16年度の卒業生   作:Ray May

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真剣勝負デス! p4

-◆◇◆-

 

 

 

「っ……!」

 

 想定外の事態ではあるも。

 メジロマックイーンは、その赤色の髪に、思わず口端を歪めていた。

 まだデビューも果たしていない新鋭。

 まさか、ここまで追い上げてくるとは――と、その表情には、期待と畏怖が入り混じる。

 

「いいんですの!? そんなにトばして!」

 

 その感情に押されるまま、彼女は言う。

 

「不慣れなコースではないのですか!?」

「はっ――こちとらもっとクソみたいな『コース』、走ってきてるもんで!!」

 

 それに煽られたように。

 カペラもまた、応じる。

 自身の生い立ち、そのさなかで踏破してきた、数々の『クソ』を思い出しながら――

 

「こんなもん――ハゲ山と変わらねぇッ!!」

「ちぇっ――アツいなぁっ」

 

 熾烈な先頭争い――

 この状況に置かれてなお、諦めないガーネットカペラに、サファイアミザールも思い直す。

 そうだ。何を『掛かって』いるんだ自分は。

 抜かれたからなんだ。立たれたからなんだ。

 まだレースは終わっていないのだ――と。

 前に出られたのなら。抜かれてしまったのなら。

 その彼女らを中心にして――

 

 

『戦場』(フィールド)を――

『再構築』(リデザイン)する――!!

 

 

 ――先頭はまだスズカさんか――カペラちゃんあの二人と張り合ってんの!? 凄すぎ――

 

 情報を――

 

 ――マチタンさん意外と速いんだな! 人は見かけによらない――ターボさん苦しそう、そろそろ垂れるかな――

 

 収集し――

 

 ――わ、ゴルシさん邪魔!! ――タマちゃん先輩はそこか――ライスさんはまだ傍にいるのかな――ってか後続の状況は――

 

 整理し――

 

 ――やっぱコースで使えそうなとこはなさそう――さすがに何もないとこで躓くのなんて私くらいのもんか――全体の速度だいぶ速いな!! ――体力はとりあえずまだ大丈夫そうだけど――

 

 

 分析する――……

 

 

「……っ」

 

 その末に。

 彼女は、思う。

 ――やば。なんじゃこの混沌(カオス)――

 

 思った末に。

 表情が、変わる。

 ――考えること、多過ぎ――……!!

 

 その口端が。

 楽しげに、上がる――

 

「――ははっ」

 

 そこまで来て。

 彼女は、実感していた。

 これが。

 

「あはははははっ!!」

 

 これが――『伝説級』(シニアクラス)――……!!

 そんな思考の果て。彼女は結論する。

 とにかく今は、待つことだと。

 そう、レースはそろそろ終盤。

 そこで、仕掛けるタイミングを伺うしかない、と。

 だから今は――

 雌伏の時だ、と――

 そうして、動揺しかけた頭を落ち着かせ。

 息を入れ直し、改めて走った。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「……」

 そんな彼女の様子を。

 ライスシャワーは、刃物のような冷たい瞳で、見つめていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 レースは白熱し。

 観客の生徒たちも、盛り上がる。

 トレーナー陣も、その様子を各々、分析する中――

 誰もが――もはや。忘れかけていた。

 ……そもそもこのレースが。

『何を目的として開かれたのか』、を。

 

「……」

 

 なぜ自分は。

 こんなことをしているのか。

 ヒスイレグルスは、妙に冷静に、そう考えていた。

 まだ片付けないといけない仕事があるだろうに。

 まだやらないといけないことがあるだろうに。

 父にお願いして、ここまで態々やってきて、あぁまで息巻いてその結果がこれ。

 無駄だ。

 時間の無駄だ。

 何をムキになっているのか――自分は。

 

「…………」

 

 そうだ。

 無意味だ。

 何の生産性もない。

 諦めてしまえばいい。

 辞めてしまえばいい。

 どうせこんなの、続けたところで。勝ったところで。

 何の意味もない――

 

「……、」

 

 そうだ――

 大丈夫。

 自分の心に衝立を立て、折り合いをつけて、みんな大人になっていく。

 自分もそうやって、大人になるのだ。例外なく。

 苦しくない。

 辛くない。

 悲しくなんて、ない。

 こんなことに負けたって。

 ここで辞めたって。

 終わったって……

 平気だ。

 何の問題もない。

 大丈夫。

 大丈夫。

 大丈夫……

 

「――……」

 

 そうだ。

 大……丈夫……

 

「…………」

 

 ……

 ……

 ……ほ。

 本当に――?

 

「――るさい」

 

 大丈夫だ。

 大丈夫に決まってる。

 何をアツくなるのか。何を必死になるのか。

 冷静になって、落ち着いて。

 帰ろう。

 戻ろう。

 全て……投げ出してしまおう。

 それでいい。

 それでいいんだ。

 それで――

 

「……それで」

 

 ――全部。

 いい――

 

「――やほ」

「――?」

 

 そんな風に。

 結論付けようとした、彼女の思考に割って入る、声。

 明朗で、爽やかで、透き通った――

 聞き覚えのある、声。

 

「元気してる?」

「……」

 

 ミスターシービーが。

 彼女の横を、走っていた。

 

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