16年度の卒業生   作:Ray May

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叙情、旅路の果てに p1

-◆◇◆-

 

 

 

 自分が特別な存在だということには、物心つくころには気付いていた。

 国語、数学、科学、化学、物理、生物、エトセトラ、エトセトラ――

 幼くして、膨大な量のあらゆる知識を、スポンジのように吸収して。

 幼稚園児でありながら、何年も先の物事を理解していた。

 

 神童。

 天才。

 大人たちは、私のことをそう持て囃した。

 きっと素晴らしい子になる。

 誰もがそう信じて疑わなかった。

 だからこそ、自己研鑽を、ひと時も怠ったことはなかった。

 それはもちろん、運動も同じで。

 どんなものでも一番だったし、最強だった。

 私に敵はなかったし。

 だからこそ。

 味方も、そういなかった。

 

「……ねー、ヒスイちゃーん」

 

 運動は、それほど自分の身になるものではない、と考えていた。

 そんなものにかまけるくらいなら、勉強して、知識を吸収しよう。

 悪気があったわけじゃない――だって自分には、やらなくてはならないことがあるから。

 遊びの誘いを断って、知識を貪欲にかき集めた。

 

「ねーってばー」

「いーよ、いこ。どーせ付き合ってくれないんだから」

「つまんない。がりべん。どーせまけるのがこわいんだよ」

「――おくびょーもの」

「……」

 

 ……誰かを見下したことはない。

 バカにしたこともない。

 自分にはやることがある。

 だから、一心にやり続けただけなんだ。

 

「――おとうさま」

 

 なのに。

 

「ん? どうしたヒスイちゃん」

 

 なのに……

 

「……ヒスイちゃん?」

「わたし……おくびょうじゃないよ」

 

 どうして。

 

「わたし……にげてないもの。みんなのために、このよのために、みんながしないようなこともやってるの」

 

 どうして……

 

「にげてないよ。むきあってる。みんなのために、いっぱい、いっぱい、がんばってるんだよ……

 

 なのに……なんで……

 

 なんで、あんなこといわれなくちゃ、いけないの……?」

 

「……ヒスイ……」

 

 ……号泣する私を見かねて。

 父は引っ越しを決意した。

 それは療養を目的とした一時的なもの。

 都心の喧騒から遠く離れた、自然に恵まれた田舎町。

 そこの、寂れた学校に、私は通い始めた。

 

「……」

 

 雑音とも。

 騒音とも。

 ……嘲笑とも。

 無縁の、新しい世界。

 そこでも私は、しかし、何にも邪魔されずに。

 相変わらず、勉学に励んでいたのだけれど。

 

「――っ」

 

 外。

 あまりにも室内が暑いものだから、まだ風の吹きつける外のがマシだ――と、木陰で読書をしていたら。

 突然、ボールが飛んできて、頭に当たっていた。

 

「――あ、わりーわりー!」

 

 真っ赤な髪をしたそいつは。

 悪びれもせず、笑いながら言い。

 

「ちょっと手元が狂っちまって……あ、ってかちょうどいいや! 今ちょうど人が足りないんだよ。付き合ってくんね?」

「……」

「ん? あれ聞こえてるよな? おーい、もしもし? ドッヂボール付き合ってほしいんですけども。キコエテマスカー?」

「……興味ありません」

「はぁ?」

 

 そう返して、ボールを投げ返すと。

 その子は不機嫌そうに舌を鳴らす。

 するとそこに、栗色のポニーテルの子もやってきて。

 そこで、話し出す。

 

「……ったく。付き合い悪いな」

「どうしたの、カペラちゃん」

「あー、なんでもねー。いいや別に。『がり勉』はずーっとそこで本読んでろってんだ」

 

 話し出す――

 

「――この臆病者」

 

 

『おくびょうもの』

 

 

「――っ」

 

 ……その頃の私には。

 既にその単語は、禁句と化していた。

 

「――貸しなさい」

「あ?」

「叩きのめしてやるから、貸しなさいと言ってるんです」

 

 まぁそんなわけで、ドッヂボールに参加して。

 本当に滅茶苦茶に叩きのめしてやったわけだが。

 

「――!」

「――……」

「――……!」

「――」

 

 そんな風に、奇妙な繫がりが出来て。

 たびたび煽られてはアツくなり、ボコボコにし……なんて日々が、続いたのだけれど。

 ――もう、そんな風にアツくなるなんて。

 二度とないだろうと、そう、思っていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 そう、

 思っていた。

 そう。

 思っていた、のに――

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 あぁ、本当に。

 私は――

 バカ、だったのだな。……

 

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