この素晴らしい世界に烙印を! 作:イヌタデ
光属性レベル8 魔法使い族・効果 攻2500 守2500
(1):このカードはルール上「ドラグマ」「相剣」「デスピア」カードとしても扱う。
以下略
勝負は、雷撃のごとく激しいその一発で消し炭になることで終わった。フルルドリスの剣が、である。ミツルギは無事だ。少なくとも体は、だが。
「ふう……久方ぶりの全力開放とはいかなかったが」
刀身どころか全てが消失した剣を一瞥し、フルルドリスは前を見る。茫然自失になったミツルギが尻餅をついているのを確認し、さてどうしましょうかと顎に手を当てた。自分の武器は消滅した。対して向こうは未だ装備は健在。この場合の勝敗はどうなるのか。
「少年」
「ん?」
「ああ、アルバスの方ではない。カズマ君、これはどう判定すればいいのでしょうか」
「いや判定も何も、姐さんの勝ちだと思うぞ」
思ったよりやべー攻撃を目の当たりにしたおかげで、カズマの中でこの人は機嫌を損ねてはいけない人物だという判定になったらしい。若干引きながら、しかし現状こちらの味方であることに打算をしつつ、同じくポカンとした表情のまま棒立ちになったミツルギの仲間へと声を掛けた。まだ続けるか、と。
その声で我に返ったその二人は、彼に向かって卑怯だと猛抗議をした。
「卑怯? 一体これのどこが卑怯なんだ?」
「全部に決まってるでしょ! 正々堂々勝負しなさいよ!」
「今のが正々堂々じゃないなら何が正々堂々なのか教えて欲しいくらいだが」
全く悪びれる様子もなければ開き直っている感じでもない。彼女達の抗議にさも当たり前のようにカズマはそう述べた。ちなみにめぐみんとダクネスはいやどう考えてもお前は正々堂々じゃないだろうとツッコミを入れている。
「ほら、あんたの仲間だってそう言ってるじゃない。ちゃんとあんたが勝負しなさいよ!」
「それなら、レベルと職業を俺と同じにして装備も同じにするんだよな?」
「はぁ? 何言ってんのよ、バカじゃない?」
「そっちこそ何言ってんだよ。チートアイテム使ってレベル上げてソードマスターになってる奴とレベルの上がってない冒険者が大したことのない装備でそのまま戦うのが正々堂々なわけないだろ」
この娘も似たようなことを言っていた、と急にエクレシアに話を振る。はぇ、と間抜けな声を出した彼女は、しかし一応聞いてはいたので確かにそうかも知れませんねと頷いた。
「……な、なら、あんたも装備を整えるなりなんなりすればいいでしょ」
「おう、そうだな。だから俺は助っ人を呼んだわけだ。よし、認めてもらったんで、正々堂々俺の勝ちだ」
少々強引ともいえる勢いで話を纏める。うわぁ、という表情をしているめぐみんを、ダクネスはまあ言っている事自体は間違っていないからと宥めていた。
「ねえカズマさん? 別にいいけど、あんたの手柄はこれっぽっちもないわよ? 大活躍したのはこの私、女神アクアの信徒たるアクシズ教徒の騎士なんだから。ほらほら、私の大手柄ってことで、今日はしゅわしゅわを奢ってくれてもいいわよ」
「……一杯だけだぞ」
「やったー! カズマってばそこはかとなくいい感じよ!」
一方ノリノリのアクアはそんな会話をしながらカズマとハイタッチ。そうした後、それでこの人どうするのと問い掛けた。
「ああ、そうだな。一応俺達が勝ったってことで、檻の弁償と迷惑料頂いておくか」
呆然としているミツルギの荷物からお金を巻き上げると、後はついでにと彼の取り落とした魔剣を手に取った。
「はっ。ま、待て佐藤和真! 僕の魔剣をどうする気だ!」
「戦利品として頂いていくけど。ん? でもこれなんか使いにくいな。売って金にするか」
「それならば私に売ってもらえないか?」
「妖眼さん!?」
あまりにもなやり取りだったので傍観者になっていたアルバス達の中で、一人マイペースだったフルルドリスがそんなことを述べる。何言ってんのこいつみたいな目で彼女を見るキットのことなど気にすることなく、手持ちはこのくらいだが融通はきくかと価格交渉に入っていた。
「エクレシア、妖眼さんってあんなキャラだったっけ?」
「姉さまは良くも悪くも真っ直ぐですよ」
「あれを真っ直ぐと言っていいのか……?」
持ち主の眼の前で売買交渉をする二人を見ながら、アルバスは疲れたように溜息を吐いた。
尚、魔剣の売買については、再び我に返ったミツルギがフルルドリスに交渉を持ちかけ、別の剣を用立てることで手打ちとなった。
そんな事件を経て、アルバス一行は一躍街の有名人となった。ミツルギはここベルゼルグ王国でも腕利きの勇者候補でドラゴンをも倒した実績持ちだったらしく、その名声は留まることを知らない。そんな存在であった彼がワンパンされたことで、巷ではドラゴンスレイヤースレイヤーなどというわけの分からない呼び名もあるとかないとか。
実際彼女はドラゴンもドラゴンを倒したやつもぶっ倒している経験持ちなので、間違いではないのがあれなところである。
「で? そんな有名人が俺に何の用だ?」
ギルド酒場。その対面で不機嫌そうに座っているのはダストだ。呼び出されたとはいえ、奢りで酒を飲める機会ならば逃さない彼がこんなにも嫌そうな顔をする理由は、恐らくアクセルの街の住人には――パーティーメンバーのリーン達ですら分からないだろう。
ちなみに呼び出したアルバス達もよく分かっていない。
「用、というか。なあ、あんた、ドラゴンに関係する何かを持っていないか?」
そんなわけで、呼び出した中心人物であるアルバスはド直球で尋ねた。が、何も前置きなくそんなことをぶっこまれたところで、ダストはほいほいと話すような人物ではないわけで。
当然のごとく惚けられた。何言ってんのか分からん、と返された。
「何で俺がドラゴンと関係してなきゃいけねぇんだよ。確かに駆け出し冒険者の街アクセルの冒険者を仕切っているのは何を隠そうこの俺ダストだが、それとこれとは話が別だ」
「仕切ってるようには見えないんだけどなー」
「何か言ったか猫ガキ」
「べっつにー」
明らかに疑いの目でダストを見やるキットを一瞥し、彼はまあそういうわけだからと話を打ち切る態勢に入った。席は立たない。酒はきっちり奢ってもらうつもりらしい。既に一杯飲んでいるので、二杯目をご所望である。
「でも確かに、あんたからはドラゴンの気配を感じるんだ」
「……しつけーぞ」
「白くて、あんたを慕ってる。心配もしているし、出来ることなら会いに――」
「しつけーっつってんだろうが!」
バン、と机を叩き、そのまま乗り上げて対面のアルバスの胸ぐらを掴む。が、彼はそれでも動じることなく真っ直ぐにダストの目を見ていた。
舌打ちを一つ。手を離すと、どかりと席に座り込んだ。そうしながら、服の下に隠してあったペンダントを取り出すと、これで文句ないかと吐き捨てる。白い竜、ホワイトドラゴンの鱗で出来たペンダントは、彼を護るようにきらめいていた。
「やっぱり」
「だから勘違いだ。俺はそんなんじゃない」
どこか自嘲気味にダストは述べる。ドラゴンに関係しているなんて、今の自分には口が裂けても言えない。あの日、彼女の手を取らなかった時から、自分はチンピラ冒険者ダストになったのだから。口にはせずに、己のことを再度呟き。ペンダントを誰にも見られないように仕舞うと、これ以上話すことはないとばかりに二杯目の酒に口をつけた。
「……確かに、一方的に秘密を聞き出そうとするのは失礼でしたね」
そんな二人のやり取りを黙って聞いていたエクレシアがそう告げる。ちなみに黙っていた理由は食べていたからである。ダストもさることながら、アルバスでさえその状態でシリアスめな空気出されてもという表情を浮かべていた。
それはともかく。成程確かに彼女の言うことには一理あると彼は思った。秘密を聞き出すのだから、こちらもある程度の対価は用意するべきである。そういうわけだ。
一応言っておくが、酒は奢っている。流石のダストも、これで釣り合うと判断するほど考えなしではなかっただけだ。
「だから勘違いだって言ってんだろ。いくら言われても何も出てこねぇよ」
そう述べるダストの表情には嘘がないように見える。かと言われれば、普段の彼を知っている、あるいはチンピラ冒険者だという話しか知らない者たちならば是と答えるだろう。だが、アルバス達はそのどちらでもない。どう考えても何か隠しているだろうと言わんばかりの態度だと結論付けた。そして同時に、答えられない、答えたくない問題なのだということも理解した。
「少年。あまり他人の過去を深掘りしすぎるな」
「……そういうものか?」
「そういうものだ。まあ、その手の常識に疎いのは仕方ないか。少年は記憶をなくしたドラゴンなのだからな」
「はぁ!?」
何の気なしに口にしたそれに、思わずダストが反応した。お前やっぱりそうなのかよ、そんなことをポロリと口にした彼は、そこでしまったと口を手で塞ぐ。
「やはり、アルバスの正体に気付いていたのですね」
「カマかけたのかよ……。真面目天然系パワーねえちゃんかと思えば、そういう搦め手もいける口か」
ぐぬぬと歯噛みするダストに、フルルドリスは微笑で答える。ねえこれたまたまじゃないよね、と小声でエクレシアに尋ねたキットだが、だって姉さまはドラグマの聖女でしたからという返事を聞いてどう反応すればいいか迷った。彼女の知っているフルルドリス以外の聖女は敵であったあれそれを除けば眼の前の腹ペコのみである。サンプルが圧倒的に足りない。
「じゃあ、やっぱりあんたは」
「だからこれ以上聞かれても俺は何も話す気はねぇっての。俺はダスト、この街のチンピラ冒険者だ。他には何も」
「あ、やっぱりそのチンピラ冒険者っていうのはわざとだったんですね」
「……やりにくいな、この二人」
「一応聖女やってたから、らしいよ」
今度は、合点がいったとばかりのエクレシアの言葉でダストの表情はさらに苦いものになる。キットの諦めたような返しに、彼は嫌そうな目を彼女に向けた。
はぁ、とダストは溜息を吐く。ギルド酒場で、ダストの話をまともに取り合うような冒険者はいない。これまで彼が築いてきたある意味信頼の証ともいえるそれを盾に、それで何が目的だと問い掛けた。
「……目的?」
「ざけんな」
気になったから聞いただけ、で人の過去を深掘りするんじゃねぇと割と真面目にダストはキレた。その怒りで彼の言いたかったことを理解したアルバスは、違うそういうことじゃないと慌てて弁明する。
「俺はただ、ここの世界のドラゴンと交流してみたかったんだ。記憶の答えにはならなくても、きっかけになるかもしれないと思って」
「……チッ」
座り直したダストは、相変わらず不機嫌そうな表情のままで。そういうことなら協力は出来ないと言い放った。
「俺はもうその手のもんとは関係を断った。期待には添えねぇぞ」
「そのペンダントは、ずっと繋がってるみたいだけど」
「……だとしても、だ」
ひょっとしたら、今頃は人化出来るようになったのかもしれないかつての相棒を思い浮かべ、どこか遠い目をしながらダストは呟く。フェイトフォーは、まだ自分と繋がっているのか。アルバスの言葉でほんの少しだけ自信を取り戻した彼は、吹っ切れるでもなく断ち切るでもなく、どことなく受け入れる素振りを見せながら苦笑した。
「話は終わりか? まあ酒の奢り分くらいは役に立っただろ? じゃあ俺は行くぞ、こちとら金がないんでな。楽して稼げるシノギを探さなきゃいけねぇんだよ」
立ち上がり、手をひらひらとさせる。そんなダストに向かい、お金が必要なのですかとフルルドリスが問い掛けた。それがどうしたと問い返した彼に、それならば丁度いいとギルドのクエストボードを指差す。
「私達と共に依頼を受けませんか? 取り分は多くしますよ」
現在、魔王軍幹部が来ているので碌なクエストがない。なのでやることは必然的に高難易度になる。勿論駆け出し冒険者にこなせるようなものではない。
が、アルバス達はそれを受けた。この程度ならば問題ありませんと言い放ったフルルドリスの一声で決まったそれは、グリフォンとマンティコアの縄張り争いの解決。
「……あー、クソが」
目的地に向かいながら、ダストはクエストを受付に持っていった時の光景を思い出していた。受注者になることでギルドからの支払いを彼宛てに出来るというやり取りだったが、あの何とも言えない職員の顔は流石のダストも居心地が悪かった。
ついでに、ああこいつとうとう頭イカれたんだという冒険者達の表情がムカついた。アルバス達が同行者であることを知った後のこの寄生野郎がという罵倒で倍ムカついた。
「ダストさん、ってそんな言われるほど弱くないと思うんですけど」
純粋な疑問とばかりにエクレシアが首を傾げる。アルバスもそれに同意して、どうしてなんだと彼に問いかけていた。どうしてもこうしても評判だろうというキットのぼやきは流された。
「剣を使っているからでしょう」
そんな中、一人先頭を歩くフルルドリスが振り向かずそう述べる。彼女のそれでさらに首を傾げる二人から視線を前に向けたダストは、思い切り聞こえるように盛大に舌打ちをした。
「おいねーちゃんよ、余計なこと言わないようにするんじゃなかったのかよ」
「ん? ああ失礼、それも隠し事だったのですね」
振り向き、謝罪する。悪意のないそれに毒気を抜かれたのか、ダストはこの面々と関わるようになってから何度目か分からない溜息を吐いた。苦労人になったねー、というキットの呟きに反応して即座に睨み付けていたが。
そんなこんなで目的地である街から少し行ったところにある山岳地帯に到着する。ここで縄張り争いをしている二体のモンスターを討伐するのが今回のクエストだ。
「なあ、本当にいけるのか?」
「問題ありません。こちらから攻めるのであれば、私は一体を除き現状存在できる全てのグリフォンとマンティコアに勝てますし、件の相手も相打ちです」
「ちょっと何言ってるか分かんない」
とりあえず自信満々だということは分かった。そしてその強さを彼女の仲間が微塵も疑っていないのも分かった。となれば、ダストとしてはやることは一つである。
おんぶにだっこ、完全人任せで報酬だけかすめ取る、である。
「この中で一番関わりがないあたしだから言うけど、それ堂々と言えるの凄いよ」
「そっちから持ちかけた話に乗っかってんのに、文句言われる筋合いはねぇだろ」
「……まあ、それもそうか」
ダストの返事に思わず納得してしまったキットは、今回は自分も見学組だろうしとケラケラ笑う。自分の能力を最大限活かすには、この世界には足りないものが多すぎるのだ。
「あー、何か機械のパーツとか機動兵器とか落ちてないかなー」
「すげぇこと言ってるなこの猫娘」
彼女のそれに該当するとしたら、恐らく機動要塞デストロイヤーかそれを作った国の兵器群だろうが、そんなものがアクセルにあったら大惨事である。よぎった不安を振り払いながら、ダストはこいつらとの関わりは早まったかもしれないなどと思い始め。
「っ!?」
突如頭上に現れた巨大な影に思わず息を呑んだ。グリフォン、巨大な鳥と獣の混ざった高レベルのモンスターであり、今のダストでは逆立ちしても勝てるわけがない相手。そしてそこから少し離れた場所には、共倒れを狙っているのか、マンティコアがニタニタと笑いながらヤッチマエと人が理解できる言語を話している。
「では、遠慮なく」
「ハ?」
その声に反応し一足飛びで間合いを詰めたフルルドリスが、新調した剣にドラグマと相剣の属性を込めて振り下ろした。まともな見せ場を作ることもなく、至極あっさりと真っ二つにされたマンティコアを一瞥すると、彼女は残ったグリフォンへと向き直り。
「……帰ったらクレームを入れるか」
「言ってる場合かよ! おいねーちゃん! こいつどうすんだ!」
やはり一撃で木っ端微塵になった剣を見ながらフルルドリスはそうぼやいた。当然ダストが叫ぶ。期待していた戦力が即座に使い物にならなくなったのだ。解決方法はいくらでもあるので街に戻れば改善できるものの、現状では一発撃ったらそれで終わりのどこぞの爆裂娘とどっこいどっこいでしかない。
「素手はあまり好きではないが、まあ」
「いいからさっさっと――っておい、後ろ!」
とっさに振り向き、迫るサソリの尾を蹴り飛ばす。どうやらマンティコアは番だったようで、先程真っ二つにしたものとは別個体が仇であるフルルドリスを睨み付けていた。
剣であれば再度一撃で沈められるが、拳では少し手間がかかる。小さく舌打ちをした彼女は、仕方ないと振り向くことなく仲間たちに声を掛けた。元々そのつもりだったとばかりに、エクレシアも、キットも、そしてアルバスもそれに頷き言葉を返す。
「信頼してんだな。うちんとことは大違いだ」
「自分で信頼損ねることやってんじゃ?」
「うるせぇよ猫ガキ」
グリフォンから距離を取る。それで一体どうするつもりだとダストが問い掛けると、アルバスがまあダストはもう知っているからいいだろうと頷いた。何を言っているか分からないダストの横で、キットはなるほどなるほどと理解し彼を引っ張りさらに距離を取る。
「エクレシア」
「はいっ。アルバスくんに、力を!」
アルバスの差し出した手を、エクレシアが掴む。しっかりと繋がれたそこから光が溢れ、ぐるりと何かが混ざり合うような空間が生み出される。
そして、光が収まったそこにはエクレシアと、彼女に寄り添う巨大な竜。
「アル、バス……お前! ホワイトドラゴンだったのかよ!」
ダストにとっては馴染み深い、そして未だ繋がっているかつての相棒を呼び起こす純白の竜。彼女以外にはもう存在しないと言われていた、白い竜。
「行きますよアルバスくん。いえ、真炎竜アルビオン!」
「グルァァァァ!」
アルバスと共にグリフォンへと突撃しそのまま粉砕するエクレシアは、騎士とは言わずとも、竜と姫などという形容は当てはまっていそうで。
そんな姿が、白い竜に乗り、空を駆ける乙女の姿が。
「フェイトフォー……リオノール姫……」
彼にどう映ったのかは、彼にしか分からない。