本日二度目の投稿です。まだ前話を読んでいない方はそちらからどうぞ。
それでは、前話を読んだ皆さまは今話を読む前にご唱和ください。
最後に歌うよー
クルーゼとの戦いを痛み分けという形で終え、何とか無事にエターナルへと帰還した俺は、割り当てられた自室で少しの休息をとった。戦闘中はアドレナリンが出まくっていたのか、全く自覚はなかったが身体は相当に疲労していたらしく、ベッドに横たわってからものの数秒で眠りに着けてしまった。
そして次に目を開けた時、よく見知った二人が部屋にいた。
目を覚ました事に気付いた二人がこちらに視線を向ける─────が、そこにはいつ何時も浮かべていた微笑みはなく、硬い表情を以てこちらを見つめていた。
恐らく俺が寝ている間に、色々な事を知ってしまった後なのだろう。
「…」
二人から向けられる視線に耐えられず、顔を背ける。
どんな顔をして二人と目を合わせればいいのか分からない。いやそもそも、二人に顔を合わせる資格自体、今の俺にはあるのだろうか?
二人が怒るのも当然だ。二人が好きだ、愛してる等と聞き当たりのいい言葉を吐きながら、その実二人の事を信じ切れていなかった─────そんな酷い男なのだから。
「ユウ」
不意に名前を呼ばれる。同時に、背けた視線と反対側に誰かが寄り添って来たのを感じた。
ゆっくりと振り返った先で、厳しい顔でこちらを覗き込んでいたのはキラだった。
アメジストの瞳が真っ直ぐに向けられ、まるで射竦められたかの如く俺は動けなくなってしまう。
「き、ら…」
辛うじて口を動かし、声を詰まらせながらもキラを呼ぶ。
「見たよ。全部」
「─────」
全部、見た─────兄さんが、クルーゼが投げて寄越したファイルを持ち帰った事は知っている。だからもう色々と知った後なのだろうと予想はしていたが、その考えは正しかったらしい。
キラの後ろにいるラクスに視線を向ければ、彼女は何も言わないままゆっくりと頷いた。ラクスもやはり知ってしまった後のようだ。それとも、二人で一緒にあのファイルを読んだのか?
「ユウはあれを、知っていたんだよね?」
質問という形で言葉を掛けてはいても、すでにキラは答えを知っている。言い逃れは許さないと、厳しく向けられる目を前に、嘘や誤魔化しは決して効かない。
「そうだ」
首肯すれば、キラは微かに悲し気に表情を歪ませる。だけどすぐに厳しい表情に戻してから再び口を開く。
「初めから?」
「キラと会った時から」
「私がそうだって、最初から気付いていたの?」
「あぁ」
問い掛けに全て肯定していく。キラの顔が次第に、悲し気に歪んだまま元に戻らなくなっていった。
「どうして…言ってくれなかったの?」
「…知らずに済むならその方がいいと思ったからだ」
そう。あんな血と犠牲に塗れた真実なんて、知らない方がいいと─────心優しいキラが知る必要などないと、そう思ったから。だから、キラに真実を告げずにいた。
兄さんだってそうだ。あんなもの知らずにいられた方がいい。俺と同じで、親父の事を尊敬も何もしていないけれど、自分の知らない所であんな所業を犯していたなんて知ったら、間違いなくショックを受ける。だから事実を伏せていた。
その結果がこれだ。何かに導かれるようにキラと兄さん、クルーゼはあの場所へ入り、二人は真実を突きつけられる─────俺は何も出来ないまま、二人の心に傷が刻まれてしまう場面に遭遇する事しか出来なかった。
「ユウは…、私をずっと、辛い事から遠ざけようとしてたよね」
あぁ、確かにそうだ。初めはキラを戦いから遠ざけようとして、結局それは叶わず、だけどせめて無用な闇からは彼女を守ろうとして、それすらも失敗した。
結局、俺は余計な事ばかりしてしまう。それで色んな人を傷つけるのだ。
─────やはり、俺は君達の傍にいてはいけないのか。君達に痛みを齎す事しか出来ないのではないか。
「─────」
そんな風に思う俺の頬が、柔らかくも温かいキラの両手に包まれた。
ぶつかる視線と、呼吸さえ感じられる近い距離。
キラを傷つけている分際でありながら、可憐な顔が余りにも至近距離にまで近付いてきた事で思わず心が跳ね上がる。
少しの間、キラは硬い表情で俺を見つめまま沈黙を保ち続ける。しかしやがて、キラはふと表情を和らげたかと思えば、何かを諦めるかのように息を吐いた。
「…私、怒ってたんだよ?ずっと隠し事されて、何もかも最初から仕組まれてたんじゃないかって、どうしても疑いが拭えなくて─────絶対にユウから全部聞き出してやるって、思ってた」
「キラ…?」
「でも、ダメ。ユウの苦しそうな顔を見たら、そんな気しなくなっちゃった」
困ったようにキラは笑う。そんなキラの言葉と顔を前にして、俺はただただ驚きに包まれた。
「なんで…?」
ふと見れば、ラクスもキラと同じような顔をしていた。
何故─────聞きたくはないのか。俺が真実を知った経緯を、どうしてキラにそれを隠し続けて来たのか、その真意を。
それを聞き出す為に、二人はここへ来たのではなかったのか。
「聞かないのか、何も?」
「うん、聞かない。…ユウを苦しめてまで、聞こうとは思わない」
「俺はキラの事を傷つけたのに?」
「それでも…、私のユウを好きだって気持ちは、何も変わらなかったから」
─────好きな人を苦しめてまで聞きたくない。
自分を傷つけた相手にそう言ってのけたキラは、微笑みながら続けた。
「でも、これだけは覚えていて欲しい。…私、ユウに何を言われても平気だよ。それがどれだけ残酷な真実でも…、私は貴方の口から全部を聞きたい」
少しだけ首を傾けながら、まるで小さい子供に言い聞かせるようにしてキラは言う。
「だからいつか、ユウが話してもいいって思えるようになったら聞かせて欲しいな」
「っ─────」
改めてキラの強さを目の当たりにして、息を呑む。
どうしてこの子はこんなにも優しくて強いのだろう。…こんな子が、どうして俺なんかを好きでいてくれるのだろう。
俺には勿体なさすぎる。なさすぎる、けど…、今こんな事を本当は思っちゃいけないんだろうけど、どうしようもなく幸せだ。
「ユウ」
俺の頬から手を離し、その場から離れたキラと入れ替わり今度はラクスが傍へ寄り添ってくる。
ふわりと長い桃色の髪を揺らしながら、ラクスもまた、俺の鼻先の所まで顔を寄せて来た。
「…わたくしはまず、貴方に謝らなければいけません」
思わぬ前置きに、内心身構えながら次のラクスの言葉を待つ。
「キラにお話ししてしまいました。ユウの記憶の事を」
「え─────」
俺の記憶─────聞くまでもなく、初めて出会った時にラクスの中へと流れていった原作の記憶の一部だろう。
これまでラクスとの間に起こった共鳴の詳細について、誰にも話していなかったが、それを彼女はキラへ話したらしい。
キラに視線を向けると、彼女は無言で頷いた。
「─────そうか」
不安げに覗いてくるラクスへ、微笑みかけながらそっと流れる髪に手を寄せた。
「いつか話したいとは思ってたから、そこまで気を病まなくていいさ」
「ユウ…」
自分でも驚いている。ずっとキラへ話す事が不安で仕方がなかった。
いつかは話したいと思いながら、信じて貰えるか不安で、俺という存在を知る事でキラから向けられる視線が変わるのが怖かった。
もうすでに話し終えた後だから、あっさり諦めがついたのか─────それもあるかもしれない。
だけど、今の俺はキラには知って貰いたい。キラなら大丈夫だと、根拠はないけれど何故だかそう思う事が出来ていた。
「ユウ。わたくし達は、貴方を愛しています」
「え…う、うん」
何だか心地いい解放感にも似た感情に心が満たされていると、不意にラクスが愛の告白をしてきた。
すでに何度も、ラクスにもキラにも言われている事だが、未だに慣れない。きっとこの照れは二人に伝わっているんだろうと、更に羞恥を感じつつもラクスの次に続く言葉に耳を傾ける。
「わたくしもキラと同じ気持ちです。貴方の口から、全部を聞きたい。─────貴方の全てを」
「…」
だけど、確かに俺は二人に全てを打ち明けた訳ではない。
キラの事もそうだし、親父やフラガ家の事もそう。何より、
「そう思ってしまうのは、傲慢なのかもしれない…。それでもわたくし達は、貴方の全部を知りたい。そして、わたくし達の全部を知って貰いたいのです」
「傲慢なんて思わないよ。…むしろ、そう思ってくれてる事が嬉しい」
それは俺の偽りのない本心だ。二人がそこまで想ってくれる事が嬉しいし、幸せだ。
だから─────二人にここまで想われて、ここまで言わせて、何も応えないのは男じゃないだろう。
「うん…。俺も二人の全部を知りたいし、俺の全部を知って貰いたい。でも、まだちょっと怖いから─────悪いけど、もう少し待っていて欲しい」
我ながら臆病者だと笑いたくなるけど、それでもまだ踏ん切りがつかない。
だから─────と二人に話せば、二人は笑って許して、頷いてくれた。
今すぐにでも俺の事を問い詰めたいだろうに…、それを押して待っていてくれるという二人に愛おしさが溢れ出す。
こうして二人に惚れ直すのは果たして何度目か。会う度に、言葉を交わす度に好きという気持ちがどんどんと積み重なっていくようにさえ思える。
もう、ダメだな。本当に、この二人がいない世界で生きていくなんて考えられなくなってしまった。
だから、守ろう。クルーゼの憎しみに呑まれかけたあの時、二人が俺を守ろうとしてくれたように─────俺も、二人の事を絶対に守り通そう。
どんな敵が相手でも、どんな闇が立ちはだかろうとも─────絶対に。
─────と、普通ならここで話が終わり、良い話だったなーとしみじみと思いつつまた明日へと歩みを進めていくのだろう。
だが、今日はそうはならなかった。
「さて…、キラ」
「うん、ラクス。ユウの事を押さえててね」
「へ?」
正面からラクスに抱き着かれる。不意に身体を包む温かさと柔らかさにどぎまぎしながら、何事かと目を開閉させる。
「あの…二人共?急にどうした?」
「ユウ。確かにわたくし達は貴方の事を許しました。いつか貴方が打ち明けてくれる事を待つとも言いました。けれど─────」
「私達に何か、埋め合わせがあってもいいよね?」
「…」
よく見れば、ラクスは抱き着きながら俺の両腕の動きを塞いでいる。その間にキラが少しずつにじり寄って来るのが、不気味で仕方がない。
「ま、待て。埋め合わせをするのはいい。二人に悪い事をしてる自覚はあるし、それは当然なんだが─────二人は一体、何をお求めで?」
嫌な予感がする。フラガの勘がこのままでは不味いと激しく警鐘を鳴らしている。
ただ…ここで強引に二人を振り払って逃げるのは絶対にダメだという、謎の予感もまたある。
お、俺は一体どうすればいいんだ…?
とにかくまずは、二人が俺に何を求めているかを聞いてから─────
「オーブで私達がユウの部屋に行った事を覚えてる?」
「オノゴロでの戦闘の直前ですわ」
「オノゴロ…?─────あぁ」
質問に質問で返さないで欲しいというツッコミは今は置いておいて、二人の質問について頭を働かせ、そして記憶を至らせる。
覚えている。確かに、地球軍のオーブ侵攻が起こる直前に二人は俺の部屋に来た。
いや、あの時は本当に安らかに眠れたからな。二、三時間しか眠れなかったけど、起きた時はかなり身体が軽かった。
「覚えてるけど…それがどうかしたのか?」
「…あの時の私達、色々と覚悟してたんだよ?」
「は?覚悟…って、何の…?」
…ダメだ、さっぱり分からん。
全く考えが至っていない事を察したのか、キラとラクスは苦笑いをしながら溜息を吐いた。
「ユウはすぐに寝てしまいましたが…」
「結構複雑だったんだよ?私達」
「複雑…って…」
戦いに備えて機体の整備をして、くたくたになっていたからな。確かにすぐに寝たが、それで二人が複雑に思って、何で─────待って。
もしかして、
「い、いやだって!あれは…ていうか、そういう事をしたくて来てたのか!?」
「し、したかった訳じゃないよ!?そういう訳じゃないけど…」
「あの時、ユウに求められていたら受け入れる覚悟はしていました」
「…」
え、つまりあれなのか?あの時の俺は、据え膳を前にして睡眠を優先した…って事?
─────いや、あれで察しろは無理があるだろ。繰り返すけど身体はくたくただったし、あそこで二人とシてたら戦闘どころじゃなかったし!
「ですが─────今日は違いますわ」
「ら、らくす…」
俺に抱き着いたままのラクスが耳元に口を寄せて、静かに言う。
吐息が耳に当たり、擽ったさに思わず身を震わせる。
「うん。…今日は、寝かさないから」
「キラ…、いや、まっ─────「うぅん、待たない」」
キラが俺のすぐ左側へ寄り添ったと同時に、ラクスが身を離す─────かと思えば、ラクスは俺の右腕を、そしてキラは俺の左腕を抱えたままベッドマットへと身を倒す。
「ユウの事を聞くのは待つけど、私達の事を知って貰うのは、別に待たなくてもいいでしょ?」
「ですのでまずは、わたくし達がユウの事をどれ程愛しているのかを、改めて知って頂きたいと思います」
「…えぇっと」
体勢的にはあの時と─────二人と過ごしたオノゴロでの夜と同じだった。
あぁ、そっか。あの時の俺は疲れ果ててそれ処じゃなかったけど…確かにこれは、女の子側は色々と覚悟していても可笑しくないな。
ていうかこの状況で睡眠を優先するって、あの時の俺はどんだけ疲れ果ててたんだ…。逆によく眠れたな、こんなの。
「じゃあ、俺も」
ならば今度は…この据え膳は、有り難く頂くとしよう。二人がそう望んでいるのなら、俺だって、二人となら一つになりたいから─────
「二人の事をどれだけ好きなのか、知って貰おうかな」
身を寄せて来た二人を抱き締める。
両脇に感じる、最早暴力的ともいえる柔らかい感触と温もり─────俺も色々と限界を迎えていた。
二人を抱き締めながら思う。
あれだけ怖がってたけど─────やっぱり、知って貰いたいな。
私の中に貴方がいます。貴方の中に私はいますか。
わたくしの中に貴方がいるという喜び、貴方の中にわたくしがいるという力。
貴方は未来が分かるというけれど、未来なんてほんの小さな事が切っ掛けで変わるものだから。
だから、わたくし達と手を繋いで一緒に歩きましょう。
私達は知りたい、貴方の事を。
わたくし達は知って欲しい、わたくし達の事を。
話して。貴方の心にあるたくさんの事を。小さな事を。
話します。わたくしの心にある、たくさんの小さな事を。
だから─────怖がらないで。
わたくし達は、どんな貴方でも受け入れますから─────。
温もりと優しさに満ちた感覚が、身も心も一つにした三人を包み込むのだった─────。
暗闇の中、一人の男がいた。
部屋の中にある光は、男の目の前に映されるコンピュータの画面のみ。
「─────」
男はコンソールを人差し指で叩く。
画面には
男がワイングラスを口につけ、傾けたその時、画面に
それを見た男は、滑らかな味わいの液体を喉へ通してから嗤う。
さあ、これを受け取った奴らは果たしてどんな行動に出るか。
男の予想通りなら─────否、予想も何も分かり切っている。愚かな連中が
脳裏に近い内に起こるであろう惨劇を思い浮かべながら、男はもう一口ワインを口の中に含む。
─────誰にも知られず、
「乗り越えてみせろ」
やーっと書けました3R。
いや、ここまで来ると感慨深いものがありますね。書ききった時、頭の中で歌が流れましたもんね。
そのまま完!ってなりそうな終わり方でしたけど、まだ続きますよー…え?最後?
…さあ、何の事やら?
─────という事で、SEED編最終章突入です。