「――もー、どーしますよイクノさーん」
すっかり出走者に抜かれ尽くし、最後尾から二番目にまで下がってしまったナイスネイチャは、傍を走るイクノディクタスに呼びかけていた。
→KEEP 12th ナイスネイチャ
→KEEP 12th イクノディクタス
「みんなスイーツくらいで本気出し過ぎとは思いませんかーっ」
「しかし、気持ちがわからないではありません。女子にとって、スイーツとは魔物であり、悪魔でもあります」
「にしたってあんな鬼気迫る顔しなくたって……」
ナイスネイチャは、そこで改めて先団を見る。自分達にもやる気はあるにはあるが。もはや戦場と化したそこに、これから飛び込むほどの勇気はなかった。
「ったくもう、走った先に親の仇でもいるんですかねぇ」
「かもしれませんよ。あるいはスイーツに命を奪われたか」
「どこのホラーゲームですかって」
とはいえ。
「……、でもまぁ、収穫は合った方がいいもんね。もう少しやる気出しますか!」
「気を付けてくださいよ。下手に力入れたら引き込まれますから」
「いや、そこはイクノも一緒に――」
と。
ナイスネイチャが、苦笑いと共に呼びかけようとした。
その時だった。
「――!?」
「――!!」
ビリ――と。
電撃に似た悪寒を、感じたのは。
それに弾かれたように、二人は背後を見たが――
……その時には。
「――っ!?」
『ソレ』は。
通り抜けていた。
二人の間を割るように。
風と見紛うような速さで。
暴風のような。
荒々しさで――
それが、誰なのか。
今更、確認するまでもなかった。
↑UP! 12th ヒスイレグルス
↓DOWN… 13th ナイスネイチャ
↓DOWN… 13th イクノディクタス
「……」
「……」
二人は、一瞬。
お互いに、顔を見合わせるが。
「――ははっ」
笑っていたのは――
ナイスネイチャだった。
「そう来なくっちゃ!」
「――ですね」
そして、二人も。
それに引っ張られるように、改めて、走り出す。
先団は、二周目の第三コーナーへと入ろうとしていた。
……さて。
そろそろレースは終盤。仕掛けるかどうか、真剣に考えないと。
順位は先ほどと変わってない。ターボさんは相変わらず苦しそうだけど、もうほとんど気力だけで走ってそうな感じだ。近く、垂れてくれると思う。
仕掛けるならそこか――あるいはもう少し待つか。終盤に完全に入ってからの方がいいかな。このレベルの人たちが、そこまであからさまにスタミナを消費してるとは、そんなに思えないけど……
……
……しかし。
「……」
……なんだったんだろ、さっき感じた悪寒は。
集中しまくってたせいで、誰かが何かを叫んだのはわかったけど、誰が何を叫んだかまではわからなかった。ただ、空気を伝って発されたその振動は、誰もが肌で感じたはずだ。
肌で感じ取って。
悪寒として、受け取ったはずだ。
……その証拠に。
全員の表情が――
走りが。
さっきよりも、強張っているように見える――……
「……っ」
でも。
ごめんね――そのせいで。
「――ッ!!」
足並み。
微妙に崩れてますよ――
――ゴールドシップさんッ!!
「あっ――!!」
そういうわけで。
第三コーナーに入って、少ししてから、申し訳ないけど、抜かせてもらった。
油断か疲労か。どちらにせよ、もしかしたら失敗するかも、という仕掛けは、成功してくれた。
↑UP! 9th サファイアミザール
↓DOWN… 10th ゴールドシップ
「あはっ、油断してるからですよっ」
「はっ……言うようになったじゃねーかっ」
よし――ともあれ、よし!
まだまだ先は長い、前にも何人も人がいる。にも関わらず、レースは終盤。
ここから一着は難しそうだけど――ほぼ無理だとは思うけど!
「――っ」
行ける。
少なくとも、
ここからでも、十分に行け――……
「――駄目だよ、ミザールちゃん?」
――その時だった。
そんな、前向きになりかけた思考が、無情に遮られていたのは。
「――……」
黒い、青薔薇を携えた影が。
私の傍に、追い縋っていた。
「抜け駆けは」
「――ッ」
→KEEP 9th サファイアミザール
→KEEP 9th ライスシャワー
――っだあぁぁぁぁッ、もぉッ!!
なんなの!? この子、さっきからずっと私に張り付いて……!!
あぁ、そういえばそんな話あった気がする! マックイーンさんの、三連覇をかけた……確か宝塚記念*1だったっけ!?
ライスシャワーさんの執拗なマークに、ペースを乱されたマックイーンさんが差し切られたってやつ……!!
「――こ」
はは――
だとしたら、それはなんとも……
「光栄ですねっ、偉大な
「お褒めいただき光栄だよ――
――何にしてもまずい。
まずい、まずい、まずい。
このままマークされまくったら……
私も、マックイーンさんと同じ道を……!!
――そんな風に、浮つくサファイアミザールの傍。
ライスシャワーは、冷徹なまでに冷静に考えていた。
正直、驚いている、と。
思考力、分析力、仕掛けのタイミング、度胸――
どれをとっても、申し分ない。
特に最初の仕掛けの時。被った時は驚いた――あれはそのまま、自分と同じレベルで物を考えていたということ。
名実共に、優秀な子。これから先育っていけば、きっと素晴らしいウマ娘になるだろう――
「……、」
……でも。
と。ライスシャワーは。脚に力を入れた。
「――……」
でも。
ちょっと、遅い……
そして、彼女は。
無慈悲に――サファイアミザールを、抜き去っていた。
↑UP! 8th ライスシャワー
↓DOWN… 9th サファイアミザール