アーククレイジーナイツ   作:カマクラカスタ

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Q.もし付き合った彼女にその髪型をやめてほしいと言われたらどうしますか?

「え?おれっスか?いやもう、そんときはその女をボコボコにするだけっスよ。男女差別とかしない主義なんで」

クレイジー・Dの悪霊的失恋という公式スピンオフ小説を最近読んだのですが
このセリフが仗助の口から出てきたときは流石に引きましたね

加えて、更新が大変遅れてしまい申し訳ございませんでした。スランプでした。


マックスウェルズ・シルヴァー・アックス(人生の落とし穴)

『ウルサス学生自治団』が設立して数日がたった。

 

普段の生活なら学校へ行き家に帰るという代わり映えのしないただの数日だが、少しの時の流れでここは大きく変化した。それも、全てが悪い方向に。殻になった多くの缶詰や夜の張り詰めた緊張感を肌で感じながら自治団のリーダーは悪化した現状に顔を俯かせる。

 

「……クソッ」

 

現在置かれている状況に自治団のリーダー――ソニアは小さく愚痴を零すが事態は一向に好転しない。マイナスなことばかりが蔓延していた。仗助が殴り飛ばした学生達も脅しをかけたとはいえ結局報復を覚悟で解放したし、学校の外周にはレユニオンと名乗るテロ組織は現在まで居座っている。

 

当然、外に逃げようとすれば問答無用で殺されるため今も学校に軟禁状態のままである。しかしそうなれば多くの学生がいるこのぺテルヘイムは城の兵糧攻めのように食糧は段々と底をついていく。

 

減りに減り、自身の手に食べられる物がなくなった時、人がどんな行動を起こすかはソニアは学校に来て3日程で知り得たが少し甘く見ていた節があった。

 

一人で大体のことを乗り越えてきたソニアにとって集団、否、組織を持つことはこれまでの延長に過ぎないと驕ってしまっていた。最後には自分が全てを一任できるとそう考えていたのだ。

 

だが現実は一人の少女の想像通りにはいかない。何人もの思考や思惑が入り乱れる中一人で管轄するなど不可能なことである。その結果自身の知らない所で事件が起き、今は友人と呼べる変わった頭の少年に助けられたのだ。

 

「――ッ、」

 

仲間に支えられ助けられ、結局自分は何もできていない。ここ数日で多くなった別グループの夜襲を返り討ちにしたがその時負った傷は仗助のクレイジー・Dで治してもらった。少し深いだけの切り傷だったが、衛生環境も整っていない現状ではまともな治療などできない。本来なら悪化の一途を辿る負うだけで致命的なものだった。

 

本当に助けられてばかりだ。

 

ソニアは俯かせていた顔を戻し、視線を左下に向ける。移動させた視界の先、そこに映るのは二人の男女――仗助とアンナである。二人とも静かな寝息を立てて寝ているが、発生源がほぼ同位置なのはどうなんだと少し思う。

 

どうやら仗助はウルサス人のように寒さに耐性がないらしく、身を寄せあって寝る必要性があることは分かるがアンナである必要はあるかと考えてしまうのだ。最初はこういうことに躊躇いのないラーダ辺りが適任だとソニアは思っていたのだが「少しでも恩返しがしたい」と言い切ったアンナにどことない信念を感じたため承諾したのだ。

 

そんなアンナの積極的な姿勢に昔の彼女を知るソニアは面喰らったが。人は変わるものなんだとぼんやり納得できた。

 

「……って何考えてんだアタシは」

 

余計な思考を首を横に振ってソニアは落とす。今考えるべきはそんなことではない。少しでもマシな状況を作ることだ。

 

状況の打破と自治団の皆が安心できる環境整えることが最優先。ただ根っこから状況を変えるのはレユニオンの軍勢がいるためぺテルヘイムの学生全員が一致団結しない限り不可能だ。

それなら、

 

凭れ掛かった壁の右手側、そこに立て掛けていた鋭利な消火斧をソニアは握る。

 

「アタシが終わらせてやる。問題の根本、貴族共をアタシがッ」

 

静かな決意を口にしたソニアは得物を手にしたままどこかを目指し教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ん?

 

奥に沈んでいた意識が自然と浮上する。体内がこの時間に起きるようにと働きかけているのだ。その働きに従いリーゼントの少年――仗助は薄目を開いた。が、そこである異変に気付く。

 

「あ?――おかしいな」

 

起きられたのは良い。だが本来なら起こしてもらう予定だったのだ。現在、見張りをしているはずのソニアに交代として。

 

そう思い、右を見る。ソニアはいつも右側の扉前で見張りをしているからだ。しかし腕組みをして敵の襲来に備えている少女はそこにいなかった。

 

何故いないのか、それを深く考える前に仗助は辺りの雰囲気に意識が向く。教室の外、その四方八方から雑多な物音がそこら中に鳴り響き始め、微かに拾えただけだが、驚愕に叫ぶ声も発生していた。ただ、こうした騒音はここで数日過ごした仗助にとってあまり珍しいモノではない。

が、

 

「なんだ?今日は一段と騒がしいぞ」

 

あまりに騒々しすぎる、と仗助は違和感を抱く。激しい打撃音や悲痛な叫び声による騒音はほぼ毎日だが今回は何かが違う。取り巻いている雰囲気がまるで、事態の変容を表しているようなそんな切迫感の詰まった感じだ。

 

ただならぬ空気感に仗助は自然と顔が強張る。すると、

 

「……何か変じゃありませんか?こんなに学校が慌ただしいのは」

 

「嗚呼、やっぱりそう思うよな。絶対におかしいぜこいつはよォ」

 

己の懐で寝ている新橋色の髪が特徴的なウルサスの少女――アンナが変化に気付いたのか目を醒ましていた。彼女も同じにこの異様な騒ぎを捉えているようで仗助はますます不信感を募らせる。

 

「や、夜襲か?!」

 

「なんでこんなに物音が、一体なんなの?」

 

アンナを皮切りに睡眠をとっていた自治団メンバーが次々とけたたましい騒音に目を醒ました、その刹那――ある外の誰かの一言がここ全員を真っ青な蒼白顔へ変えた。

 

 

 

「食糧庫が……ッ、燃えているぞ!!!」

 

「なっ!?なにィイイ~~~ッ!??」

 

大声で叫ばずにはいられず、仗助は衝動の勢いのままに外へ飛び出し、窓から見える西棟の食糧庫に視線を向けた。視界は轟々と燃え盛る炎の色で埋め尽くされ、端に見える食糧庫付近では既に生徒同士の殺し合いが始まっていた。

 

「貴族共は食糧を隠し持っているはずだ!!残らず殺せェ!」

「そっちに逃げたぞ!絶対に逃がすなッ!!」

 

少し豪奢な制服を着た貴族であろう生徒を数人で囲み鈍器で殴りつけている光景が仗助の視界に映る。加害者の足の隙間、そこに積もっている雪に鮮血が広く染み渡っていて、とそこで仗助は目を逸らした。

 

あの光景が惨すぎて直視できないのもあるが、今、目にした惨状が嫌な想像を搔き立てたからだ。教室には自治団のメンバーは大勢いる、だが一人を除いて、最も『重要』な一人を除いて、だ。

 

「ソニアッ!!」

 

あまりの事態に確認し忘れていたが仗助が起きた時もこの騒ぎでも彼女はいなかった。

 

「アンナ!ソニアはどこだ!彼奴の顔をチラリとでも見たか?」

 

なに呑気にすっとボケているんだと、仗助は内心で自分を叱責すると教室に飛び込むように戻る。焦燥で胸が張り裂けそうになりながら仗助はアンナにそう訊くが、彼女は青い双眸を震わせながら、

 

「いません、どこにも、今の状況がどれ程危険なのかソニアが一番わかっているはずです。なのにどうして……ッ」

 

「おいおい、なんでリーダーが不在なんだよ。ソニアの野郎は一体どこに行っちまったんだ」

 

混乱の波紋は更に勢いを増し、自治団の恐怖心を煽っていく。リーダーの不在と事態の急変は多勢の自治団員の不安をマックスに押し上げてしまい、精神は絶望に震え上がっていく。

 

このままではマズいと仗助が感じたその直後、

 

「ジョウスケお兄ちゃん!危ない!!」

 

「食い物を寄越せ!」

 

背後からの接近に扉の前に立っていた仗助は恐喝の瞬間にその存在に気付いた。けたたましい騒音に忍び寄る音と襲撃の存在が頭から抜けてしまっていた。振り向きクレイジー・Dを繰り出そうとするが、既に襲撃者の鈍器は仗助の頭に向けて振り下ろされる寸前だった。

 

スタンドを顕現させているのなら弾丸並みの速さで拳を叩き込むことができるが、顕現にはスタンドの拳一つでも0.1は掛かってしまう。生身の腕で防御しようにも間に合わない。

 

仗助の脳天に鈍器が差し迫った、その瞬間、

 

「――やめてぇえっっ!」

 

「うごおッ!?」

 

「「ラーダ!」」

 

仗助を庇うラーダの捨て身の突進にアンナと仗助は思わず名を叫ぶ。ラーダは襲撃が分かった瞬間から走り出していた。タックルをし、相手が転倒した機をラーダは見逃さない。直ぐに肌身離さず持っている調理用のフライパンを振り上げると、

 

「て、てめえ――」

 

「――ふん!」

 

ゴンっと鈍い金属音と骨の軋む音が襲撃者の顔面から鳴り響く。まだ、倒せていない。

 

「――ふん!!」

 

更に高く振り上げ、ラーダはフライパンを悪者にぶつける。もっと、もっと!

 

「寄るなぁあぁ!!」

 

「ラーダ!やめろ!!死んじまう!」

 

ラーダが三発目を繰り出そうとした刹那、フライパンを握っている右手がピタリと静止する。止めたのはラーダの意志ではない、仗助のクレイジー・Dだ。

 

「あっ、」

 

改めてラーダは倒れている相手を見た。顔面は拉げてしまいそうな手前で意識は辛うじて保てている程度、完全に虫の息だった。冷静に相手の状態を俯瞰できて、ようやくラーダは三発目で自分が何を犯そうとしていたのかに気付き、わなわなと手を震わせる。

 

その時、

 

「奴の動きが止まったぞ!殺れェ!」

 

教室の直ぐそばに潜んでいた仲間が機を読んで未だ硬直しているラーダ目掛けて攻撃を仕掛けてきていた。

 

「集団で来ていたか!」

 

その存在に察知し、仗助はラーダをクレイジー・Dに抱えさせ瞬時に教室の中に避難させる。完全に決まったと思っていたのか、それとも宙を浮いたラーダが物凄く奇妙に映ったのかは分からないが、茫然と佇んでいる襲撃者達に仗助は口を開いた。

 

「オメェら片すの面倒だからよォ~~~。下、行ってろよボケ」

 

――ドララァ!

 

都合よく一塊に立っている奴らの通路の床をクレイジー・Dの拳で崩壊させ、下の階へと落とした。

 

「通路の床を直す」

 

そしてキッチリと修復という名の蓋をして最後。多分今のを体験した奴らはここを狙おうとは思わないだろう。襲撃を回避したのはいいもののまだやるべきことが残っている。

 

「ありがとうラーダ。さっきのはマジに助かった」

 

仗助は隣に避難させていたラーダに礼を言うと、ラーダはどこか暗い口調で、

 

「う、うん、ラーダ、お兄ちゃんのこと守れたよね。でも――」

 

「ラーダ。大丈夫、ジョウスケさんを助けられたんですからそれ以上は深く考える必要はないですよ」

 

「アンナお姉ちゃん……」

 

表情を落としていくラーダにアンナは優しくその背中に触れ、言葉を掛ける。アンナの言葉にラーダは少し笑顔を戻した。ありがたいフォローだと仗助は内心で感謝すると表情を鋭いものに変えた。

 

そしてソニアの次に腕っ節の強いであろう少女に視線を向ける。

 

「ロザリン、ここのこと任せていいか?」

 

「あ?任せるって、どういうことだよ」

 

文脈のない仗助の言葉に当然、疑問をぶつける。だが仗助の硬い表情から何か決定的なことを行おうとしていることはほとんどメンバーが察していた。

 

仗助は教室全体を一瞥すると言葉を続ける。

 

「俺がソニアを探しに行く。だからソニアの次に強いオメェがここを守ってくれ、アンナ、オメェは皆の統率を頼んだぞ」

 

「待ってください」

 

指示を飛ばしてすぐ廊下を駆け出そうとする仗助をアンナは引き留める。混乱最中にある今の状況で一人単独で行動するのは愚策だが、緻密な案を出そうにもその時間が惜しまれる。

 

だから一つ、安心して信頼できる言葉が欲しかった。

 

「必ず、二人で無事に戻って来てくださいね」

 

その言葉に背を向けていた仗助は顔のみを後ろに回し、小さく微笑みながら左手をサムズアップさせると、

 

「任せとけって~~~。ただソニアは無事とはいかねーな、俺が説教つけてやらねェといけねーからよォ~~」

 

まるで重みのない軽薄な言葉にしかし彼の性格を知っているアンナは呆れながらも発言を指摘せずその背中を見届ける。

 

仗助は問題の中心、燃え盛る食糧庫に当たりを付け走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ドララララァ!

 

狂乱に暴れ回り襲い掛かってくる学生をスタンドの拳で粉砕しながらグラウンド近くにある食糧庫に向かって仗助は走る。最後の階段をすっと飛ばして降りると、雪の積もったグラウンドが視界一杯に映り仗助はその視界の端に見えた着火点に向かう。

 

「どきなさい!私はもう三日も何も食べてないの!邪魔するならアンタも殺すわ!!」

 

「なんだとコラァ!」

 

「殺してやるって言ってんの!!!」

 

燃え盛る食糧庫の前で食糧を奪い合っている二人の生徒を仗助は目にする。二人は同じ腕章を着けていて仲間のはずなのに一つの食糧を奪い合っていた。

 

もう敵も味方もない無差別な生存競争が始まっているのだと仗助は確信した。

 

「グレート、これは早く教室に戻んねーと」

 

食糧庫が燃えた影響で残り僅かしかない食糧をかき集めようとほとんど生徒が殺人も厭わないほど躍起になって襲ってくるだろうと予想でき、仗助は頬に汗を伝わせた。

 

逃げ惑う貴族や横行している暴力と流血を仗助は下唇を嚙みながら無視をする。大勢の人々が殺し合う地獄絵図、そんなものは常人からは奇妙と言われそうな人生を過ごしてきた仗助にも経験のないものだ。

 

極度の緊張で胃が逆流してしまいそうなのを仗助はグッと堪えながらがむしゃらに辺りを捜索する。グラウンドと食糧庫近くにはおらず、仗助は校舎とは別の建造物である体育館に行くが姿は見えない。

 

ここまで来る途中も教室などを注意深く見ていたがソニアらしき人物は見ていない。もしかすると立っているのではなく既に地面に伏せてしまっているのではないか、そんな考えがふと浮かぶ。地面に転がっている生徒を仗助は見ていない。

 

「腕っ節が強ェ冬将軍のことだ。そんなことに限っては絶対にない、はずだ」

 

彼女の力強さを最後まで言ったつもりが仗助の口調は弱々しい。それを言い切ったところで気づき仗助は顔を半面掌で覆った。必ず二人無事に帰還すると啖呵を切ったくせにこんな体たらくを晒してしまっている自分に嫌気がさす。

 

「俺が信じねーでどうすんだ。クソッ、でも一体どこにいるんだよソニア」

 

鳴り止まない破壊音や数多の悲鳴に仗助は焦燥感で胸が張り裂けそうである。教室を飛び出して数十分は駆け回ったが手がかりも当ても見つからないため、捜索は八方塞がりだった。

 

校舎の端から端まで探した訳ではないが混沌とした状況でそんな余裕は皆無だ。

 

「ああックソ、聞きまわることなんて到底不可能だし、アイツが居そうなところなんて思いつかねぇぞ」

 

乱雑する思考に仗助の脳は無意識に考えるのを止めて、荒れ狂う光景を茫然と見つめる。燃える食糧庫と相反する雪の白い地面は爛々と目に映りまるで映画のワンシーンのようで、ここが現実だと疑ってしまいそうになる。が、

 

それはただの現実逃避だと仗助は頭を振って現実を直視する。これだけ探し回っても見つからないのなら一度教室に戻って守りを固めた方が冷酷だが合理的だ。

 

そう考え体育館の渡り廊下を仗助は走り出そうとするが、

 

「や、やめてくれ!どうしてこんなクズを庇うんだ!!冬将軍!」

 

冬将軍、背後から聞こえたその単語に仗助は即座に振り向いた。声は視界の左上の端に見える体育倉庫から聞こえ、続く音は言葉でなく悶え苦しむ叫び声へと変わっていた。

 

「もしかして……ッ!」

 

余計な想像であってくれと心に思いながら仗助は体育倉庫の扉を思い切り開く。そこには、

 

「――っ、、ソニア、オメェー……」

 

血に濡れた斧をぶら下げるウルサスの少女が立ち尽くしていた。

 

 




今話のタイトルは1960年に結成されたロックバンド『Beatles』の
楽曲『Maxwell's Silver Hammer』を拝借させていただき、曲名を少し改変したタイトルとなっています。

なんとなくですがハンマーの部分をアックスに変えました。

原曲は明るい曲調なのに物凄く物騒な事を歌っていて、作者はこれを聞いて、あっ、これは子供たちにピッタリじゃあないか!!とウキウキでタイトルにぶっ込みました。
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