ブルーベリー学園のコート、リーグ部の生徒たちが見守る中チャレンジャーとトレーナーがぶつかり合う。
お互いの手持ちは残り2匹。俺の場合は、正確には1匹と一人と言った方がいいかもしれない。
ボールを投げ、ポケモンを繰り出すおさげの少女。
「お願い、オーガポン!」
『ぽにおー!(いくよー!)』
ギリギリと歯を食いしばる。幼き日の思い出。母を人間に奪われたことが鮮明に思い出された。憎しみと怒りで頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。いつだって特異な存在である俺たちを畏怖せず、快く受け入れ世話だってしてくれた人。相談にも乗ってくれた。お祭りだってたまに来てくれた。喉の奥から血が吹き出そうなほどに声を張り上げ、心の業火に薪をくべる。
「よくもさ、おばさんさ、出せたよな!今...ここで!!」
あの時お前と出会わなければ、もっと穏やかでいられただろう。
走馬灯のように今までの出来事がフラッシュバックする。
夜闇はこんなにも暗いのに、吐き気がするほどのまぶしさが脳裏を焦がした。
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今から10年前のある時、滅多に見ることのできないような寒波や雪が山を襲った。ろくに食べ物が見つからず、姉ちゃんと俺の二人で飢えていたところを、偶然通りがかった人間に保護される。それが今のじーちゃんとばーちゃん。冬の寒い空の下、消え入りそうな意識の中、なんとか声をかけ命の灯が消えない様にと尽くしてくれた姿が心を満たしてくれたのを思い出す。
最初は警戒していた姉弟だったけど、重たい体をなんとか動かして俺たちを世話してくれている姿に胸をうたれ、徐々に心を許していった。ほどなくして、俺たち姉弟に身よりも名前もないことを知ると、哀れに思ったのか預かり、名前までくれた。ちょうど家に飾ってあった花の名前からとり、俺はスグリ、そして姉ちゃんはゼイユという名前を付けてくれた。
感謝してもしきれないというのはこのことだろう。
両親の記憶はない。臭いものにふたをしているかのように全くと言っていいほど思い出されないし、姉ちゃんに聞いても教えてくれない。
ただ、俺が普通の人間と違う存在であるというのは生まれたころからよく知っている。
キュウコンという煉獄を表したかのような神秘的なポケモンと人とのハーフ。それが俺たちの正体。
最初にこのことをじーちゃんやばーちゃんに伝えた時は大層驚かれたが、今では慣れっこ。縁側でよく毛繕いをしてもらっている。運悪く、俺の変化が解かれてしまったときに村の人たちに見られてしまったが、姉ちゃんが事情を話すとこれまた哀れに思い、村で生活することを快く受け入れてくれた。
人間はもっと恐ろしいものだと思っていたけど、関わってみれば案外いいやつだ。
俺たちに良くしてくれたのは村の人たちや育ての親だけじゃない。山に住むオーガポンっていうポケモンも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。拾われてからそこまで時間がたっていなかったころ、暗闇に包まれた山の中をこの身一つで駆けまわっていたら、足がもつれケガを負った。そんな俺を木陰で見ていたのか、薬草で治療してくれたのが今のオーガポンおばさん。それ以来山で過ごす彼女に良く会いに行っている。おばさんって呼ぶと怒られるけど、でもそれ以外のことは基本許してくれる。大人に反対されるので会うことは少ないけど、俺も姉ちゃんもあの人のことは好きだ。
ポケモンで言うならガチグマのおじさんも同じだ。機嫌が悪いときは口も悪く、小突かれることもあるけど。でも相談にはちゃんと乗ってくれるし、たまにおいしい木の実を譲ってくれる。
『学校に通ってみないか?』
俺たちが村で過ごしてから数年が経過したころ、突然じーちゃんがそんなことを言ってきた。どうにも俺たちが人間社会を知らな過ぎて奇怪な行動をとっていて、一度人間社会を知るためにも通ってみなさいとのこと。なんでも新設されたバトルに特化しているブルーベリー学園というところが、こことは違う都会の地方にあるとのこと。俺は当然賛成、姉ちゃんは賛成6の反対4といった具合だった。入れる年齢というものが決まっているらしく、姉ちゃんから入学し、様子や行動を見て俺も入学ということに。
都会の生活で困りごとも多かったらしいけど、1年も経つ頃には友達とのツーショっと写真が送られてきた。
人間の友達が欲しい。もっと強くなりたい。そんな思いを胸にそこから2年ほど過ごした後、待ちに待った学園生活。だけど知らないことだらけ。村の人とは違う匂い、違う体格の人たち囲まれていたせいで、うまくなじめなかった。極めつけには
「スグリ、今雪に顔うずめなかった?」
「なんか耳と尻尾出てなかった?」
「火に手を突っ込んでたけど熱くないの?」
などなど、なぜバレないのかわからないほどボロがでてしまっている。姉ちゃんが田舎暮らしという言葉の一点張りでどうにか誤魔化してくれていたが、今でも申し訳ないと思う。
友達もできず、バトルも弱く、勉強はやっとの思いでついて行っている。
何をやってもダメダメな自分。
そんな自分に辟易していたころ、とある動画と出会う。こことは違う地方の都会で暮らす少女。
その子がジム...だったかに挑戦する動画。懸命に戦うおさげの少女がとても眩しい。
あのこのように自分も強くなれたら、なんて。
.......
.....
...
嫌な記憶を引っ張り出してしまった。
ここまで吐き気がするのはいつぶりだろう。自分に初めて技マシンを使った時か、タウリンなんかをガブ飲みした時か。
いずれにせよ、そんなくだらない憧れは終わりを迎える。
ジャージの上を掘り投げ、コートの中へと入る。審判が慌てて注意に入るが、そんなことは知らない。俺の手で、こいつを倒す。リーグ部とかそんなものはもうどうだっていい。
弱い自分を終わらせるためだろうか。それともおばさんを取り戻すためだろうか。もう自分でもどんな理由があってのものかわからない。
だがただひたすらに怒りの炎が燃え上がる。
「おい、聞いているのか!バトル中の侵入はルール違反に」
「黙れよ」
ギロリと睨みつけると、辺りに火花が散る。俺の視線に恐怖をなしたのか、審判がたじろいだ。周りが動揺の声をあげる。自分の体が変化していくことがわかる。俺の肉体が変異していくにつれて、周囲の気温が上がっていく。
手足をみると黒い毛並みとそれに纏われる青い炎。ばーちゃんが言うには赤いよりも青い方が温度は高いらしい。調度いい、邪魔なものは全部燃やし尽くせる。
「いい加減倒れてよ、ありったけぶつけてんのに...!」
俺の体が完全にキュウコンへと変化した。信じられないといった視線と、姉ちゃんの青くなった顔が視界の中に入る。もしかしたら一生恨まれるかもしれない。でも、今はこのありったけの憎悪をこいつにぶつけたいんだ。