フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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─注意─
この話は本日二話目の投稿です。まだ前話を読んでいない方は先にPHASE101を読む事をお勧めします。先にこちらを読んでしまうと、とんでもないネタバレを喰らう事になります。
すでに前話を読んだ方と、ネタバレなんて知らねぇという方はどうぞ先へ読み進めてください。


PHASE102 賽は投げられた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が、息子…?」

 

 兄さんが呆然と力のない声で呟いたのが聞こえてくる。

 

 キラと兄さんを追い掛けてこの施設へ入ってから、クルーゼが高らかに語る声は響き渡っていた。ここへ来るまでずっと、嫌になるという程に。

 だというのに、今この場は静まり返っている。物音一つ立たず、キラと兄さんは茫然自失な様子でクルーゼを見つめ、そしてそのクルーゼは俺の反応を楽しんでいるのか、笑みを浮かべながら俺へ視線を送り続けている。

 

「どういう、事だ…?」

 

「そのままの意味だよ、ムウ。比喩的表現も何もない。彼は私の、正真正銘の息子さ」

 

 あぁ、聞き間違いではなかったらしい。

 

 流石にこれには驚かされた。最初は聞き間違いだったのでは、と疑いを持ってしまう程度には。

 だが─────一体どういう事なのか。混乱する頭の中を整理しようと思考を巡らせ始めた時、クルーゼが口を開いて続けた。

 

「さっきも言ったな。奴は再び望みを持ったと─────しかしすでに奴は、子を孕ませる事が出来なくなっていたのだよ」

 

 その理由が体力的なものなのか、それとも生殖器の異常か、どちらなのかは分からないしどうでもいい。

 

 問題は、そこから話がどう繋がっていくかだ。クルーゼの言う言葉が本当ならば、俺がこうして生まれ落とされた事自体が可笑しな話になってしまう。

 

 本来なら─────だが、今俺の目の前には奴がいる。

 親父と同じ遺伝子情報を体に宿した男、ラウ・ル・クルーゼが。

 

「そこで奴は私に目を着けた。私の精細胞と、奴が選んだ卵細胞を掛け合わせて生まれた命─────それが君だ」

 

「…」

 

「記録に残されていない理由は察しがつくだろう。望む後継者を生み落とす為に、欠陥品として捨てようとした私の細胞を利用したなど─────奴のプライドに当然触れた。だから、君の出生に関する記録から私の存在を消し、改竄するしかなかったのだよ」

 

 あぁ、確かにこいつの言う通り、あの親父ならばそうする。見下していた相手の手を借りざるを得ず、更にその相手の息子を後継者に据える─────その場合、あいつがとる選択は二つだ。

 生まれた息子を捨てるか、()()()()()()()()()()()()として記録するか。

 

 いや、そんな事はどうでもいい。俺にとって、俺の出生の経緯は重要な問題じゃない。

 

 そんな事よりも、クルーゼだ。

 つまりこいつは─────クルーゼは、ただ捨てられたというだけじゃなく、利用し尽くされ、搾取し尽くされ、その果てに打ち捨てられたという事になる。

 

「私は何の為に生み落とされたのだ?ただ失敗作として捨てられるならばまだ良かった!だが実際は、最後の最後まで貴様の踏み台にされ、そして貴様を孕ませる事が出来た途端に用がなくなったとばかりに…!」

 

 生まれたら生まれたで、次期当主としての厳しい教育を強いられる。失敗の烙印を押されて見捨てられたかと思えば、今度は望みもしない交わりを強要され、最後には─────。

 

 同情はしない。ただ、奴が辿った旅路を思い浮かべた時。その立場に自分が立っていたらと想像した時。

 

 微かに心が軋んだ気がした。

 

「─────最後の扉が開こうとしている」

 

 激情のままに声を荒げたクルーゼは、呼吸が整い終わる前に告げた。

 

「そうなれば、果てしなき欲望と憎しみによって、この世界は終わる─────。そこであがく思い上がった者達、その望みのままにな!」

 

「そんな事はさせません」

 

 途方のない憎しみを込め、力の限りに叫んだクルーゼへ声を返す者がいた。

 

 ─────キラだった。

 キラはいつの間にか立ち上がり、真っ直ぐクルーゼを睨みつけながら両手に握る拳銃を向けて言った。

 

「この世界は終わらせない。世界の終わりだなんて、誰も望んでない。だから─────貴方の望みは叶わない」

 

 さっきまで、不安と動揺に揺れていた筈の瞳が定まって、力強くクルーゼを見据えている。

 

 それを見て、俺の中で柔らかい風の様なものが凪いだ気がした。

 

 同情はしない、そう自分で思っていても、どこかでクルーゼへそんな念を向けていたのかもしれない。

 こいつの言葉に、どこか同意をしてしまう自分がいたのかもしれない─────。

 

 違う。世界は、人は、そんなものじゃない。兄さん、キラ、ラクス、色んな人達に出会って俺は改めてそれを思い知らされた。

 

 だから─────俺は、こいつを否定しなければならない。

 

「クルーゼ。お前にどんな過去があろうとも、俺はお前を認める訳にはいかない」

 

「─────…」

 

「…?」

 

 心の片隅で揺らいでいた決意は更に強固に定まり、定まった意志を込めてクルーゼへ視線をぶつける。

 

 ─────その瞬間、微かにクルーゼが微笑んだように見えたのは気のせいだったのだろうか?

 

「グッ…!?」

 

 疑問に思ったのも束の間、突然クルーゼが胸を掴みながら苦しみ出す。

 ただでさえ多く流れ出ていた汗が更に玉のように噴き出し、顔色が一気に青褪めていく。

 

「…なんだ、どうしたんだ?」

 

「時間切れだよ」

 

「は…?」

 

 クルーゼの豹変に驚いた様子の兄さんへ簡潔に告げる。

 

 老化を遅らせるべく、細胞分裂を低減させる薬物─────クルーゼが常用しているものだが、その副作用は相当に激しいものだ。

 原作でも同じ場面で同様の症状が見られた。恐らく、今も同じ症状がクルーゼの体内で引き起こされている。

 

 しかしこれはチャンスだ。ここでこいつを亡き者に出来れば─────

 

「っ、待て!」

 

 クルーゼが身を翻して走り出す。

 あまりに咄嗟で、潔過ぎる逃げ足に思わず驚き身を固めてしまう。

 

 キラと兄さんも同じで、俺の大声でようやく我に返った。

 

 階段を降り、二人と合流した時にはすでにクルーゼは闇の中へと姿を消していた。

 だが関係ない。俺の感覚は雄弁にクルーゼの居場所を教えてくれている────少なくとも奴がこの施設内に居る限りは、見失う事もない。

 

「貴様らだけで何が出来る…!」

 

 地の底から湧き上がる様な、怨嗟に満ちた声を発するクルーゼ。

 

「もう誰にも止められはしない!出来るというのなら止めてみせろ─────この宇宙を覆う憎しみの渦を!」

 

 直後、足音が遠く離れていく。

 それを追い掛けようと足を踏み出そうとした時、背後から鋭い声でキラが俺を呼び止めた。

 

「待って、ユウ!ムウさんが!?」

 

「っ…!」

 

 足を止めて振り返った先では、顔面蒼白で座り込む兄さんの姿があった。

 クルーゼに撃たれたと思われる方と脇腹からの出血は酷いものになっていて、寄り添うキラの顔も緊張のあまり青くなっていた。

 

「兄さん…!」

 

 呼びながら一瞬、後ろ髪を引かれる思いに駆られる。

 

 クルーゼをここで逃がせば後々厄介な事になる─────そんな打算的な考えに駆られた自分に嫌になりながらも、すぐに兄さんへ駆け寄った。

 

「ユウ…」

 

「ごめん…、兄さん。俺の…役目だったのに」

 

「バカ野郎が…、何でも背負い込むんじゃねぇよ…。帰ったら、じっくり話してもらうからな」

 

「…うん、分かってる。だから、早く帰ろう。キラ…、悪いけど手伝ってくれるか」

 

 キラが頷いたのを見てから、二人で一緒に兄さんの肩を担ぎながら施設を後にする。

 

 会話はない。クルーゼの哄笑も聞こえて来ず、施設内には俺達の足音だけが鳴り続ける。

 

「─────」

 

 途中、何となくキラの方を向くと、視線が合った気がした。すぐに目をキラの方から逸らしたから、もしかしたら気のせいかもしれないけれど。

 

 それ以上はもうキラの方を見る事が出来なかった。キラから何を言われるかが怖かった。突き放されるかもしれないと考えてしまい、恐ろしかった。

 

 そんな風に考える資格などないというのに─────愛する人が傍から離れていくかもしれないという恐怖が、こんなにも強いものなのだと初めて思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軍服を投げ出し、解放的な姿のままベッドへ身を投げ出した少女は枕に顔を埋めながら、先の戦闘で激突した黒い機体を思い出す。

 

 あの機体─────ジブリールはゼノスと呼んでいた。あのゼノスという機体に乗っていたパイロット─────奴は一体何者なのだろうか?

 

『フレイッ!!』

 

 少女─────フレイは、あの戦闘中に何度も自身に呼び掛けようとした、あのパイロットの声を思い出す。

 

 何故だろう。たかが敵のパイロットなのに、こんなにも簡単に、こんなにも鮮明に自分を呼ぶあの声を思い起こす事が出来る。

 何故だろう。その声を思い出すだけで、さっきまであんなにも荒んでいた心が穏やかになっていく─────。

 

 先程まで、フレイはジブリールの元にいた。そこで聞かされたのは想像に難くない、ジブリールからの長い説教だった。

 

『解放の女神に敗北は許されない』

 

 数十分にも及ぶ長い話だったが、端的にいえばその一言に尽きる。言葉のチョイスこそ変われども、とにかく同じ内容の話を繰り返し、要するにそういう事を言いたいのだろう。

 

 ─────何が女神なんだか。女神と呼ぶくらいなら、信徒らしくただ崇めていれば良いものを。

 

 この艦の男クルー達もそうだが、何よりジブリールからの下卑た視線はフレイの精神に軋みを与えていた。

 更にジブリールは、軍人であるフレイが逆らえない立場である事を利用して、さり気なさを装いながら髪や肩、腰などを触ってくる事さえある。

 直接的な行動にこそ出て来てはいないが、仮にそのような行為に襲われた場合は復讐への強いバックアップを捨ててでも反逆する覚悟でいる。

 

 誰かに触れられるのであれば、それを心から赦せる誰かであって欲しい。例えば─────

 

「─────」

 

 脳裏に名前も知らない誰かの笑顔が過った。

 

「アナタは、誰…?」

 

 分からない。思い出そうとしても、頭の中に靄が掛かったように記憶が定まらない。

 

 ただ、知っている。この人を、フレイ・アルスターは知っている─────。それだけは何故か、確信を持てる。

 

「…だから、何?」

 

 知っているから果たして何だというのか。記憶の中に浮かぶ人物が誰であろうとも、それは思い出せもしない程度の人物に過ぎない。

 そんな相手に気を取られる程、フレイも暇じゃあない。

 

 フレイには確固たる目的がある。戦う力を得た理由がある。

 父を殺したコーディネイターへの復讐─────それを完遂させるまで、この足を止める事など許されないのだ。

 

『総員第一戦闘配備─────繰り返す』

 

「っ!」

 

 艦内に鳴り響く放送に飛び起きて、フレイはベッド上に投げ捨てていた軍服を身に着ける。

 

 どうやら出発するらしい。時間的に援軍などは呼んでいないようだが、ザフトが港の裏まで来ている事を考えれば急ぐ理由もまあ分かる。

 

 命令はゼノス、フリーダム、ハイペリオンの鹵獲─────だが、生きてあれらを鹵獲なんて出来そうにない。

 ジブリールの命令には反するが、今度は破壊するつもりで掛からせてもらう。

 

『…俺が、お前を殺したくないからだ』

 

「…なら私は遠慮なく、殺しにいかせてもらうわ」

 

 前回の戦闘、撤退する直前に敵のパイロットから投げ掛けられた優しい声が過る。

 

 甘く見られたものだ。そんな気持ちで相手取るつもりでいるなど─────こちらは遠慮をするつもりはない。

 

「今度こそ墜とす─────」

 

 口から出て来た強い言葉は、フレイに心を奮い立たせる。

 復讐への原動力である憎しみでどこまでも黒く、胸を覆い尽くしていく─────その片隅で、微かに灯る優しい光がある事に気付かないまま、フレイは機体に乗り込むべく部屋を飛び出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薬の副作用に襲われ、堪らず逃げる様に施設を飛び出すしかなかったクルーゼは大破したゲイツに乗り込み、イザークとディアッカに回収してもらいそのままヴェサリウスへと帰還した。

 格納庫へ機体が収容されたと同時にハッチを開き、部下達の安否を気遣う声にも振り向かず、急いで艦長室へと向かう。

 

 部屋へ飛び込んだクルーゼは真っ直ぐにデスクに飛びつき、低く呻きながら抽斗の中を掻き回す。やがてピルケースを探り当てると、貪るように中のカプセルを呑み込んだ。

 

「ぐっ…ふふふっ…、ガァァァアッ…!」

 

 獣染みた声を上げながら、次第に副作用が落ち着いていくのをその身で実感したクルーゼは、別の抽斗から予備のマスクを掴み上げて身に着ける。

 

 奴らを絶望の淵に追い込みたいが故にマスクを外したが─────もう二度と御免だった。どんな理由であろうとも、この醜い顔を外へ晒すなど、もう─────!

 

「アデス!」

 

 荒っぽい動作でデスク上のインカムをオンにしたクルーゼは、艦橋に居るアデスへと怒鳴りつける様に呼び掛けた。

 

『隊長!?どうなさっ…』

 

「ヴェサリウス発進する!モビルスーツ隊出撃用意!ホイジンガーとヘルダーリンにも打電しろ!」

 

 急き込んで問い掛けるアデスの言葉を遮り、クルーゼは憑かれた様な早口で命じた。

 

『はっ…!?しかし隊長─────』

 

 いつになく焦った様な上官の口調に、アデスが不審げに聞き返そうとする。

 そんな副官の鈍い反応に苛立ちを覚えながら、クルーゼは怒鳴りながら畳み掛けた。

 

「このまま見物している訳にもいかんだろう!あの機体、地球軍の手に渡す訳にはいかんのだからな!」

 

 ヴェサリウスへの帰還中、コロニーが振動したのを感じた。恐らく、中断していた戦闘が再び始まったのだ。

 そしてそれは当然、艦内にも伝わっている筈だ。ならば早く話を進めなければならない。今すぐに出撃し、奴らを一網打尽にする─────念のためにと持って来た()()がこうも早く日の目を見る事になろうとは。

 

「私も出撃する!()()()()()()()を用意させろ!」

 

『なっ!?しかしあれは!』

 

「すでにカタログスペックは頭に入れてある!シミュレーションも済ませてある!問題はない─────とにかく言う通りにしろ!」

 

 アデスが慌てた様に了承の返事をしたのを聞いてから、叩きつける様にして通信を切ったクルーゼは、壁に背を預けて寄り掛かりながら激しく肩で息をする。

 

 声を荒げた事で乱れた呼吸はすぐに整っていく。先程薬を飲んだ事で、副作用も収まりつつある。

 

 ─────次第に起こる間隔が狭まっていく副作用と、副作用に対する薬の効きが遅くなっていく実感。

 

 クルーゼの中で微かな死への恐怖が過るが、それを嘲笑を持って押し潰しながら天を仰ぐ。

 

「さて─────私を否定したな、ユウ・ラ・フラガ」

 

『お前にどんな過去があろうとも、俺はお前を認める訳にはいかない』

 

 そう告げたユウの顔を思い浮かべ、クルーゼは嗤い続ける。

 

「私を止めてみせろ─────世界に満ちた、憎しみの真意を」

 

 笑う─────嗤う─────哂う─────。

 

 クルーゼの顔はどこまでも楽し気に笑っていた。

 これから自分の目には何が映るのかが楽しみで仕方がない。憎悪の渦に巻き込まれて死んでいく人達─────その果てに待つのは滅びか。

 

 それとも、自身を否定せしめた者達が憎悪の渦を跳ね返し、世界を長らえさせてみせるのか。

 

 クルーゼ(滅び)か、ユウ(生存)か、世界はどちらを選ぶのか。

 

「さぁ─────本当の戦いの始まりだ。ユウ」

 

 ─────今この瞬間、賽は投げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一日二話投稿とか凄い久し振りにした気がする…。

次回、ユウVSクルーゼ再び─────の予定。
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