フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE113 絶望を超えて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラントから離れ、敵の追撃をやっとの思いで振り切った月艦隊は、デブリの陰に集結していた。その中の一隻─────ドゥーリットルの艦橋では、サザーランドが月基地と通話を続けている。

 

「…─────ッ!!!」

 

 ドゥーリットルの周りにいくつもある大きく破損した僚艦、収容されていく傷ついたモビルスーツ、艦内で、或いは艦艇の間で忙しなく交わされる絶望的な内容の通話を見聞きしながら、ジブリールはここに至って現実を受け止めきれずにいた。

 

 圧倒的敗北─────戦闘中の段階からある程度被害の程度の予測はついていた。その予測が外れていてほしいと願ってはいたが、無情にもその予測は当たっており、艦隊の半数以上を失い且つ満足に動けない艦も少なくない。あの恐るべき一射とその後の掃討戦によって多くを失い、帰還した艦、モビルスーツも損傷が目立ち、何よりパイロットの負傷と精神的ダメージは大きく、次の戦闘で使い物になるかどうかも分からない─────最も、ジブリールにとってそんな些事を気にする余裕などないのだが。

 

「艦長、チャーチルより救援要請です」

 

 クルーの一人がサザーランドを見遣って報告をする。ここまで辿り着いたものの、機関部に損傷を受けた事で修理が追い着かなかったチャーチルが、ドゥーリットルへ救援を要請したのだ。

 

「通信を切れ」

 

「…は?」

 

「聞こえなかったか?通信を切れ。()()()()()()()()()()()()()()()()。そう言っているんだ」

 

 チャーチルから寄せられた救いの求めを、サザーランドは無機質な目の下に切って捨てた。サザーランドへ報告したクルーが呆然と、何を言われたのか理解しきれないままに彼を見返す。

 

「月本部へ補給、増援の要請を送りました」

 

「あぁ。…ならばすぐに整備を急がせろ。無事な艦はすぐにでも再度の総攻撃に出るんだ」

 

 クルーの視線に気付いていたのか否か─────サザーランドはクルーに対してそれ以上の言葉を向けようとせず、ジブリールへ伺いを立てる。サザーランドの視線を見返しながら、ジブリールは頷いた。

 

 ジブリールからの許可を貰ったサザーランドが、クルー達へ次々と指示を飛ばす。それを聞き流しながら、ジブリールは先程目にした、あの兵器のシミュレーションを─────照準ミラーの角度如何では地球を狙い撃てるという絶望的な結論を導き出したシミュレーションを思い出す。

 

 ─────ナチュラルの野蛮な核だと…?ふざけるなッ!

 

 掌の皮が捲れる程に力強く握り締められた拳。指の間から流れ落ちる一筋の血液も、掌から感じられる痛みも、全てジブリールの中に渦巻く怒りが覆っていく。

 

 ─────調子に乗るなよ、害虫ども…。その自慢の兵器も、貴様らの大切な砂時計も、全て宇宙の塵にしてやる!

 

 幸い、G三機は無事に戻って来た。リベルタスが左腕を失う損傷を受けたが、予備パーツを取り付ける事でそう時間を掛けずに修理は終わるというのが整備士の見立てだ。

 あの兵器も、威力は勿論、外部からの攻撃に何らかの対抗手段を講じているだろうが─────核ミサイルが命中しさえすれば、流石に無事では済まないだろう。

 

 そうだ─────当初の予定より遅れはしたが、迎える結末に変わりはない。宙の害虫どもは滅び、そしてそれを成し得た自身は英雄となる。そして美しき女神と共に、これからの世界をこの手で導いていくのだ─────。

 

 全ては、青き清浄なる世界の為に─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撤退した地球連合軍艦隊とは別方向、プラントから離れたデブリの多い宙域にアークエンジェル、エターナル、ドミニオン、クサナギは身を潜めていた。いつ再びザフト、連合のどちらかが動くとも分からない中、今頃各艦内では補給、整備と整然としているだろう。

 

『発射されたのはγ線です』

 

 その中で俺は、エターナルの艦橋でクサナギのエリカ・シモンズのジェネシスについての説明を聞いていた。

 

 艦長席に座るラクスと、彼女を挟んで向こう側に立つキラもまた神妙な面持ちでその説明に耳を傾けている。

 

『線源には核爆発を用い、発生したエネルギーを直接コヒーレント化したもので、つまりあれは巨大なγ線レーザーなんです』

 

 俺達の他にも当然、バルトフェルドさんにアイシャさん─────アークエンジェルの兄さんとマリューさん、ドミニオンのナタルさんと副艦長のリアム・グレイソンも集まっていた。彼らの視線も映像越しに一心に受けながら、エリカ・シモンズは一瞬躊躇った後に続けた。

 

『仮に地球に向けて放たれれば…強烈なエネルギー輻射は地表全土を焼き払い、あらゆる生物を一掃してしまうでしょう』

 

 彼女が口にした可能性に、皆が顔を青褪め息を呑む。

 

「…撃って来ると、思いますか?地球を」

 

 時が止まったかのように艦橋が静寂に包まれる中、マリューさんが救いを求める様にバルトフェルドさんへ目を遣りながら問い掛けた。

 

「強力な遠距離大量破壊兵器の保持の本来の目的は、抑止だろう」

 

 腕を組んで答えたバルトフェルド。その言葉にマリューさんの表情が微かに和らぐ。

 

「だがもう、撃たれちまったからな…。核も、あれも─────どちらももう、躊躇わんだろうよ…」

 

 しかしそれに続くバルトフェルドの言葉が、マリューの顔を強張らせる。

 

 背筋が寒くなる思いをしているのはマリューさんだけではないだろう。誰もが信じ難い筈だ。地球の生命を全て焼き尽くすなど─────そんな愚かな行為を犯すなど、コーディネイター達が成す筈がない。

 

 地球は彼らにとっても母なる星であり、それを滅ぼしたら他に代わりはない。未だ地球の物資がなければ立ち行かないという事実、そして何より地球に生存する何億もの人類と、その他数知れぬ生命体を焼き尽くすという暴挙に出るなどあり得て堪るものか。

 

「人は、慣れる生き物です。戦いに…殺し合いにも」

 

 ナタルさんの傍らに立っていたリアム副艦長が、不意に口を開いた。その目に微かな諦念を添えて、俺達を見回しながら。

 

「私も同じです。最初に人を撃った時、私は恐怖に震えましたが─────今はもう慣れてしまった」

 

 彼がそう口にした時、ハッとキラが身体を震わせたのが視界の端に映った。キラには心当たりがあったのだろう─────俺も、まだヘリオポリスから出たばかりの頃、ストライクのコックピットの中で震えていたキラの事を思い出した。だけど今のキラはもう、そんな事はない。何故なら、戦いというものに慣れてしまったから─────。

 

 妬んで、憎んで、殺し合い、それに慣れてしまった人類はもう止まらない─────。どこまでも、立ち止まる事はなく、どちらかが─────或いは双方が滅びるまで戦う事を止めない。

 

「俺は認めませんよ。そんな結末は」

 

「ユウ…」

 

「この世界の、俺以外の全員が受け入れたとしても…それでも俺は、絶対に認めない」

 

 艦橋にいる皆を見回しながら決意を表す。いつかバルトフェルドさんに問われた時と同じ答えを口にする。

 

「俺が生きている限り、まだ負けじゃない」

 

 何が起ころうとも、どれだけ非情な現実が降りかかろうとも、それでもと謳い戦い続ける。それが俺が選んだ道であり─────

 

「ユウだけじゃないよ」

 

「わたくし達も、永久に傍に立ち続けますわ」

 

「…ありがとう」

 

 ()()が選んだ道だ。

 

 微笑みかけてくる二人へ微笑みを返してから、ふと小さく誰かが笑みを零す声が聞こえてそちらへ目を向ける。その声は、ラクスの正面の席に座るバルトフェルドさんから聞こえて来たものだった。

 

「変わらないな、君は」

 

「変える必要はないし、変わるつもりもありませんから」

 

「…それでこそだ。だから僕は、君と共に戦う事にしたのだから」

 

 身を乗り出して振り返り、バルトフェルドさんは俺の返答を聞いてから再度小さく微笑んだ後、前に向き直って続けて口を開いた。

 

「子供達が立派にも大言を吐いてのけたんだ。なら、大人である我々が、彼らより先に諦める訳にはいかないのではないかね?」

 

 それは未だに表情に影を落とし、絶望に心を流されたままの者達へ向けられた問い掛けだった。

 

「当然。俺は不可能を可能にする男だからな─────この程度で諦める様なら、最初からこんな所まで来やしないよ」

 

 その問いに真っ先に、力強く答えたのは兄さんだった。途中、こちらに目を向けながら言い放った兄さんの傍らで、その顔を見上げていたマリューさんもまた、表情に微かに柔らかさを取り戻して言う。

 

「…そうね。私達はここで足を止める訳にはいかない。その為に、ここに来たんだもの」

 

 マリューさんだけじゃなく、ナタルさんと並んで立つリアム副艦長が二人で視線を交わして頷き合っている。

 

 俺達の他にこの場にいる、エターナルのクルー達─────アイシャさんがバルトフェルドさんへ向けて微笑み掛ける。

 

 ()()()()という決意を一つに、同じ方向へと再び向く事が出来た俺達は改めて話し合いを再開する。

 

 プラントのジェネシスと地球軍の核─────これ以上、互いに互いを撃たせない為にどうするか。最後の戦いに向けて、俺達が何をすべきか…その方針を固める為に。だけど、その前に一つだけ言っておきたい事があった。

 

「皆、一つだけ聞いて欲しい。─────クルーゼは、俺に任せてくれ」

 

 俺の言葉に対して、各々違えど一様に反応を示した。その中でも大きな反応を見せたのは、兄さんだった。

 

「ユウ、それはお前の役目じゃねぇ。大人である俺の役目だ」

 

「それを言うなら俺はフラガ家の当主として、先代の不始末を片付けなきゃならないんだけど」

 

「そんな事は知った事か。…これ以上、お前にばかり負担を掛けさせてたまるか。俺は、お前の兄貴なんだぞ」

 

 兄貴、か…。ずるいよな、この人。こんなにも大切に思ってくれてるんだから、嬉しくて思わず固めた筈の決意が揺らぎそうになるのもしょうがないってものだ。

 だけど、これだけは譲れない。何故なら。

 

「…俺はあいつの息子だから」

 

「っ─────」

 

 兄さんの顔が悲し気に歪む。そんな顔をさせてしまう事に申し訳なさを覚えながら、だけどこうでも言わないと兄さんは譲ってくれないだろうから。

 

「親の不始末の責任は、息子がとるものでしょ」

 

「…バカ野郎がッ」

 

 そう言えば、兄さんは目尻に一滴の涙を浮かべながらこちらに歩み寄って来て、痛いくらいに力を込め抱き締めて来た。

 

 抵抗はせず、甘んじて兄さんからの抱擁を受け止める。こちらからは抱き締め返す事もなく、というより腕ごと抱き締められてるから出来ないというのが正しいか。

 

「キラも。…納得は出来ないかもしれないけど、理解してほしい。あいつは俺に任せろ」

 

「…信じるからね、ユウ」

 

「あぁ」

 

 この場に集まった殆どの人達が、俺とクルーゼの関係をある程度知っている。その中でもアイツの言葉を直接聞いたキラと兄さん、そして俺を想ってくれているラクスが心配に顔を濡らしていた。

 大きく心配を掛けている─────だけどやっぱり、それのお陰で自分が大切に思われているのだと実感できて嬉しく思ってしまう。

 

 だからこそ、俺の決意もまた固く定まっていく。この人達を置いて逝く事だけは、絶対にすまいと─────生きて三人の所へ帰るのだと、覚悟を固めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミラーブロックの換装は?」

 

「あと一時間ほどであります」

 

 ジェネシスの一時反射ミラーは消耗品で、発射と共に反射したレーザーに焼かれて廃棄するしかない。それを換装するまでの間、一時的にジェネシスは発射できない状態にある。それこそが、ジェネシスの唯一といっていい弱所だった。

 

 元々、ジェネシスは兵器として生み出されたシステムではない。開戦前、恒星間探査計画の為に建造を計画されたのがこのジェネシスだった。人類が新たなステージへ立つ為の希望のシステム─────それが軍事転用され、地球の生命全てを脅かす死のシステムになろうとは、何とも皮肉な話だ。

 

「急がせろ」

 

 最も、コーディネイターを代表するこの男にとってはそんな皮肉はただの些事でしかないのだが。彼らの夢を死の道具に変えた事に対する躊躇い等、微塵も存在しなかった。

 

「地球軍に動きは?」

 

「未だありませんな」

 

 パトリックは次にクルーゼへ目を向けながら問い掛ける。クルーゼが簡潔に答えると、パトリックは返答に対してせせら笑うように応じた。

 

「月基地にも戻らず、まだ頑張っているか」

 

「あの威力を見た後ですから、奴らも必死でしょう。恐らく補給、増援を待っていると思われますが…こちらから仕掛けますか?」

 

「そのような事をせずとも、二射目で全てが終わる。─────我らの勝ちだ」

 

 満足げに鼻を鳴らしながら、パトリックは答えた。

 

 長い長い、コーディネイター迫害の歴史にパトリックは思いを馳せる。

 

 宇宙に逃れてからも、理事国の横暴に晒され続け、そして起きてしまった血のバレンタイン─────自らより劣る種による妬みから、理不尽な虐殺を受け続けて来た。だがそれも、もう終わる。

 

「では、地球を…?」

 

「月基地を撃たれてもなお、奴らが抗うとなればな」

 

 パトリックは憎悪に支配されていた。

 

 撃ったのは奴らが先で、常に奪われ続けたのは自分達の方だ。最愛の妻を奪ったのも─────核でレノアを灼いたのもナチュラル共だ。

 

 そう、地球を撃って何故悪い?シーゲルのやり方では温かったのだ。Nジャマーを撃ち込まれ、地球上で多くの命が失われても、奴らは何も変わらなかった─────ならば、今度こそ分からせなければならない。自身と同じ思いを味わわせなければならない。

 

 そして思い知るがいい─────この世界を担うに相応しいのがどちらなのか。真に優れた種がどちらなのか。

 

 貴様らは、出してはいけない者達に手を出したのだと、心の底から後悔させてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し短いですが一旦ここまでで。次回も各キャラ視点の心情の話として、その次回から決戦開始の予定です。
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