オルフェ「その血塗られた手で私の手を取れ」   作:とうゆき

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オルフェ「その血塗られた手で私の手を取れ」

 

 

 

 

 部下であるアグネス・ギーベンラートとのいざこざが起きた後、恋人であるラクス・クラインを追ってミレニアムを降りたキラ・ヤマトは月光に照らされたイシュタリアの湖岸でファウンデーション宰相オルフェ・ラム・タオと遭遇する。

 

 キラはオルフェに悪い感情を抱いている訳ではない。

 歓談の場でラクスとダンスをした事に内心面白くないものを感じはしたが、彼の立場を鑑みればコンパスの総裁であるラクスとの親密さを演出する必要性は理解出来る。

 

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 だが一刻も早くラクスを見つけて話し合わなければならないこの瞬間に呼び止められてしまうと面倒だという気持ちが沸き上がるのを抑えられない。

 

「すみません、また後日に……」

 

 非礼だと思いながらも横を通りすぎようとしたキラだったが、直後に投げかけられたオルフェの言葉によって足がその場に縫い付けられる。

 

「デュランダル議長の代わりに世界を導ける自信はあるのかな、キラ・ヤマト」

「──」

 

 心臓が一際強く脈打つ。それなのに手足から血の気が引くのを感じつつキラは横にいるオルフェの方を向く。

 彼は昼間の柔和で親しみを感じさせる様相とは一変。冷たい瞳でキラを見つめていた。

 

「何……を……」

「メサイア攻防戦から一年。世界からは未だ争いが絶える事はない。コンパスとして世界中を飛び回っている君もこう思っているのではないかな。やはりデュランダル議長のデスティニープランが正しかったのではないか、と」

 

 即座に否定するべきだった。デュランダルを殺し、彼が提示した未来を拒絶したキラにとっては反論する事は義務であるとさえ言える。

 だが出来ない。彼自身、心のどこかで苦しみを伴う自由より閉塞した平和の方が良いのではと考えてしまうから。

 苦渋の表情を浮かべるキラ。その一方でオルフェから先程までの冷徹さが消える。

 

「だが君の気持も分かる。私も人類の愚かさを見誤っていた」

「え……?」

「コンパスの諸君は口々にファウンデーションを平和で豊かな国だと讃えていたがそんなものは仮初だよ。君達が来る前に国政に不満を持つ市民を徹底的に弾圧したからね」

 

 オルフェは優しく穏やかな声色で不穏な事を口にする。その目には怒りが灯っていた。

 

「世界を覆う二度に渡る戦乱、エイプリル・フール・クライシスやブレイク・ザ・ワールドによる災禍、ユーラシア連邦の圧政……その全てからこの地を救った! にもかかわらず恩知らずな民は多少扱いが悪くなった程度で反抗する。ファウンデーションでこれなのだから未だ戦火が燻る地域での人心の荒廃は察するに余りある。能力以上の対価を望むナチュラルも新人類だと驕り高ぶったコーディネイターも等しく愚昧! 口で言っても聞かないなら武力で抑え込むしかない、デュランダル議長のように」

「力による支配なんて誰も望んでない!」

 

 デスティニープランの有効性に心を動かされているキラであったが、敵対する者を滅ぼし各国を恫喝したデュランダルの行為には明確に否定を叩きつけられる。

 

「支配しなかった結果がオルドリン自治区の惨状じゃないのか?」

「それは……!」

 

 ブルーコスモスに蹂躙されたオルドリン自治区の被害は記憶に新しい。復讐心に突き動かされ、撤退するブルーコスモスの背後を襲おうとするオルドリン守備軍の姿も。

 

「私の仲間になれ、キラ・ヤマト。デュランダル議長は君に討たれた。ならば君がこちらに付けば私を阻むものはない。議長の遺志を継ぎ、デスティニープランによって世界を導こう!」

 

 大仰に告げ、オルフェはキラに手を差し出す。

 彼の覇気に気圧されそうになったキラだがふとした疑問が浮かぶ。他者を見下して蔑むオルフェが何故世界を導こうとするのか。

 正義感? 野心? 英雄願望?

 様々な可能性を連想するがどれも違う気がした。

 

「人が嫌いなのになんで導くなんて言うんだ!?」

 

 オルフェには優れた才能がある筈だ。政治家以外の道でも大成出来るような。

 自分と違い、立場を捨てて個人の幸せを追求出来るだろうに。それをしない理由はなんなのか。

 

「──っ」

 

 キラの問いかけにオルフェは目を見開き口角を上げる。

 それは狂気を孕んだゾッとする笑みだった。

 

「君が私にそれを問うのか、キラ・ヤマト。いや、キラ・ヒビキ」

「え……」

 

 オルフェの口から漏れた名前にキラは絶句するしかない。

 

「ああ、ラクスが知らないのだから君もそうか。つれないな、同郷だというのに」

「まさか……君もメンデルで?」

 

 返答はない。しかしオルフェの狂笑が肯定の意を雄弁に語る。

 

「私の血肉は名前さえ与えられなかった数多の兄弟の屍で出来ている。美しい容姿、頑強な肉体、明晰な頭脳、人智を超越した異能……そんな()()()()()()()()と引き換えに私は生まれながらの大罪人なんだ!」

 

 それは、血を吐くような叫びだった。

 

「こんな人でなしがどうして幸せを謳歌出来る!? 生きる事が能わなかった彼らに償う事は出来ない。ならばせめてその犠牲が無意味でなかったと証明する為にこの身を世界に捧げるしかないだろ!?」

「──」

 

 キラの前にいるのは一国を立て直した名政治家でも世界を我が物にしようとする独裁者でもない。「世界を導く」という使命や役割に縛られたただの人間だった。

 

 それが分かれば彼の言動にも納得がいく。

 本質的には過去の犠牲しか意識していないので今を生きる人間への武力行使に躊躇いがない。死ぬ人間と救われる人間を数字でしか認識せず、後者が多いならそれで良しと考えている。

 

 生まれによって役割を決定するデスティニープランを既に体現しているのだからその導入に抵抗がない。

 あるいは、自分の辛さを他人にも共有してほしいのかもしれない。

 

 そしてそんなオルフェの姿はキラにとって他人事とは思えない。

 自分は両親に愛されて育ち、友人に恵まれた。皆が大事だから彼らが住む世界を傷つけようとするものと戦う事が出来た。

 

 けれど人の縁に助けられないまま出生を知れば、虚無的で機械的な贖罪に人生を費やしたかもしれない。

 オルフェは今の世界に大事なものを見つけられなかった自身のあり得た姿だ。

 

 不意に察する。

 彼が自分を味方に引き込もうとするのは戦力目当てではない。近しい境遇で苦悩を分かち合える理解者を欲したのだ。

 

「もう一度言う。その血塗られた手で私の手を取れ、キラ・ヒビキ」

 

 故にキラの行動は決まった。

 

「いつかは、そうする。でも今じゃない」

「……残念だ」

 

 か細い声で呟くとオルフェは踵を返す。

 自分に世界を救う力はないのかもしれないし、そう考える事そのものが傲慢なのかもしれない。

 それでも、人知れず苦しむただ一人は救いたい。去っていくオルフェの背中を見つめながらキラは強く願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




虚無的で機械的な贖罪=その場その場で「これ世の為になるんじゃない?」と思いついた事を実行する、なんかこう「ふわっ」とした感じの贖罪。

このオルフェは「ラクスのパートナー」という「役割」を煩わしいと感じているのでアウラが見ている場所以外で接触する事はありません。
あと好き好んで「役割」に収まったミーアの事は多分嫌い。
一方でなんにでもなれる才能を与えられながら生まれ持った業に振り回されてるキラは好き。

レクイエムの照準はモスクワではなく軍事拠点。良心ではなく世論を踏まえた動き。なので核はそのまま。でも「闇に堕ちろ、キラ・ヤマト──」はないかも。
アウラは適当な所で「冗談はよすのじゃ」「意外と母上も甘いようで」パァン される。

色んな偶然が重なるとイングリットがプラウドディフェンダーに乗る未来もあるかもしれない。




自ブログにも掲載しています。

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