた。

 どうやら――

 それ以外に、選択肢はないらしかった。

 

「……、わかりました。行ってきますね……」

 

 そうして、嘆息したミザールも、また――

 着替えるために、元来た道を戻り始める。……

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 ――斯くして。

 役者は、再び集結していた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 トレセン学園第一グラウンドは、先ほどまでとは、全く異なる様相を呈している。

 ゴゴゴゴゴ――という擬音でも見えてしまいそうなほどの空気。

 

 ガチで重賞レースの出走前じゃねぇか、と西崎は、固唾を呑まずにはいられなかった。

 そのせいか――客席の盛り上がりも、模擬レースとしては異様なほどになっている。

 

「――!」

「――!!」

「――……!!」

 

 そこもまた――

 異様な熱気に、包まれている。

 

「……よし、じゃあみんな、始めるぞー……」

 

 西崎の、後悔に満ち満ちた呼びかけに応じて、彼女らはスタートラインに立った――

 

 

『全力大逃げ娘』――ツインターボ。

『怪鳥』――エルコンドルパサー。

『不屈の帝王』――トウカイテイオー。

『栗毛の怪物』――サファイアミザール。

『不沈艦』――ゴールドシップ。

『ターフの名優』――メジロマックイーン。

『眠れる才女』――マチカネタンホイザ。

『黒い刺客』――ライスシャワー。

『ブラックレースの申し子』――ガーネットカペラ。

『賓客』――ヒスイレグルス。

『鉄の女』――イクノディクタス。

『異次元の逃亡者』――サイレンススズカ。

『愛しき名脇役』――ナイスネイチャ。

『白い稲妻』――タマモクロス。

 

 

 総勢――十四名のウマ娘は。

 出走の準備を整えた。

 

「担当クン。そっちは?」

「いつでも」

「おし」

 

 最後の確認を終え、彼はスタートラインの端に立つ。

 それからスターターピストルを手に握り。

 空に向けた。

 

「じゃ、行くぞ! みんな、位置に着いてー!」

 

 そして。

 

「よーい――」

 

 高らかに――宣言していた。

 

「――どん!!」

 

 斯くして、模擬レース――

 もとい、スイーツビュッフェ一日無料券を巡る、仁義なき競争が。

 幕を開けたのだった。

 

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