アーククレイジーナイツ   作:カマクラカスタ

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僕はまだ『未熟』なんだ!『成長』に向かっていきたいッ!




ウルサス学生自治団 その2

 

 

 

 ――猶予が欲しい

 

 校内を探索する仗助の脳内は時間に支配されていた。窓に射し込む太陽の傾き具合から見るに時刻は十時頃といったところだろうか。

 

 無情に進んでいく時の流れに仗助は溜息吐く。出発から数時間で得られたものは五つの食糧のみ。勿論これが無駄な訳では無い、寧ろ困窮している今の状況からすれば持ち帰ったら激しく賞賛される程の量だ。

 

 純粋にこの食糧を持ち帰って、皆が喜ぶ姿を想像できたらどれほど素敵なことだろうか。しかし笑顔で迎え入れてくれる多数の中に少数の卑劣な笑みが脳裏に浮かび上がる。

 

 「いっその事、洗いざらいクレイジー・ダイヤモンドで殴るか?」

 

 停滞する思考に埒が明かないと感じ仗助は策と言えるかも怪しい強引な作戦を口にするが、すぐに首を横に振った。

 

 クレイジー・Dなら相手が真相を吐くまで殴る治すの繰り返しで永遠に拷問できるがその前にその暴行を咎められ教室から追放されるのがオチだろう。

 

 そもそも信頼関係も欠片程しかないのに何故こんな暴論が一瞬でも通ると思ったんだろうか。

 

「アホか俺は、億泰じゃねぇんだからよォ〜〜。しっかりしろよ」

 

 引き攣った笑みを顔に浮かべながら仗助は半面を掌で覆う。猶予がなく具体的な策も思いつかないとはいえ浅慮が過ぎる。

 

 深く深呼吸をし、アンナから渡された地図を確認する。赤い点の印が記された部分を仗助は持っていたペンでバツ印をつけた。

 

「よし、取り敢えずこれで四つとも回り切ったな」

 

 ソニア達の教室がある四階から階層順に下り、邪魔は有りつつも大方ルート通り探索して現在全て踏破したという具合で、今いる場所は一階の職員室である。

 

 しかしここではもう食糧は見当たらないと仗助は一目見て分かった。一応、職員室に入りある程度目を通してみるものの予想した通り発見はない。

 

 既に床に散乱していたプリントが先客が来ていることを表していた。

 

「⋯⋯どうしたもんか」

 

 指定された巡回ルートは粗方回りきっており成果も出せているので教室に戻る戻らないも自由である。

 

 暴力の横行する無秩序な場所で単独行動をするなら、目的を終えた時点でさっさと帰還するべきだと思うが犯行の内容を思い出す度、足が竦んでしまう。

 

 考えも纏まらず彼処に戻ってソニア達とソニア達を陥れようとしている奴等と同じ場所にいて精神をすり減らすより、仗助からすればすり減らず黙考できる一人の方がよっぽど楽だ。

 

 後ろめたさのある心境の中でソニア達と会話など仗助はとてもではないが出来ない。犯行の計画を耳打ちに伝えるという手もあるがソニア達に知らせる事などできない、できるはずがない。

 

 もしアンナが計画を、謀反を知ってしまったら責任感の強い彼女がどう思うか想像に固くない。きっと自責の念に駆られて一生自分の判断に自信が持てなくなるだろう。

 

 そんなことにはしたくない。

 

「ちょっと外に出るか⋯⋯」

 

 職員室の窓から見えたグラウンドで少し策を練ろうと仗助は外へ歩を進めた。

 

 

 

 ▽

 

 

 グラウンドは白い雪がポツポツと斑点のように積もっていた。砂と雪がミックスされているような感じでウルサス(ロシアに近い?)の季節はいつか分からないが、日本でいう冬の初めのように感じる。

 

 寒さは昼にしても日本の倍以上であるということは体感で分かる。指の末端はポケットに入れてないと感覚がなくなるし、崩れかけているリーゼントの先端が雪で濡れて既に固まっているからだ。

 

 皮肉だがノーセットでも髪型は維持できている。

 

 グラウンドを横目に見ながら、歩いている舗装された通路の先を目で追うと見覚えのある鉄製の装置が目に入った。

 

「自動販売機⋯⋯か?」

 

 ベコベコに凹んで床に伏せている、販売機前に設置されていたであろう扉を踏み飲料が残っていないか仗助は販売機を漁る。

 

 とはいえ最優先に確保すべき水分、それを売る自動販売機の荒らされようは悲惨なもので貯蔵されている中身を取り出すため数個ある販売機はどれもが表面を引っ剝がされている。

 

 探した所で缶の一つもないと思えるが、必死の奪い合いだったのか一つ縦に倒れたまま放置されている販売機があった。

 

「クレイジー・ダイヤモンド」

 

 倒れている販売機をクレイジー・Dのパワーで置き直すと、ポロリと三個ほど缶が転げ落ちた。

 

「異国語だから銘柄なんて分かんねぇな。⋯⋯雰囲気的にこれはコーヒーか?」

 

 黒い柄だからという偏見だが他二つと見比べても親近感のあるデザインなので取り敢えず手に取り、他二つは持参した鞄に放り込む。

 

 そのままグラウンドに移動し設置されているベンチに腰掛けるとプシュッと缶の栓を開け一気に流し込んだ。

 

「――プハッ!美味いなこれ」

 

 素直に感想が出るほどの美味しさに仗助は舌鼓を打つ。舌触りは爽やかで果物系の味がし、喉越しはさっぱりとしている。

 

 日本に輸入されている『ドクターペッパー』が仗助は嫌いなので海外の飲み物は大体マズイと先入観を抱いていたもののこれは別物だと思える程自身の口に合っていた。

 

 もう一口流し込み、味に満足すると仗助は遠くを見つめながら思考の海に浸ろうとするが未完に終わった。視界の右端から明らかにこちらを意識して向かって来ている四人組がいたのだ。

 

 仗助はベンチに腰掛るまま四人組の動向を見張っていると彼等は5メートルほど距離を空け立ち止まった。

 

「――――――?」

 

「俺にも分かる言語で喋ってくれるっスかね?ロシア――いやウルサス語は苦手なんスよ」

 

 相変わらず一単語すら聞き取れないロシア語を聞かされ、思考の邪魔をされた仗助は鋭い眼差しを向けながら言い放つ。

 

 理解したのか他三人を率いているリーダー格が発音を変えた。

 

「これでいい?」

 

「よし、じゃあさっさとさっき来た道を逆走してくれるか。俺は用があるんだ」

 

 意思疎通を測れた瞬間、会話の余地もなく相手を除け者にする仗助の態度にリーダー格の女子生徒は苦虫を噛み潰したように顔を歪めるがすぐに整えると言葉を続ける。

 

「そういう訳にはいかないわ。貴方よね?アントンを不細工に変えたのは」

 

「⋯⋯整形外科なら西棟の食料庫付近に行けば無料で受けられるッスよ。命の保証はないけどな」

 

 ペテルヘイム高校の区分されている三棟の内の西棟を仗助は指差すとリーダー格の女子生徒は眉間に皺を寄せた。当然だろう、西棟は貴族に占領されていてそこにノコノコ行くということは辱めを受け撲殺されにいけと言っているよなものだ。

 

「ハァ⋯⋯貴方から会話の意思がないことは分かったから前置きはもういいわ、本題に入りましょう。私達の集団を返り討ちにした貴方の実力を称し、『ペテルヘイム共栄会』の『剛勇のアンドレイ』が貴方の入会を望んでいるわ」

 

「考えてくれる?貴方が入会してくれたら働き次第では悪いようにはしないとアンドレイは言っていたわ」

 

 日中堂々と一人で行動している仗助を単独だと見定め、逃げ延びた部下の証言から奇妙な力を持っていると報告もアントンの実情もあったため手中に置かない手はないと考えたのだ。

 

 『夏将軍』のように一人に拘っていなければ、断る理由もないだろうと女子生徒は踏んだ。が、

 

「断る。俺はもう別の所に入会してんだ。分かったら足並揃えて来た道を戻ってくれ」

 

 終始不遜な態度な挙句、会話を切れば缶に口付けゴクゴクと喉を鳴らす仗助の振る舞いに女子生徒は我慢の限界だった。

 

「あらそう、いいわ。けど、このまま帰ったらアンドレイに面目が立たないから土産としてその鞄は頂くわね」

 

 言葉の体裁は保てど、顔の筋肉は素直で女子生徒の額や瞼はピクピクと痙攣し今にも破裂しそうである。

 

 そんな爆発寸前の女子生徒に対して仗助はただ一発、警告として自身と集団の境にクレーターを空ける。

 

「邪魔って言ってんスよ、アンタらもアントンの野郎みてぇになりたいんなら別だがよォ」

 

「――っ!!きょ、今日の所は一旦保留という形にしししておくわ。も、もし考えが変わったようなら北棟の4組に声を掛けて頂戴ッ!」

 

 意地でも勧誘文句を言い切ると女子生徒と三人組は小走りで逃げていった。恐怖に顔を引き攣りながらも最後まで勧誘を続けた彼女は生きていれば良い営業ウーマンになれるだろう。

 

「⋯⋯ハァ、時間取られたな」

 

 ほんの数分だがその少しの時間も今の仗助には無駄にできなかった。改めて思考の海に仗助は浸ると犯行の阻止に脳をフル稼働させる。

 

 まず一番最悪なことは教室で惨事が起きることだ。外傷は何とかなるにしてもその後疑心暗鬼や猜疑心が渦巻き、集団が瓦解していくのは想像に容易く、今最も忌避すべきことだ。

 

 それを回避するべく何とか犯行の人数と顔を割りたいがそれも難しい。人数と名前について犯行を知らされた時に何度も男子生徒に問い詰めたが、計画の詰めが甘い訳ではなく、明らかに意図的に逸らされたからだ。

 

 全く信用されていない。相手は仗助とソニア達の信頼関係も見越して計画を持ち掛けたのだろう。例え仗助が裏切ってソニアに内容を暴露したとしても証拠はなく、絶対的信頼も置いていないため警戒される程度でダメージもない。

 

 逆に仗助が裏切ったと相手が知れば脅威を減らそうと数の有利で幾らでも裏工作し嵌められるだろう。

 

 寄せ集めの絆ほど脆いものはなく、数で責められれば新入りである仗助は犯行に関係の無い生徒から向けられる猜疑心も当然高くなる。

 

  こいつは何か危険だとか、何をするか分からないなど、根拠のない妄想を膨らませ少数だった数は大多数に変わり自ずとリーダーは決断を迫られる。

 

 例えソニアが仗助を残すと宣言したとしても残る仗助への猜疑心と抱いていなかったソニアへの不満を新たに抱いた者が大勢現れることになり敵を増やすことになるだろう。

 

 そうなれば更なる惨事が起きてしまう反逆が起き、組織は完全に崩壊する。

 

 だから仗助は犯行を表立って解決することもできなければ、全員に警鐘すら鳴らすこともできない。完全に掌の上だ。

 

 唯一の打開策は高い信用を得て犯行の主導権を握る事だがそれを積み重ねる時間も残されていない。

 

「クソッ!俺にはどうしようもできねぇってのかよッ!」

 

 考えに考えた末、仗助は何も出来ない自分の無力さに腹が立ち缶を投げ捨てる。

 

 こんな時、『岸辺露伴』のスタンドがあればいいのにと脳内に有り得もしない妄想すら抱いてしまい、更に自己嫌悪に陥る。

 

 解決策を見つけないと駄目だと分かっていてもそれを覆うような無力感が仗助の全身を襲い。全てを投げ出したいという欲望が心を蝕む。

 

 どれだけ悩んでも八方塞がりで悩んでも悩んでも導き出されないその答えは思考する意味すら仗助から奪う。

 

 もうどうでもよくなり、仗助は思考を放棄する。ただ、何も出来ないならせめて顔の割れてるあの男子生徒を見せしめにしてやろうと決意し、ベンチから立ち上がろうとすると、

 

「――――?」

 

 明るそうな声が鼓膜を揺らし、仗助は声のした右を向くとウェーブががった栗色の頭髪に白髪が混じり、お馴染みの獣耳を生やした一人の少女が軽く手を挙げ気さくそうに話しかけてきていた。

 

「⋯⋯」

 

 仗助の返事を期待しているのか少女は少し首を傾げてその場に立ち尽くしている。敵意や害意は全く感じないものの誰かと会話をすること自体今の仗助は億劫だった。

 

 少女に向いていた顔を戻し仗助はベンチを立ち上がると校内に向けて歩を進める。

 

「――――――?!」

 

 歩く背後から聞こえてくる怒鳴るような少女の声に仗助はウザイと感じるがそれまでで無視を決め込む。すると、

 

 ――コンッと鉄製の何かが弾けるような音が軽い衝撃と共に後頭部を揺らした。歯の根を強く噛み締め背後を振り返ると少女は仗助が衝動で投げた缶を再利用し投げつけてきていた。

 

 

「⋯⋯しつけーなテメェ、黙ってた時点で会話の意思がないことぐらい察しろ」

 

 察しもできないやつに英語――アンナ達がヴィクトリア語と言っていたもの――が通じるか分からないが仗助は一応忠告し、立ち去ろう脚を動かすが、

 

「ウルサス語じゃねーけど、応答できるなら無視すんな。私にもプライドってもんがあんだ!」

 

「そのチンケなプライドを挽肉のミンチみてェーにズタズタにされたいのか?あァ!?オメェが今やってることはそういうことだぞ!」

 

 少女の自尊心を誇示するような、自信のある態度が仗助には酷い挑発に見えた。悩み、藻掻き、投げ出した末に固まった決意の全てを否定するような少女の眼差しが自身を嘲笑っているように感じた。

 

 それを否定したくて仗助は威勢のいい虚勢を言葉で張るが少女はそれをハッと鼻で笑う。

 

「やれるもんならやってみなッ!このペテルヘイム高校のナンバー2『夏将軍』こと――ロザリンが捩じ伏せてやるよ!」

 

 言いながらファイティングポーズを取る少女に仗助は完全に敵意含め体の向きを少女に向ける。仕来りなのか何か『冬将軍』に似た肩書きを名乗っていると仗助は思いつつその歩を進めた。

 

「いい度胸じゃんよォ!やって――ん?」

 

 やる、と言いかけた仗助の言葉は少女の発言に対する疑問により止まった。彼女の発言を脳が反芻した瞬間、理解したのだ

 

 ――これはチャンスではないか、と

 

「お〜?どうしたどうした、フッ⋯まさか私の通り名を聞いて怖気付いたか?しょーもねーな」

 

 まるで銅像になったように急に固まった仗助を少女――ロザリンは嘲笑う。一時間前、仗助が集団の襲撃を返り討ちにした一部始終を陰から覗き見ていた彼女はアーツとは別物の摩訶不思議な力を目の当たりにしたのだがそこで好奇心が湧いたのだ。

 

 最初は好奇心から友好的に接しその力の正体を問い質そうとしたが、無視を決め込むハンバーグ頭に腹が立ち言い合いの末殴り合いに持ち込んだので自身の肩書きを名乗った、しかしそれだけでこの有様だ。

 

 何もハンバーグ頭だけではない。皆その名を聞いただけで真っ青に血相を変えて尻尾を丸めた犬のように自分の機嫌を伺うか、逃げる。

 

 そんな奴の顔や態度を見るのは嫌な気分はしない。寧ろロザリンはそこから得られる優越感に少し満足していた。

 

 ただ、冒険心のある彼女はハンバーグ頭に少し期待してしまったのだ。他の奴とは違うと、面白いものを魅せてくれるとただ期待していたのだ。

 

「ほんっと、ガッカリだ」

 

 そんなハンバーグ頭に対する淡い期待も打ち砕けたロザリンは踵を返すとこの場を去ろうとしたその刹那、ハンバーグ頭の声が響いた。

 

「まっ、待ってくれ!!」

 

 先程までの相手を威圧するような低い声、ではなくハンバーグ頭は縋り付き引き留めるような少し上擦った声を発す。

 

 無視した方がいいだろうとロザリンは思う。名乗った後でのあからさまな下手の態度は勧誘か物乞いの類いでしかないからだ。

 

「俺が生意気だったことは謝る!このとおりだ!」

 

 フザッと強く砂の地面に何かをつけた砂利音にロザリンはチラリと後ろを向くとハンバーグ頭はその特徴的な頭をギリギリ地面に接しないようにし必死な平謝りの体制――極東でいう土下座をしていた。

 

 その無様な姿をロザリンは見た瞬間、失望は完全な見限りへと変わった。

 

「⋯⋯最初は私が不躾に話しかけたから一応その詫びとして聞いてやるよ、勧誘か?物乞いか?まあどっちを選んだところでお前が得られるモノはねーけどな」

 

 冷酷な眼差しを向け淡々とロザリンは言葉を出す。口から出てくる答えは二つに一つだけだとロザリンは内心決め込んでいた。が、

 

 ハンバーグ頭から出た答えはそのどれでもなかった。

 

「⋯⋯違う。俺はお前に頼みたいことがあるんだ」

 

「頼みたいこと、だと?」

 

 二つのどれでもない答えにロザリンは目を丸くするとハンバーグ頭は更に言葉を続ける。その内容はロザリンにとって衝撃的なものだった。

 

「結論から言う。俺と協力して『冬将軍』を⋯⋯ソニアを助けてくれないか?」

 

 

 

 





更新が遅れてしまい申し訳ございませんでした!

作者は学生なのですが最近学校の就職活動が始まり中々時間が取れませんでした。
夏休みがほぼ学校の活動で埋まり、それ以外もバイトやなんやらしていたのでスランプで元より駄文ですが今回はかなり見苦しかったかもしれません。ごめんなさい。

これからは少し時間に余裕ができそうなので頑張って執筆していこうと思います。





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