フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE105 腑に落ちない決着

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二機がぶつかり合う衝撃と、交わされる砲火の轟音が響き渡る。

 空間を埋め尽くす光条の嵐を潜り抜けたゼノスと、それを待ち構えていたプロヴィデンスが苛烈に剣戟を交わす。

 

 突き付けられた切っ先を躱したプロヴィデンスが、逆に巨大なサーベルを振り下ろす。ゼノスがその身を翻しながら躱し、再度剣戟を振るう。

 後退してプロヴィデンスが距離を取り、再びドラグーンの砲口を差し向けてゼノスへとビームを撃ち掛けた。

 

 ユウ・ラ・フラガとラウ・ル・クルーゼ─────両者は一歩も譲らず、交錯を繰り返す。

 

「逃げられると思わない事だな」

 

「っ──────」

 

 不意にクルーゼから投げ掛けられる声。

 激しい戦闘を繰り広げる中でも、先程アークエンジェルから打ち上がった信号弾にユウは気付いていた。それから何度かこの場からの離脱を試みもしたが、その度に目の前の男からの妨害が入り失敗が続いている。

 

 クルーゼも同じく打ち上がった信号弾に気付いていたのだ。その上で、眼前の宿敵を逃がしはしないと─────今日この場で全ての決着を着けようと、更に激しく攻撃を仕掛けていく。

 

 一方のユウも戦闘が続く毎に集中が研ぎ澄まされていた。クルーゼの猛攻に喰らいつきながら、その中で微かに出来た隙を見逃がさずに反撃を試みる。

 

 端末から吐き出されたビームがゼノスの右肩部を掠る。ゼノスの射撃がドラグーンの一基を撃ち落とす。

 

 装甲の所々に灼けた痕が見られるも、目立った損傷は失われた左脚部のみのゼノスと、ドラグーンを四基失ったものの機体本体にはダメージがないプロヴィデンス。

 一見、傷がないプロヴィデンス優位にも思えるこの戦闘だが、その実次第に焦りが出始めているのはクルーゼの方だった。

 

 ─────ドラグーンの攻撃にこうも早く順応してくるか…!

 

 クルーゼ自身、プロヴィデンスでの実戦は初で、戦いが始まった当初はドラグーンの操作に不慣れな部分もあった。

 しかし時間の経過と共にクルーゼの中で生じていた感覚のずれは修正されていき、今では完璧にこのドラグーンという兵器を意のままに操っている。

 

 対してユウはどうだ。初見のドラグーンに対し、即座にどういう兵器かを悟り、最適な動きをし続けている。

 ドラグーンに対する感覚のずれを戦いながら修正していったクルーゼと同様、ユウもまたその攻撃に慣れが出て来たか─────いや、それだけではない。

 

 まるでクルーゼがそこに撃ち込んでくると分かっているかのように、ゼノスの動きは余りにも流麗と言わざるを得ない。

 当初はここまでではなかった─────途中、目を覚ましたかのようにゼノスの動きが良くなった事もあったが、それでもこれ程ではなかった。

 

 それが今では─────クルーゼでさえ置いていかれかねない、ユウは更にその先を往こうとしている。

 

「ふざけるな─────!」

 

 認めない。認めてなるものか─────このまま終わって良い筈がない!

 

 その結末を、ラウ・ル・クルーゼは拒絶する。

 

 周囲の不必要な情報は削ぎ落とし、ゼノスの動きのみに集中を向ける。意識を研ぎ澄ませ、攻撃に更に激情を乗せていく。

 

 そうして彼の中でもまた、何かが弾けた─────。

 

「─────っ」

 

 クルーゼの変化はすぐにユウまで伝わった。

 

 突如膨れ上がるプレッシャー、激しく且つ洗練されていく射撃─────ついていけてた筈の動きに対し、反応がどうしてもギリギリになっていく。

 

 ゼノスが放ったスキュラが回避行動をとったプロヴィデンスの左腕を融解させ、同時に頭上から放たれたドラグーンの一射がゼノスの左腕を貫く。

 

 両者は乗機が負った損傷に対して何の反応も示さず、即座に次の動きへ移る。

 再開される交錯─────どちらかの命が失われるまで、誰にも入り込ませず、入り込む余地すら見せず、延々とそれは続くかに思われた。

 

『『ユウッ!』』

 

 しかし思ってもみないタイミングで、二人の意識外から待ったが掛かるのだった。

 

「なに!?」

 

「キラ…ラクス!?」

 

 クルーゼは接近してくるフリーダムを見て驚きの声を上げ、ユウはスピーカーから響いた愛する二人の少女の声によって撃ち合いから意識を引き戻される。

 

 フリーダムが吹き飛ばされた左翼のバラエーナ以外の四門の砲門を跳ね上げ、フルバーストモードへと移行する。

 それを見たクルーゼはゼノスへと向けていたドラグーンの動きを反転させ、自身の元へと戻す。

 

 直後放たれる砲撃の奔流はゼノスを避け、その後方のプロヴィデンスへと向かっていく。

 クルーゼの操縦によって命中する事はなかったが、キラによってプロヴィデンスの動きが明確に止まる。

 

『戻ろう、ユウ!』

 

「─────あぁ!」

 

 先導するフリーダムの後に続き、ゼノスが反転する。

 しかし、二機がアークエンジェルへと向いたのを見てこの男がただ黙って見ている筈がない。

 

「逃がさないと言ったろう!」

 

 プロヴィデンスが二機を追う。途中、ドラグーンをバックパックへと戻してエネルギーを補充させてから放出させる。

 並列して離脱を図るゼノスとフリーダムへと、放たれるビームは命中する事はなく、されど回避行動を取った事によりプロヴィデンスとの距離が一気に詰まっていく。

 

 クルーゼが再度、ドラグーンにビーム斉射の命を出そうとした時─────ゼノスとフリーダムからではない、どこからか二門のビーム砲が放たれる。

 驚異的な反応でそれを回避したクルーゼだったが、続けざまに今度は無数のミサイルがプロヴィデンス目掛けて迫って来た。

 

 機体を後退させつつ、ゼノス、フリーダムの二機へと向かわせていたドラグーンを戻す。

 残ったドラグーン全てで自身の前方にビームを斉射し、光条の網を形成─────網に掛かった多くのミサイルは爆散し、撃ち漏らした残りのミサイルはビームライフルで迎撃する。

 

「ちっ…!」

 

 事なきを得たクルーゼだったが、意識外からの攻撃の対応に追われた間にゼノスとフリーダムは更に遠くへ離れてしまった。

 

 距離が離れるだけならまだしも、二機の近くにはアークエンジェルとドミニオンがいる。

 左腕欠損と、ドラグーン四機の損失─────損傷を負った状態で無理をする訳にもいくまいと、クルーゼは内心の衝動を抑え込みながら必死に自身を納得させた。

 

「…決着は持ち越しか。まあいい。もっと相応しい舞台は、いずれまた来る」

 

 アークエンジェルへ着艦したゼノスとフリーダム─────そして、エターナルとクサナギに集中砲火を受けるヴェサリウスを、クルーゼは無感動に眺めていた。

 

「…」

 

 隊列から脱落し、後方へと流れ去ったヴェサリウスが巨大な爆発を起こす。

 しかしクルーゼは、自身に任された乗艦の最期の輝きではなく、開いたスペースから最高船速で離脱していく四隻を見つめていた。

 

 もう追いつく事は叶うまい。これまでの戦闘で犠牲も出ている上に、旗艦も失った。

 地球軍としても当初の目的からは逃げられ、それでも尚こちらを踏み越えてまで追っていこうとは考えないだろう。

 

「こちらも撤退する。残存部隊は座標デルタゼロに集結しろ」

 

 このまま地球軍と戦い続けてもどうにもならない。旨味のない戦いに付き合う必要などない。

 

 エターナルには逃げられ、ヴェサリウスは墜ち、当初は浮足立っていた兵士達は指揮官の冷静な声を聞き、少しずつ動揺は収まっていった。

 

 一部、指揮官の落ち着きぶりが信じられず、()()()()()()()()もいたが─────そんなもの、今となっては関係はないし、興味もない。

 

 予感がする─────もうすぐ全てが決する。

 その時に立っているのは、自分か、それとも─────

 

「─────」

 

 指示の座標へと兵達が集結する中、クルーゼもまた傷ついた機体を動かし撤退していく。

 

 次だ。次に奴と相見える時が─────全ての決着を着ける時なのだと、確信を抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────そう、分かったわ。皆疲れていると思うけど…そう?じゃあ、お願いね…」

 

 ベッドに横たわるムウの脇で、マリューが艦橋と電話を掛けていた。

 その愛しい話し声を、滴る点滴の液を見つめながら聞いていたムウは、ガチャリとマリューが受話器を置いた音を聞いて我に返った。

 

「マリュー…」

 

「ユウ君に怪我はないそうよ。機体の方もすぐにとはいかないけど、直せる範囲の損傷だって」

 

「…そうか」

 

 作戦通りに離脱に成功した彼らは一先ずの平穏を得ていた。

 

 あの後、追っ手がない事を確認して息を吐いた彼らはすぐにゼノスの損傷具合を見て息を呑んだ。

 左の手足を欠損させ、装甲の至る所に灼けた痕が刻まれた機体の惨状は、中のパイロットの状態にまで心配を及ばせた。

 

 たった今マリューが言った通り、中のパイロット─────ユウに怪我はなかったが、それを確認できた今の今まで最も気を揉んでいたであろう人物の一人、ムウは表情の変化こそ乏しいものの、内心大きく安堵していた。

 

「…他の艦にも、コピーをしたものを送ったわ」

 

「─────そうか」

 

 マリューが視線を落とした先にあるのは、彼女の膝の上のファイルだった。

 それはメンデルの研究施設からムウが持って帰って来た、ユーレン・ヒビキの日記─────あれからムウ達は持ち帰ったファイルに目を通したが、学術的なレポートというよりも日記に近い、ヒビキ博士による日々の覚え書きのようなものだった。

 

 ファイルを開き、マリューが見つめている写真─────幼い頃の自分と父が映る写真をムウも一緒に見ながら目を細めた。

 

 クルーゼが話した以上の事実が、そのファイルには記されていた。

 

 ムウとユウの父、アル・ダ・フラガが妻─────つまり二人の母と対立し、彼女の影響を受けて育ったムウに不満を抱いていた事。フラガ家は代々続いた名家で、莫大な財産を蓄えていた。一族の者は投機や商売に不思議な勘を持っており、フラガ家がついた側に損はないという伝説にまでなっていたという。

 そうして受け継がれてきた財産を託す者として、ムウは相応しくないと思ったアルは、やがて自分以上に相応しい者はいないのだという結論に至った事。

 

 そしてアルは理想的な跡取りを生み出すべく、ヒビキ博士に働きかけた。

 

 そうやって生み出されたクルーゼは、父の下でどのように育てられたのだろうとふと考える。

 母は息子をのびのびと育て、使用人の子供達とも分け隔てする事がなかった。だから子供達は主従の分別なく掴み合いをしたりして、ムウはユウが生まれて来るまでの間、一人っ子の孤独など感じずに楽しく過ごしていた。

 

 アルはそれを嫌がったという事は、クルーゼはムウとは全く別の教育方針の下に育ったのだろう。

 或いは、以前のユウと()()()()()─────

 

「親父ってさ…」

 

 堪り兼ねてムウは口を開いた。

 

「傲慢で、横暴で、疑り深くてさ…。俺達がガキの頃死んだんだけど、そんな印象しかなくて…けど…」

 

 今となって思い出される、父との楽しい思い出なんて数えられる程にしかない。

 厳しく躾けられた時期もあった。それも次第になくなっていたが─────それが、父が自分に諦めを抱いたのだと今になって気付く。

 

 時が経ち、生まれて来たユウに対してもアルは子供への厳しい態度を変える事はなかった。

 ユウが言葉を話し出す頃には次々に習い事をさせ、かつてのムウ以上の厳しいタイムスケジュールの下で管理されていたのを覚えている。

 その事で父と母が激しく口論をしていたのも覚えている。それをユウと一緒に息を潜めながら聞いた事も─────本当に、ユウが心優しく育った事を天に感謝したいくらいだ。

 

「信じられるか!?こんなの…、何で!」

 

 それでも、ここまでとは思っていなかった。

 

 クルーゼは捨てられた。彼の言う通り、失敗作として。

 

 兼ねてよりクローニングに伴う問題の一つとされてきた遺伝子の問題を、ヒビキ博士も克服する事が出来なかったのだ。

 アルの体細胞から創り出され、検査をして、そして生まれた時からアルと同じ長さしか生きられないと判明して─────クルーゼは棄てられた。

 

「…この資料には書かれていないわね。()()()()()()()()()()

 

 ファイルに書かれていたのは、()()()()だった。

 クルーゼが語った、ユウの本当の親の事─────クルーゼの精細胞を使って創り出した受精卵、そうして生まれたのがユウ・ラ・フラガだという事実はどこにも書かれていなかったのだ。

 

 これではあの話が本当かどうかは分からない…が、ムウはクルーゼが言ったあの言葉にどうしようもなく納得してしまった。

 仮にこの話が本当だった場合、父は決してこの事実を残す事はないだろう─────と。

 

 だが実際の所、ムウ自身はユウの本当の親についてそこまで気にはしていなかった。

 ユウの親が自身と同じでなくとも、誰であろうとも、ユウは正真正銘自分の弟であり、その事実は永遠に変わりはしないのだから。

 

 ─────ムウが気にしているのはクルーゼの事。そして、この話を受けてユウがどう感じているかだ。

 

 父はいい。とんだ手違いだと毒づいて、不満を感じているムウに注意を戻せば、或いはまた新たな後継者をと望めばそれで済む。

 しかし手違いをその生自体に負った者は、その後どうすればいいというのだ。

 

 あの時、マスクの下から現れた顔は、まさに父が生きていたらこうだろうという老人のものだった。

 

 屋敷が焼け、両親が死んだ後はムウとユウは一時親戚の家に引き取られ、ムウが自立してからは数人の使用人を連れて静かに暮らしていた。

 だがクルーゼは─────その後どんな道を辿ってプラントに行き着いたのだろう。その経緯はきっと、並大抵のものではなかった筈だ。

 

『私は何の為に生み落とされたのだ?』

 

 クルーゼはそう口にした。ムウ達に明確な答えを求めた訳ではない。しかしどうしても考えてしまう。

 

 ラウ・ル・クルーゼの生まれた意味とは?生みの親からは都合の良い駒のように扱われ、自身が望むものではなかったと分かれば、最後に利用できるだけ利用してから棄てられた。

 

 彼には過去も、未来も、もしかしたら自分すらも存在しない─────あるのは、自分を生み出した者達への憎しみ。人類そのものを否定し、遂には自分さえ否定する。

 

「貴方の所為ではないのよ、ムウ…」

 

 ムウの中の苦悩を悟ったマリューが優しく囁き、慈しむように髪を撫でた。

 

 その通りだと分かってはいる。だが、その優しい言葉で自分が救われている事にもまたムウ自身気付いていた。

 

「…ユウ君は大丈夫かしら」

 

 ムウの髪を撫でながら、マリューが呟いた。

 

 本当に優しい女だと思う。目の前に恋人がいるのに─────という嫉妬ではなく、心の底から、いつでも他人を慮れるこの心優しい女性を好きになった事を良かったと思える。

 

「…大丈夫さ、ユウなら」

 

 もう一つムウが気に掛かっていた事─────クルーゼの話を聞いてユウがどう感じているか。

 

 ムウからも色々とユウへ聞きたい事があった。

 ラウ・ル・クルーゼの事、キラ・ヤマトの事、それらを本当に知っているのか。そうだとして、何故ずっと自分に隠し続けていたのか。

 

 けどそれを聞くべきは今じゃない。今、ユウと話をするべきなのは自分じゃない。

 自分に負けないくらいにユウの事を慮っている少女達に、ムウは話をする順番を譲る事にした。

 

「今頃きっと、絞られてるだろうさ」

 

 エターナルに入ったユウは今頃─────そう考えると、ほんの少しだけ気が軽くなる。

 隠し事をして、散々心配を掛けさせて、少しはいい薬になるといいのだが。

 

 そして次は自分だ。あの頭に拳骨一つでもお見舞いしてやらなければ気が済まない。

 全部話を聞いて、自分に色々と隠し続けてきた事を謝らせて、それで─────もし、あいつが不安に感じているようだったら、言ってあげよう。

 

 ─────親が誰であろうとも、出自がどうであろうと、お前は俺の弟だ…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カナード君、この場では暴露されず。本人も回ってきた資料を読んで、自分について記されていなかった事にホッとしているでしょう。

それと─────

クルーゼ「キラキラバシュゥゥゥン!!!」

はい、やってしまいました。いやね、ずっと疑問に残ってたんですよ。
なんでこいつ種割れできないの?カガリは種割れしてるからコーディネイター特有の能力って訳じゃないし、この天才こそ持ってて然るべきでしょう。
と、思ったんでやりました。反省もしてないし後悔もしてない。ユウ君、頑張ってこのラスボスを止めてね?

今回、中途半端な所で終わりましたが区切りの良い所までいくと長くなってしまったので…。
一応今日中にもう一話投稿出来たらいいなと思ってます。約束はできませんが、ちょっと頑張ってきます。
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