夏の大会の2日目、2回戦を危なげなく勝ち切って砂浜に戻って来た時だった。
「まーさや! 可愛いみさきちゃんが応援しにきたよ!」
昌也の目の前にラフな格好のみさきと、その少し後ろに窓果と真白と昌也と同じクラスの倉科明日香ともう1人、2回戦を戦ったスピーダーの男性が立っていた。
「みさきに窓果? なんだお前ら、FCの試合とか興味あったのか?」
そう昌也が問いかけると窓果が口を開く。
「ううん、私は兄ちゃんの応援に来てたんだけどその試合相手が日向くんだったからさ」
「わたしたちは窓果の付き添い。でもまさかあの昌也がFCをやってたなんて流石のみさきちゃんも驚いちゃったなー」
「あっ、えっと。倉科明日香です! こうしてお話するのは初めて、でしたよね」
「日向昌也だ、同じクラスなのにこういうのもなんだか変な気がするけど初めまして」
昌也と倉科の会話が終わったとみるとみさきの後ろからひょこっとツインテールを揺らしながら小柄な女子が顔を出す。真白だ。
「日向先輩ってFCがお上手なんですね」
「真白か、まぁ、昔取った杵柄だよ」
「なるほど、昔FCをされてたんですね」
そうこう話しているとさっき2回戦を戦った男性が目の前に出て手を差し出してくる。
「ああ、窓果のお兄さんの……」
「ああ、窓果の兄の青柳紫苑だ。対戦ありがとう。日向の上手さには驚かされたぞ。まさか久奈浜学院にこんな猛者が居たとはな」
昌也も差し出された手を握り返す。
「どうも、日向昌也です。妹さんとは仲良くさせて貰ってます。学生にこんな速い選手が居るとは思ってなかったので少し驚きました」
事実、最初昌也は相手がスピーダーだろうがセカンドブイを譲る気は一切無かったのだがその粗削りながらも勢いのある加速にソニックブーストを使わないとブイを取ることは不可能だと判断しファーストライン半ばでのショートカットを余儀なくされた。
「もう、日向くんお世辞は程ほどにしてよね? 兄ちゃん褒められたらすーぐ調子に乗って手が付けられないんだから!」
「いや、嘘じゃないですよ。実際、俺は並みのスピーダー相手ならコースを塞いでスピードをコントロールして完封を目指すつもりでした。それをしなかったのはそれに失敗した時スピードに乗った紫苑さんを止めることが出来なくなる可能性があると判断したからです」
「そうか、日向程の奴にそう言われると俺もまだまだ捨てたもんじゃないと思えるよ」
そう言って紫苑が頬を掻く。
「ま、でもよかったじゃん兄ちゃん。いつもは1回戦敗退の所を2回戦まで来れたんだからさ! いい引退試合になったじゃない」
「そうだな、なぁ、日向。もしよければなんだが……」
紫苑が何か口にしようとした時、昌也の後ろから葵がやって来る。
「昌也、2回戦お疲れ様。丁度沙希の試合があっちのフィールドでやってるみたいだし試合の報告のついでに見に行かないか?」
「ええ、わかりました。それで紫苑さん、俺に何か?」
紫苑は少し思案してからやはり何かを決めたように少し寂しそうな顔をして応えた。
「……いや、何でもない! 俺たちはこの後日向を応援しようと思ってるからその調子で頑張ってくれ」
「そうそう! 兄ちゃんを倒した相手がすぐに負けちゃったらなんだか嫌だし、日向くん優勝してね」
「頑張ってくださいね昌也さん!」
「頑張ってくださいね先輩」
「昌也~! 応援してあげるから優勝したらうどん1杯ね!」
「普通逆じゃないのか?」
昌也が少し苦笑しながら先を行く葵に小走りで追いかける。
昌也が隣に追いついてきたのを確認した葵が悪戯っぽく微笑んで言う。
「昌也も案外隅に置けないな」
「そういうのじゃないです」
「まぁ、そう言ってやるな」
そう言って葵がくつくつと笑う。
「にしても、沙希は今日も鳥籠を使いますかね?」
「どうだろうな? だが、FCを変えると豪語しているんだ。恐らく派手に使っていくだろう」
「わかった所でそう簡単に対策できるものでもないですしね」
とはいうものの普通に戦うより燃費がいい戦略という訳でもないし普通に戦って勝てるのならそっちの方が体力の消費は軽い場合が多いため昌也としては沙希以外との試合で鳥籠は使うつもりは無かった。
「まぁ、プレイヤーもセコンドもストイックなんだろう」
試合場につくと沙希の試合が丁度終了した所だったらしく表示されたスコアには相手の0に対して沙希の10点が表示されていた。
会場の困惑のざわめきから沙希が鳥籠を使ったのは明らかだったが、まだ誰も何が起こっているのか理解をしていない様子だった。
「随分ドッグファイトの上手いスピーダーだな……」「試合巧者って方が実態に即してるんじゃないか?」「オレ、昨日の試合も見てたけど空域の支配者って感じで凄かったぜ」「空域の支配者ねぇ」「今年は思わぬ伏兵が何人も居るな、あの四島水産の我如古も1回戦負けだとよ」
そんなざわめきを割いてイリーナと沙希がやってくる。
イリーナが少し微笑んで昌也にだけ聞こえるように言う。
「決勝で会いましょう」
そう言って通り過ぎて行くイリーナの後ろから沙希がやってくる。
久しぶりに間近に見る沙希に昌也は声を掛けようか、声を掛けてもいいのかと悩んでいるうちに沙希は通り過ぎて行ってしまった。
昌也がそのことに気落ちしていると後ろからいきなりドンと背中を叩かれる。
「よっ!」
赤い髪を隠す黒いキャップと顔を隠すためのサングラスを付けているがその正体は間違いなくルミッキだった。
「ちょ、ルミッキ? いいんですか? こんなところに来ても?!」
そう昌也が声を潜めて言うとルミッキが笑いながら喋る。
「ああ、大丈夫大丈夫! イリーナの奴に許可は取ってる! まぁ、余計なことは出来ない様に新しく契約をまき直されたけどな! まぁ、だから今日は普通に坊やの応援と……」
そう言ってからルミッキが視線を上げて葵を見る。
「各務葵に挨拶にね」
「ほう、私も有名になった気分だ、まさか『北欧の風』殿に認知されてるとは」
そう葵がおどけたようにして言う。
「世界大会の優勝者がどの口でいうんだか……まぁ、でも予想通りの人物だった。せっかくだし握手して欲しいね」
ルミッキが葵に手を差し出す。
「勿論。一スカイウォーカーとして貴方のこれからの活躍を心から期待してる」
そうして短いがしっかりとした握手が終わるとルミッキが再び昌也の背中を叩いてから去っていく。
「じゃ、練習の成果楽しみにしてるよ?」
その背中に向けて昌也が力を込めて応える。
「任せてください、沙希の奥の手がどんなものでもきっと勝ってみせます!」
ルミッキがその言葉にひらりと1つ手を振ると誰にも届かないような声でぼやく。
「……まぁ、善戦できればあるいはイリーナも心変わりするかもな」
★
その後も3回戦、4回戦、準々決勝、準決勝と順調に駒を進めた昌也の次の相手は当代最強のスカイウォーカーと名高い真藤一成だった。
流石に有名人なだけあって情報も多い、スタイルはオールラウンダーだがスピーダー調整、つまり速さに比重を寄せたオールラウンダーでメンブレン系の技を得意としているらしい。
これは割りに重要な情報で、どんなに強いスカイウォーカーでもメンブレン系の技を一切使えない選手も存在する。
と言うかこっちの方がマジョリティでプロの中でも6割はメンブレン系の技が使えないという話を昌也も聞いたことがあった。
つまり真藤一成と戦う時は常にエアキックターンのような予想外の方向への反転やソニックブーストのような奇襲に気を付けなければならないという事だ。
「昌也、今回は……」
「勿論ぶち抜きます」
葵の問いかけに被せるように昌也が答える。
「昌也、相手は当代最強と名高いスカイウォーカーなんだぞ? 確かにお前はこの2ヵ月で力を取り戻したのかも知れないが舐め過ぎだ。乾沙希以外にも目を向けろ」
「俺はそれを出来てるつもりです」
そう言って昌也はスタートラインへ移動し始めると葵が1つ呼吸を入れてから応える。
「……ならいい」
そうして既にスタートラインについていた真藤の隣に昌也が並ぶと向こうから声がかかる。
「やあ、日向くん。今日は胸を借りるつもりでやらせてもらうよ」
そう真藤一成が昌也に随分フランクに話しかけてくるが昌也は彼と会話するのがこれが初めての筈なので少し首をかしげてしまう。
「それはこちらの台詞ですよ、真藤選手。それにしても俺たち話したことありましたっけ?」
もしそうだとしたら失礼だとは思いつつも昌也が聞く。
「ああ、ごめん。少しフランクすぎたかな? 憧れのスカイウォーカーを前に少し浮足立ってしまったみたいだね」
__この人、昔の俺を知ってる?
「いえ、大丈夫です」
昌也が少し警戒心を強くしながらもセカンドブイに視線を移す。
「セット!」
審判の声が響くとそれと被せるように真藤が呟く。
「今日、僕は神様を超える」
その小さな声をかき消すように試合開始のホーンが鳴り響き、2人が一斉に前に飛び出す。
真藤も昌也もどちらもショートカットする気配はなくセカンドブイ狙い。
流石スピーダー調整のオールラウンダーと言うだけあって速い。飛行姿勢にもブレはなくこの調子ならローヨーヨーの上昇タイミングも完璧なのだろう。
そう考えた場合昌也よりもわずかに真藤の方が早くブイにタッチするだろう。
その時昌也は葵の言葉を思い出す。
__当代最強か……。
ここで真藤に1点を与えたくない。昌也の直感がそう言っている。
しかしここで昌也がソニックブーストを使えることを沙希とイリーナに知られるのは明確にマイナス……。
「昌也、このままだと真藤が先にブイに着くぞ」
「……ショートカットしてポジションを取ってそのまま鳥籠を使います」
昌也はローヨーヨーの進路を変えてセカンドラインの高い位置に付く。
「わかった」
昌也は相手に先制点を取られた時の戦略を反芻する。
相手が向かってくるのならそのままタイミングを合わせて重力で加速して背中やブイを狙い、相手がポジションの概念を理解しているなら高い位置を活かし相手を閉じ込めれるように動くのだ。
しかし問題があるとすればリードしている相手は鳥籠に付き合う必要がないため動き出すタイミングを見誤った場合連続得点を許す事になるため相対速度を調整しながら相手を上回れる速度と位置を保ち対戦相手に向かって下降しながら接近し基本的にはドッグファイトを挑んでいく形になる。
今回真藤はそのままの勢いでサードブイを狙うことにしたようだった。
「昌也、練習通りに行くぞ」
「はい」
昌也が両手を広げながら真藤に近づいていく。
真藤も昌也のブロックを抜けるべく縦横のシザーズで細かくフェイントを入れる。
そのフェイントを読み切り昌也は真藤をセカンドブイ側に弾くことに成功する。
そうして勢いを殺す事に成功した昌也が真藤に対して縦横のシザーズを入れ海面方向へと追い込んでいくと昌也が真藤からの簡単なリバーサルを全て拒否したことを確認してから真藤がセカンドラインからサードラインへショートカットする。
しかし、そのショートカットが問題だった。
昌也がサードブイにタッチし1対1になった時、真藤は昌也が今すぐ高空を目指し飛びあがっても反応して抑えれる程度の高さに陣取っていたのだ。
「もしかして真藤選手も鳥籠を理解してるのか……?」
「さぁな、だが、少なくとも今ポジションを取っているのは真藤だ」
確かに昌也も沙希も1回戦から鳥籠を使っていた。
だから鳥籠という戦略があることに気が付いても不思議じゃない、しかしそれをしっかり理解し使いこなすのはまた別の話だ。
「だけど幸い同点、付き合う必要は無い」
昌也は勢いそのままサードラインを駆け抜けようとスピードを上げると真藤が昌也と交差する少し前でゆっくりとフォースブイに向かって加速し始める。
「昌也、真藤と交差した。どうやら奴はそのままスピード勝負と行くようだ」
長距離のローヨーヨーで充分な加速を得た真藤は計算でもしたのかのように残り60メートル程の位置で昌也の後ろにピッタリ張り付く。
既にスピードは昌也よりも速く、このままでは真藤のリードを許してしまう。
鳥籠のなんたるかを知る真藤にこのままリードを許すのは致命傷足りえる。
「……ソニックブーストを使います」
「ああ、私もそれがいいと思う」
昌也が了解を受け腕を素早くタイミングよく動かしメンブレンを操作するとそのまま不自然にグンと加速し真藤を突き放す。
それを確認するとフォースブイ寄りに真藤がショートカットしフォースラインへ。
__ショートカット? しかもそんなにフォースブイ寄りに?
昌也はその行動に充分に悩む暇もなくフォースブイにタッチ。
2対1になるがポジションを取っている真藤がフォースブイにタッチして起き上がったばかりの昌也の頭を全力で抑えに来る。
フォースブイで加速した昌也と高低差を使った真藤の全力のローヨーヨーによる速度に目が追いつかず身を躱す前に昌也が海面に弾き飛ばされる。
__スイシーダ?! クソっ、早く真藤選手の位置を……!
スイシーダは真上から相手を水面に叩きつけるように弾いて動きを止める強引なプレイを好む選手が使う荒技でスペイン語で自殺の意味だ。
水面に向かって突撃していく姿が自殺を思わせることから名付けられた技で、スイシーダを使う選手は水面近くでも突進を繰り返してぐちゃぐちゃの展開に持ち込むのを狙うため立ち上がりこそが重要だ。
「昌也、真藤はもう態勢を立て直して接近してきてるぞ!」
「日向くんはどうやら僕より速いみたいだから」
昌也が左右を確認するよりも速く真藤が昌也の後ろを取る。
「ドッグファイトに付き合ってもらうよ!」
軽快な音と共に昌也の背中にポイントフィールドが広がり2対2。同点になる。
「お互いぐちゃぐちゃになるまでやろうじゃないか!!」
続く追撃をとっさに防いで態勢を整えると真藤は反撃を潰すようにしながらも昌也のリバーサルを潰して既に上のポジションを取っていた。
口ではぐちゃぐちゃになるまでと言いつつも冷静に慎重に昌也の逃げ道を塞ぎ戦う。
__何も相手のフィールドに付き合う必要は無い。まだ同点、俺はブイを狙えばいい。
それならばと昌也は再び腕を素早く動かしソニックブーストで埒外の加速でファーストブイを狙う。
しかし昌也が加速しようとメンブレンを移動させた瞬間真藤が微かに笑ったように見えた。
試合中微笑んでしまう選手がいる。
別にふざけているわけじゃなくて、集中力を高めた時、顔の筋肉がゆるくなってしまうことがあるのだ。
__つまり、集中している? だから何だって言うんだ!
昌也は真藤を引きはがす為にソニックブーストを発動させるがその瞬間メンブレン同士がぶつかり合う音がいつもより激しく響き視界が回る。
水が弾ける音でようやく昌也も何が起こったかを理解する。
そう、昌也は再びスイシーダにより海面に叩き落とされたのだ。
「クソっ! そう何度も同じ手は食わない!」
昌也はすぐに態勢を立て直し追撃に来ていた真藤を弾き飛ばす。
「つれないことを言うなよ、僕はまだまだ満足してないんだからさ!」
__集中してるってことは驚いてないってことだ! つまり俺の動きを予想してたのか!
真藤の息もつかせぬ怒涛の攻撃は昌也を釘付けにした。
昌也は空を飛び回る真藤を必死に見上げながら左右に動きスピードを確保して1秒ごとに薄氷を踏むような攻防を繰り返していく。
真藤は上下左右に飛び回り昌也の視界にとらえられない様に飛び回って隙を見て背中を狙い昌也にドッグファイトを挑んでくる。
本来ならこの時点で逆転は絶望的だったのだがここに来て真藤の鳥籠の熟練度が出た。詰めが甘いのだ。
有利なポジションを理解しそれを維持するための動きまではわかるのだろうが最後の最後、海面まで追い詰めた後の戦い方がなっていない。
海面に追い込む最終系は相手を飛べなくすることなのだ。
勿論口で言うほど簡単な技術ではないので一朝一夕で出来ることではないのだが折角真藤がポジションを取っている状態で逃げ場のない海面に昌也を追い込んだというのに昌也に動けるスペースが残ってしまっている。
定石ではこのままフォースラインのファーストブイの位置に追い込んで封じ込めてしまうことにより例え抜けられても安全なように相手をコントロールしつつ完全に速度を出す空間を奪ってしまうのが定石なのだが上のポジションを守るので必死でそれ以上に昌也をコントロールすることができないようだ。
そのせいで昌也はスピードを確保するための僅かな場所を見つけ真藤の猛攻を避け続けることができているのだ。
__でも、このままじゃジリ貧だ!
「昌也! そのままどうにか後1分耐え続けろ! 今のままイーブンを守り切れれば真藤より速く飛べるお前の方が延長戦で有利だ!」
延長戦は5分の制限時間の後先に得点した方が勝ちになる仕様上ファーストラインでの得点の比重が非常に大きい。
ソニックブーストで真藤を置き去りに出来る昌也は延長戦に持ち込むことが出来れば圧倒的に有利になるのは言うまでもなかった。
「そんな事言われても、後1分? 残り時間は3分ですよね? その間この猛攻を耐えきるのは……!」
「いいか、昌也? 真藤は確かに強いがここで昌也に得点を許してしまうと逆転が難しくなる時間帯が残り時間2分だ! その時間帯じゃ昌也のソニックブーストには気を払わざるを得ないだろう」
「ッ……! でも、真藤選手はソニックブーストに対応してきます!」
昌也が水面を休まず駆けながら攻撃を弾くために独楽のように回転して勢いを付けた腕で真藤を上に弾き飛ばす。
「そこが突破口だ。真藤程の選手ならソニックブーストを相手が使えるということが分かった時点で発動の動作を拾うことは可能だろうがそのままソニックブーストにスイシーダを合わせるなんてことは咄嗟には出来ない。必ず準備が必要だ」
昌也は真藤を避けるのではなく真正面から受け止めなるべくメンブレン系の技の発動の機会を与えないように考えながら攻撃を受け止めて行く。
「つまり?!」
昌也が絶叫のように叫ぶ。
「つまり、昌也。お前がソニックブーストを使う素振りを見せるだけで真藤は必ずお前を無視できない。そら、残り時間が2分を切ったぞ?」
「なんですぐこれじゃダメだったんですか?」
昌也が少し息を上げながらもソニックブーストのフェイントを掛けつつも真藤のドッグファイトを抑制する。
「残り2分、この時間帯になるまでこの戦術は然程の威圧感を出す事ができなかったからだ」
昌也が雄たけびを上げながら迫って来る真藤にリバーサルを仕掛け、その動きを潰されて再び真藤がポジションを確保したことを確認した後もう一度ソニックブーストのフェイントを掛けて真藤のドッグファイトを拒絶するのを葵が確認しながら続ける。
「状況が簡略化されていなかった今までは昌也に万が一抜かれたとしてもポジションを確保して得点し帰すプランもあったからある程度捨て身になってドッグファイトを仕掛けることも出来たが今は違う」
「なるほど、そう言う事ですか」
つまり昌也が真藤を出し抜いてファーストブイを取るか、真藤の隙を狙って背中を取ることが出来れば昌也の勝利確定するのだ。
今までは真藤はある一定は捨て身でドッグファイトを挑んでも逆転の目があったため昌也のソニックブーストが本物だろうがフェイントだろうが恐れずに有利なドッグファイトを挑むことが出来たがもしも昌也がそのソニックブーストを発動させなかった場合真藤のドッグファイトはポジションの有利を上手く活かせないただの突進になってしまい隙を晒すことになってしまう。
「いいか、昌也? お前のここからの負け筋は発動したソニックブーストにスイシーダを合わされて真藤にブイで得点されることだけだ。だからソニックブーストを常に発動できるように準備しながら決して発動するな」
ここに来ての形勢逆転。
昌也は常に腕を動かしソニックブーストのフェイントを入れながら真藤を釘付けにしつつも決してソニックブーストを発動させず静かな試合展開で延長戦に持ち込み、そのまま延長戦のファーストラインをソニックブーストで引き離しリードを守り辛勝。
どうにか決勝戦へと駒を進めることに成功した。
★
「すごいすごい! 昌也本当に優勝しちゃうんじゃない? だってあの人当代最強だったんでしょ?」
「当代最強を先輩が倒したってことはもう日向先輩が当代最強ってことなのでは?」
「すごいです、すごいです! FCって面白いです!」
「兄ちゃんを倒した日向くんがこのまま優勝したら兄ちゃんが弱かったってことにならないんじゃない? よかったね兄ちゃん」
「ふっ、やりおる」
「さてさて、決勝戦の相手は~っと……」
そうやってみさきが電光掲示板に目をやると決勝に駒を進めたのは乾沙希。
どうやら女の子のようだった。
みさきもFCを少し齧ったことはあったのでFCでは女性が男性よりも決して不利ではないことを知っているのだが少し不思議な気分になりながら彼女を探す。
すると澄んだ銀色の髪と透明感のある整った顔の見覚えのある女の子がその乾沙希だったのだ。
「あ、うどんちゃん」
どうやら決勝戦前に休憩が入るらしくその時間に真剣な目をした昌也がうどんちゃん……沙希に話かけるのを見てみさきは思わず呟いてしまった。
「……やっぱりLOVEの方なのかな」
わたしもFCをやれば昌也はこっちを見てくれるのかな?
みさきは思わずそんな事を考えて、やっぱりやめた。
「みさきちゃんは負ける勝負はしないことにしてるんだにゃー」
伸びを1つしてからぽつりと呟く。
「昌也にうどん奢って貰お」