フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE100 メンデルにて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 娘─────?

 

 身体を強張らせながら、キラは心の中でクルーゼが発した一言を反芻した。

 

「ここは、禁断の聖域─────神を気取った、愚か者達の夢の跡…」

 

 さっきからこの男は何を言っているのか。彼の言っている事は常軌を逸して聞こえる。

 

 ただの口から出任せか─────そう断じようとしたキラは、クルーゼが続けた言葉に今度こそ愕然とする。

 

「君は知っているのかな?今のご両親が、君の本当の親ではないという事を」

 

「え…っ!?」

 

 身を凍らせたキラの横で、ムウが呻く。

 

「貴様、何を…っ!」

 

 反論は銃声にかき消された。それと同時にキラはハッと我に返り、銃を掲げてクルーゼを狙う。

 

 クルーゼは無造作にキラの正面に立ったままだ。今撃てば、銃を使い慣れていないキラでも容易く当てられる。

 

 だというのに、引き金に掛けた指は凍り付いたかの様に動けない。

 

「だろうな…。知っていれば、そんな風に育つ筈もない。…何の影もない。そんな、普通の子供に─────」

 

 まるで、キラを羨んでいるかの様な、そんな風にも聞こえた。

 

 しかしそれを気にしている余裕などキラにはなかった。

 

 本当の親ではない─────。温和な父としっかり者の母の顔が、脳裏を過る。

 

 違う、そんな筈はない。自分は母のお腹から生まれ落ち、笑顔に包まれ、時に叱られながらも愛されて育てられてきたという自覚がある。

 

 キラの脳裏には、様々な父と母の表情が次々に過っていく。

 笑った顔、怒った顔、悲しむ顔、十六年という時を二人と共に過ごしてきた。本当の子供じゃない相手に、あんな顔が果たして向けられるのか?

 

 だが─────キラの視線の端に、あの写真が飛び込む。

 慈愛に満ちた微笑みで、抱きあげた二人の赤ん坊を見守る若い女性─────その写真の裏に書かれた、キラとカガリの名前。

 

 もしもこの人の話が本当だとしたら、自分の本当の母親は─────。

 

 この男は真実を知っているのだろうか。自分とカガリの出生の秘密を。そして、あの写真の女性が誰なのかを。

 だとしたら…、そう。キラは真実を知りたいと思ってしまった。

 

「ユウとアスランから名を聞いた時は、思いもしなかったがな。君が、彼女だとは…。何せ、てっきり死んだものと思っていたからな。あの双子─────特に君はね」

 

 双子、彼が口にしたこの一言がキラとカガリ─────写真に写る二人の赤ん坊の事だと聞き返すまでもなく分かった。

 

「その生みの親であるヒビキ博士と共に、当時ブルーコスモスの最大の標的だったのだからな…」

 

「な、にを…」

 

 キラの喉から擦れた声が漏れる。自身の言葉にキラが怯えている事など、当のクルーゼ本人にはとっくに伝わっている筈だ。

 しかし彼は、それを楽しむように話し続ける。

 

「だが君は生き延び、成長した。戦火に身を投じながらも、皮肉にもフラガの血筋を引く者に守られながら存在し続けている。─────フフフッ、まるで運命が君を、死なせまいとしている様ではないか」

 

 クルーゼの声に熱が籠っていく。笑みの形に唇を裂きながら、彼は謳い上げる様にして言葉を紡いでいく。

 

「私の様な者でも、つい信じたくなってしまうな。彼らが見た、狂気の夢を…!」

 

「私がっ…私が何だって言うんですか!貴方は何を言っているの!?」

 

 堪り兼ねてキラは激しく問い返した。

 

 生みの親、最大の標的─────クルーゼの言葉を聞いていると、まるで自分が存在すべきでない者の様な、そんな風にすら思えて来てしまう。

 

「君は、人類の夢…最高のコーディネイター…」

 

 紡がれた言葉を彩る華やかな意味とは裏腹に、クルーゼは嘲るように冷たい口調で言う。

 

「そんな願いの下に開発された、ヒビキ博士の人工子宮─────それによって生み出された、彼の娘。失敗に終わった兄弟達─────数多の犠牲の果てに創り上げられた、唯一の成功体。それが、君だ」

 

「きょうだい─────ぎせい…?」

 

 残忍な笑みを浮かべるクルーゼの顔など、最早キラの目には入らなかった。

 

 この建物に入ってからここへ至るまでの道のりを思い返す。

 途中、冷却槽に浸かった装置が並ぶ部屋を通ったのを思い出す。装置の上部にはモニターがあり、そこに映し出された胎児のようなもの。

 

 人工子宮─────あれが?ならば、あれが─────自分を生み出した?

 

 兄弟?失敗?あの部屋を通った時に見た、胎児の標本─────つまり、あれは。

 物の様に並べられたあれが、自分の兄弟…もしかしたら自分も、あの内の一つだったかもしれない。

 

 ドッドッ、と心臓が跳ねる。全身から冷たい汗が噴き出す。身体はこれ以上なくキラの内心の混乱を発しているのに対し、思考だけは何故かこんな時に正常に巡り、その果てに結論を導き出してしまう。

 

 人類の夢、最高のコーディネイター、創り上げられた─────

 

「君もまた、ムウと同じく大切に想われている様だな。それとも、罪悪感からかな?ユウが話さなかったのは」

 

「─────」

 

 また、だ。この男はまたユウの名前を口にした。

 ムウを追い掛けて来る途中で、二人が交わした言葉の中で何度かユウの名前を耳にした。ユウがこの場所について知っているという、クルーゼの言葉も。

 

「ユウが、何なんですか…。ここで行われていた研究と、私と─────ユウと何の関係があるんですか!」

 

 ソファの陰から微かにムウが身を乗り出す。視線をクルーゼの方を向けながら、次に続く彼の言葉に耳を傾けていた。

 

「直接関係はない、が─────無関係ではない。無関係とは言わせない」

 

 急にクルーゼの声から色と温度が消えていく。

 聞いているだけで身震いする程の、冷たい怒りが込められた声はキラとムウの体を小さく震わせた。

 

「っ、キラ!」

 

 気付いた時にはキラは床に突き飛ばされていた。

 途中、銃声が鳴り響き、残響が未だ響く中で先に置き上がったムウに身体を引き起こされ、腕を引かれながら走り出す。

 

 後方からクルーゼが銃声を響かせながら追ってくる。途中、ムウが何発か撃ち返しながら、奥にあった階段を駆け下りていく。

 

「あの野郎…!おいキラ、奴の与太話に呑まれるなよ!」

 

「でも…、あの人の話が本当なら、ユウは─────」

 

「あんなふざけた話を真に受けるなって言ってるんだ。それより、早くここから逃げるぞ…!」

 

 与太話、ふざけた話─────クルーゼが語る言葉をそう片付けるムウだが、それらの言葉はまるで自分に言い聞かせているかのようだった。

 

 キラ自身、ムウと似たような心持でいる。自分の出生の事もそうだが、何よりそれにユウが関わっている─────そうでなくとも知っている等、信じられないし、信じたくもない。

 

 だってそうではないか。クルーゼの話が本当なのだとしたら、ユウはキラの事を初めから知っていたという事になる。

 ヘリオポリスでキラが初めて彼を見たあの時から、ユウはキラを知っている事を隠して初対面を演じ、自分と関わり続けていた等─────それではまるで、これまでの全てが仕組まれていたかのようではないか。

 

 嫌だ。嘘だ。絶対に信じない。

 

 クルーゼの話は全て余りに突拍子がなく、常軌を逸している。

 

 真実の筈がない─────キラもまた、ムウと同じだった。

 心の中でそうではない、そうである筈がないと、自分に言い聞かせるかのように何度も繰り返す。

 

 そんなキラの逃避を決して許すまいと、狂気の真実の足音が背後からゆっくりと近付いてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルとバスターが地表に降下する。それを見届けてからミゲルはハッチを開いてシートから立ち上がり、外へ出る。

 

 ─────銃を向けずに話をしよう。

 

 ミゲルは心の底からそのつもりで、イザークとディアッカに話し合いを持ち掛けた。銃はコックピットに置いて来たし、騙し討ちで二人を無理やり連れて行こうなどとも微塵も考えていない。

 

 本当に、ただ二人と話がしたくて、だから大地に降り立った機体から二人が降りて来たのを見たミゲルは、心の底から喜びを抱いていた。

 どういう真意を抱いていようとも、少なくとも二人は自分と同じ話し合いという土俵に立ってくれたのだと分かったから。

 

 だから─────

 

「銃を向けずに、等…敵のそんな言葉を信じる程、俺は甘くない!」

 

 ディアッカから一歩先に出て歩み寄って来たイザークが銃を構えても、ミゲルは動揺一つしなかった。

 

 何しろ、彼が本気で自分を撃つ気であるのなら、わざわざ地表へ降りずにモビルスーツに乗ったままビームライフルを一射撃てばそれで済む話なのだから。

 

 後方ではディアッカが苦笑いを浮かべながらやれやれ、といった様相で肩を竦めている。

 

「俺は、お前の敵か?」

 

「っ─────敵となったのは、貴様の方だろうがっ!」

 

 ミゲルに問い掛けられ、イザークは銃を握る手を震わせながらやり切れない様子で声を荒げる。

 

「俺はお前の敵になった覚えはねぇよ」

 

「ふざけるなッ!この裏切り者がぁっ!」

 

「おい、落ち着けイザーク!」

 

 ミゲルからの反論に対し、イザークが更にヒートアップしたのを見てディアッカが二人の間に割って入る。

 

 イザークの肩に手を置きながら、ディアッカはゆっくりとミゲルの方へと振り向いた。

 

「ミゲル。イザークじゃねぇけどよ、俺達の敵じゃないってのは筋が通らねぇだろ。その機体に乗ってるって事は─────そういう事なんじゃねぇのか?」

 

 鋭くも冷たい、ディアッカの目に睨まれる。

 

 そんな彼の視線にもミゲルは臆した様子はおくびも見せず、小さく横へ頭を振ってから口を開いた。

 

「俺は地球軍に入ったつもりはねぇし、プラントを裏切ったつもりもない」

 

「き、さまっ…!」

 

「けど─────ただ、ナチュラルを…」

 

 ただでさえ気が短いイザークが限界を迎えようとするのを遮って、ミゲルは言葉を紡ごうとする。

 

 ゆっくりと、自分の中で言いたい事を整理しながら、続く自身の言葉に耳を傾けようとする二人へ思いの丈をぶつけていく。

 

「黙って軍の命令に従って、ただナチュラルを全滅させる為に戦う気も、もうないんだよ」

 

「─────」

 

 怒りに歪んでいたイザークの表情が収められ、ディアッカと共に驚愕と衝撃に満ちたものへと変わる。

 

 銃を握るイザークの手が少し下がり、目を伏せながら何かを思い返している。

 

 ディアッカも同じだ。二人共、心当たりはあるのか。プラントの中で、或いはミゲルが捕虜となって以降に加わった戦場で何かを見たのか。

 

「…俺達はよ、何も考えずにこれまで戦ってきたよな」

 

「ミゲル…」

 

 小さく笑みを零しながら、ミゲルが口を開く。

 不意に発せられたミゲルの声に、イザークとディアッカが顔を上げた。

 

「ナチュラルを、俺達コーディネイターとは違うモノとして見て、見下して─────けどよ、捕虜になって、あの艦に乗ってる奴らを見て…気付いたんだよ。俺達コーディネイターとアイツ等ナチュラル─────違う所なんてない、同じ人間なんだってな」

 

 少なくとも、仲間を想って流した涙は、コーディネイターもナチュラルも違うものなんて何もなかった。

 

「だから…ナチュラルを殺すのを止めて、俺達を殺す事にしたというのか!?」

 

「違ぇよ」

 

 絞り出すように喚くイザークへ頭を振りながら、ミゲルは短く答えた後に更に続ける。

 

「俺達はそういうの全部、止めさせようと思ったんだ。ラクス・クライン、バルトフェルド隊長─────エターナルに乗ってるコーディネイター達も同じだ。ナチュラルがコーディネイターを、コーディネイターがナチュラルを、皆殺しにするのを防ぐ為に、皆集まったんだ」

 

 二人の表情が唖然としたものになる。

 

「けどよミゲル、たった四隻の戦艦で何が出来るってんだよ…?」

 

「さぁな。それは分からねぇけどよ…、何も出来ないって言って諦めたら、もっと何も出来ないだろ?」

 

「っ…!」

 

 ディアッカの言う通り、高々四隻の戦艦を持ち出して、それで果たして何が出来るというのか─────それは分からない。もしかしたら、何も成し遂げられず志半ばで死ぬ事だってあるかもしれない。

 

 しかし、それは諦める理由にはならない。少なくとも、ミゲルにとっては。

 

「…さっきのフリーダムのパイロット、居ただろ。あいつ、ストライクの元パイロットでさ」

 

「なっ…!」

 

「マジか…?」

 

 不意なミゲルからのカミングアウトに、もう何度目か分からない驚愕を露にするイザークとディアッカ。

 

 二人が驚きから立ち直るのを待たず、ミゲルは続けていく。

 

「あいつもコーディネイターさ。アスランとは、ガキの頃からの友達だってよ」

 

「「─────」」

 

 今度こそ二人は言葉を失った。目を見開き、息を呑み、硬直から先に立ち直ったのはイザークだった。

 

「知らずに…殺し合っていたというのか…?」

 

「いや。最初から気付いてたんだとよ。敵機に乗ってるのが友達だって」

 

「そんな─────バカなッ!!?」

 

 激しく頭を振って叫ぶイザーク。

 ディアッカも痛ましい何かを見るかのように表情を歪ませながら口を開いた。

 

「なら、何で…俺達の所に来なかったんだ?アスランと友達だったんなら、何で戦う事になったんだよ!だって─────あいつは…」

 

 ストライクとイージス、キラとアスラン、二人の戦いの果てはこの場に居る三人共に知っている。

 

 雷鳴が響く群島の一つで、一方は自爆を選択するまでの狂おしい死闘。

 あの戦いを演じたのが、昔からの友人同士─────そしてあの死闘を終えて尚、二人は対立する陣営同士に居る。

 

 フリーダムとジャスティス─────オノゴロでの戦闘で、この二機が激突した事もまた二人はすでに周知していた。

 

「なら、あいつは─────友達を殺す覚悟で、軍に居るってのか…?」

 

「…」

 

 オノゴロでの戦闘で、キラがアスランと交わした会話をミゲルは聞いている。そしてその会話を知らずとも、今のアスランがどういう覚悟を抱き、軍に属しているのかを二人は知っているのだろう。

 

 だからこそ辿り着く未来予想図─────どうしようもなくすれ違い続ける友同士は、必ずどこかでもまた望まぬ衝突をするのだと。

 

「…俺はもう、ザフトに戻れない。アラスカやパナマやオーブを見て、あいつらを見て─────上の命令通りに戦うなんて事はもう、出来ねぇんだよ」

 

「ミゲル…!」

 

 葛藤しているのが手に取る様に分かる。ミゲルがどう言い繕おうとも、目の前の二人から見て自身は裏切者だ。自分がどれだけそんなつもりはないのだと説明しても、立場は決して覆らない。

 

 ならば軍人として二人は何をすべきか─────決まっている。ミゲルを撃てばいいのだ。

 裏切り者を撃つ。それは軍人として当然の行為であり、軍人としての価値観は相手を撃つ事を求めている。しかしその価値観こそが間違っていると言われた二人は躊躇い、手を止めている。

 

 イザークの銃を握る手が震えている。ディアッカは俯き、歯を食い縛ったまま動かない。

 

 属する軍に大義があると信じて、戦い続けて来た二人。しかし、その大義を仲間だと信じていた相手から間違っていると突きつけられ、揺らいだ答えを定める事が出来ないまま動けないでいる。

 

 そんな二人を黙って見守っていた時だった。ミゲル達の頭上を猛スピードで巨大な影が通り過ぎていったのは。

 

「ゼノス…!?」

 

 ミゲルが頭上を仰ぎ、遠く離れた地平に見えるポツンと聳える建物へと向かっていくゼノスを、驚きが混じった視線で見送る。

 

 ゼノス、つまりユウ─────何故ここに来たのか。自分達の様子を見に行けと命じられたのか。

 いや、恐らくそれはない。ミゲル達の戦力は限られている。むしろ、迂闊に戦力は割けないと判断する方が自然だろう。

 

 確か、フリーダムもストライクの支援の為にあの方向へ向かった筈だ。つまり今、キラ、ムウが居る方へとユウは急いでいる。

 二人の支援に向かっているんだろうが…、限られている戦力を押してまで何故?大切な恋人と兄が気掛かりだったのか?だが、短い間ではあるがユウと関わっていて、()()()()()()()は定まっている様に思える。

 

 ─────どうしたってんだよ、ユウ…?

 

 一体どうしたのか、向こうで何かが起こっているのか。

 

 分からないが、今のミゲルがすべき事はあちらの様子を気にする事ではない。目の前の仲間達に、自分の言葉をぶつける─────その為に二人にわざわざ話し合いの土俵へと降りて貰ったのだから。

 

 あっという間に離れていくゼノスから視線を切るミゲル。しかし、その心の中で燻り始めた得体の知れない胸騒ぎだけは、どうしても払えないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アスラン君、何か知らんけど哀れまれる。今はともかく、過去のこいつはただのストーカーだよ三人とも?
後になって知られたら絶対にアスラン君脳天ぶっ叩かれるね(笑)

クルーゼの暴露は次回へ続きます。おや?何やらもう一人乱入者が…?
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