作者は別に世界大戦推進派ではないですよ、平和が一番ですから。
E-1級重巡洋艦(イラストリアス級1番艦 イラストリアス)に揺られながら、一人の少女が白に金色の飾りのついた服に裾を通している。その体は小柄だが、一目で立派な乳房を二つ抱えていることが素人目にも分かる。
だが、少女は自らの体を眺めて誇ることはなく。なにか考え事をしているのか、目をつぶっていた。
少女はこれから、自身の愛する国《ウルキア》の敵国である《イシロィド》に講和会議のため向かっているのだ。
少女は現国王が指名した実質的な国の指導者であったため、イシロィドとの講和会議に出席しなければならなかった。ただ少女の気持ちは一ミリとも心が豊かではなかった。今回の雨(ウルキア)対威(イシロィド)の戦争はウルキア側の辛勝であった、辛勝であったためにイシロィドは無条件降伏をした訳ではない。つまり最悪、イシロィドがこちらに刃を向ける恐れによる心持ちだった。
それを王が解らない訳がない、だからウルキア最大戦力であるイラストリアス級を少女の助力になるように帯同させた。巡洋艦以外にも駆逐艦を26隻という水雷戦隊さながらの護衛をつけた。万が一となってもイシロィドの海軍はウルキアの50分の1に過ぎない。少女一人助けられないことはほぼないと王は少女に断言した。
しかし辛勝とはいえ、ウルキアを勝利に持ち込んだ立役者の少女は不気味さを感じていた。なぜ、これだからという証拠のない悪寒、抑えようのない怯えを…。
仕方なく、少女は精神安定剤を船医から処方してもらい抑えを効かせた。
少女、少女、少女と名を呼んでいないことに気が付いた。…ごほん、少女はウルキア軍軍令部総長兼イラストリアス公爵家当主《システィーナ・フォン・イラストリアス》公。略称はシスティだ。
しばらく目をつぶっているとシスティは眠りについてしまっていったようで、目を開きながら、懐から取り出した懐中時計を眺める。そこには講和会議開催時間をとうに過ぎた針が動いていた。海だからこそ、多少の遅れは許せる。しかしどうやらこのイラストリアスは動きを完全に止めているようであった。
艦橋まで上がるため、部屋を出て早々違和感に気が付いた。通りかかる水兵一人一人の顔が緊張して、額から汗を流していた。これはとシスティは少し早歩きで艦橋の最上部に到着するとそこには初老の艦長が頭を抱えて、外を眺めていた。
やぁと言葉を掛けてから、疑問を問いただす。"なぜ止まっているんだい?機関の故障にしては水兵達の顔に恐怖や緊張があった、それはつまり…"
システィの言葉を遮るように艦長が敬礼の後、ゆっくりと言葉を発した。その視線はシスティではなく、艦橋から左舷側に向いていた。
"実は…"
時間はシスティが睡眠を取っていた数時間前に戻る…。
艦橋で食事を取っていた艦長に見張りから妙なモノ?恐らく艦影が見えると報告があった。その艦影の数は12隻、大型タンカーだと思い、気には掛けていたが、再び入った報告に艦全体が緊張、恐怖に包まれた。
今回講和会議の仲裁を務めるはずの宗教国家《マレフィキウム》の大艦隊がこちらに進路を向けていると。
"なるほどね、つまり君が見ている方向に今も彼らがいると…"
システィは左舷に目をやる、そこには明らかに新造艦らしき巡洋艦のみで構成された戦隊がこちらに砲を向けていたのだ。
"はい…、恐らく講和会議でのウルキアの発言を辞めさせるの行動でしょう。…私個人としては、警告を三度し聞かぬようならば魚雷による殲滅を具申させていただきます"
艦長は目を細目ながら艦隊に目をやりつつ、システィに具申した。その具申を頷くことはシスティに出来ない。勝つことは出来ても疲労したウルキア軍にこれ以上の戦争は不可能だ。
"無理だねそれ、…はぁ身体でも売れば通してくれる…わけないよね~。どうしようか、イシロィドに頭を下げて艦隊を借りるか(笑"
冗談をいいつつも、作戦を練るシスティ。一つ、また一つと作戦を練る度に問題点がある。しかし、次の冗談ばかりの作戦は艦長の琴線に触れた。
"私を彼方の旗艦に搭乗させてもらうのはどうだろう、最悪の事態になれば自害する。国のトップが責任を負いかねての死ならバックストーリーがしっかりしてい…"
"それをありだと認めるほど私は落ちぶれてない、バカ娘"
バカという叱責に艦橋にいた全員が青ざめた。不敬罪になりかねないというか、なる。その叱責は艦長の失言だと誰もが思った。しかし、システィは気にする様子はなく、だね~と返した。艦橋の全員が全員とも思った、あの艦隊よりも二人の関係が気になると…。
"ごほん、電報を本国に送り。イラストリアスの残り3隻も…"
と、艦長は取り直しながら具申したがシスティは少し笑みを浮かべてから言った。
"本国海防の要、それを引き抜いてしまってはマレフィキウムに攻められるより先に違う国に攻め込まれるよ…あ、"
あ、という最後の言葉に艦長は聞き逃さぬように視線を合わせた。その言葉はこの状況にそぐわないものだったが。
"あの艦隊の中を突破する、よく考えればこの状況…こっちのほうが有利じゃないか…!"
艦長は耳を疑い、再び尋ねたが同じと答えが返ってきたため、頭を抱えてしまった。ついに頭が壊れたのだと。
"あっちは撃てないよ、なぜといってる、時間もないかな…航海長、進路マレフィキウム艦隊。砲術長は主砲を中心に戻し、仰角45°にしてくれ"
艦長が止めに入ろうとするが、聞く耳を持たず。かと言って他に打開策もないため、システィの自殺のような指示を聞くしかなかった。
徐々に接近する艦隊、しかし命中距離的にこちらが一撃で轟沈しかねない状況でも一発と撃たない。…システィが気が付いたのはこの状況であった。
"砲術長、7.6cm対空砲と主砲を空砲にし、私のタイミングで発砲しろ"
蛮行としか疑われぬような、行動だが上のものに従わないといけぬ状態では、仕方なく砲術長が砲弾を抜き礼砲が撃てるようにした。
艦隊をようやく抜け、後方へ艦隊が消えていく途中。システィは待ってましたと言わんばかりに撃てと命じた。
発射された空砲、その意味を問うために艦長は艦橋の端までシスティを無言で追い詰める。
"あ~、待って待って。説明するから…
よーく考えてみればマレフィキウムがこちらに戦いを挑む意味が思いつかない、じゃあこんなことをする理由は何処か。恐らくはイシロィドの艦隊が何処かで待ち伏せしていたのだと私は考えた。雀の涙程度の戦力でもこの艦橋に当てれば上々だからね、それを避けさせるためにマレフィキウムは私たちを足止めしてイシロィドに私たちがこの海域を航行していないと勘違いさせた。結果として彼らは撃たなかった…ごほん、艦長。第一種戦闘配置を解除、このまま一路。イシロィド港へ入港してくれ。"
考察と辻褄合わせによって、信憑性の増したシスティの言葉はいつの間にか艦内放送となり、艦全体、そして戦隊全体に通じて伝わり、疑り深かった者もシスティを信用するようになった。艦長はシスティの命令を戦隊に伝え、再び艦は進み始める。ただシスティは少し気になったことがあった、マレフィキウムの旗艦らしき巡洋艦から光のモールス信号を一瞬だけ視認した。その意味は、通れというもの。だからすべて自身の考察ではなかったが…それを気にしているわけではなく。マレフィキウムがなぜ助けたのかということだった。
いくら考えても答えが出なかった、しかし不気味さは感じていない。またどこかで会えば答えを聞いてみようと心に決めながらまた自身の部屋に戻り…寝に着いた。
イラストリアス級、雨対威戦争中。海上での優位性を高めるべく従来の量産型重巡洋艦を進化させた大型巡洋艦が計画された。それがイラストリアス級だ。
武装は20.3cm連装砲5基,10門、副砲に7.6cm速射砲4基。速力は最高38ノットの高速巡洋艦でありながら、ディーゼル仕様のため航続距離が17ノット15000海里と化物染みていた。