16年度の卒業生   作:Ray May

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僕にだって 誰にだって
大切なのはさ 理に叶ったモノばかりを
求める為? それだけじゃないって事を

―― 黄色いカラス / tacica




Act.4 Rise to the Freedom - 自由へのはばたき
あやしげな作戦 p1


-◆◇◆-

 

 

 

 ちょうちょをおうのがすきでした

 ちいさなからだで きれいなはねで とびたつすがたが とってもきれいで

 わたしもそれにひっぱられて そのあとをおいました

 

 それはおそらにむかって どこまでもとんでいきました

 てはとどかなくなりましたが それでもわたしは がんばって

 ちょうちょをおいかけつづけました

 

 それをおいかけていけば じぶんも

 どこまでも いつまでも とんでいけるような

 そんなきが したからです

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 桜舞う宝塚市の青空に、地響きにも似た歓声が吸い込まれていく。

 阪神競技場の熱狂はピークに達しており、それが何によって引き起こされているものなのか、など改めて連ねるまでもない。

 桜花賞――

 鮮やかな緑の芝生の上を、そのウマ娘は、橙色のツインテールを揺らしながら駆けていく。

 彼女が走る距離を伸ばしていくたび、それに釣られるように歓声もヒートアップしていく。

 

『さぁ5番ダイワスカーレット! 危なげなく最終直線へ入ります!! このまま逃げ切れるか――!!』

 

 ダイワスカーレットは――

 実況の伝えるように、独走に近い状態で最終直線へと入る。このまま勝負が着いてくれれば、彼女としても願ってもみないことではあるが――

 勝負の世界は、そこまで単純ではない、ということを、彼女は良く知っている。

 それを証明するように――

 

「!」

 

 それは現れていた。

 彼女のすぐ傍――

 1バ身もない距離にまで、瞬時に追い縋ってくる。

 鹿毛を後ろで結った、ボーイッシュな見た目のウマ娘。

 

『あーっと!! しかしここで来た! 6番ウオッカ、ここで怒涛の追い上げを見せる!! ダイワスカーレットに届くか、追い抜けるかぁー!!』

 

 ウオッカは――

 ダイワスカーレットのルームメイトであり、好敵手でもある彼女は。

 驚異的な末脚を発揮し、ダイワスカーレットを追い込んでいく。

 勝負は一筋縄ではいかない。

 それが分かっている彼女だからこそ――そんな、ウオッカの最後の意地も、織り込み済みだった。

 

「――悪いわね」

 

 だから、とばかり、不敵な笑みと共に、言う。

 

「今回は――アタシの勝ちよッ!!」

 

 踏み込む。

 温存していた力を解き放ち、追い縋るウオッカを突き放す。

 

「――ッ」

 

 だが彼女も彼女で、それをただ見つめているわけでもない。

 唇を噛み締めながら――

 自身も、最後の力を振り絞り、その背中を追う。

 

 追って。

 走って。

 追って。

 走って――

 そのデッドヒートを、果たして、制したのは。

 

『――決めたぁー!! 5番、ダイワスカーレット!! 鮮やかに決め切りましたッ!!』

 

 橙色の髪が、嬉々とした動きと共に揺れ踊る。

 ダイワスカーレットだった。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「ひゅぅ~、アッツいレースだったね~」

 

 レースの結果を見届けて、能天気とも取られそうな、のんびりとした声が上がる。

 

「やっぱりスカーレットの安心感っていうか、安定感はすごいね。最後まで危ないところが全然なかったよ」

「でもでも、ウオッカさんの追い込みも凄かったですよ! 私、最後捲れるのかもってドキドキしました!」

「いい勝負でしたね……」

 

 それに、溌溂とした声と、淑やかな声が続く。

 セイウンスカイ、スペシャルウィーク、グラスワンダー――三人は、見知った仲間の活躍を見ようと、大阪まで駆け付けていた。

 エルコンドルパサーも誘ったが、トレーニングとの兼ね合いで見送る、とのことで、三人での観覧となる、と彼女らは思っていたが。

 そこにはもう一人、いつもならあまり見られない姿があった。

 

「で、どうだった? 同期の活躍は――」

 セイウンスカイが、隣に目を向ける。

 

 そこには、栗色のポニーテール。

 

「ミザールちゃん?」

「……圧巻って感じでしたね」

 

 偶然であった。

 自身も『研究』として観覧に行こうかと思っていたサファイアミザールは、親友であるカペラもヒスイも、さすがに大阪にまで足を運ぶ余裕はなく。

 一人で行くか、誰かに同行を頼むかを悩んでいたところに、スペシャルウィークが声を掛けていたのだ。

 先輩の輪の中に自分が入るのは――と、最初は断ろうとしたものの。セイウンスカイ、グラスワンダー両名、以前から彼女のことが気になっていた、とのことで。断るに断り切れず。

 押し負け、こうして同行している次第である。

 

「スカーレットさんの強みは、その安定感ある走りだってのは聞いてましたけど。本当に最後までこう……お手本みたいな走り方で」

「そうでしょ~。結構色々、学べるとこもあったんじゃない?」

「あはは……実際、自分のものに出来るかはわからないですけどね」

 

 学べる部分、盗める部分。しかと目に焼き付けた。自分の走りに転用できるかはわからないが。それでも、ここまで来た意味はありそうであった。

 

「……凄いなぁ」

 

 しみじみと。

 噛み締めるように言った、ミザールの瞳は。

 

「走ってみたかったなぁ……」

 

 既に、妖しい色を伴っていた。

 それを間近で目撃したセイウンスカイとグラスワンダーは、思わず息を呑む。

 

「……はは。勝負好きってのは本当だったんだね」

「ふふっ。向上心があっていいではないですか」

「モノは言いようだねぇ」

「あ……そうでしたね。そういえば、果たすまでレースには出ないっていう話でしたっけ」

 

 スペシャルウィークは、そこで何かに気付いたように言った。

 

「例の目標……」

「……です」

 

 サファイアミザールの顔が、若干翳る。その目標の現状を知る彼女らだからこそ、その表情の翳りには、多少なりとも同意していた。

 

「なんなんだろーね。急に保護してくださーい、なんてさ」

 

 セイウンスカイが言うと、グラスワンダーが顎に指を添えていた。

 

「トレセン学園側がウマ娘を保護する、というお話は何度か聞いたことがありますが……保護してもらう、というお話はあまり聞きませんね」

「保護って単語が結構不穏な感じしますよね! もしかして、なんだかこう、酷い扱いを受けてきたとか……?」

「だとしたら、その親が連絡してくるのはおかしくない~? 普通そういうのって、その事実を知った第三者がするものでしょ~?」

「ですが、匿名の通報者というだけで、親御さんという確信もないというお話ではありませんでしたか?」

「……一応、通報者の正体を追ってはいるみたいです。上手くいってないみたいですけど」

 

 ミザールの言葉を最後に、四人の間に、沈黙が漂う。周囲を包む、未だ冷めやらぬ熱気が、彼女らの耳には、妙に大きく感じられた。

 

「……明日ですよね? 来るのって」

「っていう話にはなってます」

「何も起きなければいいですけれどね……」

「まぁー、気になるけど、今は目の前に集中しよっか」

 

 スペシャルウィーク、サファイアミザール、そしてグラスワンダーが、心底に不安そうに話す中。セイウンスカイは、いつも通りに軽快に笑っていた。

 

「しっかり、スカーレットの晴れ舞台を祝ってあげなきゃ」

「そうですね!」

「ですね」

「えぇ」

 

 そんな彼女の発言に、三人は明るさを取り戻す。ちょうどその時、ダイワスカーレットとウオッカが、四人に向けて手を振っていた。その輝かしい姿に、自然、彼女らも元気づけられ、負けじと手を振り返していた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 翌日。

 朝以上お昼未満な時間帯。

 昨日に引き続き、今日はおやすみなのだけれど。私は、学園の校舎を訪れていた。

 休日に校舎内を徘徊する趣味があるわけじゃない。これには当然、相応の理由がある。

 誰にも使用されていない、空きのトレーナー室――

『集合場所』へ続く廊下に出ると、遠くからでも、そこに人影があるのが見えた。数にして……三つ。

 

「……トレーナーさん」

「おう」

 

 速足でそこに辿り着いて、まず、最も見慣れた人の名を呼ぶ。トレーナーさんは、いつも通りの無表情だけれど。どこか困惑しているように見えなくもなかった。

 

「やぁ、来たね」

 

 そのうちのもう一人――会長さんも、私の姿を見て微笑む。いつもの、余裕すら感じられる風貌にも、戸惑いの欠片が見えた。

 最後の一人――たづなさんは、私に浅めに一礼する。動きが強張っているように見えるのは、きっと気のせいじゃないだろう。

 彼女らの、そんな佇まいが。

 事態が安易ではないことを、言外に物語っている。

 

「……あの」

 

 それでも。

 それでも、私は、ひとまず訊ねることにした。

 

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