16年度の卒業生   作:Ray May

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真剣勝負デス! p1

-◆◇◆-

 

 

 

 空砲と同時、といういつもと違うスタート方法にも関わらず、私たちは極めて落ち着いて、極めて普通に駆け出していた。

 本当に普通のレースとほとんど同じ、実況でも聞こえてきそうなほどだ。

 みんな、それだけ真剣に臨んでいることの表れだろう。スイーツパワー恐るべし、といったところか。

 まず真っ先に先頭に出たのは――言うまでもなく、あの長い橙色の髪。

 

 サイレンススズカさんだ。

 

「……」

 

 正直、スイーツはどっちでもいいんだけど――

 やっぱり、やるからには、一着を取りたい……!

 

 というわけで、飽くまで目指すのはトップ。勝ち取るのは一着――

 ……ただそうなると、最大の問題は、このスズカさんをどこでどうやって追い抜くか、という話になってくる。

 

 異次元の逃亡者――その名は伊達じゃない。彼女の活躍も、これまで何度も見てきた。

 その速さはもちろんのこと、後続を絶対に抜かせないという気迫、そして根性――

 逃げウマ娘という存在を、彼女ほど如実に体現しているウマ娘を、私は他に知らない。

 一時期は故障してしまい、あわや引退の騒ぎになったものの――こうしてちゃんとレース場に戻ってきているあたり。その情熱も、汲み取って余りある。

 

 きっかけだ。まずはきっかけ。

 彼女に追い縋るための、きっかけを作らなくては。

 

「……、」

 

 とはいっても、警戒すべきは彼女だけじゃない――

 周囲を取り囲むように走るみんなも、それと同じくらいの実力者。

 誰も彼もが、大なり小なり、世間の話題を掻っ攫ってきた有名人。

 目を離せないのは――全員、であるのは間違いないんだけど。

 その中でも、ひときわ――

 ひときわ、目を離せないのは。

 

 ――やっぱり。

 マックイーンさんか、とりあえず――!

 

 今は私のすぐ傍を走っている彼女だけれど、この混沌とした状況に、抜け出すタイミングを見極めているのだろう。

 ウマ娘きってのステイヤーとして名高い彼女は、その底抜けのスタミナが売りのひとつ。

 私たちが疲弊してきた辺りを狙って、一気に抜け出す腹積もりに違いない。

 

 だったら――ここは、抜け駆けさせないためにも、マークを強めに敷いて。

 いつでも反応出来るようにしておくこと……!

 

「――っ」

 

 それと同時に。

 周囲の現状確認も、怠らないこと――!

 そういうわけで、左右をちらちら見まわしながら、現状を把握する。

 どうだ。

 どうなってる。

 まだ第一コーナーに入るところだけど。

 現状は――

 

「――」

 

 現状は――!!

 

「――……」

 

 ……

 ……おっけい。

 とりあえず把握出来た。

 今の順位は……こんな感じ……!(敬称略!)

 

 

1st サイレンススズカ

2nd ツインターボ

3rd エルコンドルパサー

4th マチカネタンホイザ

5th メジロマックイーン

6th 私!

7th ナイスネイチャ

8th トウカイテイオー

9th ……こっからはわかんない!

 

 

 もちろん、これが最終順位になるってことはないだろう。背後から何が迫ってくるかもわからない。

 ただ、仕掛けるにしても、焦るにしても、まだまだ早い。

 まずは様子見。

 まずは、誰がどう動いて、レースがどう変わるのか――見極めよう……!

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 第二コーナーの終端にて。

 早速、レースは動いていた。

 

「――っ、っ……!」

 

 ツインターボは、いつものことながら、開始から飛ばし過ぎてしまっていた。

 まだレースは始まったばかりだが、既に息が上がり始めている。

 ロケットスタートであのサイレンスズカに追い縋っているものの、その距離は開くばかり。

 でも負けない、めげない、諦めない――と、気を入れ直し、今一度、力強く地面を踏む。

 

「――ヘイヘイヘイッ!」

 

 そんな彼女に――背後から追い上げてくる影。

 

「この程度でもうグロッキーデスかー!?」

「――ッ」

 

 陽気に語り掛けてくる声に、ツインターボは、忌々しげな舌打ちを鳴らしていた。

 

「ハゲタカ……!!」

「ノンノンノン! エルは『タカ』じゃありマセん!」

 

 その、普段からは考えられない暴言に、しかし彼女――エルコンドルパサーは動じない。

 余裕そうに指を振ると。

 

「エルは、コンドル!」

 

 言葉と共に、脚に力を入れ。

 

『天翔ける大鷲』(エル・コンドル・パサー)デスッ!」

「ッ――!!」

 

 一気に――ツインターボを追い抜いていた。

 

 

↑UP! 2nd エルコンドルパサー

↓DOWN… 3rd ツインターボ

 

 

 その瞬間をしかと目撃したサファイアミザールは、自身も力を入れかける。

 だが、ツインターボは、背後から見てもわかるくらい――疲弊しながらも。諦めてはいなかった。

 

「負けッ――るかぁッ!」

 

 自身に代わり、前へを走り始めたエルコンドルパサーに、気合いで追い縋っていく。

 危ない――とミザールは一息入れた。

 もしここで下手に出ていたら、無駄に体力を消費して終わっていたことだろうと。

 やはりさらに前よりも、今は目の前の方か――と、すぐ近くを走るメジロマックイーンを見る。

 彼女は未だ一定のペースを保っており、大きく動かない。

 背後からその姿を見ている、ということもあるが――

 それを加味しても。

 ――何を考えてるかわからない。

 そう思わずにはいられなかった。

 やがてレースは第三コーナーへ。

 そうはいっても、このまま待ち続けていても、何も起きないまま終わってしまうかもしれない――と、ミザールの脳裏に、考えが浮かぶ。

 まだ二周目の手前。仕掛けるには時期尚早だろうか。

 否――マックイーンが何を狙っているにしろ。

 動かずにいるのなら――今しかない。

 

「――っ」

 

 だから。

 第三コーナーを終え、第四コーナーへ。

 二周目が始まろうとする、このタイミング。誰もが多少なりともスタミナを消費しているであろう、この地点――

 最初に仕掛けるなら――ここだ、と。

 

「――!」

 

 強く、足を踏み込んだ。

 ――その時だった。

 

「――!?」

 

 そんなミザールの外側から、黒い影が追い縋る。

 青薔薇の映える黒いミニハットを――忘れるはずがない。

 

「――は!?」

「へ――!?」

 

 それは、お互いに想定していなかった偶然だった。

 そう。サファイアミザールは。

 いつの間にか追い上げてきていたライスシャワーと――

 全く同じタイミングで、仕掛けていた。

 

 

→KEEP 6th サファイアミザール

→KEEP 6th ライスシャワー

 

 

 彼女らは頓狂に声を漏らし――

 その事態に、瞬時に思考を巡らせる。

 

 ――嘘。『進路重複』(ドン被り)……!?

 ミザールは、そう驚愕し。

 

 ――……びっくりした。まさか、全く同じこと考えてるなんて……

 ライスもまた、驚愕する。

 

 ――どーする。このまま行く……!? でも下手したら接触することに……!!

 ミザールの脳裏には、最悪の事態が思い浮かび。

 

 ――こんなところで転んじゃったりしたら、洒落にならない……譲るべきなのかな……

 ライスもまた、それに思い至るが。

 

 

 ――否。

 

 

 と。

 同時に、それを否定していた。

 ――どうして譲る必要が? これはレースじゃん! 接触にビビッてレースが出来るかよ……!!

 そうして、ミザールの思考は。

 

 ――そうだよ……譲るのはこっちじゃない。接触は怖いけど、そんなの向こうも同じこと……

 ライスの思考は。

 

 ――だって、

 ――だって、

 

 完全に、一致する――

 

 ――ここは、私が先に見つけた道――!!

 

 果たして。

 二人は――どちらも、譲らなかった。

 

 

 ――そこを――!!

 ――退けッ――!!

 

 

 二人、ほぼ並走する形で――

 大外から、先頭へと、速度を上げていた。

 

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