フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE101 秘要

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メンデル宇宙港のドックでは、補給作業が急ピッチで進められていた。

 アークエンジェル、ドミニオン、クサナギ共に大きな被弾こそ受けていないが、攻め込んで来た地球軍艦隊を撃退するのに多くの弾薬を消費した。

 各艦からのクルーが総出で作業に掛かる。ナチュラルの整備士達が熟練した手つきで道具を扱う横で、工学に詳しいコーディネイター達がより効率的な方法を提案する。

 

 ナチュラルとコーディネイターが手を取り合う─────限定的かつ小規模でこそあるが、ユウ達が理想とする風景がそこにはあった。

 

『マユラ機、戻ります!』

 

 他三隻の補給作業が進む中、こちらも急ピッチでの最終調整が続くエターナルの艦橋で、ラクスは偵察から戻って来たアストレイからの通信を耳にした。

 

『ナスカ級が三隻!反対側の港口、デブリの陰にいます!』

 

 マユラからの報告に、通信回線をリンクさせていた四隻の艦長達は険しい表情になった。

 

「ナスカ級三隻とは、また豪勢だな」

 

 バルトフェルドが飄々とした口調で言うが、その表情は流石に硬い。その言葉に同意するように、ナタルもまた硬い表情で頷き、マリューが重々しく溜息を吐いた。

 

 ナスカ級は高速艦で、逃げ切るのは難しい。正面からぶつかるなら、こちらが四隻で数の上では優位に立てるが─────地球軍艦隊の存在も考慮に入れなければならない。

 

『地球軍は?』

 

『依然、動きはありません!』

 

 キサカとオペレーターのやり取りが聞こえてくる。恐らく、ザフト艦の出方を窺っているか、或いは援軍の到着を待っているか。

 

「フラガ達が何か情報を持ち帰ってくれるか…くそ!誰の隊だ?」

 

 彼らが気に掛かるのは何も外の敵対勢力についてだけではない。

 コロニー内部へ行ったきり帰って来ないキラとムウ。そして─────つい先程、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の事も気に掛かる。

 

『クルーゼ隊です』

 

 バルトフェルドの自問に対して答えたのは、マリューだった。

 

 それを聞いた他の艦の者達が一斉に不審な顔になるが、アークエンジェルの面々、そして彼らと旅路を共にしたナタルだけが、彼女の言葉を妙に納得したような顔で聞いていた。

 

『何故だかは、自分でもよく分からないという事だけど─────ムウには分かるのよ。ラウ・ル・クルーゼの存在が…』

 

 マリューだけでなく、アークエンジェルに乗る者達は皆、ムウの奇妙な感覚を目の当たりにする機会がしばしばあった。

 ヘリオポリスを出てからG四機を率いて追って来た部隊を、ムウは初めからラウ・ル・クルーゼの隊であると言明し、現にそれは正しいものだった。

 だが地上に降りてからの追っ手はそうではないと言ったかと思えば、後になってカナードに確かめた所それも正しかった。

 

『…艦長。もしかしたらユウも、ムウさんと同じだったんじゃありませんか?そのクルーゼって人の存在を感じて、キラ達の事が心配になったんじゃ…』

 

 マリューの言葉を聞いて反応したのはトールだった。

 

 決してあり得ない話ではない。ムウがクルーゼの存在を感じるというのならば、彼の弟であるユウが同じような感覚を抱いたとしても不思議じゃない。

 

「…()()()()()()()()()()。ユウはそう言っていましたわ」

 

 ずっと彼らの話を黙って聞くだけだったラクスが、初めて口を開いた。

 

 ラクスが口にしたのは、ゼノスに乗り込んで無理やり発進したユウが最後に言い残した一言だった。

 

「さっぱり分からんな。とにかく、あいつらについては信じて待つしかあるまい」

 

 地球軍とザフト、正に前門の虎と後門の狼─────現状これ以上割ける戦力もなく、彼らに出来るのは今バルトフェルドが言った通り、信じて待つ。これに尽きた。

 

 ─────ユウ。

 

 現状の方針が一先ずの所で定まる中、ラクスの脳裏にはとある記憶とその時に経験した感覚が呼び起こされていた。

 

 温かく優しい光が、底知れぬ闇に呑み込まれていく─────人質として囚われたラクスはユウとキラの手で解放され、その後に起きた戦闘でユウとクルーゼは激突した。

 二人の死闘を目にした訳ではない。ただ、あの時の胸騒ぎをラクスは今でも鮮明に思い出せる。

 

 闇に呑まれた光が、そのまま二度と生きて戻って来れない─────スピリットを仕留める事が出来ず撤退してきたクルーゼのシグーを見るまで、そんな予感をどうしても拭えなかったあの時。

 今のラクスは、あの時と似た感覚を抱いていた。

 

『ごめん。だけど、行かなきゃいけないんだ。どうあがいても、向き合う事からは逃げられない─────フラガの後継者としての義務だから』

 

 ラクスのみならず、マリュー、ナタル、バルトフェルド─────色々な人達の制止を振り切って、ユウはコロニー内部へと、キラ達を追って行ってしまった。

 

 ─────貴方は一体、何を抱えているのですか?それは、わたくし達にも言えない何かなのですか…?

 

 ラクスは二度、ユウの記憶を覗いた事がある。一度目は初めて出会った時、二度目は怪我をしてプラントへ運ばれた後に意識を取り戻した時。

 

 しかしそのどちらもユウの心の奥底を垣間見る事は叶わなかった。一度目は主にユウが持つ、()()()()()()()()()()()()()()()。二度目は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの時の感覚を思い出す。一度目は何が起きたか分からないまま、あっという間にユウとの共鳴の感覚が通り過ぎていった。今となっては、あの時に視た映像の殆どを記憶に呼び起こす事が出来なくなってしまった。

 だが、二度目は違う。ユウは気付いていなかったようだが、ラクスはあの時、()()()()()()()()()()()()()()()()()を感じ取ろうと試みていた。

 

 一度目と二度目の共鳴、そのどちらにも共有する事があった。ユウから流れ込んで来たたくさんの()()─────その中から、彼の心の内をどうしても感じ取れなかったのだ。

 一度目の共鳴で見たのは、()()()()()()()()()であった以上、そうなるのも当然なのだが引っ掛かるのは二度目。ユウが何をしていた、何を言っていた、それらを視る事は出来ても、その胸中で何を思って行動していたのか、話していたのか、それらを読み取る事が出来なかったのだ。

 

 まるで、ユウの内面に深く潜り込もうとするラクス()()するかのように─────

 

 ─────わたくしは…、わたくし達は、もっと知りたい。教えて欲しい。貴方の事を愛しているから…、だから。

 

 帰ってきたら聞いてみたい。

 

 フラガの後継者の義務とは何なのか。ラウ・ル・クルーゼと、どんな因縁があるのか。何故、ユウが居ない世界の記憶なんて持っているのか。

 

 どうして、ラクスとキラを愛していると言いながら、線を引き、境を越えようとするのを拒絶するのか。

 

 ラクス・クラインはユウ・ラ・フラガを愛している。

 愛する人の全てを知りたいと願うのは、果たして傲慢なのだろうか─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『僕は、ボクの秘密を今明かそう』」

 

 階段を降りて来る足音と共に、芝居がかった言葉が響き渡る。

 

「『僕は、人の自然そのままに、この世界に生まれた者ではない』」

 

 それは誰もが一度は耳にした事のある台詞─────世界で初めて遺伝子操作を受けて産まれた男、ジョージ・グレンのあまりに有名な言葉だ。

 

 施設内の階段を駆け下り、その先でデスクの陰に身を潜めた二人は近付いてくるクルーゼの気配を感じながら、声一つ上げられず身動きがとれないでいた。

 

「受精卵の段階で、人為的な遺伝子操作を受けて産まれた者─────人類最初のコーディネイター、ジョージ・グレン。奴の齎した混乱は、その後どこまでその闇を広げたと思う?」

 

 キラとムウが視線を向ける先でパッ、と照明が灯る。

 

「あれから人は、一体何を始めてしまったのか、知っているのかね?」

 

 一つ一つ照明が、奥の方から順番に明るくなっていく。やがて二人の頭上でも明かりが灯ってから、クルーゼは更に言葉を畳み掛けていく。

 

「人はより多くを求めた。自らの遺伝子を受け継ぐ者に、自らが達し得なかった高みへ至って欲しいと願いを込めて─────」

 

 あらゆる容姿、あらゆる才能、それら全て金次第で自分の─────正確には、自分の子供のものとなる。

 

 しかし、上手くいくばかりではなかった。

 母胎の影響による欠陥、母胎との不適合、早産、流産─────人であるが故の不安定、エラー。それらはあって然るべきものだ。

 人である限り、生き物である限り、絶対というものは存在しない。

 

 だが人はそうは考えない。

 

「高い金を出して買った夢だ…。誰だって叶えたい、誰だって壊したくはなかろう」

 

 それらを解決する方法を考え付いた者が居た。

 常時安定した環境を自らの手で作り出し、そこで胎児を培養すればいい─────そうして生きている母胎という最大の不確定要素をクリアしようとしたのだ。

 

「だから挑むのか!それが夢と望まれて、叶える為に!?」

 

 その者の名はユーレン・ヒビキ─────あらゆる意味において、キラを生み出した親だった。

 

 彼は気の遠くなるような無数の実験を繰り返し、遂に自身と妻の受精卵を手に最後の試みに出た。自らの遺伝子を受け継ぐ者を、最高のコーディネイターとして生み出そうとした。

 

 二つの卵子の一つを妻の胎内に残した事は、実験に反対する彼女へのせめてもの思い遣りか。人が人として生まれ出る事を是とせず、人である事を脱却しようとした男の中にもまだ、辛うじて妻への愛が残っていたのかもしれない。

 

 しかし─────果たしてそれが本当の幸せになり得るだろうか?

 

 最高のコーディネイター?全てにおいて完璧な人間?では、完璧になれば人は幸せになれるのか?

 

 あんな冷たい機械の中から生まれた子供がそれを知り、幸せだと感じるだろうか。屍の山から生み出された命が、それら全てと引きあうものだろうか。

 

「知りたがり、欲しがり、やがてそれが何の為だったかも忘れ、命を大事と言いながら弄び殺し合う!何を知ったとて、何を手にしたとて変わらない!─────最高だな、ヒトは」

 

 冷静な表情とは裏腹に、息を上げ、髪の先から汗の雫を飛ばしながら笑うクルーゼの言葉を聞きながら、キラは自問する。

 

 よりよきものをと人は望み、遺伝子操作という技術を手に入れた。しかしその結果、何が生まれたというのか?

 

 新たな偏見、差別、対立─────その果てに起こったのは争いだ。妬み、憎み、殺し合う─────いつ果てるとも知れない今の争いは、濃く、深く、渦巻く闇を広げながら際限なく広がっている。

 

 それが人々の幸せの為だった事を忘れ、踏み躙り、いつの間にかかつての人達の願いは失われていた。

 

「ほざくなっ!貴様如きが、偉そうに!」

 

 柱の陰から叫び返しながら、ムウが飛び出す。

 

 彼が放った銃弾は、首を傾けたクルーゼの髪を掠める。

 

 クルーゼは一瞬、()()()()表情を歪めたかと思えば、銃口を上へ向けて吊り下げられた巨大な照明を撃ち落とした。

 

 けたたましい衝撃音を響利かせながら、破片が周囲に飛び散る。

 

「私にはあるのだよ!この宇宙でただ一人、全ての人類を裁く権利がな!」

 

「っ!?」

 

 茫然自失の中で自問自答していたキラが、ようやく我に返りそちらを見遣る。

 

「ふざけるな、コノ野郎!」

 

「いきり立つな、ムウ。君達が望む話を聞かせてやろうと言っているのだ」

 

「なんだと?」

 

 ()()()─────クルーゼが言うソレが何なのか、咄嗟に察したムウの勢いが止まる。

 

「フフ…。覚えていないかな、ムウ。私と君は遠い過去、まだ戦場で出会う前…ユウもまだ生まれていない頃だ。一度だけ会った事があるのだよ」

 

「なっ─────!」

 

 ムウが怪訝そうに柱の陰から乗り出すのが見える。

 キラも同じだった。奇妙な感覚で繋がれている二人が、昔に出会った事がある─────()()()

 

 クルーゼが度々ユウの名前を口にした理由、そしてこの男とユウの関係が一体何なのか。それらを語る上で最も重要な、始まりの言葉を彼は高らかに告げた。

 

「私は、己の死すら金で買えると思い上がった愚か者─────貴様らの父、アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンなのだからな」

 

 予想だにしなかった言葉にムウが絶句する。キラも愕然としながら二人の男を見比べた。

 

 クローン。それはつまり、クルーゼがムウの父親の遺伝子を用いて生み出された、謂わば分身という事だ。

 

「クローン、だと…!?そんな御伽噺、誰が信じるか!」

 

「私も信じたくはなかったよ。だが残念なことに、事実でね」

 

 クローン技術は、遺伝子操作技術が確立された以降も違法とされ続けていた。それに手を染めてでも優秀な跡取りをと望んだ男が居た。

 

 その男が─────

 

「それがアル・ダ・フラガだ。奴は貴様に見切りをつけ、私を生み出した─────」

 

「バカ、な…!」

 

 わなわなと銃を握る手を震わせながら、ムウが呟く。

 

 動転しているムウを見て、クルーゼは皮肉るように嗤いながら続ける。

 

「だが私もまた、後継者に値しないと見切りを付けられ奴に捨てられた。そうして次に生まれたのが、ユウだ」

 

「ユウ…?っ、まさか─────」

 

「あぁ、安心したまえ。彼はクローンでも、キラ君の様に遺伝子操作を受けた訳でもない。だが─────皮肉とは思わないかね?高い金をかけてよりよい跡継ぎを望んだ結果失敗し、自然なままに生まれた新たな子が、奴のお眼鏡に合う能力を持って生まれて来るとは…」

 

 くつくつと肩を震わせ、この場には居ない()()へ向けての嘲笑を浮かべるクルーゼ。

 

「失敗…?」

 

 不意にキラが口を開く。信じられず、震えるしか出来なかったムウと、更に()()()が増えていくクルーゼが彼女へと視線を向けた。

 

「貴方は、捨てられたって言った…。それは、何故?」

 

 よりよい後継者─────そうであれと望まれ、生まれ落ちたクルーゼもまた捨てられたと口にした。

 

「気になるかね?…ならば、見せてやろう。奴がムウと同じく私にも見切りをつけた、その理由を─────」

 

 クルーゼは銃を構えたままもう一方の手を後頭部へとやり、直後にパチリと何かが外れる音がした。

 

 瞬間、彼の顔の上半分を覆っていた仮面がはらりと落ちる。そこから露になった素顔を見て、キラとムウは息を呑んで凍り付いた。

 

 跡取りという以上、後から生まれたユウは別としてもクルーゼの年齢はムウと大して変わらない筈だ。

 しかし、今二人の前で、ムウのそれと似た青い目を憎悪の炎で燃やし、嘲笑に歪んだその顔は、幾重にも深く皴を刻んでいる。

 

 それはまるで、老人のものの様にすら見えた。

 

「長くは生きられないと判明した私は、そのまま捨てられる予定だった。─────もう一度だけ、望みを持とうと奴が考え付くまではな」

 

 ムウという息子では後継者として満足できなかったアルは、自身の分身であるのならば間違いはないと考えクルーゼを生み出した。

 しかしそれでも尚、アルが望む後継者像に至る事はなかった─────そうして彼が選んだのは、もう一人息子を生ませる事だった。

 

 生まれて来た子供がアルが求める才能を持っていないかもしれない。それでもと、アルは次に生まれる子供に賭けたのだ。

 

「そして奴は最後に私を()()()()()()()()()捨てた─────果たして、ここから先の真実を()()知っているのかな?」

 

 不意にクルーゼが後方を見上げながら、明後日の方向へと問いを投げ掛ける。

 

 彼の前方にはキラとムウがいて、当然彼ら三人以外にはこの場に誰もいない。

 

 しかし、キラとムウはふとクルーゼの背後の階段を誰かが降りて来る足音を耳に捉えた。

 

 足音はゆっくりと近付いてくる。クルーゼはその足音の主がこの場に現れるのを、今か今かと心待ちにしている様に、目を爛々と光らせていた。

 

「待っていたよ。()()()()()()()()

 

「─────ラウ・ル・クルーゼ」

 

 階段の陰から姿を現したユウは、仮面を外したクルーゼの顔を見て微かに目を見開いて驚きを露にする。が、すぐに表情を引き締め、クルーゼへ銃口を向けたまま視線だけを動かし辺りを見渡した。

 

 デスクの陰から身を乗り出していたキラ、柱に身を潜めているムウ、二人を見つけたユウは表情を動かさないまま再びクルーゼへと視線を向ける。

 

「言いたい事は全部言えたか?」

 

 尋ねながらクルーゼへと向けられるユウの目を、キラは以前見た事がある。

 クルーゼと戦った後、ユウは気を失いアークエンジェルの医務室へ運ばれた事があった。怪我もなくすぐに意識を取り戻したユウだったが、その時のユウの目は今と同じだった。

 

 何の色も映さない、冷たく、鋭く、恐ろしさを感じさせる、普段の温かい瞳とは真逆の目。

 

「いや。言い残している事はまだまだあるさ」

 

「そうか、残念だ。それを言う機会はもうない」

 

 ユウから発せられる緊張感が限界へ達しようとしていた。有無を言わさず、引き金に掛ける指へ力が籠もる。

 

「先程も聞いたな、ユウ。君は果たして、真実を知っているのかな?」

 

「…何が言いたい」

 

 グッ、と引き金を引こうとしたユウの指が寸での所で止まる。

 それを見たクルーゼが、厭な笑みを浮かべた。

 

「ラウ・ル・クルーゼ、キラ・ヤマト─────フラガの当主である君であれば、知り得て当然の情報だ。だが…、奴は君の出生の秘要を遺してはくれていたか?」

 

「─────俺の出生だと?」

 

 怪訝そうに眉を顰めるユウの顔を少しの間見つめてから、クルーゼは大きく笑い声を上げる。

 

「フフフ…ハァーッハッハッハッハッハッ!!!やはりな!当然だ…貴様の出生の経緯は奴にとっての汚点そのもの!記録に残す筈もない!」

 

「何を言ってる…!ユウはナチュラルじゃなかったのか!?」

 

 ユウとムウ、二人の銃口に囲まれているのにも構わず盛大に笑い続けるクルーゼへ、ムウが声を荒げて問い掛けた。

 

 ユウはクローンでも遺伝子操作を受けた訳でもない。そう語ったのは他でもないクルーゼ本人だ。

 しかしたった今、彼が言った言葉はそれを覆している様にも聞こえた。

 

 ムウから向けられた懸念を、少しずつ落ち着きを取り戻したクルーゼが否定する。

 

「その通りだ、ユウは間違いなくナチュラルだよ。…あぁ、ユウ。私を殺すならその前に、自分の()()()()を知ってからの方が良いのではないかな?」

 

「─────貴様」

 

 ユウの銃を握る手が震えだす。それはまるで葛藤している様であった。

 

 今すぐクルーゼを撃ち殺すべきだと叫ぶ心と、真実を知ってからでも遅くはないと語り掛ける心。

 二つの心が葛藤し、その場から動けないユウへクルーゼは嗤い掛けながら、ゆっくりと呼び掛けるのだった。

 

「なぁ─────()()()()よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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