16年度の卒業生   作:Ray May

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叙情、旅路の果てに p2

-◆◇◆-

 

 

 

「――もー、どーしますよイクノさーん」

 

 すっかり出走者に抜かれ尽くし、最後尾から二番目にまで下がってしまったナイスネイチャは、傍を走るイクノディクタスに呼びかけていた。

 

 

→KEEP 12th ナイスネイチャ

→KEEP 12th イクノディクタス

 

 

「みんなスイーツくらいで本気出し過ぎとは思いませんかーっ」

「しかし、気持ちがわからないではありません。女子にとって、スイーツとは魔物であり、悪魔でもあります」

「にしたってあんな鬼気迫る顔しなくたって……」

 

 ナイスネイチャは、そこで改めて先団を見る。自分達にもやる気はあるにはあるが。もはや戦場と化したそこに、これから飛び込むほどの勇気はなかった。

 

「ったくもう、走った先に親の仇でもいるんですかねぇ」

「かもしれませんよ。あるいはスイーツに命を奪われたか」

「どこのホラーゲームですかって」

 

 とはいえ。

 

「……、でもまぁ、収穫は合った方がいいもんね。もう少しやる気出しますか!」

「気を付けてくださいよ。下手に力入れたら引き込まれますから」

「いや、そこはイクノも一緒に――」

 

 と。

 ナイスネイチャが、苦笑いと共に呼びかけようとした。

 その時だった。

 

「――!?」

「――!!」

 

 ビリ――と。

 電撃に似た悪寒を、感じたのは。

 それに弾かれたように、二人は背後を見たが――

 ……その時には。

 

「――っ!?」

 

『ソレ』は。

 通り抜けていた。

 二人の間を割るように。

 風と見紛うような速さで。

 暴風のような。

 荒々しさで――

 それが、誰なのか。

 今更、確認するまでもなかった。

 

 

↑UP! 12th ヒスイレグルス

↓DOWN… 13th ナイスネイチャ

↓DOWN… 13th イクノディクタス

 

 

「……」

「……」

 

 二人は、一瞬。

 お互いに、顔を見合わせるが。

 

「――ははっ」

 

 笑っていたのは――

 ナイスネイチャだった。

 

「そう来なくっちゃ!」

「――ですね」

 

 そして、二人も。

 それに引っ張られるように、改めて、走り出す。

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 

 先団は、二周目の第三コーナーへと入ろうとしていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 ……さて。

 そろそろレースは終盤。仕掛けるかどうか、真剣に考えないと。

 順位は先ほどと変わってない。ターボさんは相変わらず苦しそうだけど、もうほとんど気力だけで走ってそうな感じだ。近く、垂れてくれると思う。

 仕掛けるならそこか――あるいはもう少し待つか。終盤に完全に入ってからの方がいいかな。このレベルの人たちが、そこまであからさまにスタミナを消費してるとは、そんなに思えないけど……

 

 ……

 ……しかし。

 

「……」

 

 ……なんだったんだろ、さっき感じた悪寒は。

 集中しまくってたせいで、誰かが何かを叫んだのはわかったけど、誰が何を叫んだかまではわからなかった。ただ、空気を伝って発されたその振動は、誰もが肌で感じたはずだ。

 肌で感じ取って。

 悪寒として、受け取ったはずだ。

 ……その証拠に。

 全員の表情が――

 走りが。

 さっきよりも、強張っているように見える――……

 

「……っ」

 

 でも。

 ごめんね――そのせいで。

 

「――ッ!!」

 

 足並み。

 微妙に崩れてますよ――

 

 ――ゴールドシップさんッ!!

 

「あっ――!!」

 

 そういうわけで。

 第三コーナーに入って、少ししてから、申し訳ないけど、抜かせてもらった。

 油断か疲労か。どちらにせよ、もしかしたら失敗するかも、という仕掛けは、成功してくれた。

 

 

↑UP! 9th サファイアミザール

↓DOWN… 10th ゴールドシップ

 

 

「あはっ、油断してるからですよっ」

「はっ……言うようになったじゃねーかっ」

 

 よし――ともあれ、よし!

 まだまだ先は長い、前にも何人も人がいる。にも関わらず、レースは終盤。

 ここから一着は難しそうだけど――ほぼ無理だとは思うけど!

 

「――っ」

 

 行ける。

 少なくとも、『三着以上』(入賞)は!

 ここからでも、十分に行け――……

 

 

「――駄目だよ、ミザールちゃん?」

 

 

 ――その時だった。

 そんな、前向きになりかけた思考が、無情に遮られていたのは。

「――……」

 黒い、青薔薇を携えた影が。

 私の傍に、追い縋っていた。

「抜け駆けは」

「――ッ」

 

 

→KEEP 9th サファイアミザール

→KEEP 9th ライスシャワー

 

 

 ――っだあぁぁぁぁッ、もぉッ!!

 なんなの!? この子、さっきからずっと私に張り付いて……!!

 あぁ、そういえばそんな話あった気がする! マックイーンさんの、三連覇をかけた……確か宝塚記念*1だったっけ!?

 ライスシャワーさんの執拗なマークに、ペースを乱されたマックイーンさんが差し切られたってやつ……!!

 

「――こ」

 

 はは――

 だとしたら、それはなんとも……

 

「光栄ですねっ、偉大な『悪役』(ヒール)に、付け回されるとはっ」

「お褒めいただき光栄だよ――『悪役』(ヒール)さん

 

 ――何にしてもまずい。

 まずい、まずい、まずい。

 このままマークされまくったら……

 私も、マックイーンさんと同じ道を……!!

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 ――そんな風に、浮つくサファイアミザールの傍。

 ライスシャワーは、冷徹なまでに冷静に考えていた。

 正直、驚いている、と。

 思考力、分析力、仕掛けのタイミング、度胸――

 どれをとっても、申し分ない。

 特に最初の仕掛けの時。被った時は驚いた――あれはそのまま、自分と同じレベルで物を考えていたということ。

 名実共に、優秀な子。これから先育っていけば、きっと素晴らしいウマ娘になるだろう――

 

「……、」

 

 ……でも。

 と。ライスシャワーは。脚に力を入れた。

 

「――……」

 

 

 でも。

 ちょっと、遅い……

 

 

 そして、彼女は。

 無慈悲に――サファイアミザールを、抜き去っていた。

 

 

↑UP! 8th ライスシャワー

↓DOWN… 9th サファイアミザール

 

*1
天皇賞(春)

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