本日二話目の投稿です。まだ前話を読んでいない方はそちらから先にお読みください。
地球軍艦隊とプラント防衛軍の間では、すでに戦端が開かれていた。
アスランはジャスティスを駆り、激戦の中でも最前線に立ちすでに何機もの敵を屠っていた。二本のビームサーベル柄頭を連結させたアンビデクストラス・ハルバードを振るい、襲い掛かるダガー隊を次々に切り捨てていく。敵部隊の後方から砲撃を撃ち掛けて来る輩に対しては、リフター前部のフォルティスを撃ち返していく。
彼らの後方には銀色に輝くプラント群が見える。この防衛線を抜かれれば、プラントまで敵の侵攻を阻むものはないという、絶対に一歩も退く訳にはいかない中で、アスランは獅子奮迅の戦いぶりを見せていた。
それを見て、奮い立つ者は少なくない。かつてアスランと同じ隊の下で戦った、イザークとディアッカもその中の一人だ。
「おうおう、すげーなアイツ…」
「無駄口を叩いてる暇はないぞディアッカ!この戦い、決して敗れる訳にはいかんのだ!」
「分かってるって!」
デュエルを駆り、敵陣へ斬り掛かっていくイザークと、その後方からバスターの砲撃を撃ち放ち援護をするディアッカ。
この二人の戦いぶりもまた、アスランと同様に他者の勇気を湧き起こさせていた。
「私達も隊長に続きますよ!」
「「「了解!」」」
イザーク率いるジュール隊の面々が、シホを筆頭に敵陣へと迫る。
ジュール隊だけではない。他のモビルスーツ隊が士気を上げ、勢いよく飛び出していく。
周囲のダガーを斬り、撃ち、少しずつ地球軍のモビルスーツ隊を押し戻していく。
戦いはプラント陣営が優勢に進んでいく。だがこのまま終わる程、敵側も甘くはない。
「あれは…!」
最初に気付いたのは未だ最前線で敵を落とし続けるアスランだった。
背中にマウントされた巨大な砲を放ち、一気に二機のジンを沈めてみせたカラミティ。曲がるビーム砲でモビルスーツ隊が密集した宙域を狙い、数機の僚機を貫いたフォビドゥン。凄まじい機動力で戦場を飛び回り、両手に握る二刀で敵を切り裂いていくリベルタス。
ボアズでの戦闘で遭遇した、地球軍の新型GATシリーズ。それらへ向けてアスランはフォルティスを立ち上げ撃ち掛ける。
攻撃の手を一旦止め、回避に移った三機はそれぞれの方向へと散開。真っ先にアスランへと反撃の砲撃を撃ち返してきたのはカラミティだ。
距離が離れてる分、余裕を持って躱してみせたジャスティスへ、今度はリベルタスが光の翼を広げて斬り掛かって来る。
『また邪魔をする気!?』
「何を当たり前のことを!」
リベルタスの斬撃をシールドで受け止めながら、接触回線を通して衝動を敵パイロットと吐き合う。
シールドを翳しつつ、もう一方の手に握ったハルバードを振るえばリベルタスは自身との距離を取る。後退したリベルタスは片方のサーベルをマウントすると、背部から巨大な砲を取り出し、腰溜めに構えてジャスティスへと砲撃を撃ち掛けた。
対するアスランも機体を駆り、旋回しながらリベルタスへと照準を合わせてフォルティスを撃ち放つ。
周囲の僚機を置き去りにして、二機は互いに放火を撃ち交わす、かと思えばジャスティスが放たれる砲火を潜り抜けて迫ると、リベルタスが応じて刃を振るう。
「アスラン!」
「イザーク、すまんがディアッカと一緒に残りの二機を頼む!」
「俺に命令をするな!─────言われなくともそのつもりだ!」
リベルタスと交戦しながら最前線から少しずつ離れていくジャスティスへ、イザークが通信を掛けてくる。
プラントを守る為には、この機体に好き放題動かれては堪らない。かといって、残りの二機も決して侮れるものではない。だからアスランは、信頼できる二人の仲間へと託す事にした。
悪態を吐きながらもアスランからの要望に了承したイザークは、ディアッカと共にカラミティとフォビドゥンとの交戦に入る。
『悪いわね。…アンタに付き合っている暇は今の私にはないの』
「なに…?」
スピーカーから届くその言葉に疑問符を浮かべながら、アスランはシールドを持ち上げリベルタスから放たれるライフルの銃撃を受け止めた後、続けざまに撃たれたフォティアの砲撃を機体を翻して躱す。
「なっ…!?」
回避行動の後、改めてリベルタスと向き合おうとしたアスランだったが、突如敵機が反転して自身から離れていくのを見て愕然とする。
どういうつもりだ─────ここに来て、逃げるのか?疑問に思うアスランだったが、リベルタスが向かう先─────メビウスの編隊がプラントへ向かっていくのを見た時、背筋を凍らせた。
「まさか─────っ!?」
拡大映像をモニターに映し、そしてそれらの機体が例外なく巨大なミサイルを運んでいるのに気付く。
何かを考える前にアスランは機体を動かす。相手の掌の上で踊らされていたという悔恨に身を焦がしながらも、メビウス隊に追い縋った。
核ミサイルを運ぶメビウス隊からジャスティスを遠ざける─────敵の狙いは最初からそれだったのだ。その事に気付かず自身は間抜けにも、リベルタスを押さえる事ができればと、敵の狙い通りに交戦に応じてしまった。
だが、まだだ。この場にいるのは何も自分だけではない。
「あのメビウス隊を落とせ!核ミサイルを持っているぞ!」
宙域にいる僚機へと通信を一斉に繋げて呼び掛ける。
アスランの叫びに気付いたジンが、メビウス隊に機銃を向けようとしたが、それを放つ前にリベルタスが放ったビームに貫かれ爆散する。
別方向から向かうゲイツもまた、リベルタスのフォティアによって貫かれてしまう。
「くそっ…!」
アスランの呼び掛けに、イザークとディアッカもまた当然気付いてはいるが、カラミティとフォビドゥンによってメビウス隊に近付く事ができない。
ここでようやくジャスティスが追いつくが、銃口を向けるその前にリベルタスが立ちはだかる。
『もう遅いわよ』
無機質な少女の声が発せられたと同時、先頭のメビウスが遂にミサイルを発射した。
「くッ…!」
それを皮切りに、メビウスは次々とプラントへ目掛けてミサイルを放っていく。それでも尚、アスランは諦めずリベルタスの突破を試みる─────が、ジャスティスの機動力でもリベルタスを振り切るのは不可能だった。
『往生際が悪いわね、もう諦めなさい。…その目に焼き付けるといいわ。貴方の故郷が、宇宙の藻屑になる様を』
「ふざけるなっ!」
力強く叫びを返すも、放たれたミサイルの侵攻を妨げるものは存在しない。アスランの視界には、先頭の一発が整然と並ぶ宇宙の砂時計に達しようとしていた。
─────ニコル…、すまない。俺は…。
プラントへ迫るミサイルも、あれだけ目に留めるのすら苦労する程に素早かったリベルタスの動きも、何もかもがスローモーションに見える世界の中で、意味を成さない懺悔をする。
掛け替えのない仲間の一人で、アスランが知る者達の中で最も純粋に、大切な何かを守ろうとしていた少年へ向けて─────彼が守ろうとしたものを守り通せなかった自分の弱さを悔やみながら、アスランはせめてその結果から目を背けてなるものかと意を決した。
「─────」
直後、アスランの背後から数条のビームと何十発ものミサイルが放たれた。それらはジャスティスとリベルタスも追い越し、プラントへ向かう核ミサイルへと襲い掛かる。プラントの手前でミサイルは閃光を発しながら爆発し、周囲のミサイルを誘爆させながら光は更に広がっていく。
モニター画面を満たした光が消え去った時、アスランの目にはただの一基も失われず、無傷のままで残されたプラントが映ったのだった。
「あ─────あぁ…」
全身から力が抜ける程の安堵を覚えながら、アスランはか細く声を漏らす。
何が起こったのか、まだ理解が追い着かない。それは敵も同じらしい。
身体に力が戻らず、呆然と動かないアスランに対して攻撃を仕掛けて来ないリベルタスもまた、無傷のプラントを見つめたまま固まっていた。
そんな彼らを、小型の宇宙艇と見間違いそうになるほどの巨大な何かが、矢のように追い越していった。
「キラ…、カナード!?」
通り過ぎていく白いユニットの中心部には、見覚えのある機体があった。
フリーダムとハイペリオン─────それぞれ同じ強化パーツを身に着けた二機が、この戦場に現れプラントを救ってくれたのだ。
─────救った?俺達を…?あいつらが…。
信じられない思いと同時に、アスランはどうしても心の内から溢れ出す感慨を抑えられなかった。
『地球軍は、直ちに攻撃を中止してください!』
「ラクス…!?」
そして、この場に現れたのはキラとカナードだけではなかった。
戦闘宙域に近付く新たな四隻の戦艦─────アークエンジェル、エターナル、ドミニオンにクサナギ。
混沌とした戦場には似つかわしくない涼やかな声が響き、アスランはその声の主に即座に思い当たり、驚きの声を上げる。
『貴方方は何を撃とうとしているのか、本当にお分かりですか?』
『この声…』
『ラクス様だ!』
余りに耳に馴染んだ歌姫の声に、他の兵士達も驚きを隠せない。
自分達を裏切り、敵に情報を売り渡した筈の彼女が何故─────驚愕に硬直する彼らだったが、敵がラクスの言葉に耳を傾ける筈もなかった。
地球軍の軍艦から新たに続々と、核ミサイルを搭載したメビウス隊が発進していく。
アスランはハッと我に返り、そちらに機体を向けた。
「このっ!」
咄嗟にマルチレーダーを降ろし、放たれたミサイルの数と位置を把握しながらロックオンを行う。
ビームライフルを取り、二門のフォルティス砲と合わせて同時に撃ち放った。
三門の砲門を連射して次々とミサイルを撃ち落としていくが、手数が足りない。アスランが撃ち漏らしたミサイルが尚もプラントへ向かっていく─────その時、アスランは同じように迎撃しているのがザフト機だけでない事に気付いた。
見慣れた白い機体ストライクと、黒くカラーリングされた同型ストライクがそれぞれの砲撃でミサイルを撃ち貫いていく。こちらも見慣れたスピリットがビームライフルを構えており、そしてゼノスが腹部の砲門からビーム砲を放ってミサイルを薙ぎ払っていく。
そして巨大な追加装備を保持するフリーダムとハイペリオンが砲弾を放ち、残ったミサイルを全弾叩き落とした。
─────何故…。
地球軍と敵対し、プラントの手を振り払い、その果てに彼らはこんな事をしている。
果たしてその真意は何なのか─────もし彼らがプラントに仇なすつもりでないのなら。この戦いを善しと思わず、止めようとしているのなら。
話したい─────キラと、カナードと、ラクスと…ユウとも。話して、その真意を確かめたい。
戦う覚悟を定めていてもその心の奥底では─────彼らと銃を向け合いたいなど、決して思ってはいないのだから。
「っ─────」
第三者の突然の乱入に硬直していた戦場が再び動き始めた時、ジャスティスにレーザー通信が届いた。
画面に映し出される文─────それは全軍へ向けて、退避のを命じるものであり、そしてアスランは次の一文に目を見開いた。
「
アスランは退避を始めているザフトのモビルスーツ隊や艦隊の中で対空するフリーダムとハイペリオンへと目を向ける。
気付いたその時には、彼の手は通信機器の操作を始めていた─────。
今回の戦場には機体の整備の為に出撃はせず、ヤキン・ドゥーエの制御室にパトリックと共に詰めていたクルーゼの元にも、戦況は齎されていた。プラントへ向けて放たれた核ミサイルを自軍と共に撃ち落とした者達が、裏切り者と思われたラクス・クラインの一派であるという事もまた、彼らの耳に届けられていた。
報告をしたエザリアも混乱している。プラントを裏切り、NJCの情報を地球軍に売り渡した筈の彼らが、何故今になってプラント擁護の立場に回るのか─────しかし、パトリックはその情報を鼻先で笑い飛ばした。
「ふんっ!小娘が、小賢しい事を…。構わん、放って置け」
彼はこれを自作自演の茶番劇とでも考えたらしい。わざわざプラントの危機を演出し、絶体絶命の所で現れ、自らその危機から国を救う─────そうする事で英雄となろうとしているのだと、パトリックはラクスに対してそうだと断じたのだ。
「こちらの準備もたった今、完了した」
─────そうだ。貴様はそれでいい。
皮肉な笑みを浮かべるパトリックへ、クルーゼもまた密かに同様の笑みを浮かべながら内心で呟く。
どこまでも愚かな操り人形から視線を外し、クルーゼは通信機に向かって警告を発し始めたオペレーター達を見下ろす。
「ジェネシスは最終段階に入る。全艦射線上から退避!」
それからクルーゼは今度は視線を上げた。巨大なモニターが並ぶ中、要塞の脇で突如姿を現した巨大な物体を映し出す一つを見つめる。
「フェイズシフト展開」
オペレーターの声と共に、暗い鉄灰色をしていた巨大なミラーが磨かれた様に輝く銀に、基部が白く色づく。
この巨大な構造物の全体にはPS装甲が施されており、直前までモニター画面に映されていなかったのは、ブリッツから転用したミラージュコロイドを展開させていたからだった。
稼働前はミラージュコロイドで敵軍から存在を秘匿し、稼働を始めてからもPS装甲によって固い防御を誇る─────ジェネシスと呼ばれたソレの発射シークエンスが粛々と続けられる。
「NJC機動。ニュークリアカートリッジを単発発射に設定」
「全システム接続─────オールグリーン」
オペレーターの最後の一言に、室内が緊張に満たされる。
この場にいる誰もが、このジェネシスが持つ火力を理論上とはいえ知っているのだ。
一度放たれれば、敵へどのような損害を齎すか─────ジェネシスが放つ光に晒された時、人がどうなるのかを知っているからこそ。
「思い知るがいい、ナチュラル共!」
勝ち誇った笑みを浮かべて叫ぶパトリックの声を聞き、息を呑む。
「この一撃が、我らコーディネイターの創生の光とならん事を─────」
幸いは、発射後の光景を焦がれる余り、傍らの部下の様子の変化にパトリックが全く気付いていない事だ。
本当に─────愚かで、使いやすく、必死に踊り狂う様は思わず応援でもしてやりたい程だ。
─────貴様の様な人間が、世界を滅ぼすのだよ。
「発射!」
最後に一瞬、仮面の奥から侮蔑の視線を向けられている事にも気付かないまま、パトリックは思惑のままに命令を下した。
筒状になったミラー基部の奥、カートリッジの内部で核の巨大な力が弾け、強烈な閃光が発せられた。その光は一度、正面の円錐型の反射ミラーに集められ、次に巨大な二次反射ミラーに跳ね返されて迸る。
太く強烈な光が瞬く間に戦場を駆け抜け、貫いた。射線上にいた地球軍艦艇は、その白い光に晒されただけで次々と融解し、砕け散り、爆発していく。
その圧倒的光景に息を呑む者達が殆どの中、クルーゼは昏い目でその様子を眺めるのだった。
『下がれ!フリーダム、ハイペリオン!』
「アスラン…?」
核ミサイルを全て迎撃し、一旦静寂を迎えた戦場の中で対空していたフリーダムの中で、キラは突然流れて来た声に目を見開いた。
『──────下がるんだ!ジェネシスが撃たれるッ!』
『ジェネシス…?』
「…カナード、下がろう。ザフト軍も後退してる…、何かあるのかもしれない」
再び流れたアスランの声に、キラと同じくその声を耳にしていたカナードが戸惑いと共に何らかの名前と思われるその単語を反芻した。
ふと気付けば、周囲のザフト艦隊、モビルスーツ隊が退避を始めている。そしてアスランのこの焦りよう─────嫌な予感がしたキラは、カナードと共にその場から後退を始める。そうしてミーティアの推進力を噴かせて少ししてからだった。巨大な閃光が、キラとカナードの視界を灼いた。
先程まで自分達がいた空間を駆け抜けていった、余りにも巨大なエネルギーに愕然とするキラとカナード。
その間にも光条は地球軍の主力艦隊を貫き、その周辺にいたモビルスーツ、艦艇、また宇宙空間を漂っていたデブリに至るまで─────全てを焼失させた。
光が収まった後、残ったのは無惨に焼き尽くされた戦艦、モビルスーツの無数の破片。直撃を免れたものの、航行も覚束ない船体も多くみられる。あの光から逃れ、無事でこそいても動こうとしないモビルスーツの中のパイロット達には、恐らくすでに戦意はないだろう。
「こ、んな…っ」
身を震わせ、声を震わせ、キラはその惨禍に見入っていた。
たった一発で何十もの戦艦、何百ものモビルスーツを壊滅に追いやった恐るべき兵器─────これを、こんなものを、人が作ったというのか?
『父上…っ!』
回線が開いたままである事に気付いていないらしいアスランが、呻く様な声を上げていた。
しかしキラはその声に反応を返す事もできなかった。
物質も、生命も、何もかもが焼き払われたその痕跡を見つめながら、キラは愕然とするしかなかった。
人が作り出した兵器によって生まれた惨状─────人によって引き起こされた悲劇。
─────
以前、メンデルの施設の中でキラが聞いた、クルーゼの言葉だ。それをキラは否定したが─────まるであの男の言葉は正しいのだと、この惨状がそう語っている様にすら思えた。
「─────」
恐る恐る向けられたキラの視線の先では、巨大な構造物─────ジェネシスが確かに聳え立っていた。
ソレは確かにそこに存在している─────決してこの光景は夢ではなく、現実のものなのだと、そう高らかに宣言している様にすら見える。
地獄としか形容できない光景を前に、暫しの間キラは茫然としたまま動けずにいるのだった。
前話で伝えるのを忘れていましたが─────1000000UA突破ありがとうございます!