ジェネシスから放たれた強烈な光の渦が、闇を貫いて後方へと延びていくのをジブリールはドゥーリットルの船内から目にしていた。迎撃を掻い潜ったジンが地球軍艦艇に取りつき、艦橋を潰したかと思えば、ストライクダガーの小隊が取り囲むようにしてナスカ級戦艦を四方からビームで貫く。
ストライクダガーがライフルを撃ちながら進軍し、その針路を遮ろうとしてシグーが立ちはだかる。決死の覚悟でヤキンドゥーエに迫ろうとする地球軍と、それを守るザフト防衛隊の一進一退の攻防が続く中での出来事だった。
「あぁ─────」
艦隊を呑み込む破壊の閃光を見ながら、無意識に、呆然と、力なく声を漏らしたジブリールの隣で、サザーランドが前へ身を乗り出しながらCICへと叫ぶ。
「推定される目標は!?」
「照準は…月─────プトレマイオス・クレーターと思われます!」
画面を食い入るように見つめていたクルーが震える手で機器を操作しながら、声を上擦らせて答える。直後、モニター画面が拡大された月の一部を映し出した。一つのクレーターに巨大なキノコ雲が立ち上がっている。その様を、ジブリールは息をするのも忘れて見つめていた。
「支援隊より入電!─────『先の攻撃により、我、艦隊の半数を喪失』…!」
「─────」
キノコ雲の下で何千、何万の同胞達の命が潰えたという現実に震える彼らへ追い打ちを掛けるように、クルーの急き込んだ声が響いた。
月基地を発ち、こちらへ来ようとしていた援軍もまた、基地と共にジェネシスの餌食となったのだ。自分らの希望を繋げる筈の援軍はもう来られない。
─────負けた…?
最早避けられない、受け止めなければいけない現実だった。敗北─────ジブリールの中で決してあってはならない、受け入れ難いもの。
─────いや、違う…。負けた訳ではない…!だが!
歯を食い縛り、強烈な屈辱を耐えながら、ジブリールの心の中では一つの事実を受け入れようとしていた。
ロード・ジブリールはいつ暴走を引き起こしかねない強い自尊心を持ちながらも、同時に酷く臆病な男でもあった。だがそれこそ彼にとっての幸運であり、その臆病さが常に彼に退き際を弁えさせ、現在このポストにまで彼を持ち上げさせた本当の強みでもあった。
月基地を失った今、最早地球軍はプラントを攻める事はできない。これ以上の戦闘の継続で、ジェネシスの照準が地球へと向けられても面倒だ。ここは耐えるべき時─────決して負けた訳ではない。だが、来る本当の反撃の時を手繰り寄せる為にも、ここは戦闘を取りやめ、プラントに対して然るべき協定を結ぶ姿勢をとるべきだと、ジブリールの臆病さが語っていた。
「ピースメイカー隊を出せ!」
艦隊を退かせろと、ジブリールが命じようとした時だった。血相を変えたサザーランドが、他の僚艦へと通信を繋げて喚いた。
「目標はプラント群!あの忌々しい砂時計を、一基残らず叩き落すッ!」
喚き散らす男の顔を、ジブリールは暫し呆然と見上げていた。その視線の先では、サザーランドが続けてリベルタス、カラミティ、フォビドゥンを呼び戻して道を拓かせるよう命じている。
「いくらあんな兵器を振り翳そうが、プラントを陥とせば戦いは終わる。…ですな?ジブリール様」
「っ─────」
戦闘継続という愚を犯すだけに留まらず、当初の目的さえ忘れてプラントを撃とうとする始末。さしものジブリールもサザーランドの暴走を止めに入ろうとするが、彼の瞳を目の当たりにして言葉が喉の奥へと引っ込んでしまう。
どこまでも黒く、闇が渦巻く悍ましい瞳─────コーディネイターへの憎悪を明瞭に映したその目が、ジブリールの勢いを削ぎ、糾弾の言葉を呑み込ませた。
─────何だ…。
ピースメイカー隊の発進準備が完了したと報告を出すクルーへ、すぐさまサザーランドが発進を命ずる。その様を見つめながら、ジブリールはわなわなと震えそうになる我が身を必死に抑え込んでいた。
─────何だ、これは…!
ドロドロとした昏い瞳を向けて来るサザーランドに対して、震えを抑えて見返すだけで精一杯だった。何も返さないジブリールに何を思ったか、沈黙こそ肯定とでも考えたのか、サザーランドは視線を前へ戻すとドゥーリットル以下数隻の艦からピースメイカー隊を発進させ、艦隊の針路をプラントへと変えさせる。
吐き出された部隊が真っ直ぐにプラントへ向かっていき、それを守るべくカラミティとフォビドゥンが追随する。リベルタスにも命令は伝えられたが、艦隊の針路に割り込もうとしたゼノスを押さえるべく交戦に入った。
移り変わる戦況は、ジブリールの頭の中には入って来ない。彼の頭は今、恐怖に支配されていた。
プラントを陥とせば─────だがそれでは、ジェネシスはどうなる?プラントを一掃しようとも、あの兵器は健在であり、そしてそのトリガーを握る人物はヤキン・ドゥーエの要塞の中。地球に対する脅威の排除にはならず、何より自身があの光に巻き込まれて死ぬという可能性の排除にもならない。
そう、ジブリールはこの状況下において初めて死に瀕するという事の実感を得ていた。フレイを見出し、リベルタスを完成させ、彼女と共に宇宙へと発ってから幾度の戦闘を経てようやく今─────自身の命がいつどこで奪われても可笑しくない、真空の宙に浮遊しているのだと思い知る。
─────嫌だ…、嫌だッ!死にたくない!死にたくないッ!
皆がプラントという目標を見据える中で、人知れずジブリールはぶるりと恐怖で身を震わせた。死にたくない、その感情だけがジブリールを支配する。誰にも知られず、どうすればこの場から生き延びる事が出来るのか─────その選択を導き出そうと思考が働き始めたその時だった。
「っ─────」
彼の懐に仕舞われていた小型の通信機が、音を鳴らさず震えた事に気付いたのは、今のジブリールにとって至上の幸運だった。
「ドゥーリットル他数隻、転針します!」
アークエンジェル艦橋にその報告が響き、一瞬マリューは地球軍が撤退を始めたのかと思った。しかしそれはすぐに裏切られる。
『くそッ、プラントか!?』
それらの艦が艦首を向けた方向にはプラント群─────いち早く相手の意図を悟ったバルトフェルドが毒づいた。マリューは通信機に向けて素早く告げた。
「我々が追います!エターナル、ドミニオン、クサナギはジェネシスを!」
『ラミアス艦長!』
バルトフェルドとキサカらは頷きが返って来た反面、ナタルからは焦りの表情で喰い下がられる。ジェネシスで戦力が更に削られたとはいえ、地球軍艦隊をアークエンジェル一隻で引き受けると言ったのだ。ヘリオポリスから共に、ある意味他の誰よりも近い立ち位置で共に戦い続けて来た相手が心配になるのは、当然といえる。
だが、マリューもここは譲る事が出来ない。
「ヤキン・ドゥーエの防衛網を突破するのは容易じゃないわ。ドミニオンの力が必要なのは分かるでしょう?」
『しかし…』
「私達もすぐに追い掛けるわ。…だから、先に行っていて」
以前までの彼女なら、今のマリューの判断を聞いてどういう反応をしただろうか?淡々と指示を受け入れるか、或いは基本の兵法に基づいてマリューを諭そうとするだろうか。だが今のナタルはそのどちらでもない。純粋に自身を心配してくれている今の彼女が、マリューには嬉しかった。
『…分かりました。ご武運を』
「えぇ。貴女も気を付けて」
この戦場において、気を付けようがない事態はいくらでも起き得る事など分かっているのに、マリューは気を付けてという一言を口にした。ナタルは頷き、それを最後にバルトフェルド、キサカ達二人の映像と共に彼女の映像も途切れる。
地球軍艦隊を追って転針するアークエンジェルの背後で、ジェネシスへと向かう他三隻の姿が遠く、小さくなっていく。それと同じ頃、キラ達モビルスーツ隊もまた、転針した地球軍艦隊に気付き、そこから発進していくメビウス隊を目撃していた。
「あの部隊は…!」
「チッ!」
ジェネシスを攻めあぐねた地球軍が、月基地を撃たれた報復の為に一気にプラントを陥とそうと、核を装備したメビウス隊を出したのだとすぐさま事態を把握する。
呻いたキラがカナードと共にミーティアを駆って核ミサイル部隊を追おうとした時、ふとゼノスの姿が近くにない事に気付く。同じくミーティアを装備したハイペリオンは先を行き、彼の行動を見て事態に気付いたスピリットとストライク二号機、ルージュが後に続く。
「ユウ─────、フレイ…!」
一瞬動きを止めたフリーダムへ襲い掛かるザフトのモビルスーツ隊を、ミーティアの発射管からミサイルを放って退けながら、彼女からやや離れた所で敵モビルスーツと交錯を繰り広げるゼノスを見つける。
ゼノスと交戦していたのは、光の翼を広げ凄まじい機動で飛び回る地球軍のモビルスーツ─────リベルタス。キラは咄嗟に、それに乗ってユウと戦うパイロットの名前を叫んだ。本当なら今すぐに飛んで行きたい。ユウと一緒にフレイを助けて、彼女をアークエンジェルへ連れ戻したい。だが、そんなキラの願いは今の状況が許してくれない。
今こうしてキラが眺めている間にも、ユウとフレイは戦い続けている。ユウはフレイを救う為に、フレイはかつてユウを愛していたという記憶を忘れ、悲しくも彼を陥とす為に─────そんな悲しい戦いにキラは背を向けて機体を駆った。
大丈夫、と自身に言い聞かせながら。ユウもフレイも、二人で帰って来ると信じて、キラもまた核を止める為に動いたその時だった。
『よぉ。ちょいと俺の準備運動に付き合えよ』
「っ─────!」
真っ直ぐに、キラを悪意が射貫く。嫌な予感に背筋が凍り付く様な感覚に駆られながら、キラは咄嗟に機体をずらす。直後、彼女の視界の端を横切ったのは見覚えのある形状の砲撃─────フリーダムに搭載されているバラエーナのものと同じ形状のビームだった。
光条が飛来した方へ目を向ければ、そちらから従来のものと比べて一回り大きいモビルスーツがフリーダム目掛けて飛んで来る。以前ユウがエターナルの援護へ向かった時、そして前回にもユウは短時間であるが交戦をした、フリーダムと同系統のザフト製モビルスーツ─────イーラ。クライン家の執事でありながら、ラクス達を裏切り離反した男が搭乗したモビルスーツが、キラへと牙を剥く。
「ユウの所へは行かせないっ!」
『ほぉ?やってみろや、前座ッ!』
イーラが更に加速しながら、バラエーナとクスィフィアスを展開する。対してキラもまた、ミーティアの砲門を開き敵の襲撃に備えるのだった。
「来るぞ!散開!」
キラ達がピースメイカー隊を追っているのと同じ頃、イザークの属するプラント守備隊もまた、軍本部から程近い宙域でソレを捉えていた。イザークは自らの隊に命じ、核を抱えたメビウスの集団に突っ込んでいく。
母の裁量によって隊の後方へと回されたジュール隊。愛する息子を思い遣るが故の行動であったが、それが却ってジュール隊が核部隊と正面から衝突するという事態を招いた。だが、母の思い遣りに反してイザークが勇んだのは言うまでもない。
突撃するデュエルに続いてシホのゲイツが、シグーやジンがストライクダガーと交戦を始める。彼らの後方からはバスターが支援砲火を浴びせる。彼らの奮闘は凄まじく、地球軍のモビルスーツを次々と撃ち落としていく─────が、目標である核部隊には手が届かないでいた。
「っ!?」
その中でデュエルが敵部隊の守りを引きちぎり、メビウス隊へと照準を向けようとするがそこにカラミティの砲撃が割って入る。咄嗟に姿勢を制御し、回避行動をとり事なきを得るが、イザークの前にニーズヘグを構えたフォビドゥンが割り込む。
「クソッ!」
あと少しという所で邪魔が入った事に舌を打ちながらも冷静を保ったイザークが、襲い来るフォビドゥンへ応戦する。
先程のジェネシスによって更なる打撃を受けた地球軍だが、尚その物量は未だプラント側と比べて優っている。そこにカラミティの火力が加わった敵部隊に対して、今度は僚機が次々と撃ち落とされていく。
「このままでは…ッ!?」
部隊の先頭に立ち、フォビドゥンに対して奮戦するイザークだが護衛部隊を突破できずにいる。
『隊長!すぐに援護を─────「シホ、後ろだ!」っ!?』
フォビドゥンに苦戦するイザークを援護しようとシホのゲイツが向かおうとするが、その背中をカラミティの砲塔が狙っていた。辛うじてイザークの指示が間に合い、シホが回避に成功するが彼女へ続けてイザークの檄が飛ぶ。
「俺の事はいい!シホはディアッカとその機体を─────」
任せる、と続けようとしたイザークの視界の端を紅い機影が横切った。カラミティへ襲い掛かる光刃、寸での所で防がれてしまうが続けざまに右脚が振るわれ、緑青色の機体が弾き飛ばされる。
『アスラン!?』
危機に瀕した彼らを救いに来たのは、ジャスティス─────アスラン・ザラ。すぐに体勢を立て直したカラミティと対峙するジャスティスを見たディアッカが、思わず驚きの声を上げた。
「貴様…、何故こんな所にいる!」
鎌で斬り掛かるフォビドゥンと抗戦しながら、イザークが怒声を向ける。
本来ならば今頃、アスランは最前線にいなければならない筈だ。誰よりも前に立ち、誰よりも多くの敵を墜とす─────それこそが彼に求められる役割だった筈なのに。何故、部隊の後方にまで下がってきているのか。
『艦隊がプラントへ転針したんだ!何を企んでいるかくらいすぐに想像がつく!』
「…フンッ!」
言われてみればその通りであり、仮に自身がアスランの立場であれば間違いなく同じ事をしただろう。それにアスランのお陰で助かったのもまた事実だ。─────認めたくはないが。
決して表に出さず、誰にも伝わる事がない感謝を内心で抱くイザークの目に、メビウスがプラントへ向けて核ミサイルを発射したのが映った。
こうして自分達が二機の新型Gに足止めされている間にメビウス隊は更に接近し、プラントを射程に捉えていた。まずい、とすぐさま迎撃に向かおうとするもその前にフォビドゥンが立ちはだかる。ジャスティスもカラミティの砲火に晒され、デュエル同様防衛に向かえない。ディアッカ、シホを初めとした守備隊の面々も敵モビルスーツ隊に押さえられている。
『プラントはやらせない─────!』
万事休すかと思われた直後、まるで何かのスイッチが入ったかのように動きにキレが増したジャスティスがカラミティを振り切って敵陣を突破する。それと同時に、明後日の方向から凄まじい速度でこの宙域に飛来した機影を誰もが目にした。
ジャスティスがフォルティスとビームライフル、三門の砲口に火を噴かせるのと同時に、この場に突如現れた機影─────ミーティアを装備したハイペリオンがミサイル発射管を一斉に開き、何十もの弾頭を撃ち放つ。二機によってプラントに向かう核は薙ぎ払われていく光景に、イザークは気を取られてしまった。
『隊長!』
「っ!」
先程と立場がまるで逆だった。シホの声に気を取り直したイザークが機体を反転させ、シールドを翳す。辛うじて防御が間に合ったものの、姿勢制御が不十分なままフォビドゥンの斬撃を受けた為に機体が後方へと吹き飛ばされる。
「く…っ!」
フォビドゥンのバックパック先端部の砲口にエネルギーが集中する。止めの砲撃が放たれようとする中、イザークはまだ機体を立て直す事ができない。そこに、何者かがフォビドゥンを撃った。フォビドゥンは砲撃を取りやめ回避行動を取り、その間にイザークは機体の体勢を整え、自身を助けた何者かを目にする。
援護の一射が放たれた方向にいた黒い機体、スピリットを見つけてイザークは思わず声を上げる。
「ミゲル…!」
その間にも核ミサイルの第二波が発射される。ハッとしたイザークは機体をそちらに向ける。
ミサイルを迎撃しようと動いたハイペリオンにカラミティが割り込み、その隙にジャスティスが開いたスペースから危うい所でミサイルをビームライフルで狙撃する。
ジャスティスだけではない。深紅のストライクともう一機、嫌な思い出しかないバックパックを装備したストライクも一緒になってミサイルを迎撃する。一発のミサイルが撃ち抜かれ、数発を巻き込んで誘爆していく。そうして着実にミサイルを墜としていく彼らを狙おうとカラミティが動くが、そうはさせじとハイペリオンが戦い続ける。
そしてフォビドゥンが、デュエルへの止めを邪魔したスピリットへと向かっていく。
「っ─────!」
何かを考える前に、イザークはアサルトシュラウドの砲口をフォビドゥンへと向けていた。直後、疑問が頭をもたげる。本当に良いのか、と。自分の陣営を抜けた相手を助けるのは、軍に対する背信行為ではないか─────と。
─────知った事か。俺は、軍の為に戦っているのではない!
トリガーを引き、レール砲とミサイルが一斉に放たれる。スピリットに襲い掛かろうとしたフォビドゥンが自身に向けられた砲撃に気付き反転、バックパックを展開してデュエルから放たれた砲撃を全て防ぎ切る。
『イザーク─────』
『お前…』
呆然とイザークを呼ぶミゲルと、隠し切れない喜びが籠もった声を漏らすディアッカ。彼ら二人に向けて、イザークはいつものぶっきらぼうな調子で言った。
「足を引っ張るなよ、二人共。プラントへ放たれる砲火、一つたりとも許すな!」
すでに第二波の迎撃が終わり、続けて第三波が迫りつつある。まだこれだけの物量を持っている地球軍の戦力に驚きを覚えつつ、機体を駆り、ミゲルと共に前面へ躍り出る。その後方ではバスターが長射程インパルス砲を構え、支援の体勢を整える。
長い間引き裂かれた仲間達が集結し、かつてと同じように戦場を共にする、そんな懐かしい光景が戻って来た。少し離れた所では、短い間ではあっても同じ隊として戦ったカナードがいる。陣営は違えど、目的は同じ─────
その光景を、複雑な思いを含んだ目で見つめる者がいた。暫しの間、連携を駆使してフォビドゥンと交戦するデュエルとスピリットを見つめてから、今度はその目でミラーブロックの換装を続けるジェネシスを見る。
「父上─────、俺は…っ」
もう戦いの勝敗は決まった様なものだ。プラントの守備隊に加え、クライン派陣営の増援の力もあり核ミサイルは次々に迎撃されていく。この調子なら第三波もプラントに届く事はないだろう。
そう、もうジェネシスを撃つ必要等どこにもないのに─────ミラーブロックが動く。ジェネシスの照準が少しずつ傾いていく。その矛先を月からずらし、少しずつ、
馬鹿な、と激しく頭を振る。これはただ、地球軍へ姿勢を見せているだけ。これ以上核を振り翳すならば、こちらにも考えがあるというポーズをしているだけだ。そうだろう?地球を撃つ筈がない─────父が、そこまで愚かな筈が…。
「─────」
ない、と断じる事が出来ない。それこそが最早答えなのかもしれない。ただその答えから、アスラン・ザラは目を逸らす。逸らしてしまう─────。何故なら、父が本気で地球を撃つつもりならば、それを許す訳にはいかない。本気で父と敵対し、或いは父をこの手で撃たなければならなくなるかもしれない。
それだけは…、どうか、それだけは─────。
アスランは懇願するしかなかった。友を傷つける覚悟はある。かつての仲間達も、もしプラントへ銃を向けるというなら容赦はしない。ただ、父だけは─────たった一人残された家族だけは。
どうかそれだけは、この手で奪う事がないように─────。