Mimic:模倣能力不定形型魔偽禍   作:千歳 瑠為

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戦闘を書くの楽しいですね


9.The wyvern

『Gyaaaaaaaa!!』

 

夜明けとともに鳴り響いたのは、ニワトリの鳴き声などという穏やかなものではなく、獣の咆哮だった。

 

その咆哮の主は、ゴツゴツとした暗緑色の鱗に覆われたトカゲのような身体に、コウモリのような翼としての機能に特化した腕、二対のねじれた黒い角を頭部に生やしている。

いわゆるワイバーンと呼ばれるような存在が空を飛んでいた。

その瞳は暁の如く朱く爛々と輝きを放ち、鋭い歯の生え揃った口からはちろちろと炎をのぞかせ、力強い羽ばたきは空に鳴り響く。

 

咆哮を聞いて、このワイバーンを観測しているのは、室内にいる私ではなく、スズメの状態で辺りに散らばっている私の身体の一部である。

そして、室内での状況はというと、私は人間に擬態していても人間よりも鋭い聴覚を保持している為、その咆哮を聞き取れてはいたが、お姉さんは私を抱きしめてぐっすりと眠っていて、まだ目覚めそうに無かった。

他の家々も同様に、まだワイバーンの存在に気づいていない所も多いらしかった。

 

私はさっさとあのワイバーンを始末することにした。

口からのぞかせる炎から察するに、攻撃手段として炎を使うに違いなく、もしもあの炎が防がれることなく吐き出されでもしたら火災が起こり、逃げ遅れる人が大勢出てしまう。

死人が出ることは私としては避けたい。

 

私は最も魔力量の多い室内の少女の身体から霧のように身体を分裂させ、その保持する魔力量を外のスズメよりも少なくし、あらかじめ近くの茂みの中に隠れさせておいたスズメに魔力量を集中させた。

スズメの姿は、チタンの鱗に覆われた異形の姿へ。

頭部には複数の目を付け、右腕を円形の大盾と鋭く尖った爪を持つ手が一体化したような形状でチタンのものに、左腕はチタンの装甲を纏ったアヒル型の魔偽禍の頭部へ、下半身はアシダカグモのものだ。

 

変化が終わると、私は家の屋根へと素早く登った。

ワイバーンは私のその姿に気づいたのかその鋭い視線を私に向けた。

口からのぞかせる炎は勢いを増して激しくなる。

 

『Gyaaaaaaaaaaa!!』

 

ワイバーンは天を仰ぎひときわ大きく吠えた。

うるさい、今何時だと思っているんだ、と人間にしか通用しないような考えが私の頭をよぎる。

そんなことはお構い無しにワイバーンは咆哮を上げた後、激しく炎の滾る口を開いた。

そして私に向けて炎の吐息を放つ。

 

それに対して私は左腕をワイバーンに向けた。

アヒルの喉が激しく沸騰するような音を立てる。

次の瞬間、アヒルの口から勢い良く放たれた泡の奔流がワイバーンの炎をかき消し、ワイバーンを飲み込んで泡まみれにした。

 

『Gyaaaaaaa!?』

 

私はそのままの勢いで周囲に泡をまき散らす。

この泡は不燃性であり、さらにこの泡の内包する気体も不燃性の気体になっている。

これでこの戦闘による火災の可能性を下げることが出来た。

この泡に関しては潤滑性を低くしているので転倒の心配は無く、後で消すので被害にはならないだろう。

 

『Gyaaaaa!Gya!Gya!Gya!』

 

ブレスは効かないと理解したのか、ワイバーンはその口から火球を三つ連続で放った。

私がそれらを右腕の盾で受け止めると、小規模の爆発が起こり衝撃が伝わる。

しかし、チタンの盾を破る程の力はなく、八本の脚に支えられた私の身体は揺らがない。

 

さて、どう倒すか、下手に動き回ってあの火球を撒き散らされるのは避けたい。

泡が多少の火災は防ぐとはいえ、人に直撃したり、火球の威力は火災を防ぎきれないかもしれない。

しかし、私にはまだ大した遠隔攻撃手段がないのだ。

周囲の家々の様子を見ると、人々が家を出て静かにここから逃げ出している。

室内にいる私の方も、警報に飛び起きたお姉さんによって起こされて避難を始めていた。

この様子だと、じきに魔法少女もやって来そうだ。

 

まずはワイバーンの狙いをこちらに向けておかなければならない。

私は再び左腕をワイバーンに向け、大量の泡を放った。

 

『Gyaaaaaaaaaaaaaa!!!』

 

ワイバーンは泡まみれとなり、怒号を上げる。

火球を放とうと口を開くと大量の泡が入るので、今、相手は攻撃が出来ないだろう。

さらに、確実にこちらに対して怒りを向けているので、他者が狙われる可能性も低い。

私はワイバーンの視界が塞がっている隙に、背中からもう一体戦闘形態の私を分裂させた。

 

チタンの鱗と頭部の目はあるものの完全な人型の状態だ。

その手には、人の頭程の大きさのプラチナの重り三つが、それぞれ蜘蛛の糸と魔法の糸によって編まれた三本の綱によって繋がれた、ボーラと呼ばれる投擲武器があった。

ちなみにプラチナにした理由は、この物質が今私の模倣出来る中で最もその密度が高かったからだ。

 

泡を浴びせられているワイバーンは縦横無尽に飛び回り、その泡をどうにか回避しようとしていた。

そんなことせず、こちらに突っ込んで来てくれればそのまま反撃できるのだが。

もう一つの身体はボーラを力強く回転させて勢いをつけている。

風を切る音が鳴り響く。

 

周囲の人の避難があらかた終わり、投擲する予定の方向に人がいないことを確認した後、私は泡を放つのを止めた。

そして、それに気付いたワイバーンが飛行速度を緩める。

その瞬間、もう一つの身体がボーラを勢い良く投擲した。

 

『Gyaaa!?』

 

ボーラは命中、あっさりとワイバーンの身体を絡め取りその動きを封じた。

身動きの取れないワイバーンはそのまま地面へと落ちていった。

 

私は分裂していた身体を戻すと、墜落したワイバーンに素早く駆け寄り、右腕を巨大なハンマーへと変化させる。

私はそれをボーラが絡まり藻掻くワイバーンへと振り下ろした。

 

『Gya───ドガンッ!!

 

ワイバーンの頭はいともたやすく叩き潰され、その身体は塵へと変わっていく。

なんとなく鱗が頑丈そうな気がしたのでこのようなトドメとなったが杞憂だったようだ。

私は散ったワイバーンの魔力を取り込みながら、周囲にまき散らされた泡を消していく。

 

さて、さっさとここを去らなければならない。

いつ魔法少女がやってくるかわからない、とそんなことを考えていたが、もうすでに遅かったようだ。

 

───背後からの攻撃を察知し、身を反らして回避する。

その攻撃とは魔法少女から放たれた蹴りであった。

相手の着地した足元に泥が飛び散る。

 

「よっ····と」

 

その魔法少女は、ミルクホワイトのゆとりのあるレインコートを纏っていた。

レインコートは、フードの部分が赤丸ほっぺと赤い目のギザギザとした歯が生えたカエルのようなデザインとなっている。

手は水かきのついたミルクホワイトに爪先が赤くなっている手袋をし、これもまたミルクホワイトのレインブーツを履いていた。

背にはトビウオのような羽と腰からオタマジャクシのようなヒレが先端に向けて赤くなっているものが生えている。

 

フードから見えるその顔は、茶髪に黄色い瞳をしていて、私を見つめながら口元に弧を描いた。

 

「うわさの『ミミック』みーっけ···!」




本当は別の魔偽禍を考えていたけれど、強くしすぎたのでワイバーンになったという裏話
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