でも次はあるかもです
お姉さんは公園の中へと入り、こちらに向かう。
その間、芝生と靴の擦れる音と風の音だけが聞こえていた。
「あの後、ちゃんと家に帰れた?」
彼女は私の隣に座りながらそう尋ねた。
その質問に対して曖昧に笑みを浮かべて誤魔化す。
今の所、帰る家は無いのでどうしようも無い。
帰れたと嘘をつくにしても、暗くなっているのにこんな所に一人でいるのは、すでに無理がある気がした。
それを見て彼女は察したようで、苦笑を浮かべた。
「あはは、聞かないでおくね」
私は無言で頷いた。
そして、彼女は少しだけ考えたり、悩むような素振りを見せながらも、期待を込めた声色で言う。
「んー、まぁ、じゃあまた泊まってきなよ」
泊めてもらえるというのなら、外で夜を過ごすよりも私の精神的にずっと良い。
さらに、今日の模倣ではスズメに擬態していた為、建物内のものを模倣することは出来なかったが、泊めてもらえば少なくとも彼女の家にあるものは新しく模倣することが出来る。
「はい、お世話になります」
その提案を受け入れると、私達はベンチから立ち上がり公園を出た。
「あんまりお家の人を心配させちゃだめだよ?今日も近くで魔偽禍が出たらしいし」
アパートへと街灯の照らす道を歩きながら、彼女がそう私に話しかけた。
近くで現れた魔偽禍、私のことだろうか。
だとするのなら、私がどのように他者から認識されているのか気になる。
「どんなのですか?」
「んと、確か、アヒルと魚のキメラみたいなやつと、そいつの頭を一瞬でもぎ取ったとかいうやつ」
彼女の話は、やはりあの魔偽禍と私のことだろうと確信を深めていると、私の戦闘時の見た目について続けた。
「全身が鱗に覆われてて、いくつもの目が頭に付いてるとか」
私のことに違いない。
私はそれについてさらに質問することにした。
「どれぐらい強いんですか?」
「アヒルがDからFぐらいの強さだったらしくて、そっちが確かCランクって言ってたっけ」
Cランク、それよりも弱いアヒルがD〜F、つまりAやBランクにあたる、より強い魔偽禍も存在するのだろう。
場合によってはSランクなども存在するかもしれない。
Cランクはどのくらいの強さにあたるのだろうか。
「つまり?」
「大体兵器並みって感じ」
兵器並みという表現から正確な強さを判断するのは難しい。
兵器と言っても様々なものがある。
戦車ならまだしも、拳銃クラスの強さだと言うのなら大したことはない。
それにしても、具体的な兵器を例としていないということは、Cランクと言ってもピンキリだということになるのだろうか。
「まぁ、そんな感じだからキミも気をつけなよ?」
私はこくりと頷いた。
この2日間はどうにか生き延びることが出来たが、さらなる格上に遭遇する可能性もある。
これからも決して油断は出来ない。
「あ、そういえばさ、名前、教えてよ」
そんなことを考えていると、ふと彼女は私の名前について聞いてきた。
そういえば、まだ考えていなかった。
今の所、お互いのことを呼び合うような関係があるのは彼女ぐらいなので特に考えておくのが後回しとなっていた。
「好きに呼んでいいですよ」
彼女が適当にニックネームを付けてくれることを期待してそう返す。
しかし、それに対してやはり彼女は不満そうな表情をした。
「好きにってもー、もっと信頼してよー」
···私が彼女を信頼していないようにとられてしまうのか。
私としては、こんな得体の知れない自分に対して温かく接してくれて、泊めてくれもすることに感謝しているし、ある程度の信頼はしているのだが。
しかし、様々な事情の根本である、私が魔偽禍だということを伝えるのは難しい。
しかし、それでも最低限名前は考えておくべきだったか。
私は彼女に気づかれないよう、周囲に目を向けた。
名前を考えるのにあたって、そのアイディアを探す為だ。
すると、花壇に咲く紫陽花が目に入った。
これでいいだろう。
「···ハイドレンジア」
私が今考えたその名前を口にすると、彼女は破顔した。
「へぇー、ハイドレンジアって言うんだ、じゃあ、ジアちゃんって呼ぶね」
ジアちゃん、ジアちゃんと特に意味も無く嬉しそうに私の名前を呼ぶ彼女を不思議に思いながら、私達はアパートへと向かった。
◇
「ただいま~っと」
「お邪魔します」
アパートに着くと、彼女は荷物を置き、すぐにキッチンへと向かった。
「ご飯の準備しないとね」
「何か手伝います」
今日はカレーの余った食材で肉じゃがを作るらしい。
私は彼女から借りたエプロンを着てキッチンに立っていた。
「野菜のカットやりましょうか?」
その提案に彼女は渋い表情を見せた。
「うーん、でも不安なんだよねー、ジアちゃんが怪我したら嫌だし」
多分大丈夫だと思うのだが。
それに最悪手をぐさっとやってしまっても、人間に擬態しているだけで、流体としての性質は失われていないので、包丁はすり抜けるだけだ。
むしろ、野菜を押さえながら手ごと切った方が早く切り終わるのでは、と一瞬そんな考えが横切ったが、それは絵面が最悪なので流石にやらないつもりだ。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「······危なそうだったら止めるからね」
その後、野菜のカットは特に何事もなく終わり、テーブルに肉じゃが、ご飯、焼き魚とすりおろした大根の皿が並べられた。
「うん、美味しいね」
「そうですね」
夕飯が食べ終わった後、お風呂を掃除し、沸かす。
泊めてもらっているので、これぐらいはしなければ。
「先入っていい?」
「どうぞ」
そう答えると、彼女は椅子から立ち上がり脱衣場へと向かう。
「あっそうだ」
彼女は脱衣場へと入りかけてこちらへ振り向いた。
「お風呂、一緒に入る?」
「大丈夫です」
えぇーつれないなー、と言いながら彼女は脱衣場へと入った。
彼女が出た後に私もお風呂に入り、お風呂から出ると、彼女は手にゲームコントローラーを持って私を待っていた。
「一緒にゲームやらない?」
「いいですよ」
私がそう返すと、彼女はゲームを起動した。
『魔法少女リビルド』というタイトルのゲームらしい。
内容は、異世界からやってきた魔物によって荒廃した世界を魔法少女となり、拠点となる都市の再建や防衛、魔物の謎を探るゲームのようだ。
協力プレイも可能で、今回は新しく作った私のデータに、今まで彼女がやってきたデータのキャラクターを参加させる形でのプレイとなる。
「チュートリアル終わってから参加するね」
「わかりました」
キャラメイクや武器の選択を済ませ、キャラ操作やゲームシステムなどについての解説を受けていく。
このゲームはやることが多いので、チュートリアルが長い。
しばらく進めていると並行世界と繋がるというシステムが現れた。
これによって並行世界の魔法少女を召喚し、協力プレイが可能になるという設定のようだ。
尚、強すぎるプレイヤーの参加による難易度の大幅な低下を防ぐ為、ホストの強さに応じて参加プレイヤーのスキルやステータスなどに制限がかかるようになっている。
「お、終わった?」
チュートリアルが終わったのでお姉さんを呼ぶ。
彼女は私のキャラを見ると笑った。
「魔法少女感ないじゃん!」
私の選択した武器はなんとなくインパクトの強かったチェンソーで、ステータスは物理特化型。
容姿は黒いタクティカルベストにガイコツのマスクの黒髪ツインテール。
そこに魔法少女らしさは無かった。
「まぁ、私は魔法特化型だから前衛と後衛でいい感じかもね」
そう言いながら、二人でゲームを始めた。
◇
ゲームを始めてからしばらくして、夜も遅くなった為、もう寝ることになった。
「一緒に寝よ」
そう言って彼女は私をベッドに引きずり込み、抱きしめる。
「拒否権はないんですね」
「嫌だった?」
別に嫌という訳ではないが。
その聞き方はずるいんじゃないだろうか。
「···このままで」
結局、私は彼女に抱きしめられた状態で寝ることになった。
彼女が完全に寝静まった頃、私は彼女の部屋にあるものを色々模倣することにした。
彼女には悪い気がするが、これは私が生き残る為にはきっと必要なことなのだ。
···もし変なものが見つかっても見なかったことにするつもりだ。
私自体がこっそりベッドから抜けるのは気づかれそうなので、流体の状態の身体の一部を手から出してベッドを脱出させる。
タンスの隙間から中へと入ったり、音を一切立てずに部屋中を探索し、模倣していく。
その中で私は非常用のらしいラジオを発見した。
これならインターネットよりも簡単に扱える情報源となりそうだ。
『ザー、ザザ──♪───♪』
早速、その構造の模倣と受信している電波の周波数を確認し、その電波を受け取ると頭の中で電波が音楽へと変換される。
インターネットはどこかのプロバイダに接続する必要がある為、不正アクセスとみなされたり、上手くいかない可能性がある。
しかし、ラジオは波長を合わせて電波を受け取るだけなので特に問題は無い。
そういえば、ラジオの電波の受信に成功したのだから、テレビはどうだろうか。
テレビへと近づき、模倣を試みる。
構造や受信する電波をラジオと同じように模倣し、その電波を受け取る。
すると、頭の中でその電波が映像へと変換された。
複数のチャンネルを同時に見ることもできる。
そのことに喜びながら、私はテレビを鑑賞することにした。
テレビからはより多くの情報を得ることができ、私はこの世界についてさらに知る事が出来た。
それからしばらくして、私は窓から外を眺めた。
もう夜は終わりが近づいている。
暗闇が太陽に赤く照らされて薄まっていき、3日目が始まろうとしていた。
ゲームの設定を考えだしているのは何なのでしょうかね