〇〇ってサークルの新しいイラストレーター微妙だよな   作:あいうえお

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〇〇ってサークルの新しいイラストレーター微妙だよな

 

0001 hrdddggg 2020/05/27()

ふえた先生もどってこい

 

 

 というスレが立っていた。いや、まぁねえ。

 

「そうなるに決まっとるやろがい!」

「どうしたんですか?」

「あー、ごめん。声出ちゃってた。とりあえず増田くんは気の赴くままに描いていてもらって」

「……?わかりました」

 

 増田くんは才能のあるイラストレーター、だった。だった、と過去形なのには原因があって、記憶喪失なんだよね。それまでは、社会人として労働に勤しむ傍らで、ぼくのサークルのつくってるゲームの原画を描いてくれていた。

 その絵のレベルは、そりゃあアニメーターとかそういう最高峰には達していないけど、副業でやっているんだと言えば周囲が驚く。それくらいの絵の技術を持っていた。

 彼とぼくとは大学が同じで、その縁で原画を描いてもらっている。

 

 実は数ヶ月前に、増田くんは音信不通になった。2ヶ月後にぼくのサークルは新作を出すと予告を出していた状況下だった。

 シナリオについては随分前に増田くんに送っていたのだけど、増田くんからのCGの納期が大幅に遅れていて、当初は「いまどんな感じですか?」と努めて優しくしていた催促メッセージが、いよいよ「早く出してくれないと。出してくれないと発売できないよ!」と圧を込めものに変わりつつあった。

 増田くんは「ごめん、会社が忙しくて。絶対間に合わせるから」と律儀に返信をくれていたけれど、次第に既読もつかないくらいになっていった。

 

 予告した日から延期してしまったところで、他のサークルだって常習的にやっているわけだし、ここまで催促する必要があったのかと言われれば、おっしゃるとおりですとしか言いようがないのだけど、以前弊サークルのファンから頂いた「ここのサークルは延期とかしないから好き」みたいなメッセージが自分の誇りにもなっていた。これが良くなかった。

 所詮、同人なのだ。もちろん熱意を持ってやっているけれど、やはり楽しくやってこそ同人だと思う。増田くんが記憶喪失になって、改めて認識した。気づくのが遅かったかもしれない。

 

 ぼくは音信不通になった増田くんを問い詰めようと、家まで押し掛けた。マンションの廊下に、増田くんは横たわっていた。増田くんの家じゃない扉に背をだらしなくかけて、激しく嘔吐していた。吐瀉物が扉の前を覆い尽くしていた。

 

 これはまずい!と思ったぼくは、増田くんの両肩を持って引きずっていく。幸いなことに、これだけ酔っていてもカバンは手放さずにいてくれたので、さばくって鍵を取り出して部屋に放り込んだ。

 増田くんは規則正しく呼吸をしているようだったので、安心しつつ、増田くんの顔が涙でぐしゃぐしゃになっているのが気掛かりだった。

 

「まぁ、増田くんは泣き上戸だからな」

 

と納得し、ひとまず横向きで寝かせておく。それからぼくは部屋の照明をつけて驚いた。増田くんは整頓好きな人だったと思っていたのだけど、目に飛び込んできたのは、缶ビールや脱ぎかけの服だったり、色んなものが部屋中に散らばっている光景だったからだ。

 そもそも、増田くんは付き合いでお酒を飲むことはあっても、自分で買って飲むような人ではなかったので、その変わりようにも驚いたけど、片付けてあげようと缶を持ち上げれば、缶のうちのいくつかは飲み干されていなかったことにも驚いた。

 

 増田くん家に来るまでに燃やしていた苛立ちが急速に冷めていくのを感じた。

 

「増田くん、増田くん。ちょっと、起きて」

 

 ぼくは増田くんの背中を叩きながら、今度は納期じゃなくて起床を催促した。しばらく、この動きを繰り返していると、増田くんは重たそうに目蓋を開けた。

 

「ん、うぇ。あ?」

「増田くん、起きた?ゲロ吐いて廊下大変なことになってるよ。だいじょうぶ?」

「?」

 

不思議そうに見つめてくる増田くんに、

 

「ああ、心配だから家まで来たんだけど。部屋もこんなに荒れちゃって」

 

と、ぼくは声をかけた。

 

「あー、えーと、ん?その……」

 

 増田くんはなにか言いづらそうにしていた。

 

「増田くん、どうしたの?」

「すみません。えっと、あなたは誰ですか?」

「は?」

 

 

 まぁ、こんな具合である。増田くんは会社内での上司のパワハラが原因で参っている中で、ぼくの方も催促してくるので精神的に追い詰められ限界を超えてしまったということらしい。いわゆる逆行性健忘というやつ。

 増田くんの記憶は今に至るまで戻ることはなく会社は休職という形をとっている。まごうことなき社会からのドロップアウト。それも親友の。こんなことの片棒を担いでしまった自分が情けなくなる。まもなく、増田くんは退職する手筈となっているようだ。今後は未定である。

 ぼくとしても、増田くんとの今後の関わり方を決めあぐねた。記憶がないからなんとも言えないけど、ぼくの顔も見たくなくなっていたってことも考えられるわけだし、今後一切会わない方が増田くんの幸せかもしれないと思っていた。

 

 で、2ヶ月前のある日。しばらく会わないでいた増田くんからメールが来た。画像ファイルが添付されていて、メッセージ内容は、シナリオ読みました、とのことだった。

 

「とてもおもしろかったです。本来なら今頃発売していたはずだってことで申し訳ありません。お詫びとかそういうことではなく、シナリオに対して深く感動したのでそのファンアートとして絵を描いてみました」

 

 そして添付されていたのは下手くそなイラスト一枚。あれほど上手かった彼が、こんな下手くそになってしまったというのは事実としてあるけれど、ぼくは感動していた。下手くそなのに以前よりも絵が魅力的に見えたのだ。

 

「すごくうれしいです。素敵なイラストありがとう!」

 

と返信した。

 正直、よければCG描いてくれませんか?とお願いしたくもあった。でもそれじゃ二の舞になってしまうかもしれない。だから、これでいいんだ。

 そう諦めていたのに、毎日のようにファンアートですという件名とともに、画像ファイルが送られてくる。毎日、毎日、毎日。最初は数枚くらいだったものが、徐々に枚数が増えていって、これはやばいと思って、まとめて送ってくれといった。最終的にこれでゲーム内CG行けるんじゃないかってくらいの量を受け取った。足りないのは透過素材くらい?……。いやいや、増田くんに頼むわけには……。

 

「増田くん、ちょっとお願いがあるんだけど」

 

で、即日透過素材が送られてきた。早すぎるって!!

 ぼくは急ピッチで増田くんからもらったCGたちを組み込んだ。記憶を失う前の増田くんからすでにもらっていたCGを差し替えたりもした。それで、ぼくはつくったゲームを増田くんに送った。

 

「わっ、すごいですね!ぼくの絵がゲームになりました!」

 

 増田くんは子犬のようにはしゃいでいた。ぼくは意を決して増田くんにお願いした、

 

「増田くん、これでゲーム。出してみない?このゲームの収益ぜんぶ増田くんのものにしていいから」

「え?!いや、そういうにはいいですよ」

「でも、今後収入はどうする?記憶が戻るのかもわからないし、しばらくまともに暮らせないかも」

「ぜんぶぼくのものにしなくていいですけど、ゲームとして出してみたいです」

「まぁ、そこらへんは追々にしようか」

 

 結局、増田くんからはイラストレーターとしての名前を記憶を失う前の「ふえた」から「math」に変えるという条件をぼくにつけた上で、収益は折半するという形に落ち着いた。で、数日前にくだんの作品を発表して、ネット掲示板に立てられていたのがこのスレだ。ふえた=mathなのだけど、絵柄が違いすぎて気づかんよなぁ。

 「〇〇ってサークルの新しいイラストレーター微妙だよな」と言われるなんて、そりゃそうなるよなとしか言いようがない。そういうのが増田くんの目に触れて、お絵かきの喜びが奪わるというようなことが起こらないといいなと思った。

 というか、増田くんも、絵のレベルが初期化されたのに、以前ほどではないとは言え、よくここまでの同人ゲームに載せられるレベルまで上げてきたなと、ほんとに感心してしまう。

 

「あ、増田くん。販売数1000超えたよ」

「それってすごいんですか?」

「なかなか1000本は超えないと思うよ」

「そうですか」

「お、うれしそうだね。増田くんのおかげだよ、ありがとうね」

「以前よりも、って以前の記憶はないんですけど、下手くそになっちゃってるのに使ってくれてありがとうございます」

「以前より下手なのはそうだけど、絵に魅力があると思う。だから使いたいって思ったんだよ」

「そうですか……」

 

 照れてる照れてる。ま、なんにせよ、増田くんの家探しから始めましょうかねえ。

 何がそんなに気に入るところだったんだか、相変わらず以前に送ったシナリオを読みながらファンアートを描き続ける増田くんをみながら、ぼくはそんなことを考えた。

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