この素晴らしい世界に烙印を! 作:イヌタデ
異世界転生をした少年、カズマが空を飛ぶキャベツに驚いていた頃、アルバス達はクエストだからと特に気にすることなくぶちのめしていた。戦士族のハンバーガーがいるくらいなのだから、キャベツくらい飛ぶだろうというアルバスとエクレシアの言葉を聞き、そういうことならばと残り二人も受け入れたからである。
そんなわけで、普段のクエストと今回のキャベツ収穫により、一行はそれなりにまとまった資金を手に入れることが出来た。
「そろそろ拠点とか欲しくなるねー」
酒場の席で椅子をギコギコさせながらキットがそんなことを述べる。野宿に慣れているとはいえ、別に好き好んで外で寝ているわけではないので、そういう意味では彼女の意見には賛成できるのだが。
「足りるのか?」
「……さあ?」
そういうことである。アルバスの疑問に答えられるほどこちらの世界の事情に詳しくないので、キットとしてもそう述べるしかない。
かといって宿屋暮らしに変更しようと思うと、それはそれでお金がかかる。中途半端を選ぶよりは、外で寝るか拠点を手に入れるかの極端な方が良い。そういうわけだ。
ならばクエストを受け資金をさらに貯めようと思い立ったとして。ちらりとクエストの貼っていある掲示板を見て、そこに貼られている数の少なさに息を吐く。
「魔王軍幹部、でしたっけ?」
アルバスの視線に気付いたエクレシアがそんなことを述べる。そうらしいな、と返した彼は、仕事がなくなり手持ち無沙汰になっている冒険者たちを見て再度息を吐いた。残っているクエストの依頼は所謂塩漬けで、長い間受けられずに残りっぱなしになっているようなものしかない。
「請けようというのならば、別に私は構わないが」
「わたしも大丈夫ですよ」
「……そこまでして急ぐものでもないだろ」
「何々? アルバスってばあたしたちの心配しちゃってる?」
うりうり、と頬を突くキットを鬱陶しいと跳ね除けながら、しかし悪いかと彼は返した。彼女達の実力はこれ以上ないほど知っている。だからといって、必要のない危険を進むのは違う、そうアルバスは思っているのだ。
「別に私は問題ない。遅れを取る気もない」
「妖眼さん、そこは空気読んどこうよ」
心外だとばかりにそれに反論するフルルドリスを見て、キットが思わずツッコミを入れる。が、そんな彼女に、それこそ心外だと言わんばかりの視線を向けた。
「少年が心配するのは構わないし、私もそれを嬉しくは思う。だが、こちらの実力もきちんと信頼してもらいたいのだ」
「姉さま……」
「いや、それは……分かってるんだけど」
その結果最終的にデスピアに取り込まれてエライことになった人に言われると、ちょっと納得しかねるというか。そうなっても無理矢理自我を引っ張り出して敵の奥の手をぶっ飛ばした経緯を考えると、納得してしまうというか。
「まあとりあえず雑用でもやって、駄目だと思ったら塩漬け行けばいいんじゃない?」
へいへい、と手を叩きながらキットがそう提案する。否定する理由がないアルバスは彼女のその案に頷き、エクレシアもそうですねと同意したのでフルルドリスも首を縦に振った。冒険者の仕事はなくとも、ここは駆け出し冒険者の街アクセル。何かしらの仕事は溢れている。
それじゃあ、とフルルドリスは自分の出来る仕事を探しにギルドの職員のもとへ歩いていった。エクレシアもそれに続き、キットはちょっと伝手でも頼るかと別行動をする。そうして一人出遅れたアルバスは、微妙にバツの悪そうな表情で二人の後に続いていった。
「おいっす、元気にしてるか」
雑貨屋の手伝いをしていたアルバスの耳に、この数日で聞き慣れた声が届く。店の入口に目を向けると、くすんだ金髪のチンピラ冒険者がやってくるところであった。雑貨屋の店主はそんな彼を見て、あからさまに嫌そうな表情を浮かべる。
「げ、ダストかよ」
塩撒け塩、と声を荒げる店主に、アルバスは目をパチクリとさせる。何かそういう風習でもあるのだろうかと悩んでいる彼を見て、なんだどうした、と店主が声を掛けた。
「あ、いや。塩をどうすればいいんだ?」
「ん? そんなのあそこのバカにぶつけるに決まってんだろ。厄介な客を追い出すのに使うんだよ」
「そうなのか……」
「おいおいオッサン。遠いところから来た新人冒険者に妙なこと吹き込むんじゃねぇよ」
「どの口が抜かすんだお前は」
ふむふむ、と頷くアルバスにちらりと視線を送ったダストは、しかしすぐさま店主に向き直ると彼を煽り始めた。腐っても冒険者、雑貨屋の店主と比べると流石に迫力が違う。この間の商品が壊れていたから賠償金をよこせ、と詰め寄るダストに、壊れているものを無理矢理持っていっただけだろうと反撃をするものの、どうにも分が悪そうに後ずさる。
「ダスト」
「あぁ? なんだよお前、関係ないやつはすっこんでろ」
「いや、俺は一応ここの手伝いをしているから、関係がないわけじゃない」
「だとしても、だ。これは俺とこのオッサンの問題なんだから」
思わずアルバスは声を掛けるが、ダストのその言葉に若干言いくるめられそうになる。言われてみれば? と迷い始めた彼に、店主はそんなことはないから止めてくれと声を上げる。
「あ、おいオッサン。助っ人を呼ぶのは卑怯だろ」
「卑怯の塊みたいな奴が何言ってんだ」
「分かった。ダスト、止めてくれ」
「だから……ったく、お前な……卑怯なんだよ……」
「お?」
アルバスの言葉に苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ一歩下がるダストに、雑貨屋の店主は訝しげな表情を浮かべる。こいつが他人の、それも男の言う事を素直に聞いた。間違いなく驚愕する出来事であり、他の誰かに話しても信じられないような事態である。
「な、なあアルバス。お前さん、実は女の子だったりするのか?」
「は?」
「オッサン、血迷ったか?」
「いやお前が甘いってことは男じゃないだろ。……それともお前、まさか」
「ぶっ殺すぞテメェ!」
「ダスト!」
そういう趣味が、と言わんばかりの雑貨屋の店主にキレたダストの後頭部を、絶妙なタイミングでやってきたリーンが引っ叩く。
「いってぇ! なにすんだリーン!」
「なにすんだじゃないでしょ。あんた何やってんのよ。所構わず人に迷惑かけないと生きていけないわけ?」
「あぁ? 普段はともかく、今回は正当な怒りだ」
「ふーん。じゃあ、何がどう正当なのか言ってみなさいよ」
「ああ、よく聞けよ。このオッサン、言うに事欠いて俺が男好きだなんて言い出したんだぞ!」
ズビシィ、と雑貨屋の店主に指を突きつけながらそうのたまうダストを、リーンは非常に冷めた目で見ていた。ふーん、ともう一度興味なさげに相槌を打つと、何でそうなったのかと問い掛ける。ダストがそれについて答える前に、店主は聞いてくれよリーンちゃんと口を出した。
「こいつ、アルバスに甘いんだ」
「へ? あれ、アルバス。どうしたのこんなところで」
「仕事の手伝いだ」
「あー、最近冒険者の依頼ないもんね。流石だわ、このバカにも見習ってもらいたいくらい」
「俺は関係ねぇだろ」
はっ、とリーンの言葉を鼻で笑ったダストは、そんな面倒なことやってられんと言葉を続ける。そうしながら、シラけたと言わんばかりに踵を返した。
「あ、ちょ、ちょっとダスト」
「なんだよ。大人しく帰るんなら文句ねぇだろ」
「いやそうなんだけど……え、何? まさか本当にアルバスのこと……?」
「違うっつってんだろ! ……昔の、知り合いの関係だ」
実際に関係しているかは分からないが。そんなことを小さく続けながらダストはそのまま去っていく。待ちなさいよ、と追いかけるリーンを見ながら、店主は相変わらず苦労しているなぁ、と苦笑していた。
ちょっとしたトラブルはあったものの、そのまま雑貨屋の手伝いを終えたアルバスはもらった給金をカバンに入れて集合場所である酒場への道を歩いていた。魔王軍幹部の噂のせいで普段より割増になっている人の数を眺めながら、彼は昼間のダストの言葉を思い出す。
昔の知り合いに関係しているかもしれない。そう彼は言っていた。恐らく勘違いではあるのだろうが、そうさせるだけの理由が何かあるのだ。それも、他の三人ではなくアルバス限定で、だ。
「ドラゴン、か……?」
思えば、最初からその辺りに彼は反応していた気がする。そしてアルバス自身も、あの評判がどうしようもないチンピラ冒険者を、どこか信頼できるような気がしている。あの男は、ドラゴンには真摯であろうとする。そんな確信が。
「ん?」
思考の海から引き戻される。なんだかやけに騒がしい。そんなことを思いながら人混みを掻き分けると、何やら二人の少年が睨み合っているところであった。何かあったのだろうか、とその様子を観察していると、どこからかエクレシア、フルルドリス、キットの三人が集合してくる。どうやら彼女達も同じように酒場に行く途中騒ぎが気になって足を止めたらしい。
「何あれ?」
「俺に聞かれても。あっちにいるのは確か、カズマだったっけ」
「そうですね。アクシズ教の入信書を貰いに行ったパーティーのリーダーさんだったと思いますけど。って、あれ? アクアさん、どうしたんでしょうか」
「檻に入っていますね。……少年、この世界ではああいう趣味が流行っているということは――」
「流石にないだろ」
「妖眼さんってたまにぶっ飛んだ思考するよねー」
そんなことを言っている間に、カズマの対面にいた少年が剣を抜き放ち檻を叩き切る。借り物なんだぞ、と怒り叫ぶカズマに対し、少年はそれがどうしたと言わんばかりの態度であった。
そのまま口論はエスカレートする。基本的には対面の――ミツルギキョウヤというらしい少年がカズマのあれそれに文句を述べ、当の本人が知るかとばかりの反応をするというのが続く。そうして最後にはミツルギがカズマのパーティーメンバーをまとめて自分達の仲間にしようと言い出したあたりで空気が変わった。カズマのパーティーメンバーの全員がミツルギを睨み付け、しかし当の本人はそんな空気を読めていないのか自信満々で話を続けている。傍から見ていても色々マズいんじゃないかと思わせるそれは、野次馬もこれ止めたほうがいいんじゃないかとささやき始め。
「なら、僕と勝負だ。僕が勝ったらアクア様を譲ってもらおう。君が勝ったら何でも一つ言うことを聞こうじゃないか」
「よし乗った。じゃあ――」
「待ってください」
それを聞いていたエクレシアが二人の間に飛び込んだ。ぶふっ、とキットは彼女のその行動に吹き出し、アルバスは頭痛を堪えるように頭を押さえている。不意打ちをしようとしていたカズマは、乱入者に千載一遇のチャンスを潰されたことで非常に嫌そうな顔をしていた。
「やあお嬢さん。突然どうしたんですか?」
「こんな街中で暴れるのはやめてください」
一方、にこやかにエクレシアに対応をしたミツルギは、若干のジト目でこちらを見ている彼女の表情を見て動きを止めた。が、大丈夫ですよと即座に笑顔を向けて答える。
「彼と僕とではレベルが違う。まともに戦えば勝負になりませんよ。だから」
「……じゃあなんで勝負をしようとしたんですか」
エクレシアのジト目が強くなる。どこか自慢げに話を続けようとしたいたミツルギは、今度こそ動きを止め言葉も止めた。おう言ってやれ言ってやれ、とカズマはその後ろで無駄に勝ち誇っている。
「佐藤和真。どうして君がそんな態度を取っているんだ」
「え? だってその娘はアクアから入信書もらってアクシズ教徒になったんだぞ。ならパーティーメンバーである俺も繋がりがあると言っても過言じゃない」
「過言だ!」
「でも実際、どっちの味方してるかっていえば俺の味方だろ。なんなら聞いてもいいぞ」
そう言いながら、多分この娘がいるということはと彼は視線を巡らせる。アルバス達を見付けると、これみよがしに仲の良い相手のごとく手を振った。行動の意図を察した三人は非常に嫌そうな顔をしたが、エクレシアが向こうにいる以上無視はできない。渋々ながらあちらに合流することにした。
「なっ。佐藤和真! 卑怯だぞ、助っ人を呼ぶなんて」
「何言ってんのお前。いちゃもんつけてきたのはそっちだし、理不尽な言いがかりをつけてきたのもそっち」
「いちゃもんと理不尽な言いがかりは同じじゃないのか……?」
「細かいことは置いておいて。でまあ、さっきお前勝負するって言ったけど、別に一対一でなんて一言も言ってなかっただろ。ルール違反はしてないぞ」
「普通はそういうものだろう!?」
「普通? 普通ってなんだよ。人の借りてきた檻を勝手に壊して、人のパーティーメンバーの意思も無視して無理矢理そっちに組み入れようとすることか? 高レベルの魔剣持ちのソードマスター様が貧弱装備の冒険者相手に勝って当然のタイマン挑むことか?」
ここぞとばかりに責め立てるカズマは、そういうわけじゃないだのそれは屁理屈だろうだの言っているミツルギに、それなら、と彼の後ろにいる少女二人に視線を動かした。
「そっちもパーティーメンバーで来ればいいだろ?」
売り言葉に買い言葉。その発言を受け、彼の後ろにいた少女達――クレメアとフィオはやる気になる。キョウヤがいればあんたたちなんかに負けないんだからと自信満々に言い放った。
「……分かった。それで問題ないのなら」
「よし。じゃあ、頑張ってくれ」
一瞬迷ったミツルギであったが、しかし別に問題ないだろうと思い直した。仲間が加わったことでむしろ有利になったまである、と考えた。たとえ向こうのパーティーメンバーが、女神アクアが加わったとしても、自分の実力があれば問題はない。
そう思って了承するやいなや、カズマはアルバス達を前面に出して後退した。は、とミツルギが間抜けな声を上げるが、もうその時点でミツルギ達とアルバス達の対決の構図が出来上がっている。
「ちょ、ちょっとカズマ。それは流石に問題じゃないですか!?」
「向こうはアクアを俺の賭けの対象にした。ってことはアクアを俺のものとして扱ってるってことだ。で、あの二人はアクアが直々に任命したアクシズ教徒。広義的に言えば俺の戦力として数えても問題ないだろ」
「大有りだ……まったく、お前というやつは……」
「そうよそうよ。私の可愛いアクシズ教徒の新人を変なことに使うんじゃないわよ!」
じゃあ始めるか、と宣言したカズマに物言いである。それも味方側から。めぐみんもダクネスも、当事者でもあるアクアですらこの言い方。勿論カズマはそこでたじろぐこともなく、お前達のために全力を尽くしているだけだと言い放った。
「あんなやつのパーティーには入りたくないんだろ? なら、俺は俺の全戦力であいつを叩きのめす。変なプライドなんか捨ててな」
「……なによ。カズマのくせに何かかっこいいじゃない」
「格好いい、のか?」
「微妙じゃないですかね」
ともあれ、ある意味当事者であるアクアが丸め込まれたのならばもうしょうがない。はぁ、と溜息を吐いたダクネスとめぐみんは、アルバス達へと声を掛けた。本当にいいんですか、と。
「……いいのかと言われても」
「何か気付いたら巻き込まれてる感じだし」
アルバスとキットはそんな返事である。まあそりゃそうだろう、と納得した二人は、じゃあ残りはと視線を向けた。
「別に私は構いませんよ。勘を取り戻す修練にもなりますし」
「アクアさんにはお世話になりましたから、このくらい平気です」
「……どうして、こんな人達がアクシズ教に」
「ダクネス。そこはもう諦めましょう」
ほら見ろ大丈夫だろう、と勝ち誇るカズマを一発どついてから、二人はもういいと引き下がった。話もついたので、暴れても大丈夫な場所にそのまま移動する。
城門まで野次馬込みでゾロゾロと大移動を終えると、では始めようかとミツルギは自身の剣を構えた。それに合わせ、彼の仲間もそれぞれ戦士と盗賊の武器を構える。
「なあ、ミツルギ、だったか? こっちの方が人数が多いけど」
「ああ、問題ありませんよ。僕にとっては、丁度いいハンデです」
そうして対峙した際に。アルバスはそんなことを問い掛けたが、対するミツルギはそうのたまった。自分達が勝つのだと微塵も疑わず、そう述べた。
それが彼女にとってかなりの挑発になることも知らずに、である。
「……そうか」
「……じゃいっかー」
アルバスとキットが一歩下がる。それじゃあ自分達は向こうの仲間を相手しておく、と横の人物に告げた。
「エクレシア」
「はい?」
「貴女も向こうで構いません。私が、あの少年を叩きのめしますので」
「それはいいんですけど。あの、姉さま……。それ、武器が耐えきれないと思います」
「おっと」
ドラグマと相剣、ついでにデスピアの三つの属性を纏った剣が悲鳴を上げていたのをエクレシアの言葉で気付き、フルルドリスは出力をギリギリまで下げる。それでも普通の剣では無茶な強化であり、この勝負が終わったら駄目になるであろうことが窺えた。
ちなみに、恐らく普通の人間にそれで攻撃すると凄惨な結果になるであろう。誰も止めないが。
ストーリー的にも、最初にアルバスを虫でも落とすようにワンパンして砂漠でゴルゴンダとついでにアルバスをワンパンしてラストバトルでも気力だけで復活してラスボスをぶちのめす人
無敵かこのシスコン