フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE103 混沌と化す戦場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デブリを盾に回り込んで!」

 

 コロニーメンデル周辺では激しい戦闘が行われていた。

 

 ユウがコロニー内部へと入って行ってから程なくして、再び地球軍艦隊の進軍が始まったのだ。

 

 激しく砲撃を撃ち掛けられるアークエンジェルはマリューの指示通り、デブリに身を隠すようにして敵からの攻撃をやり過ごす。

 

「ナスカ級の動きは!?」

 

「依然、ありません!」

 

 問い掛けると、サイからは先程と同様の答えが寄越された。

 

 ザフト艦の存在は絶えず頭に置いておかなければならない。目の前の地球軍よりも、この状況ではむしろそちらの方が脅威だ。

 それだけに、この戦闘に早く決着を着けたい所なのだが、ユウ達の不在が響いている。

 

 モビルスーツ戦ではカナードのハイペリオンが獅子奮迅の働きをしていた。アルミューレ・リュミエールをギリギリまで酷使し、敵のG四機の攻撃を押さえている。

 単身、相手四機へと突っ込むハイペリオンを援護するのがスウェンのストライク二号機だ。一対四という余りに厳しい状況下では、どうしたって自身ではカバーしきれない攻撃はある。

 

 そこをスウェンは上手くフォローしていた。I.W.S.P.を巧みに操り、カナードの反応の限界を超える攻撃を相手が仕掛ける前に、砲撃を撃ち掛け妨害し続けていた。

 

 スウェンがカナードと共にG四機の相手をするとなれば、当然その分、残りの敵モビルスーツ隊がアークエンジェル、ドミニオン、クサナギへと襲い掛かるが、マユラ、アサギ、ジュリを初めとしたM1隊もまた奮闘を続けている。

 

 戦況は拮抗している。しかしそれはマリュー達側へいつ押し込まれても可笑しくない、危ういバランスの上で成り立っていた。

 

「艦長!フリーダムです!」

 

 待ちかねた報せを、ミリアリアが弾んだ声で齎したのはその時だった。

 

 モニターにメンデルを出てくるモビルスーツの機影が映し出される。フリーダムとストライク、その後方にはゼノスとスピリットも確認できた。

 マリューは一瞬、肩から力を抜くが、すぐに入ったキラからの通信に彼女はまた身を硬くした。

 

『ムウさんが負傷してます!』

 

「え…!?」

 

 ついその瞬間、マリューは指揮官としての立場を忘れて恋人への懸念を面に出してしまう。

 

『キラ、俺が。ユウも行け、俺もすぐに追い掛ける!』

 

 スピリットが近付き、フリーダムから傷ついた機体を託される。

 

 すぐにフリーダムは飛び去り、ゼノスもまた一瞬ストライクを見遣ってから、フリーダムを追い掛けて行った。

 

 向かう先には、四機を相手に苦戦を強いられているハイペリオンとストライク二号機がある。

 

『おい、大丈夫かよおっさん?』

 

『おっさんと呼ぶな!』

 

 ミゲルが不安げに声を掛けると、ムウがすぐさま勢いよく言い返す。

 負傷したと聞いた時は血の気が引く思いだったが、これだけ元気があるならば大した事はないだろう。一体中で何があったかは分からないが─────。

 

 マリューはほっと胸を撫で下ろし、すぐさま戦闘に注意を振り向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来たわね!』

 

「フレイ…!」

 

 前回の戦闘で繋がった回線の周波数を覚えていたらしい。こちらが戦闘宙域へと入った途端に通信を通して呼び掛けられ、直後にヴォワチュール・リュミエールを展開したリベルタスが迫る。

 

「キラ!カナードを頼む!」

 

『─────うん!』

 

 俺からの呼び掛けに対し、空いた数拍は懸念故か、それとも疑念故か─────その答えを気にしている余裕は今はなく、フレイと互いにそれぞれの機体をぶつけ合う。

 

 こちらが交戦状態に入ったのを見たキラも、未だ三機に囲まれているハイペリオンの元へと向かって行った。

 

 両翼からバラエーナを跳ね上げ、ハイペリオンを背後から狙っていたカラミティ目掛けてビーム砲を撃ち掛ける。

 後方へ飛び退ったカラミティへ、続けざまにミゲルのスピリットがビームサーベルを抜いて斬り掛かる。

 

 カラミティが掲げた防盾と斬撃が激突し、激しくスパークする様から目を離し、こちらも相手に集中する。

 

 リベルタスが咄嗟に後退したかと思えば、凄まじい速度で周囲を飛び回り突如急激に軌道を逸らしてこちらへ飛び来る。

 迫る斬撃へガントレットを割り込ませ、受け流しつつ機体を逃れさせ目の前の敵機に強烈に蹴りを入れながら後退。衝撃にふらつくリベルタスへと腹部の砲口からスキュラを撃ち放つ。

 

 すぐさま体勢を整えたリベルタスは即座に翻し、強烈な砲撃を躱してのけながらサーベルから背部のビーム砲をその手に取る。

 放たれる熱線を躱し、こちらもビームライフルを取り出しリベルタスを狙う。

 

 位置を入れ替えながら砲火を交わし、徐々に距離を詰めながら近接武器へと切り替えリベルタスへ斬り掛かる。

 対するリベルタスも近接戦に応じ、激しくぶつかり交錯を繰り返す。

 

「っ─────!?」

 

 互いに斬撃を繰り出し、防ぎ合いながら弾かれる様に距離を取ったその時だった。

 

 跳ね上がる心臓の鼓動、射竦められるような冷たい視線─────奴が来ると考えるよりも先に直感した。

 

 スピーカーからミリアリアが何かを報せようと声を上げるが、それよりも先に機体を反転させる。

 近付いてくる─────狙いはすでに奴の接近を悟っている俺ではなく、地球軍のG三機を相手取り、未だその存在に気付いていないキラだった。

 

「キラ…っ!」

 

『どこへ逃げるつもり!?』

 

 視界の端に過る機影─────リベルタスだ。

 ヴォワチュール・リュミエールを起動し、ゼノスに追いついてきたフレイが距離を寄せて機体をぶつけて来る。

 

 咄嗟に身構えて備えるも、突進をその身に受けた機体は大きく後方へと押し退けられる。

 

「っ、あれは…!」

 

 襲い掛かるリベルタスの攻撃を捌きながら周囲を見回せば、すでにザフトを加えた三陣営による混戦が始まっていた。

 四方から砲火が飛び交い、その中にザフトのモビルスーツも混じって地球軍との戦闘が繰り広げられる。

 

 そして、遠く離れた所に見えたザフト軍ナスカ級戦艦─────そこから戦闘宙域を突っ切りこちらへと向かってくる灰色の機影を俺は目にした。

 

『余所見なんて、随分余裕があるじゃないっ!』

 

「くっ─────!」

 

 俺が意識を逸らした事が琴線に触れたのか、これまで以上に苛烈に攻撃を撃ち込んでくるフレイ。

 

 ヴォワチュール・リュミエールの出力を全開にしたリベルタスが、一瞬にして距離を詰めて来る。

 限界まで集中と神経を研ぎ澄ませ、必死にリベルタスの動きに食らいつく─────落ち着け、まだだ。まだ()じゃない─────チャンスは来る。

 ここを潜り抜け、キラの元へ向かう機会は必ず来る─────!

 

「─────」

 

 右肩に巨大なビームライフルを担いだモビルスーツが、周囲のストライクダガーを撃ち抜きながら遂にこちら側へと迫って来る。

 

 途中、狙おうとすればこちらを狙えた筈だった。

 フレイとの戦いに殆ど掛かり切りの俺を、奴は撃たず、冷たい視線を送りながら─────その場を通り抜けていき、入り乱れるキラ達の交戦の場へと一直線に飛んでいく。

 

『なに…っ、しまっ…!』

 

「悪いがまたの機会だ、フレイっ…!」

 

 至近距離にまで接近しながら素通りしていく異様なモビルスーツに気を取られたフレイの隙を突き、リベルタスを蹴り飛ばす。

 

 すぐに機体をキラ達の方へと向けてバーニアスラスターを吹かす─────途中、ビームライフルを取り出し背後のリベルタスへと一射、牽制の射撃を入れてから後は見向きもせず機体を急がせる。

 

「やめろ、クルーゼ…!」

 

 言って止める様な奴ではないと分かっていても、叫ぶしかなかった

 

 すでに灰色の機体─────プロヴィデンスが戦闘の場に乱入し、目の前でキラ達へと襲い掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キラ、カナード!ザフトが…!』

 

 ミリアリアから報告が入ってから、驚く暇もなく戦場は混乱を来した。

 

 三勢力による大混戦─────ザフトが地球軍、同盟軍を同時攻撃し、ここまで戦闘を続けていた二陣営は一旦砲火の向ける先を変えざるを得なかった。

 

 三つ巴の艦隊、モビルスーツ戦─────その一方で、キラとカナードは未だ地球軍のG三機と激しい交錯を繰り返していた。

 

 激しく入り乱れる戦闘の間に入り込める者は存在せず、何者にも邪魔されず、誰かが斃れるまでひたすらに続くとさえ思われる激闘─────しかし、ゆっくりと冷たい悪意はこの場へ近付いてきていた。

 

「─────?」

 

 フォビドゥンの砲撃を振り払い、クスィフィアスを撃ち返した直後、キラは不意に何かを感じた。

 

 何か─────首筋を冷たい手で撫でられたような戦慄が、彼女の中で駆け抜けたのだ。気のせいと片付けるにはあまりに確固たる不安が、胸の奥に居座って動かない。

 

 だが、それだけではなかった。このつい最近にも感じた覚えのある奇妙な胸騒ぎが、時が進む毎に大きくなっていく。

 

「近付いている…?」

 

 何かが近付いている、キラが咄嗟にそう予感して弾かれる様に視線を上げた時だった。

 

「っ─────!」

 

 ギリギリ─────翻した機体を、一条の光条が掠めていった。

 

 フリーダムのセンサーが、この場の五機以外に一つ、熱門が接近してくるのを捉えていた。

 その方向に目を向ければ、白銀の装甲を輝かせるモビルスーツが飛来していた。背中には光背のようなバックパックを背負い、右肩にはフリーダムやゼノスのものとは比べ物にならない程の巨大なビームライフルを背負っている。

 

「あぁ!?なんだ、テメェは!」

 

 その時、キラ以外で最も早く謎の機体の接近に気が付いたレイダーがプラズマ砲をそちらへ向けて撃ち放った。

 

 瞬間、白銀の機体は体勢を傾けながら放たれたビーム砲を避け─────それと同時に背部のバックパックから何かを放出した。

 

「なに─────?」

 

 キラの目は、放出された何かを捉えていた。()()はレイダーの四方を取り囲むようにして動き回り、やがて次々と砲撃を放つ。

 

「なっ!?クソがッ…!」

 

 突如背後から迫るビームを辛うじて回避する。何が起こったのか分からないまま、しかし第一陣の包囲を機体の機動力を以て抜け出したのは流石という所か。

 

 しかしそれこそ、敵の罠だという事に気付かないまま、レイダーのパイロット─────クロト・ブエルは、眼前にもう一基、小型の機動兵装が待ち構えているのを目にする。

 

「あ─────?」

 

 目にした時には遅かった。クロトの視界はビームの光に覆われ、やがて撃たれた事を自覚もしないまま灼熱にその身を包まれる。

 

「─────」

 

 余りにもあっという間で、余りにも呆気なく、キラとカナードを苦戦させた脅威の敵は身を散らした。

 

 思わず呆けてしまったキラだったが、モビルスーツの頭部がこちらを向いた瞬間にハッと我に返る。

 次は自分か─────巨大なビームライフルの銃口が向けられ、更にまたしても小型の機動兵装が飛び回るのを見たキラは意識を集中させる。

 

 しかし直後、自身に狙いを向けた筈の機体が一瞬動きを止めたかと思えば、明後日の方向へと動き出す。

 

 キラの視界を横切り熱線、続けざまに漆黒の機体が白銀の機体へと襲い掛かる。

 

「ユウ!」

 

 漆黒の機体、ゼノスのパイロットの名前を叫んだキラの目の前で、ゼノスと白銀の機体がぶつかり合い、即座に弾かれる様にして離れる。

 

 今度はあの機動兵装が離れたゼノスへと次々に砲撃を浴びせかける。

 

 体勢を変え、機体の位置をずらし、バレルロールをしつつスラスターを吹かせたゼノスが全方位から発射されるビームの包囲網から逃れると、スキュラを撃って機体本体を狙う。

 

 先程射出された機動兵装が機体本体のバックパックへと戻っていく─────考えてみれば当然だが、無線式の兵装である以上あれ自体にエネルギーが備わっているのだろう。

 以前、ムウが乗っていたメビウス・ゼロの兵装ガンバレル─────あれを無線式へと改良し、より制約のないオールレンジ攻撃を可能としたという事だが、発射できるビームの弾数も限りがあるらしい。弾切れを起こしても再びバックパックへ戻し、エネルギーを補充すればまた射出できるようになるのだろうが…、その隙をユウは見逃さない。

 

 またあの兵装が射出される前に敵機の懐へと飛び込んだゼノスがビームサーベルを抜き放ち、斬撃を叩きつける。

 対し、敵機は左腕の防盾兵装を翳して斬撃を防ぐ。

 

『キラ、後ろだっ!』

 

「っ─────!?」

 

 相手と力を押し込み合うゼノスから通信が入り、ユウの声で呼び掛けられる。

 キラは駆られた悪寒に従い、考える前にフリーダムをその場から下げる。

 

 直後、先程まで自身がいた場所を直進するビーム砲撃─────それが撃たれた方へ視線を向ければ、そちらからは背部のスラスターに光を迸らせながら、ゼノスの方へと向かって行く機影。

 前回、そして今回の戦いと、ユウがあの機体の対応へ出向くまではずっと一対一での戦況を保ち続けていた地球軍の新型機体は、リベルタス。

 

 どうやらゼノスを狙っているらしいその機体は、再び巨大なビーム砲を腰溜めに放つ構えを取る。

 

 ユウへ狙いを定め、リベルタスが構えるビーム砲へと照準を合わせて、ビームライフルの引き金を引くキラ。

 武装を狙われた射撃に、相手は素早く反応してみせた。構えたビーム砲を持ち上げ、ビームを逸らすとゼノスから視線を切り改めてフリーダムを見るリベルタス。

 

 躱される事は織り込み済みだったキラは、すでに次の行動へと移っていた。自身へと意識を移したリベルタスへとフリーダムが飛来し、腰の鞘からビームサーベルが抜き放たれる。

 リベルタスは後退しつつフリーダムとの距離を計りながら、辛うじて斬撃に対してシールドを翳して割り込ませた。

 

『─────邪魔をしないで貰えるかしら?』

 

「え─────?」

 

 敵機との接触により回線が開き、相手のパイロットの苛立ちの声がキラの耳へと届く。

 

 その懐かしい声に、キラの思考は一瞬白く塗りつぶされた。

 

 ─────フレイ?

 

 大切な家族を殺され、ユウを殺されたと思い込んでしまい、コーディネイターへの憎しみが抑えきれなくなった彼女はアークエンジェルを離れた。

 それでも、彼女の仲間を思う気持ちは本物だった筈なのだ。

 

「どうして…?」

 

『…誰か知らないけど、アナタもあいつと同じ事を訊くのね』

 

 アークエンジェルは彼女にとっても大切な艦だった筈だ。それがどうして、こんなにも躊躇なく自分達に銃を向けているのか。そこまで、憎しみに堕ちてしまったのか?

 

 いや、それよりも…知らないとはどういう事なのか?

 

「キラだよ、フレイ!何を言ってるの!?」

 

『キラ─────』

 

 乗っている機体が違うからか、確かにフレイが居た頃はまだ自分はストライクに乗っていた。

 ならば、フレイが自分に気付かない理由はまだ納得が出来る─────そう自身に言い聞かせようとしていたキラの耳に入って来たのは、拒絶の言葉だった。

 

『知らないわよ、アンタなんか…!』

 

「そん、な…」

 

 愕然と声を震わせるキラ。そんな彼女に構わず、リベルタスのパイロット─────フレイはシールドを握る機体の左腕を振るってフリーダムを弾き飛ばし、ビーム砲をマウントしてビームサーベルへと持ち替える。

 

『邪魔をするなら容赦はしないわ。アンタを殺して、あの男も殺す』

 

「あの男って…、ユウの事?ユウの事も忘れてしまったの、フレイ!?」

 

『─────知らないって言ってるでしょ!?ムカついた…、決めたわ。アンタも私の手で殺してあげる。感謝しながら息絶えなさい、()()()()()()()()!』

 

 訳が分からない─────フレイは一体どうしてしまったのか。

 アークエンジェルの事を忘れ、ユウの事を忘れ、自分の事も忘れ─────憎しみを向けるコーディネイターを一緒くたに捉え、リベルタスを駆ってキラへと襲い掛かる。

 

「フレイ…!」

 

 乱される感情、定まらない思考、それでも尚、キラは迫り来るリベルタスに対応しなければならない。

 

 隠し切れない動揺は苦悶の表情となって浮かび、高まる心拍を抱えたままフリーダムをキラは駆る。

 

 フリーダムとリベルタス、キラとフレイ─────手を取り合い、微笑み合ったかつての友同士の面影はすでにない。

 そこにあるのは、激しい刃のぶつかり合いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キラもフレイと再会しました。良かったね、友達とまた会えて(白目)

それとクロト退場。ごめんね、割と初期の段階から三馬鹿で最初に退場するのは君って決めてたんだ…。「ボクハ…ボクハネェッ!?」も「ハァンッ♡」もないんだ、ごめんね…。
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