フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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最近の話と比べて少し長くなった上に、キャラの視点が二転三転します。読みづらいかもしれないですが、ご容赦ください。


PHASE115 希望の出撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時が来た、というべきか。アークエンジェルから入った通信を聞いた俺達は弾かれた様に顔を上げた。

 

「全艦発進準備!」

 

 バルトフェルドさんが重々しく号令を発したと同時、三隻の艦にアラートが鳴りその命令が伝えられる。俺達もそれぞれの持ち場へと向かうべく、艦橋後方のエレベーターへ乗り込もうとした。

 

「ユウ、キラ…!」

 

 そこへ、背後から声が掛けられた。キラと一緒に振り向いて、ラクスがもの言いたげな表情で追ってきている事に気付く。

 

「…急げよ」

 

 俺達の前で立ち止まったラクスが何か言い淀んでいるのを見て、俺はすでにエレベーターに乗り込んでいる兄さん達を見遣る。俺の意図が伝わったのか、兄さんは柔らかく微笑んでから一言だけ言い残すとエレベーターのドアが閉まった。

 

「…帰って来て下さいね。必ず、二人で…わたくしのもとへ」

 

 その目には今にも溢れそうな程に涙を溜めて、儚げな顔にはいつもの美しい微笑みはない。憂いに満ちた目で俺とキラを見るラクスが一歩、右足をこちらに踏み出した。

 

「大丈夫、ラクス。私達は絶対に生きて帰るから─────ね、ユウ」

 

 ラクスとは逆に微笑みながら、不安に揺れるラクスを元気づける言葉を掛けてから、キラが振り返ってこちらを向く。先程ラクスへ向けて浮かべた微笑みはそのままに、しかしその目の奥には確かに、ラクスと同じ憂慮を含んで─────それは二人が、密かに俺が抱く()()に気付いているという証明でもあった。

 

「当然だ。こんな所で死んでやるつもりは毛頭ないよ」

 

 死ぬかもしれないという覚悟は確かにある。が、ここで死ぬつもりもない。この暗闇の真空の中で命を散らすつもりなんて毛頭ない。俺が死ぬのは二人の胸の中でだけって決めてるからな…いや、半分冗談だけどさ?

 とにかく、二人に対して言った言葉は本心から出たものだ。キラとラクスから視線を逸らさず、真っ直ぐと目を見返し続ける内、二人の目の奥からほんの少しだけだが、憂慮の色が薄れていくのが見て取れた。

 

「ラクス」

 

「ユウ─────」

 

 吸い込まれそうになるラクスの瞳と自分の瞳を合わせながら、どちらからともなく顔を近づけ、唇を重ねる。柔らかな感触を数秒程味わった後、離れた彼女の頬に手を添えながら微笑みかける。

 

「気を付けて」

 

「…はい」

 

 潤んだ瞳は変わらず、しかし最後にラクスはようやく微笑んでくれた。出撃する前に、どうしてもその美しい笑顔を見たかったから─────また唇にキスをしたらいよいよ止められなくなりそうだったから、そっちは我慢して頬にもう一度だけ唇を寄せてから踵を返す。後ろから追ってくるのは共に出撃するキラのみ。もうラクスの声が追ってくる事はなかった。

 

 そうして兄さん達から遅れてエレベーターに乗り込んだ俺達は、下の階層へ着くのを待っていたのだが…。

 

「…なぁキラ、何でそんなに不機嫌そうなの?」

 

 隣り合わせで立つキラが、口を僅かに尖らせながらジト目でこちらを見上げてくる。その様は明らかに不機嫌そうなのだが、その理由に全く心当たりがない。ラクスと別れるまではこんなじゃなかったし、間違いなく俺かラクスか、或いは両方が理由なのだろうが…。

 

「別に?ラクスの他にもキスする相手がいるんじゃないのかなー、て思ってるだけだよ」

 

「…」

 

 キラが怒っている理由が思い当たらず、内心焦りもあったのに、その口から聞かされたあんまりな理由に思わず拍子抜けしてしまった。要するに俺がラクスにキスをしたのが気に入らなかっただけだと─────可愛すぎるだろ。素直に羨ましいからキスしてって言えば良いものを、喜んでするぞ?

 

「あ…、んっ」

 

 下の階層に着くと、プイッとこちらから目を逸らして開いたドアから出て行ったキラを追い掛け、その腕を掴んでこちらに引き寄せる。驚いたキラが咄嗟にこちらに振り向いたのを狙い、顔を寄せてぷっくりとした桜色の唇に吸い付いた。

 時間としては数秒、ラクスの時と同じくらいの間、唇を重ねてから顔を離す。こちらを見上げるキラの瞳が潤み、頬に赤色が差している。こんな状況じゃなきゃこのまま行く所まで行くが…、ここはグッと我慢。キラの手を引いて先を急ぐ。

 

「これで心残りはないか?」

 

「…うん。ちゃんと戦いに集中出来そうだよ」

 

 まだ頬に赤みを残したままのキラと微笑み合いながら、通路を進む。

 

 そう、ここで尽き果てる訳にはいかない。キラとラクスの未来を守る為に、この愛しい二人と、大切な仲間達の為に、まだまだこの命を燃やさなければならないのだから。

 

 ─────だからお前と心中は出来ない。悪いな、クルーゼ。

 

 心中などあり得ない。きっと、生き残るのはどちらか一人…俺か、クルーゼか。

 

 答えが出るその刻は、もうすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦へ向けて準備は進められる。カガリがいるここ、クサナギでも同様に、格納庫の中では作業員が慌ただしく行き交っていた。

 これまでの戦いでは指揮官として前線に出る事はなかったカガリだが、この戦いにおいてはパイロットとして、ストライクルージュに乗り込んで出撃する事になっている。

 

「…」

 

 以前、砂漠での戦いでスカイグラスパーで無理やり出撃して以来の、前線での戦い。パイロットスーツに身を包み、すでにコックピット内で待機をしていたカガリは柄にもなく緊張していた。

 

 ジェネシスと核を、戦いながらどちらも防ぐ─────それがこの戦いでのカガリ達の役目だ。これをしくじれば、戦争の勝敗を飛び越えて、人類の存続すら危ぶまれる事態が待っている。その戦いの中にこれから、実戦経験がほぼ皆無、モビルスーツでの出撃は初という若いカガリが臨むのだ。不安、恐怖は心に抱いて然るべき感情だろう。

 

「─────」

 

 ふと、カガリは回線を操作して、どこかに通信を掛ける。それは数秒の呼び掛けを経て繋がると、画面に相手の顔が映し出された。

 

『なんだ?』

 

「いや…、いきなりスマン」

 

 カガリ自身、どうしてこんな事をしたのか自分でも分からない。ただ無性に誰かと話がしたくて、だけど一番最初に顔が浮かんだユウとキラは、自分から呼び掛けるべきではないなと思い直して、そうして次に浮かんだのがこの人だった。

 

「…悪い、()()()()

 

 同じく決戦に臨むべく、愛機に乗り込み出撃の時を待っていたカナードはすでに見慣れた不愛想な顔で、通信を通して見えるカガリの顔を真っ直ぐに見つめていた。そんな彼の顔を前に、カガリは気まずさのあまり目を逸らしてしまう。

 

 本当に何をしているのか、と自分で自分を叱咤する。緊張している自覚はあるが、こんな事を仕出かすとは─────これではただ、カナードを困らせるだけだというのに。

 

 ─────…ダメだ、カナードにもう一度謝って、早く通信を切ろう。

 

『怖いか?戦場が』

 

「っ…」

 

 カガリの口が謝罪の言葉を伝えようと開きかけた時、声が発するよりも先にカナードが問い掛けた。ハッ、と顔を上げたカガリの目には、変わらず不愛想な顔のままのカナードが映る。しかし心なしか、さっきよりもその表情が柔らかく思えるのは、果たして気のせいなのか。

 

「こ、怖くなんか…!」

 

『そうやって虚勢を張っていろ。虚勢でも何でも、どんな方法でもいい。恐怖を乗り越えてみせろ』

 

「─────」

 

 自身に言葉を掛けるカナードの顔を、カガリは驚きのあまり目を丸くしながら見つめる。

 

 まさか、自分を励ましているのだろうか。あのカナードが?それだけでも吃驚ものなのだが、カナードの言葉は更に続きがあった。

 

『もし恐怖に負けたのなら、震えていろ。闇雲に逃げ回りさえしなければ、俺が守ってやる』

 

 励ましの言葉を掛けて来たと思いきや、今度は守ってやるときた。カナードがこの陣営に合流してから幾度となく話をしてきたが、こんな優しい言葉を掛けるイメージなど微塵もなかった。

 天上天下、唯我独尊…ここまでは流石に言いすぎな気はするが、それでも今の自分との会話をもし誰かが聞いていれば相当吃驚するのは間違いないだろう。というか現にカガリ自身がそうなっているのだが。

 

 ただ、そんなどこまでも自分本位の様に思えるカナードにも、例外はいた。だからこそ、唯我独尊と称するのは行き過ぎかとカガリを思い直させた。

 その例外の一人がキラであり、そしてもう一人が─────カガリだった。何故かこの二人に対してだけ、カナードの態度は柔らかかった。…ほんの少しだが。

 

「…なぁ、カナード。もう何回か聞いてるけど、もう一度聞いてもいいか?」

 

『…どうした』

 

 カガリの切り出しに対して、カナードの表情は動かない。

 自分が何を聞こうとしているのか、もう分かっているんだろうなと思いながら、カガリは口を開いた。

 

「お前は一体、何者なんだ?」

 

 カガリが問うても、カナードの表情は相変わらず動かない─────そう思われた次の瞬間、微かに口元が緩んだ気がした。

 

『カガリとキラが生きて戻ったら、いつか話してやるよ』

 

 答えになっていない答え、だけどカガリにとってはそれで充分だった。

 

「カナード!」

 

『無理はするなよ。…安心しろ、お前は俺が守る』

 

 形容し難い感情に駆られて、カナードの名を呼び掛ける。カナードはその呼び掛けに明確な返答はせず、最後にもう一度優しくカガリへ言葉を掛けてから、問答無用で通信を切った。

 

 画面からカナードの顔が消える。カガリは暫しの間、先程まで話をしていた相手の顔が映っていた場所を見つめてから、微かに表情を綻ばせる。

 やはり、カナードと話をしておいて良かった。お陰で、戦いを前に抱いていた緊張が少し解れ、志を同じくする仲間がいる事の実感と安心が湧き上がる。

 

「…私も、()()()を死なせないから」

 

 この場にはいない、声が届かない所にいる()()へ向けたカガリの声からは、不安も恐怖もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、ドミニオンでもクサナギと同じように発進準備が進められていた。

 

 カガリと同じく出撃予定のミゲルとスウェンがキャットウォークの上で顔を合わせる。

 

「おう。…緊張は、ないみたいだな」

 

 顔を合わせたスウェンの表情に、不安や恐怖といった色がない事を認めたミゲルが安心した様に微笑んだ。

 

 すでにパイロットスーツに身を包んだスウェンは、声を掛けて来たミゲルの顔を見つめてから無言でストライク二号機のコックピットの中へと乗り込む。

 

「…」

 

 コックピット内で機体の立ち上げを行いながら、内心微かな後悔を抱く。

 流石に何も答えずに立ち去ったのは感じが悪かったか。しかし、ならばあそこで何と答えれば良いのかスウェンには考えがつかなかった。

 

 特殊な環境下で育ってきたスウェンは、致命的なまでにコミュニケーション能力が欠如していた。横暴な性格ではないが他者に無頓着で、積極的に誰かとの関わりを築いてこなかったスウェンだが、この艦に来てから状況が変化した。

 

『ったく、羨ましいねぇ。こっちは世界の命運をかけた戦いを前に、柄にもなく緊張してるってのによ』

 

「…そうか」

 

 その主な原因がこの男─────スウェンの無視に気を悪くした様子もなく、スピリットから通信を繋げて来たミゲル・アイマン。このミゲルという男が、それはまあ頻繁に話し掛けて来る。時に鬱陶しくすら思える程に。

 

 寡黙なスウェンとは真逆のミゲルだが、どうも嫌いにはなれない…そんな不思議な男だ。

 

「…」

 

 思えば、自分はこの男の事を何も知らない。どこで生まれ、どのような環境で育ち、どのような思いを持って戦う事を選んだのか。ミゲルだけではない。ここに来てから関わった事のある人達─────スウェンは何も知らず、知ろうともしなかった。

 

 ─────()()()()

 

 スウェン・カル・バヤンが初めて、他者への興味を抱いた瞬間だった。

 

「…アイマンは、この戦いが終わったらどうするつもりなんだ?」

 

 画面に映されたミゲルの顔が、まるで豆鉄砲を食らった鳩のような顔になる。かと思えば、次第に驚きに満ちたその表情がまるで子供の成長を目にした親の如く、微笑ましいものへと変わっていく。

 何がそこまで面白いのか、スウェンは少しだけ気分を悪くした。

 

「変な事を聞いた。忘れてくれ」

 

『あー、スマンスマン!アンタからそんな事を聞かれるなんて思わなくてな…、つい嬉しくなっちまった』

 

 淡々と告げながら通信を切ろうとボタンに手を伸ばすスウェンを見て、ミゲルが慌てて謝罪する。

 謝罪に確かな真摯さと、先程の笑顔にも悪意を感じなかった事を加味して一先ず通信は切らず会話を続行する事を選ぶスウェン。通信を切られずに済んだミゲルはというと、安堵の息を一度吐いてから口を開いた。

 

『戦いが終わったら、ね…。とりあえずプラントに戻って、家族に会いてぇなぁ』

 

「家族…」

 

 郷愁の色が浮かぶミゲルの目を見ながら、スウェンはその一言を反芻する。

 

 スウェンに兄弟はいない。両親はテロに巻き込まれ死に、その後ブルーコスモスの施設に引き取られ、コーディネイターに対する徹底した洗脳と、兵士としての過酷な訓練を課された。

 尤も、スウェンが受けた洗脳は不完全であり、だからこそこうしてコーディネイターであるミゲルと顔を合わせても嫌悪感を表す事はなく、平然と話す事が出来るが。

 

『お前はどうなんだ?この戦いから生きて帰れたら、何かしたい事はないのか?』

 

「…俺、は─────」

 

 会いたい家族はいない。訓練時代に世話になった施設の職員やチームメイト─────彼らとは叶うならば再会したいとは思うが、それ以上にスウェンの頭の中にはある景色が浮かんでいた。

 子供の頃─────まだ両親も生きていた頃、夜空を見上げては魅了されたあの満天の星空を。思えばあの頃のような気持ちで空を見上げる事はなかった。だけど今なら…、今の自分なら、あの頃の気持ちを取り戻せるような気がする。あの星空に魅せられる事が出来る気がする。そんな風に思えた。

 

「…もう一度、星が見たい」

 

 ごく自然と、滑るように口から出たスウェンの答えを聞いたミゲルが、一瞬怪訝な顔で首を傾げる。しかしスウェンの表情を見ると、再び先程浮かべた類の微笑みを浮かべた。

 

『そうか。なら、生き残ろうぜ』

 

「あぁ」

 

 視線を交わし、頷き合う。

 

 こんな風に誰かを信じようと思えたのは─────誰かに背中を預けてもいいと思えたのは初めてかもしれない。以前までの仲間が信じられなかった訳ではないが、こんな風にお互いを知り合おうとした事も、背中を預け合おうとした事もなかった。

 

 ─────誰一人欠けず、生き残る事が出来れば…。

 

 いつ死んでも仕方ないと思っていた。戦いの中で誰かが死んでも、多少悲しくはあれどすぐに割り切る事が出来た。だが今、スウェンは初めて仲間の死が恐ろしいと感じている。

 

 ─────死なせない。誰も…絶対に。

 

 コーディネイター殲滅の為の教育と特殊訓練によって感情をほぼ失い、残った心の行く先がマシーンとなり果てるしかなかったスウェン。仲間となった人達と掛け合った言葉が、自身がいるこの場の雰囲気が、凍てつきかけていた心に熱を灯し始める。

 

 出撃まで残り僅か。たった今、兵士となってから初めて─────殺戮マシーンとしてではなく、誰かを守ろうと志す人間として、スウェン・カル・バヤンは出撃の時を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石の艦長も緊張していらっしゃるようで」

 

 艦長席に座し、クルー達の動きを目に、報告を耳に入れて状況を整理し続けるナタルに前方から声が掛かった。副長席に座り、身を乗り出してナタルの方へ振り向いているのは、彼女がドミニオンの艦長に就任してから副艦長として支え続けてくれた、リアム・グレイソン。

 

 威圧感をも感じさせる分厚い肉体と、冷たさを覚える鋭い目つきとは裏腹に、リアムは案外気安い人物であった。硬派なナタルと、それに気後れしそうになるクルー達の間を取り持ったり、戦闘ではナタルの指示を忠実に実行した。時にナタルが対応しきれない事案が起きても、この男が素早くカバーし、彼女の事を支え続けていた。

 

 今もそうだ。こうして柔らかく声を掛け、ナタルの心を解そうとしてくれている。ただ、少し勘違いしているようだが。

 

「いや、緊張はしていない。ただ…」

 

「ただ?」

 

「…随分と遠くまで来てしまったな、と思っただけだ」

 

 色々と背負うものが多くなったこの戦いだが、ナタルは特段緊張も不安も抱いてはいなかった。ナタルの表情を見て、そうだと勘違いしたリアムが声を掛けて来たが─────ただ、緊張も不安もないが、ふとまだ一年にも満たない旅路を思い返すと思ってしまった。アークエンジェルでヘリオポリスを飛び出してからここまで、随分と遠い所まで来たものだ、と。

 

 たくさんの事があった。生き残る為に民間人の、それもコーディネイターの子供の力を借りる事となり、大事な所で喰い違ってしまう艦長と共に艦を守り、いつしかただ同じ艦に乗る同僚でしかなかった筈のクルー達が、自分にとって掛け替えのない仲間となっていた。

 アラスカでは自分の中の価値観を木っ端微塵に壊された。価値観のみならず、自分も一緒に壊れそうになったのを、マリューとムウが繋ぎ止めてくれた。オーブを地球軍が侵攻すると聞かされ、迷った時もあの二人がいなければどうなっていた事か。…色々複雑な気持ちはあるが、二人には多大な感謝を抱いている。それは紛れもない、彼女の本音だ。

 

 …本当に、色々と複雑ではあるが。

 

「そうですね。私も、一介の軍人であった筈なのに…以前の私に言ってもきっと、信じないでしょうな」

 

「…あぁ。私も同じだ。寝言は寝て言えと言われてしまいそうだ」

 

 しみじみと言うリアムに対して、ふと零れた微笑みと共にそう返せば、彼は両手で腹を抱えながら豪快に笑う。

 

「…何をしている、手を止めるんじゃない!」

 

 何事かと振り向いたクルー達へ鋭く命じるナタルだが、その口元に浮かんだ笑みは未だに収まっておらず、クルー達の中の疑問は更に深まるばかり。しかし命令には従い、作業を再開した所を見てナタルは大きく息を吐いて気を引き締める。

 

 固くなりすぎてはいけない。しかし気を緩め過ぎてもいけない。これまでの戦いも、これから臨む戦いも、いつも通りに振る舞う。

 この艦を預かる艦長として、クルーの命を守る。そして、この世界を─────

 

「私もいる事をお忘れなく。バジルール艦長」

 

 考えれば考える程にドツボに嵌っていく。先程まで微塵も感じなかった緊張が顔を覗かせたその時、前方から再びリアムから声が掛けられた。

 

 リアムの顔には変わらず微笑み。ナタルは大きく波打っていた自分の心が次第に落ち着いていくのを感じながら、同じく微笑みを返して口を開いた。

 

「あぁ、頼むぞ。グレイソン副長」

 

 アークエンジェル二番艦ドミニオンは航行を続ける。やがて遠くから飛び交うビームの光条と、時折起こる爆発が肉眼でも捉えられる所まで来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パイロットスーツへと着替えて格納庫へ。キャットウォークを離れてゼノスへ向かう。途中、同じようにフリーダムへ向かうキラと目が合った。互いに頷きを交わして、キラがコックピットへ入ったのを見てから俺もコックピットへ乗り込む。

 

 機体を立ち上げた後に手を止めて、一瞬躊躇った後にやっぱり機器を操作する。

 

『どうした?』

 

「…良かった。納得できないで、不貞くされてるんじゃないかと思ったから」

 

『はぁ?なんだよ、そりゃ』

 

 操作したのは通信機器。繋げた先はストライク一号機─────兄さんの所だ。コールはすぐに受け取られ、映し出された兄さんは俺の軽口に対して苦笑いを浮かべた。

 

『納得なんてできてる訳ねぇだろ。…けど悔しいが、お前が適任なんだろうって俺自身が理解しちまった』

 

「ごめん」

 

『謝る必要なんてないさ。お前が奴と会敵したら諦めるが…、それより先に、俺があいつを仕留めちまうのは構わないだろ?』

 

「…そうだね。でも、無理はしないでよ?未来の義姉さんを泣かせるような事になったら、流石の兄さんでも許さないから」

 

『それはこっちの台詞だっての。もしお前が死んだらあいつら、間違いなくお前を追っかけるからな』

 

「…本当にそう思うよ。だから、俺は死なない」

 

 兄弟で軽口を叩き合っている内に、モビルスーツ隊に発進命令が出る。スピリットが、ストライク二号機が、ストライクルージュとハイペリオンが、各艦から次々と発進していく。

 

『…また後でな、ユウ。ムウ・ラ・フラガ!ストライク、出るぞ!』

 

 続いてストライクが発進し、そして目の前で先にフリーダムが飛び立っていった。

 

 俺もまたリニアカタパルトに歩を進め、操縦桿を握る手に力を込める。

 

「ユウ・ラ・フラガ!ゼノス、発進する!」

 

 一瞬の加速、すっかり馴染んだ射出時のGの後、初めてスピリットで飛び立った時と同じ、瞬かない星空へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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