フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE118 告白

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球軍艦隊がジェネシスではなく、プラントへと向かっていく。艦艇から続々とピースメイカー隊が出撃していき、護衛のストライクダガーが追随していく。プラント付近の宙域では核の炎が咲き乱れる恐慌の光景が広がっていた。しかしそのどれもはプラントの手前で四散し、宇宙に浮かぶ砂時計は未だ整然と回り続けている。

 

 キラ達が頑張っている─────地球軍のモビルスーツ隊の妨害を受けながらも、プラントへ向けられる核ミサイルを全て防いでいるのだ。それとは別方向では、ラクス達がジェネシスを止めるべく守備隊と対峙している。俺もすぐにどちらかの援護に向かいたい所だが、先に俺自身が撒いた種を刈り取らなくちゃいけない。

 

 ─────死んでも連れ戻す!

 

 残像を残しながら迫るリベルタスの斬撃をガントレットで受け流し、開いた距離を保ちながらビームライフルを向ける。ただ機体本体を狙うのではなく、動きを誘導する意図を持った射撃。だがフレイはこちらの誘導には掛からず、機体に備わった最速を以て振り切ってしまう。

 

 ヴォワチュール・リュミエール─────リベルタスというモビルスーツが持つ最大の特徴であり、最大の長所。この機能の恩恵は凄まじく、従来の機体を大きく上回る機動力を誇るこのゼノスですらも、ヴォワチュール・リュミエール展開時のリベルタスには敵わない。二刀のビームサーベルとビームライフルは核動力を誇る機体にも劣らない火力を持ち、背中に背負う砲塔もそれ単体のみで見た場合はカラミティにも負けていないだろう。

 

 フレイはリベルタスの全武装を惜しみもなく展開してこちらを攻め立てて来る。対してこちらが使用する武装はビームライフルのみ。フレイを傷つけずに連れ帰ると決めた俺は、ここぞという時にしか刃を振るうつもりはない。スキュラなんて以ての外だ。だが、武装を制限した状態でフレイを相手取るには相当苦労する。

 

 何しろ今のフレイは、俺が最後に会った時から比べ物にならない程に腕を上げている。そのレベルは兄さんは勿論、キラやカナードにも迫って─────或いは上回っているか否か、その域にまで来ている。

 

 こちらの射撃を翼を翻し躱したリベルタスがビーム砲を構える。間髪置かずに放たれたフォティアの砲撃を、こちらも双翼を翻して躱すが、続けざまに放たれた()()()は、どうしても防御は勿論回避が間に合うかも怪しい。ゼノスの機動を読んだ上手い射撃だ。

 

「くそっ…!」

 

 戦術の巧みさに舌を巻きながら、以ての外と定めた武装を使うしかない己の不甲斐なさに舌を打つ。一瞬躊躇い、すぐにそれを振り切ってスキュラのトリガーを引く。双方向から放たれた光条は二機の中間地点で衝突し、行き場のない閃光を撒き散らしながら消滅を起こす。

 

 眼前で広がる爆発を眼前に、周囲への警戒を怠らない。この光のせいで一時的にリベルタスの姿を見失った─────向こうからもそうだろうが、ここは敢えて動かない選択を取る。恐らく、フレイなら…。

 

 直後、衝突の余波を突っ切ってサーベルを構えたリベルタスが現れた。

 

「ハァァァアアアアアアッ!!!」

 

「正面から来るよな、お前ならッ!」

 

 予測通りに振り下ろされる斬撃をガントレットで受け止める。

 

「っ!?」

 

 攻撃が読まれた事に驚き、ほんの一瞬体を硬直させるフレイ。その硬直を見逃さない。すぐさまリベルタスがもう一方のサーベルを抜き放つが、こちらの拳の方が速い。突き出されるゼノスの右拳が、リベルタスの顔面左側部へと命中する。

 

 衝撃にリベルタスがよろけ、抜き放たれた斬撃も目測がぶれた事で空を切る。そこに更にもう一発、今度はリベルタスの顔面中央へと拳を叩きつける。

 

「このっ…!」

 

 今度は上手く機体を立て直してみせたフレイは、後退中に右手のサーベルから持ち替えたビームライフルを向けて発砲。紙一重の所で回避したこちらもライフルを撃ち返し、リベルタスがそれを回避する。

 

 高速にすれ違いながら砲火を撃ち合い、やがて埒が明かないと判断したのか、リベルタスがライフルを撃つのを止めたかと思えば、翼を広げてこちらへ向かってくる。

 

 来る─────スラスターを吹かして、こちらも前進。

 

 瞬く間に距離が縮まる二機。リベルタスが斬撃を振るう直前、ゼノスの右手がサーベルの柄に触れる所を()()()()()()()()()

 

「っ─────!」

 

 戦闘途中から俺は近接武装を一度も使っていない。当然、フレイもその事には気付いていて、同時に無意識下に刷り込まれている筈だ。俺が()()()()()使()()()()()()()()()

 

 それは事実だし、現に今だってサーベルを振るうつもりはない。だが対峙しているフレイにとっては違う。視野が広い彼女には当然、サーベルの柄に触れているこの手が見えている。そうなれば刃が振るわれるという考えと警戒が生まれる。不意に生まれた警戒は硬直を生み、無心で振るわれる筈だった斬撃に僅かに鈍りを過らせる。

 

「あっ…!」

 

 その手は何も掴まず、ただ柄に添えたまま。全身を翻してリベルタスの斬撃を躱し、その脇を高速で通り過ぎた機体に急制動を掛ける。反転し、柄に添えていた右手を離して拳を握り振りかぶる。

 

「いい加減…、目を覚ませっ!」

 

 無防備を晒すリベルタスの背後に回り込んだ。すぐさまこちらに向き直ろうとしているが、勿論それは間に合わない。その前に振り翳されたゼノスの拳が、リベルタスの後頭部に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ませ─────強い衝撃によろめく機体の制御を整えながら、フレイは内心で先程ユウがぶつけた一言を反芻していた。

 

 何が目を覚ませ、だ。目ならとっくに覚めている。父が死んだあの時から、この世界で一人残されたあの時から、頼れるのは己だけだと突きつけられたあの瞬間から─────フレイ・アルスター(復讐鬼)は目を覚ましたのだ。

 

 憎むべきコーディネイターを、掛け替えのないたった一人の家族を奪った奴らの命を全て刈り取るまで、フレイ・アルスター(復讐鬼)は止まらない。刻まれた憎しみはそれを達するまで決して晴れはしない。それこそが、フレイに残された唯一の生きる意味なのだから。

 

 その筈なのに─────。

 

「なん、なのよ…」

 

 一時的にフレイの制御下から外れた機体の体勢を整え、ゼノスと向き直る。彼女を殴り飛ばした憎い筈の敵は、残心をとったままその場に留まり続けていた。大きくよろめいたリベルタスに止めを刺す決定的な機会だったにも関わらず、機体制御に苦心するフレイを何もせず見下ろして─────。

 

「何なのよ、貴方は!」

 

 敵と定めた相手に見下される、今のフレイにとってこの上ない屈辱。膨れ上がる怒りの衝動に従って、機体を駆る─────事はしなかった。怒りはある。屈辱もある。なのに、それに優る感情が、目の前の敵を刈り取ろうとするフレイの全身を縛り付けていた。

 

「一体貴方は、私の何なのよッ!?」

 

 分からない故に、苛立ちが止まらない。何でそこまで敵である筈の自分を生かす事に拘っているのか。こいつは自分の何を知っているのか。フレイは分からない、だからこそ、それを知りたいが故に問い掛ける。

 

「この前もそう…、敵である筈の私を助けて!」

 

 こいつに出会ってから、フレイの中で歯車が狂い始めた。自分から望んで始めた復讐に対して疑念が生まれた。それは本当に、自分の心から生まれた憎しみなのか─────それが本当に、自分が望んだ事なのか。

 

「これ以上─────もう…、私を…狂わせないで…!」

 

 蓋をしていた筈の心から、またあの()()が滲み出す。出撃前に感じた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()感覚─────いや、違う。

 

 ─────もう、いいの。

 

「─────」

 

 違う。いる様な、じゃない。確かにいるのだ─────()()()、この心の中に。

 

『…俺は、お前を苦しませたくてここにいるんじゃない。本当に、心の底から、お前がそこにいる事を望んでいるのなら─────もう何も言わないよ』

 

 先程まであれだけ偉そうに説教をかまして、こちらを見下す戦い方で神経を逆撫でしておいて、この期に及んで掌を返し始める。

 

 それなのに、もう怒りなんて湧いて来なかった。あの時は二人のフレイが鬩ぎ合い、彼女の心に恐怖を覚えさせた。だが今は─────二人の自分の心は、一つだった。

 

 ─────知りたい。

 

「貴方は、誰?」

 

『…そういえばまだ名乗ってなかったか。()()()()()()()()。大遅刻をかましてお前を苦しませた、酷い男だよ』

 

「…ユウ」

 

 その名を耳にして、フレイ・アルスターは全てを取り戻す。

 

 あぁ…、酷い話だ。全部、こいつのせいだったんだ。今ここに自分がいるのも、コーディネイターへの復讐に駆り立てる憎しみも、二人の自分が生まれて感じた恐怖も。全部、全部、全部─────目の前のこの男が、()()()()()()()()()()()()()()()()からだった。

 

 この心にあった淡い気持ちに気付いた時には全てが遅かった。全てを奪われたと思った。心にぽっかりと穴が空いて、虚無感に満たされて─────代わりにその心を塞いだのは醜い憎悪だった。

 

 それを止めようとしてくれた仲間達を振り切って、フレイ・アルスターは力を得る為に仲間達の元を離れた。全ては、愛する人を奪った相手へ復讐する為に。そうして辿り着いた先で待っていたのは、地獄だった。

 

 訓練は厳しく、一日一日過ごす毎に自分が自分でなくなっていく感覚が募っていった。今になって思い返せば、いくらでも心当たりは浮かぶ。しかしあの時の自分はそれに違和感を覚える事はなく、この先に復讐の完遂があるのならと、見境なしに突き進んでしまった。

 

 ─────そうして、フレイ・アルスター(復讐鬼)は完成した。

 

 復讐鬼はフレイの憎しみを都合よく利用した、地球連合上層部にとっての便利な兵器となり果てる。リベルタスという解放の女神の名を冠した機体を与えられ、彼らが望んだ戦果を次々に挙げ続けて来た。ユウと再会するまでは。

 

「本当…酷い話よ。全部、アンタのせいだったんじゃない…」

 

『フレイ…。お前、まさか─────』

 

「散々、好き放題殴ってくれたわね。自分の責任は棚上げして」

 

 これは八つ当たりだ。この結果を招いたのはユウではなく、自分の弱い心。自分よりももっと前からユウの事を好きでいたキラが耐えられて、自分が耐えられなかったのは─────その心が弱かったせいだ。そうでなかったら、きっと今頃は─────意味のない仮定を、フレイは静かに頭を振って振り払う。

 

 ただ流石にこれは酷いのではないか、と思ってしまう。死んだのだと、二度と会う事は出来ないのだと、何にも代えられない掛け替えのない人を失ったその喪失感は、今でも鮮明に思い出す事が出来る。だというのに当の本人は何食わぬ顔で現れ、出来の悪いだの不甲斐ないだの馬鹿だの好き放題言ってくれた挙句、修正と語ってボコボコにぶん殴ってくれた。

 

「生きてたんならもっと早く帰って来なさいよ。お陰で私、酷い目に遭ったんだけど?」

 

『いや、俺だって死んだと思ってたし…。あれでも急いで戻って来たし…』

 

 映像回線が繋がり、互いの顔を見合わせながら言葉を交わす。

 

 戦場で邂逅する毎に憎しみは薄れていき、記憶を取り戻した今となってはあれだけ憎たらしかったユウの存在が、顔が、愛おしくて仕方ない。

 

 本当に─────もっと早く帰って来てくれれば、ユウの傍にいられたのに。共に戦い続ける事が出来たのに。

 

 だから、本当は自分の心の弱さが招いた事態だって分かってはいても…少しくらい仕返しをしても許されるのではないか、とフレイはちょっとした八つ当たりを思いつく。

 

「一発」

 

『はい?』

 

「殴らせなさい。一発」

 

 リベルタスの右拳を握り、ゼノスへと向ける。フレイの言葉とその所作で、彼女が何をしようとしているかを察したユウが、一瞬息を詰まらせた後に大きく息を吐き出した。

 

『…分かった。甘んじて受けるよ』

 

「そう。…なら、行くわよ」

 

 勢いはつけず、ゆっくりとゼノスへ近付く。映像に映るユウは、来る衝撃に備えて両目を瞑り歯を食い縛っていた。

 その顔をフレイは微笑みながら見つめて─────シートのベルトを解き、スイッチを押してコックピットハッチを開けるとそこから宇宙空間へと飛び出した。

 

『はっ?』

 

 通信を通してハッチが開く音を耳にしたユウが、恐らく空になったリベルタスのコックピットを目にしたのだろう。中からユウの呆けた声が小さく届いたが、構わずフレイは()()()()()()()()()()へと突き進んでいく。

 

 直後、ゼノスのコックピットハッチが開き、中からユウが身を乗り出して向かってくるフレイへと手を差し伸べる。

 

 映像越しではない。ヘルメットに包まれてはいても、フレイの目は確かにユウの瞳を捉えていた。

 

 殴りたいなんて嘘だ。仕返しをしたかったのは本当だけれど、そんな嗜虐心も今のユウの必死な顔を見てあっという間に引っ込んでしまった。

 本当は、この身でユウの存在を感じたかった。記憶を奪われたとはいえ、心の弱さを利用され、挙句銃口を向けて本気で殺そうとした。そんな資格は自分にはないと頭では分かっていても…、もし受け入れてくれるのなら、ユウの腕の中に飛び込みたかったのだ。

 

 そんなフレイの願いは叶う。二人の距離は縮まっていき、やがてユウがフレイの手を掴むとゼノスのコックピットの中へと引っ張り込み、そしてその両腕でフレイの身体を受け止めたのだ。

 

「何してるんだ、このバカッ!!!」

 

 抱擁を交わした後の第一声は、遠慮のない罵声。

 ただでさえ危ない宇宙空間、しかも周囲は砲火が飛び交う戦闘宙域だ。パイロットスーツを着ているとはいえ、その中に身一つで飛び出したのだからユウが怒るのも当然だ。

 

「…あはっ、あははははははっ!」

 

「笑ってる場合か!お前は、本当に…!」

 

 ただ怒られてる筈のフレイには、そんなユウの怒りは全く通じなかった。

 

 またユウに会えた。愛しい人の顔を見られて、声を聞けて、こうして抱擁を交わす事さえ出来て。今のフレイは幸せの絶頂だった。

 笑いが止まらない─────そんなフレイを見て、ユウは諦めた様に溜め息を吐く。

 

 しばらくして、ようやく笑いが収まり、笑い続けた事で荒くなった呼吸を整えようと苦心するフレイへ向けてユウが声を掛けた。

 

「…満足したか?」

 

「はぁ…はぁ…。うん、ごめんなさい。心配かけて」

 

「本当だよ、全く。…俺の方こそ、ごめんな。たくさん心配かけた」

 

「うん。…お互い様ね」

 

 密着していた身体を離しながら、しかし互いにその手を離す事はないまま、近距離で顔を見合わせながら謝罪を交わす。

 

「─────」

 

 今になってフレイは我に返る。我ながらとんでもない事をしたという改めての自覚と、現在の自分の位置についてだ。

 フレイは今、ユウと互いに背中に腕を回し合っている体勢でいる。そうなれば当然、至近距離でユウと顔を突き合わせている事になるのだが─────ここまで近距離でユウの顔を見た事がなかったフレイは、改めてユウ・ラ・フラガという男の美貌を目の当たりにしていた。

 

 ヘルメット越しでもハッキリと見える、金色の髪の艶。長い睫毛。一点の濁りのないサファイア色の瞳には吸い込まれそうになる感覚さえ覚える。

 神に愛されていると言わんばかりの美貌の暴力に晒され、硬直してしまうフレイ。そんなフレイを、ユウがキョトンと首を傾げながら覗き込むものだから、彼女の内心は大変だ。荒れ狂う嵐の如く、色々な衝動が彼女の心の中を渦巻く。

 

 抱きしめたい、キスがしたい、いっそこのままここで身体を重ねてしまいたい─────状況を弁えない色々な欲望を全力で抑えつけ、しかし彼女はただ一つだけ、我慢する事はせず衝動に身を委ねた。

 

「ねぇ、ユウ」

 

「ん?」

 

「─────大好き!」

 

 本来の記憶を奪われ、代わりに偽りの記憶を植え付けられても尚、完全に打ち消される事がなかった想いを、フレイは衝動のままに、目の前の愛しい少年に向けてぶつけたのだった。

 

 他に心向けている筈のユウでさえ、目を奪われる程の綺麗な微笑みを浮かべながら─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フレイがアークエンジェルを離れてから丁度今回で50話目…。お帰りフレイ。
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