「お前らこんな所でFCやってるのか」
昌也が背の高い雑草をかき分け、踏み鳴らされた獣道のような道とも言えない道を突き進んだ先には見晴らしのいい断崖絶壁が広がっていた。
「まぁまぁ、海陵で活動されてる昌也さんにとっては少し物足りなく感じるかもしれませんが結構いいものなんですよ? ほらほら、皆が部室で待ってます!」
そう言って明日香が指さす先には蔦に好き放題絡まれた老朽化著しい青色のバスがあった。
バスの強度と衛生面に一抹の不安が残るが今日昌也が招かれたパーティの会場はあそこなのだ。
ニコニコとバスの扉を少しだけ開いて手招きをする明日香に腹をくくって昌也がバス停を通り過ぎそのままバスの中に恐る恐る入っていく。
「……お邪魔しまーす」
そう言って昌也が顔だけをバスの扉からにょきっと生やすとそれを見咎め両脇に隠れていたみさきと窓果が昌也に向けてクラッカーを発砲する。
パン、パパン、パンと景気よくクラッカーの音が鳴り響く。
後ろからも音がしたので見てみるとちゃっかり明日香もクラッカーを持ってきていた様子だった。
「秋の新人戦優勝おめでとう、昌也。久奈浜学院FC部の部室への乗車を歓迎するぞ」
そう言ってバスの奥の方から葵がクラッカーを持ちながら昌也の方へと向かってくる。
バスの内装には『日向昌也秋の新人戦優勝おめでとう!』とオーナメントやバルーンで装飾された垂れ幕が掛かっている。
厳密には海陵の選手である昌也がここまで久奈浜学院のFC部に優勝を祝ってもらうのはなんだがむず痒い。
そうしてどうしたものかと立ち尽くす昌也を見かねた真白が手招きをし、自身の隣の座席に昌也を案内する。
「こちらへどうぞ、先輩」
「ああ、真白、助かる」
そう言って昌也が真白の隣に腰を下ろすとその後を追って明日香が昌也の隣に詰めて来る。
「おっ、明日香大胆だねぇ~。そう言えば秋の決勝戦でも告白まがいの言葉叫んでたし案外昌也に気があるのかにゃ~?」
「略奪愛?!」
みさきと窓果が騒ぎ立てる。
「ち、違いますって。あの時私楽しくなっちゃって、色々教えてくれた昌也さんに感謝の気持ちを伝えたくなっちゃっただけなんです……」
明日香が顔を赤らめてうつ向いてしまう。
「まぁ、そのせいでまた昌也の夏の決勝戦のあの告白まで取りざたされて色々噂になってたけどね、ほら」
そう言ってみさきが昌也にジュースを手渡すついでに久奈浜学院の校内新聞を手渡してくる。
新聞には昌也と明日香が秋の大会の決勝戦を戦う1枚の写真と『日向昌也、悲願の優勝達成! しかしそこである黒い噂が……』と言う大きな見出しがあり『決勝戦の告白テロリストの通り名に違わず』だとか『すけこまし』だの『Pickup artist』だのと前回の夏の決勝戦を引き合いにだしながら散々な書かれようだった。
「なんだこれ……」
昌也がげんなりとして新聞をみさきに返す。
本当は今すぐばらばらに引き裂いてゴミに出してやりたい所ではあったがみさきの私物なのでなんとか理性を働かせたのだ。
「まぁ、これは流石に昌也の自業自得だよねー。ほら、夏の決勝戦で愛を叫んでたし」
そう言いながらみさきが昌也から校内新聞を受け取る。
「ああ、あれ! うちのクラスでも有名になってましたよ。ちなみに先輩のあだ名はプロポーズ大作戦が優勢でしたが、実里の付けた告白テロリストも根強い人気があってあだ名決定戦の投票は白熱してましたね」
「聞きたくなかった……」
そうやって昌也が項垂れていると対面に座っていた紫苑が身を乗り出して昌也の肩を叩いて来る。
「まぁまぁ、いいじゃないか。有名税って奴だろ? それに俺は日向が誠実で熱い男だってことわかってるぜ!」
「紫苑さん……励ましてくれてありがとうございます。にしても流石の人望ですね、久奈浜学院FC部を再建しただけはあります」
紫苑は夏の大会の後、昌也と沙希の決勝の熱狂が収まらないうちに今ここに居るみさきや明日香、真白に窓果まで巻き込んで部員を集め、葵さんに顧問を頼み込み即日久奈浜学院FC部を結成した傑物だ。
紫苑自体はもう3年で夏の大会も終わってしまったのでこれから久奈浜学院で彼が公式戦に出ることも無いのだが受験勉強もそこそこにFCの練習に精を出しているらしい。
そんな紫苑の将来を昌也は他人ながらも心配してしまう。
「よし、じゃあ日向昌也の秋の大会優勝とプロデビューを祝って」
昌也のそんな心配を知る由もない紫苑はにかっと白い歯をむき出しにして乾杯の音頭を取る。
「乾杯!」
皆の少し楽しそうな声とグラスがうち合う控え目な音の後、各々が自由にテーブルの上に準備されたお菓子に手を伸ばす。
昌也も例に漏れずテーブルのスナック菓子に手を伸ばすと向かい側に座るみさきから声がかかる。
「あ、そうそう。昌也、そういえば例のうどんちゃんとはうまく行ってるの?」
「それ、私も聞きたいです」
隣に座る真白が興味津々と言った感じで目を輝かせる。
「いや、まぁ、沙希はあの後全国大会に優勝して、すぐプロデビューしてそのままリーグ戦に行っちゃったから、あんまり会えてないけど連絡は毎日取ってるよ」
「え~! なんだか少し寂しいですね」
真白が口に手を当てながら驚く。
「まぁ、日向君決勝戦で告白しちゃったしね。案外乗り気じゃなかったけど仕方なく~って感じでOKだしちゃったのかも。だから今は海外に残してきた本当の彼氏と愛を育んで……」
「窓果」
昌也が一喝する。
「もう! 日向君、ちょっとした冗談じゃない」
今のは冗談がシャレになってないので昌也に謝る気はなかった。
「おーおー、愛しの彼女に会えなくてちょっとカリカリしてるね、昌也。ほら、ビスコ食べてカルシウム取りな?」
そう言ってみさきが自分の食べかけのビスケット菓子を差し出してくる。
その気持ちは嬉しいのだが、よく言われるカルシウムが不足することでイライラするというのは迷信だし、みさきの食べ刺しに食欲をそそられたりもしないので丁重に遠慮する。
「別に俺はイライラしてないし、食べ刺しはいらないからみさきが食っていいぞ」
「え? いいの? ビスコ美味しいよ?」
そう言いつつもみさきは差し出した食べ掛けのビスコを引っ込め自分の口に残りを放り込む。
「じゃあ昌也さんがプロデビューした後に再会するって感じなんですか?」
そう明日香が尋ねてくる。
「いや、それなんだけど実はどうにかスケジュールの都合を付けてくれたらしくて沙希が今度こっちに着て俺の優勝とプロデビューを祝ってくれるらしいんだ」
「えー、うかうかしてるなら今の内に唾つけとこっかなーって思ってたのにー」
みさきが冗談交じりにそんなことを言う。
「おいおい、俺はもう沙希と付き合ってるんだぞ? そもそもなんでみさきが俺に唾をつけなきゃいけないんだよ」
「いやいや、FCの未来を背負う男だからね! 今の内にみさきちゃんの魅力でメロメロにしておいてめくるめくグーダラライフの礎になって貰おうかと……」
「そんなこったろうと思ったよ……まぁ、冗談も程ほどにしとけよ」
「へいへーい」
そんなことを言いながらみさきがコップのジュースを飲み干す。
「あー、お菓子ばっかり食べてたら喉乾いちゃった! ジュースおっかわりー!」
「みさき~太るよ~?」
そう言いながら窓果がみさきのコップにジュースを注いで、その後も終始くだらない冗談なんかを言い合いながらその日は日が暮れるまで皆で沢山の話をした。
昌也はこういうのを多分青春って言うんだろうなと、ふとそんなことを思った。
★
朝、昌也が慌ただしく準備する。
時刻は8時47分。
沙希の指定した時間は10時なのでまだ1時間以上余裕があるのだがそれでは『作法』に反してしまう。
昌也は髪の毛のセットもそこそこにスマートフォンを掴んで家の玄関を飛び出していつもの待ち合わせ場所である停留所を目指して走り出す。
しかし昌也の努力も空しく、停留所の前のベンチには既に先客が居た。
昌也は1つ息を整えてから言葉をだす。
「ごめん、待たせた?」
そう言うと沙希がクスクスと笑いながら答えてくれた。
「……ううん、今着たとこ」
その反応に流石に昌也も少しおかしいことに気が付く。
「……もしかして、なんだけどさ。沙希、実は知ってる?」
昌也が沙希の右手を左手で迎えながら停留所に向かう。
「なんのこと?」
その沙希にしては早めのレスポンスに昌也は訝しく思いながらも返事をする。
「まぁ、知らないならいいんだ」
「……1時間前に待ち合わせ場所で待ってて『今着たところ』って言うのは昌也にとってはキチンとした作法ってちゃんと知ってる」
「なぁ、沙希……やっぱり……」
「行こ、今日は昌也のためにとびっきりの星座を見繕って来た」
「え、おお? 星座当てゲーム? それなら俺も丁度いいの見つけたんだ」
そうやって沙希が昌也を引っ張ってグラシュを起動させる。
「それ以外にも話したいことが沢山ある」
「じゃあ、もたもたしてる暇はないな」
沙希が昌也の手を取ってそのまま口を開く。
「じゃあ行こう、Fly!」
これで『蒼の彼方のフォーリズム√乾 沙希』は完結です。
ここまで読んでくれた皆さんありがとうございます。
誰かが読んでくれている、と言うのは案外強いモチベーションになりなんとか完結させることが出来ました。
もしよければここまで読んだ感想などを頂けると私が喜ぶので気が向いたらお願いします。
少しでも楽しんでいただけたならそれが幸いです。