この素晴らしい世界に烙印を!   作:イヌタデ

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白の物語セットも出るとか、ワクワクが止まらないですね

ここのが「設定と全然違う!」になるのも近い


2話

 冒険者生活を始めてから一週間ほど経った。上級職で構成されたパーティーとして多少形の注目を集めた形となった一行は、その肩書に恥じない成果、とまではいかずとも、少なくとも落胆されるような状態ではない。

 ちなみに。比較対象の方が大問題なおかげで、街の評判としては「やっぱり上級者パーティーってこういうのだよな」である。

 

「ん~。美味しいですね~♪」

「いっつも思うけど、あの体のどこにあれだけ入ってくんだろう」

 

 依頼を終えていつものように酒場で食事をしているアルバス一行。その中でもエクレシアの大食いっぷりは有名になりつつあった。ごはんはたくさんたべるタイプは伊達ではない。知ってはいたものの、こうしてのんびりと冒険をするような状況になったことで、キットはそんな彼女の大食いを再確認していた。

 

「というか、アルバス。これ今まで大丈夫だったの?」

「ん? まあ、野営の時とかはその辺のモンスターを狩って食べてたからな」

「こっちのカエルは今まで食べてきたカエルよりジューシーなんですよね。もちもち具合は向こうでしたけど」

「いらんわそんな批評」

 

 ジャイアントトードの唐揚げをぱくつきながらそう述べるエクレシアに、キットはジト目で言葉を返す。そうしながら、特に会話に参加せず食事をしていたフルルドリスに声を掛けた。

 

「妖眼さんはいーの? 妹分こんなんなってて」

「彼女が元気ならば、私は構わない」

「そっすか……」

「それに、エクレシアはドラグマにいた頃からよく食べていた。今更驚くようなことでもない」

 

 そう言いながら彼女は唐揚げを口に運ぶ。うんうん、と頷き、ジョッキのシュワシュワに口をつけた。ぷはぁ、と小さく漏れる息を聞いてしまった近くの冒険者達は、大人の色気というべきかなそれにあてられ、次の夢の相手は彼女にしようかななどと大分アウトな思考を巡らせていた。

 

「それはそれとして」

「ん?」

「どうしたんですか? 姉さま」

 

 会話の流れを変えるようにフルルドリスが皆を見る。この場所で冒険者生活を始めてから、今のところ順調そうには思えた。帰る手段はまださっぱりだが、アルバスとエクレシアは旅の目標がフルルドリスとの合流なので現状問題はなく、唯一の懸念であるキットもまあそれはそれでと楽観的なのでその辺りは追々となっている。

 なので、目下の問題はこの世界と自分達との齟齬をどうにかすることであり。

 

「私とエクレシアは、一体どの女神に所属すればいいのだろうか」

「あ」

 

 アークプリーストとクルセイダーを名乗っているだけの現状を、どうにかすることである。

 ともあれ。元々聖女として生活していたドラグマのあれそれなどとうの昔に見限っている二人は、こちらの世界の女神のいずれかに所属する必要性があることに不満はない。ただ単によく知らない状態だったので保留していただけだ。

 

「別に一番メジャーなエリス教徒でいいんじゃない?」

 

 頬杖をつきながらキットがそう呟く。街での生活を見る限り、そこに所属したからといって身も心も捧げるなどというようなことには陥らないだろうと結論付けていたからだ。アルバスもその辺りは彼女と同じで、別に何でもいいだろうというスタンスである。

 

「しかし。街を歩いていると、時折エリス教徒は碌でもない連中だという話も聞こえてくるのだ」

「あ、それはわたしも聞きました。街の人は全然相手にせずに聞き流していて、まあ殆どの人がエリス教徒だって話ですし、それもそうかって思っちゃいましたけど」

「へー。何かきな臭くなってきた感じ?」

 

 ドラグマの例がある以上、そういう話題が出ているとどうしても疑ってしまう。まあいいかで所属した結果あの時の二の舞い、などということは避けたいからだ。

 

「とはいっても。そっちの騒いでる連中の方がろくでもないって可能性もあるんだろ?」

「それは勿論。アクシズ教徒の仕業だ、という話も出ていたから、お互いの信仰する女神の信徒が対立しているという可能性も十分ある」

「そうなると、エリス教もアクシズ教もちょっと問題ありって感じ?」

「一応、それ以外だと凄く細々と信仰されている女神がいるらしいんですけど」

 

 細々過ぎて実態がつかめない。そう続けると、エクレシアは溜息を吐いて唐揚げのおかわりを注文した。

 別に何でもいいんじゃないか、そう決められれば楽だ。この世界は向こうとは違う、そう考えることも出来る。それでも、やはり自分達の記憶が、経験が、踏み止まらせるのだ。

 

「知り合いに話が聞けるのが一番楽か」

 

 そうぼやくが、アルバスにはまだこの街で言うほど繋がりがあるわけではない。精々がギルドの職員くらいだ。キットはキットで少し伝手があるものの、この手の話題には全く役に立たないだろうと判断していた。

 そんな状態ではあったが、彼はそこでふとひらめいた。今この世界で一番繋がりのあるであろう人物達を思い出したのだ。冒険者を始められた恩人ともいえるべきパーティーのことを思い出したのだ。

 

「あの四人に聞いてみるのはどうだ?」

 

 

 

 

 

 

「あ? 何か用かよ」

 

 食事を終え、ギルド酒場に件の人物がいるのを見付けたアルバスはそちらに声を掛けた。が、その中の一人、くすんだ金髪の青年が不機嫌そうに言葉を返す。即座に横の少女にこらダスト、と叱られた。

 

「それで、どうしたの? お金ならこないだ返してもらったから」

「利子でもくれるのか? そりゃいいや、リーン、ほれ酒頼もうぜ」

「ダスト。いっつも借金踏み倒そうとしてるあんたが何言ってんのよ」

 

 思い当たる節を口にしつつ、これじゃないと言おうとしたリーンに向かい、ダストが笑みを浮かべながらそう述べる。ジロリと彼を睨みつけ、改めて、ともう一度こちらに来た理由を問い掛けた。

 そのタイミングで後ろにいたフルルドリスが口を挟む。実は少し聞きたいことがあるのだ、と彼女に言葉を続けた。

 

「え、うん。どうしたの? そんな改まって」

「いえ。実は私とエクレシアは今どこに所属しようか迷っていまして」

「……どこに所属するか?」

「女神エリスか女神アクアか、はたまたそれ以外の女神か」

 

 首を傾げたリーンに向かい、彼女はある程度真実をぼかしながら自分達がどこかの信徒ではないことを伝え、冒険者として行動するならばどこかに所属したほうがいいだろうと判断し今迷っているのだと伝える。普通はあまり聞かない彼女のその悩みに、リーンは頷きながらもどう答えたものかと頭を悩ませた。まあ普通に考えれば女神エリス一択である。だが、迷うということは何かしら言えない事情があるのだろうとも思い、そう簡単に言っていいものかと迷い。

 

「そんなもの、女神アクアのアクシズ教徒に決まっているでしょう!」

 

 背後からそんな声が聞こえたことで我に返った。おいアクア、と連れらしい少年が彼女を止めようとしているが、アクアと呼ばれた青髪の女性は聞いちゃいないとばかりにどんどんこちらに近付いてくる。

 

「そこのあなた! 誰を信仰するかなんて迷う必要はないの。アクシズ教徒になりなさい」

「っだぁ、バカ! いきなり関係ない人に絡みに行くなっての! はいごめんなさいね、すぐに片付けますから」

「ちょ、ちょっとカズマ! なぁんでよぉ! 私悪いことしてないでしょ! 迷える子羊を正しい道に誘ってあげようとしてただけよ! むしろ褒め称えるべきでしょう!? ほら、謝って! 流石は女神アクア様だって敬って!」

「やかましいわ! アホなこと言ってる暇があったら、少しでも稼ぐアイデアを絞り出せ。ただでさえ碌でもないのが増えて大変だってのに」

「カズマ。碌でもないというのはもしかして私達のことですか?」

「それは聞き捨てならないな。まあ、いい。続けてくれ、もっと強い言葉でいいぞ。いや、強い言葉にしてくれ」

「うるっせーよ中二病とドM! いいからさっさと戻る! はい、撤収!」

 

 アクアを掴み、乱入してきた魔法使いらしき小柄な少女と女騎士らしき金髪の美女を押し戻しながら、カズマはそう言ってその場から立ち去る。嵐のようなそれに反応できなかったアルバス達は、なんだったんだあれと説明を求めるようにリーン達を見た。

 が、彼女達もなんて説明していいのか分からないとばかりに頬を掻く。

 

「えっと。少し前に結成された冒険者パーティーなんだけど」

「全員上級職で、実力はかなりのもの。……の、はずなんだが」

 

 リーンの言葉に続けるように彼女の横にいたパーティーメンバーのテイラーが言葉を濁す。そしてそれを補足するように、同じくパーティーメンバーのキースが、あまり活躍してる話が出ないんだと述べた。

 

「誰かが足を引っ張ってんじゃねーか? あの職業が『冒険者』の冴えない奴とかな。俺だったらもっとこう、活躍させてやれるんだけど」

「いい加減なこと言わないの。大体ダストがあっちに混じったって、むしろ足手まといでしょ? 上級職の集まりなんだから」

「そんなわけあるか。冒険者が混じってんだから、それより上の俺が邪魔になるわけねーだろ」

 

 そう言いながら、ダストはアルバス達を見やる。そうしながら、そういやこいつらも同じようなパーティー構成だったな、と呟いた。

 

「なあ、あんたらなら分かるだろ。俺と向こうのあいつ、どっちが足手まといか」

「私としては、どちらも足手まといですが」

「バッサリ行ったー!」

 

 まったくもってお世辞も何も無いフルルドリスの言葉に、ダストは思わず動きを止め、リーンは大爆笑だ。テイラーやキースも同じである。

 そんな空気を作り出した彼女は、そこを気にすることなく、まあ、ですが、とダストを見た。

 

「単純な実力なら、現状は貴方の方が上でしょう」

「お、おう。いやそりゃ当たり前だけどな」

 

 見透かすような彼女の瞳に、ダストは思わずたじろぐ。言われずとも、今の自分は全盛期のあの頃と比べれば格段に弱い。得意武器を使っていないこともあるし、吹っ切れていないこともある。もっとも、眼の前の相手はそんなことなど知らないだろうが。心の中で毒づきながら、それで何の話してたんだったか、と彼は少々強引に話題を戻した。

 

「あ、そうでしたそうでした。えっと、今の人はアクシズ教の人なんですよね?」

「そうよ。……あんまり言いたくないけど、アクシズ教は止めておいたほうがいいと思うなぁ」

 

 エクレシアの疑問に答えたリーンは、先程の女性アクアが所属するアクシズ教について語る。それによると、強引な勧誘とエリス教徒への嫌がらせが特に目に付くが、それを除いても悪人ではなくとも善人ともいい難い何とも微妙な立ち位置らしい。

 

「それは、エリス教も同じなんじゃ」

「強引な勧誘、はしないかな。アクシズ教徒に反撃はしてるけど、それは向こうが先にやってきただけだから……んー、でも最近は何もしてなくてもアクシズ教徒だってだけで追い出したりは、してる感じ?」

「日頃の行いだろ。普段からちゃんとしてればそんなことにならなかったんだしな」

「あんたが言うと説得力が欠片もないわね」

 

 日頃の行いが終わっているのだろう。リーンの言葉と視線が普段のダストをしっかりと表現していたが、当の本人は言いがかりだと鼻で笑う。自分は常に真面目な冒険者なのだ、と。

 

「同類ってやつかー」

「よく分からんが、そうなのか」

 

 うんうんと頷くキットと首を傾げるアルバス。話題としては自分達はあまり関係がない、と傍観者になっていたものの、しかしこのままでは埒が明かないと彼女は横の少年に声を掛けた。どうする、と。

 

「どうすると言われても」

「まあとりあえずアクシズ教はあんまし評判良くないってことでいいと思うから、エリス教かそれ以外の小さいとこか、って感じじゃん?」

「そうなると、エリス教が手っ取り早いか……?」

 

 でも、とキットが顎に手を当てる。あの様子だと、エリス教徒になったらアクシズ教徒に絡まれそうだ、と。面倒なことが起きるのが半ば確定しているとなると、安牌だからという理由で選ぶのも問題がある。裏の顔がもしあった場合は、なおさら。

 そんな折である。女神エリスと女神アクアがそれぞれ何を司っているのか、という話題になっていたらしく、リーンがそれぞれの女神について説明をして。

 なら、とエクレシアとフルルドリスの意見が一致した。

 

「じゃあ、わたし達はアクシズ教に所属することにします」

「へ? な、何で!?」

 

 エクレシアの言葉に、リーンが素っ頓狂な声を上げた。今の流れで、何がどうなると女神アクアの方に傾くのだ、と。

 隣で見ていたダストも急な方向転換についていけず、何言ってんだこいつらという目で二人を見る。半ば野次馬であったテイラーやキースも同様で、突然洗脳でもされたのかと疑いの視線を向けていた。

 

「大した理由はありません。この国の常識に慣れていない私達にとって、アクシズ教徒だからという理由で切り抜けられそうだと思ったのが一つ」

 

 異世界から迷い込んだ自分達の常識がこちらの常識とかけ離れている場合を想定すると、あまり好ましくない手段ではあるが手っ取り早く問題を終わらせられそうだという打算が多少はある。エリス教徒でも責められることはないだろうが、そこまで信用しきれていない現状ではこちらにはリスクがあった。

 とはいえ、こちらはおまけだ。一番の理由は、女神アクアが司るもの。

 

「水の女神と幸運の女神ならば、私達は水の女神を取りますから」

 

 今ここにはいない、一人で水底の名を関する場所を守っている少女を。泣き虫だった彼女を。泣くことを止めた、止めさせられた彼女を。忘れないように、繋がっているように。再会して、今度は笑い合おうという一種の願掛けも込めて。

 

「水? って、そんな重要な要素なの?」

「はい。わたしに――わたしたちにとっては、凄く」

 

 彼女(エジル)と一緒に、楽しい冒険をしよう。そう、思わせてくれるから。

 迷いないエクレシアの言葉に、じゃあしょうがないね、とリーンは苦笑した。本人が望んでいるのだから、止める理由はない、と結論付けた。

 

「案外あの娘もどっかにいたりして」

「それはそれで問題だろ。氷水底どうするんだよ」

 

 氷水の仲間がいずれ生まれ変わるのだとしても、それまではあの場所を離れられない。そんな状態の彼女がここに来ていたとしたら。

 

「鉄獣戦線のみんなやスプリンガンズもいるし、まあなんとかなるっしょ」

「……なるか?」

 

 別の意味で苦労しそうだが。そんなことを思いながら、アルバスは入信書を貰いに行く二人の背中を追うのだった。

 

 

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