オーブから持ち出した部品を宇宙で組み立て、ようやくとある機体が完成した。
MBF-02ストライクルージュ─────ストライク補修の際、モルゲンレーテで製造した予備パーツをエリカ・シモンズらが、クサナギの中でモビルスーツに組み上げたのだ。
機体フレーム、武装はストライクと同一、現在はエールストライカーを装備している。
─────当初は、大破したスピリットの補修の為にこれまた大量製造された予備パーツを組み立てる予定であったのを、搭乗できるパイロットが余りにも限られるという懸念の為に、急遽ストライクをベースとした機体へと仕上げる方向へシフトしたのは、また別の話である。
パワーエクステンダーが搭載され、運用時間、PS装甲の強度が従来のストライクよりも格段に向上したこの機体は、いずれ来る大きな戦いへ大いに力になり得るだろう。
さて、そんなストライクルージュのパイロットにはカガリが選ばれた。というよりも、この機体は彼女の専用機として造られたものなのだが─────そんな彼女はというと、慣らし運転を終えてクサナギへ戻るや否や、とある人物を伴ってエターナルを訪れていた。
「…おい」
「なんだよ」
「何故、俺までこんな所にいる?」
「し、仕方ないだろ…。一人じゃ心細いんだからさ…」
「何が仕方ない、だ。…戯けが」
「な、なんだとぉ!?」
艦内の廊下を並んで歩く二人の
ただ目的の人物達と話をしたいだけなのに、一人で行く勇気が持てず付き添いを頼んだ手前抱いていた申し訳なさが、カナードの余りにもハッキリとした態度に気恥ずかしさがカガリの中で上回ってしまう。
「大体、お前だって
「いや、俺は無理やりここに連れて来られただけ─────」
「ここまで来てるのがその証拠さ!なぁ、カナード!?」
「ヒトの話を聞け」
真顔のカナードへ必死になって言い募るカガリ。
さて、騒ぐ二人─────というよりは、騒ぐ一人とそれを聞き流すもう一人を置いておいて、何故二人がエターナルに来ているのかを説明するとしよう。
それは先程カガリが口にした
カガリは今日ここに来る前に、先日エターナルを訪ねていた。その時はムウも一緒に、彼がメンデルの研究施設から持ち帰ったファイルに書かれた内容についてユウ達に聞く為であった。
あの時のカガリの頭の中は混乱の極みだった。自身と父の間に血の繋がりがない事は知っていたが、本当の父親についての情報が舞い込んでくるのが余りにも突然過ぎた。
しかも、友として何ら疑いも持っていなかったキラが実は自分と双子の姉妹だったなんて─────キラも同じように混乱しているだろうが、それでもどうしても話を聞きにいきたかった。
『あ、うん。そうみたいだね』
なお、キラからの最初の返答はこれ以上なくあっさりとしたものだった。
カガリとしては、足元が崩れ落ちていくかのような感覚にさえ陥ったというのに、真実を目の当たりにした筈の双子の片割れは、何とも呆気なく受け入れた様子だった。
自分が考えていた反応とは真逆のもので、思わず思考を固まらせてしまったのを今でもカガリは覚えている。
というより、そのあっさりしすぎな反応は何なのか─────我に返ったカガリが勢いよく問い詰めれば、丁度ムウとの話を終えてやって来たユウと目を見合わせながら、キラは彼と声を掛け合った。
『生みの親が誰でも私は私だし…ね?』
『あぁ。キラはキラだ』
『…』
キラの言う事は尤もだとカガリは思った。生みの親が誰であろうとも、カガリを愛し、慈しみ、育ててくれたのは紛れもないウズミであり、それは絶対に変わらない。カガリにとっての父親は、ウズミ・ナラ・アスハただ一人である─────キラから言われた事で、カガリはその事を再認識させられた。
だがそれはそれとして、キラとユウの間に流れる空気の変化にカガリは敏感に感づいたのだった。
ユウを見るキラの目が、艶色に潤んでいた。キラを見るユウの目が、愛おしさに満ちていた。
キラと話していたのは自分の筈なのに、ユウはただついてきただけなのに、まるで自分が邪魔者であるかのような空気に、あの時のカガリは居た堪れなくなった。
変わったのはキラだけではない。前回エターナルに来た時、カガリはキラとユウだけでなくラクスとも出会ったのだが─────彼女の雰囲気もまた、キラとユウ同様に変わった事にカガリは気が付いていた。
「絶っっっっっ対に何かがあったんだ…。お前もそう思うだろカナード!?」
「下らん…。そんなものが知りたいのなら一人で行け。俺は帰らせて貰う─────」
「俺もそう思うぞ、嬢ちゃん…」
回想&カナードへの説明を終え、改めて同意を得ようとするカガリと、それを一蹴しようとするカナードの背後からヌッ、と何者かの影が現れた。それと同時に聞こえてくる男性の声に、二人は弾かれる様にして背後へ振り返った。
「お、オッサン!?」
「オッサンじゃない」
そこには目元に影を作りながら、ただ事ではない表情のムウが立っていた。
いつの間にこんなすぐ近くまで来ていたのか─────全く気配を感じさせなかったムウに、カナードも目を見開き驚愕を隠し切れていなかった。
「それよりも嬢ちゃん、俺もアンタに同感だ。…あの三人、匂うぜ」
「っ─────!」
「…?」
二人の間に割り込み、周囲を窺いつつ声を潜めながらムウが言った。カガリの目がカッ、と見開かれ、カナードはムウが何を言っているのかさっぱり分からない様子で首を傾げる。
「オッサンも、何かあるって思うか!」
「オッサンじゃ…いやそこはいい。あぁ、思うね。…俺もユウに問い詰めたんだよ。そしたらさ─────」
当時の情景を思い返しながらムウが語る。
『話すのが怖くてさ。兄さんの事を信じられなくて、ごめん』
途中までは苦笑いをしながら、しかし最後は真摯に頭を下げて、ユウはムウへと謝罪をした。
ムウとしてはもっとこう、葛藤するユウを時間を掛けながら説得をして、改めて兄弟の絆を確かめうという…そういう場面を想像していた。なお、実際の所、何だかユウはすでにスッキリした顔つきをしていたし、ムウの説得も必要ないままに謝罪と、ユウが知る限りのフラガ家に関する真実をあっさりと教えてくれた。
因みにもう一つの─────ユウの実の父親がクルーゼであるかもしれない事についても。
『親が誰でも俺は俺だし。あいつを止めないといけない事も、何も変わらないよ』
と、殆どキラと同じ事を口にしていた。
ショックを受けているとばかり思っていたユウへ、掛ける言葉をあれやこれやと考えていただけに、素知らぬ所で吹っ切れていたユウに思わぬ肩透かしを喰らったムウは、『あぁ、そう…』と返すのがやっとだった。
その後ムウもまた、カガリと同じくユウとキラのやり取りを耳にした。そこにラクスも加わった、三人の間に流れる空気を感じ取り、ムウは確信に至った。そしてムウはげんなりした。ユウがラクスと共にアークエンジェルへ帰還した時からもう諦めてはいたが、改めて現実直視させられる事となった彼の胃はキリキリと痛みを発していた。
「クソッ…、使用人達に何て説明する気だあいつは…。あの人なんて、話を聞いたら卒倒するんじゃないか…?」
「…何をぼそぼそ言ってるんだ?もしかして、アイツらの空気が変わった理由を知ってるのか?」
掌で自身の頭を覆いながら、いずれ全てが一段落した後に訪れる、避けようのないとある現実を先に見向きしてしまったムウへ、カガリが問い掛ける。
ムウの様子を見て、彼が何を話しているかはさっぱり分からないがそれはそれとして、ユウ達の空気の変化の原因に心当たりがあるのではとカガリは予想を至らせた。そして、その予想は実際的中している。
「あぁ…。まあ、本人に聞いた訳じゃないが、十中八九アイツらは
「「…?」」
ハァ、と憂鬱そうに溜め息を吐きながらのムウの答えに、その意味を計りかねたカガリとカナードが揃って首を傾げる。
それを見たムウは、「あー…」と声を上げながらガシガシと頭を掻きつつ何と説明したらと吟味をして、やがて口を開いた。
「えーっと…、あれだ。
「─────っ!!!?!!!?」
「………???」
カガリも流石にその言葉の意味はしっかりと理解できたらしく、数拍置いてから頭から煙を吹きながら顔を真っ赤にさせた。
一方のカナードは、未だに頭に疑問符を浮かべている。
「なななななっなっな…、何を言ってるんだアンタはぁっ!!?」
真っ赤になった顔のままカガリが喚く。それに対してムウは、お子様へ向けて冷静に説く。
「だがあの雰囲気の変わりよう、それくらいしか考えられねぇだろ」
「…それは」
「俺だって、こんなの信じたくねぇよ。けど、状況がそうだと語ってるんだから、仕方ねぇんだよ…」
ムウの説明に納得し切れない部分はあれど、決してそれが世迷言ではない事はカガリとて理解していた。
徐々に思考が冷静を取り戻していき、真っ赤だった頬も幾ばくか色が収まっていく。しかし─────あのキラとラクスが、と考えるとやはりどうしても、頬に熱が集まるのが止められなかった。
「おい、さっきからお前達は何を話している?」
どれだけ考え直してもムウの言う通り状況が語っている─────そう納得せざるを得ないカガリの隣で、もう一人のお子様が口を開いた。
カガリと違って、ムウが何を言っているのかさっぱり理解できていなかったカナードである。
「…君、カガリよりも年上だよな?今ので理解できなかったのかい?」
「俺をバカにしてるって理解でいいのか?」
心なしかムウの口調が幼い子供へ向けられているかのようで、それを察したカナードが額に青筋を立てながら言葉を返す。
慌てた様子でムウが頭を振りながら「よくないよくないよくない」と連呼し、大きく息を吐いてからカナードへ顔を寄せ、人差し指を立ててちょいちょいと手招きする。
「ごにょごにょごにょごにょごにょごにょごにょ…」
「…─────」
「…」
眉を顰め、怪訝な顔をしながらもカナードがムウへ耳を寄せる。ムウが声を潜めて、カナードの耳元であれやこれやと説明しているのを、カガリは気恥ずかしさから見ないようにしていた。
何が悲しくて、男同士で他人の恋愛事情、それもかなり深い事情について話し合っているのを見なければならないのか─────。
ムウの説明が進む毎に、カナードの目が見開かれていく。
「か、カナード?」
話を終えたムウが距離を取っても、カナードは目を丸くしたまま呆然とし続けていた。それを見ていたカガリがおずおずと呼び掛ける。
するとカナードの目が鋭く吊り上がり、そしてその足でどこへやら歩き始めた。
「お、おいっ!どこに行く気だ!?」
「ユウ・ラ・フラガを探す」
「は?いや元々そのつもりだったけど…、何だって急にそんな乗り気になってるんだ?」
先程ムウから話を聞いていたのは十中八九、大人の階段の意味についての説明だろうとカガリは当たりをつけている。
しかし、その話の一体何が、カナードをここまで駆り立てているのか─────カナードはカガリの問い掛けに答えようとせず、肩を怒らせながらずんずんと足を進めていく。
「おい坊主、ちょっと待て」
そこに待ったを掛けたのはムウだった。カナードの肩に手を置き呼び止めるが、直後にカナードによって勢いよくその手を振り払われた。
カナードの足は止まらない。ムウはそれを想定済みだったのか、特に気分を害した様子はなく、一つ息を吐いてから再度カナードに呼び掛けた。
「お前がしようとしている事は、キラが望んでいる事か?」
「─────」
今度こそカナードの足が止まる。先程まで全身から発せられていた怒気が一端の収まりを見せる─────僅かではあるが、冷静さを取り戻したらしい。
「キラって…」
「ったく…。まるで妹を溺愛するお兄ちゃんだな、お前は」
「─────チッ」
要するにカナードは、キラに手を出した(かもしれない)ユウが気に入らなかったのである。
そこにどんな理由があるのかまでは分からないが─────もしかしたらキラに手を出しておきながら、
どちらにしてもその姿は確かにムウの言う通り、まるで妹を溺愛する兄の姿の様にも見えた。
そういえば、とカガリはかつてカナードと交わした会話について思い出す。『─────妹みたいな奴が、いる。二人…』と、カナードは前に自分に言った。
カナード自身、あまり話したくない様子だったし深くは聞かなかったが、その妹みたいな奴の一人というのがキラだとカガリは当たりをつけていた。
ならば、もう一人は─────?
カナードが妹みたいと言っていた人物がキラならば、残るもう一人は一体誰なのか。
先日カガリが知った真実─────自分とキラの関係─────双子─────それならば、カナードの言う妹みたいな奴のもう一人というのは…?
「因みにお前、俺が止めなかったらユウに何をするつもりだったんだ?」
「切り落とす」
「何を!?」
「…」
自分が割と真剣にシリアスな思考を回しているというのに…、男二人が阿呆な会話(片方は真剣)をしているのを聞いていると、色々と馬鹿らしくなってくるカガリであった。
実の所、カガリは妹をずっと欲しいと思っていたし、兄という存在にも憧れがなかった訳でもなかった。キラとカナード─────二人が本当に兄妹ならば、喜ばしいと思う。
「あれ…、カガリ?カナードに、ムウさんも?」
「三人で何を話していらっしゃるのですか?」
そんな時、話の渦中の二人が現れるのは神の悪戯ともいうべきか。話し込むカナードとムウ、そしてカガリの背後から可憐な声が投げ掛けられた。
言うまでもない─────たった今三人の話題に挙げられていたキラとラクスである。
「キラ、ラクス…」
「…えっと、カガリ?どうしたの?」
「カナードさんとムウさんも、神妙な顔をしていらっしゃいますが…どうかなされたのですか?」
たった今ここへ来たキラとラクスには当然、今まで三人が何を話していたかなんて分かる筈もない。
だが一方の三人としては、勝手な邪推をしながら名前を話題に上げ、好き放題話していたという罪悪感が湧く。流石のカナードも、無礼な事をしていたという自覚はあるのだろう。二人の顔を真っ直ぐ見る事が出来ないでいる。
「─────えぇい!男は度胸、何でも聞いてみるもんだ!」
「お、オッサン…!」
「オッサンじゃない!」
だが、どれだけここで信憑性の高い説が挙がろうとも、実際に当事者に話を聞かなければ確証は得られない。
そしてムウは、その確証がどうしても欲しかった。─────義妹が一気に二人増える可能性があるのだという考えを過らせながら、この先戦える自信など到底ありはしなかった。
二人の期待を背負い、力強く足を踏み出すその背中はまさに漢のもの─────意を決し、ムウ達を纏う謎に緊張感に溢れた空気感は何なのかと首を傾げるキラとラクスへ、ムウは口を開くのだった。
「…二人共、ユウと何かあった?」
「「…」」
あれだけ意気込んだ割に、ムウの聞き方は回りくどいというか、もっと直接的にドカンと聞いて欲しかったとガッカリするカガリとカナードであった。
いや、直前のムウの意気込み方が凄まじかった故のギャップがあるだけで、この聞き方も切り込み方としてはかなり踏み込みが深いのだが…。
「「─────」」
ムウに問われたキラとラクスが目を丸くして、二人で互いに顔を見合わせる。
その反応の仕方に、ムウの僅かな尻込みのせいで弛緩していた三人の空気に再び緊張が奔る。
時間としてはほんの数秒、されど三人にとっては今まで生きてきた中で最も長い数秒が過ぎた後、アイコンタクトを終えたキラとラクスが視線をムウ達へと戻す。
そして微かに頬を染めながら口を開くのだった。
「これからはムウさんの事を、
キラが恥じらいながらムウへ尋ねる。
尋ねられたムウの表情がピシリ、と凍り付く。表情を固まらせながらも、彼の脳内では急速に思考を巡らせていた。
ユウと何かあったかという問いに対してその答えを返したという事は、つまりムウを義兄と呼ぶ事にならざるを得ない事をキラはユウとしたという事だ。しかも、その隣にいるラクスもまたキラと同じように頬を染めている─────とするならば、彼女もキラと同じ事をユウとした可能性が高い。
つまり─────つまり、ユウは……………。
「きゅう」
「─────」
「お、オッサン!カナードまで!?」
ふらりと身体を揺らして倒れるムウ。ついでにカナードもムウと同じく思考のオーバーヒートを起こして気を失った。
ムウと一つ違うのは、倒れ込む前にカガリに支えられた事だが、まあそこはさして大事でもない。
「あらあら…」
「えっと…、やっぱりお義兄さんは早いかな?」
「ですがいずれ、わたくしもキラもこの方にとっての義妹になるのですから、お知らせするのは早い方が良いと思いますわ」
「…でもムウさん、気を失っちゃったよ?やっぱりまだ早かったんだよ」
「むぅ…」
「…」
そこじゃねぇよ、と全力で声を上げたいカガリだったが、それを抑える事に成功した。
キラとカガリは気を失ったムウの傍らでしゃがみ、目を覚ましたら謝りに行こうなんて呑気に喋っている。
止めておいた方がいい。多分また、ムウは気を失う。彼が現実を受け止める覚悟が出来るまでは、それがエンドレスに続く事になるだろう。ムウにとっては地獄以外の何物でもあるまい。
というかキラもラクスも、カナードの方は気にも留めない。哀れ、もう一人の兄─────。
「…お前らホント、凄ぇよな」
「「?」」
自分達がしでかした事の大きさに何ら自覚もなく、カガリに苦笑交じりの言葉に対して揃ってキラとラクスは首を傾げる。
それを見たカガリはまた、苦笑を深くさせるのだった─────。
こうして彼らの一日は過ぎていく。
メンデルの激闘から、再び戦局が動き出すまでの二ヶ月という空白─────これはその中の何気ないとある一日の話であった。
シリアスが続いた後のちょっとした息抜き回でした。なお、ここからはラストまでずっとシリアスが続きます。是非もないね…。
それと明日ですが、こちらはまず間違いなく投稿できません。明後日はもしかしたら一話だけ投稿できるかもしれませんが、あまり期待しないでください。
最終章に突入するという所で早速躓いてますが、とりあえずSEED編が終わるまでは出来るだけ間が空かないよう投稿を続けていきたいと思っていますのでお付き合いください。
あと最後に一つだけ。ネタバレにほんの少しでも繋がる事を書きたくないというのもあり、返信がかなり雑になっていますが、皆さんの感想が本当に嬉しいです。執筆のモチベーションに滅茶苦茶繋がってるので、これからも遠慮なく感想を下さると嬉しいです。