フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE119 混沌は止まらず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント最終防衛ライン付近では、なおも激しい戦闘が続いていた。大打撃を受けて尚ザフト軍を上回る物量で攻め続ける地球軍は、プラント守備隊に襲い掛かり、大事に核を運ぶピースメイカー隊を射程範囲まで送り届ける。

 

「無駄な足掻きを…っ!」

 

 再度核弾頭ミサイルが発射された事を即座に察知したカナードが、ミーティアからミサイルを放ち迎撃していく。一般のナチュラルは勿論、コーディネイターとも一線を画す情報処理速度で放たれる核を捕捉する。カナード自身が持つ能力は勿論、半生を掛けて課せられ続けた厳しい訓練─────何故自分がこんな目にと憎らしく感じる事が何度もあった。しかし認めたくはないが、その経験が今この瞬間、カナードを支え、彼が望む戦いの糧となっていた。

 

「まだ─────ッ!」

 

 モニター画面に小さく映る後続のピースメイカー隊を叩くべく機体を駆ろうとした時、コックピット内に警報が鳴る。ロックされたのだと悟ったカナードは咄嗟にミーティアを駆ってその場から離れる。

 

 その直後、彼がいた場所を横切っていく光条。モニターにはこちらに向かって来ながら、更なる砲撃を撃ち掛けて来るカラミティの姿があった。

 

 ミーティアの推進力で連続で放たれる砲撃を振り切り、ユニット先端のビーム刃を出力してカラミティへ斬り掛かる。武装が重い分、機動力はリベルタスやレイダーと比べて一段劣るカラミティだが、大きく振るわれる斬撃を掻い潜り回避する。その様子を見ながら、カナードは小さく舌を打った。

 

 ミーティアを装備した分、火力、推進力は格段に上がった。この二点については最早戦艦並みといっていいだろう。だがそれの代償として、今のハイペリオンからは大型武装を装備した事で小回りが失われている。そしてハイペリオンの最大の特徴である、アルミューレ・リュミエールも展開不可能。これだけの不利な要素を背負って尚、対カラミティの戦闘を成立させてるのは偏にカナードの巧みな操縦技術故だろう。

 

 だが、それも限界に近い。未だ陰りが見えない地球軍の物量に対して有効であるミーティアだが、対モビルスーツ戦に於いてこれ程不向きな装備はあるまい。これで同様の装備をつけているフリーダム─────キラがいれば、連携で追い込む事も出来るのだが、生憎近くに姿は見えない。ならば、カナード自身の力で目の前の敵をどうにかするしかない。

 

「仕方がないッ!」

 

 決断の時だった。アーム先端のビーム砲をカラミティへ向けて放った直後、カナードは一つのボタンを押して機体からミーティアをパージする。それと同時に遠隔でミーティアを操作し、先程放ったビーム砲に対して回避行動をとるカラミティへと向かわせ、その後にハイペリオンも続く。

 

 遠隔操作を受けて単独飛行するミーティアに対し、カラミティが起こしたのは回避行動だった。続けてミーティアの陰に隠れて接近するハイペリオンに素早い反応を示したカラミティは、スキュラとシュラークの三つの砲門を噴かす。だがそれらの砲撃は、ハイペリオンの周囲に展開されたアルミューレ・リュミエールによって妨げられる。

 

「これでッ!」

 

 咄嗟にカラミティがハイペリオンから距離を取ろうとするが、逃亡に移るにはワンテンポ行動が遅かった。すでにカナードはカラミティへ照準を合わせ、フォルファントリーを跳ね上げている。

 

 トリガーを引き、二門の砲口から砲撃が放たれ、回避が間に合わなかったカラミティの装甲を抉る。続けざまに懐へと飛び込んだカナードはビームナイフを抜き、寸分違わずカラミティのコックピットへと刃を突き立てた。

 

 コックピットが潰され、動かなくなったカラミティからナイフを抜いてマウントし、その場から離れて先程パージしたミーティアと再ドッキングをする。その間に爆散した敵には目もくれず、カナードは再び現れたピースメイカー隊を迎撃すべく機体を駆る。

 

 モニターを降ろし、次々と敵機をロックしていき、砲火を放って撃ち落としていく。

 

 カラミティが斃れた今、この場にカナードとハイペリオンを止められる者は誰も居ない。数に物を言わせて続々と核部隊を発進させる地球軍だったが、目標へ弾頭を届ける事はおろか、プラント前面に張り巡らされた守備隊を突破する事も出来ず、ただ戦力を減らしながら時間だけが過ぎていく。

 

「っ─────」

 

 カナードの目にモニター上の光点が一つ、消失したのが映ったのはそんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナードがカラミティと交戦を繰り広げていたのと同じ頃、少し離れた宙域でも激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 イザーク率いるジュール隊を筆頭としたプラント守備隊、そしてミゲルとスウェンは発進したピースメイカー隊を護衛するダガー隊と対していた。

 

「ったく、こんなモンを守って何になるってんだよ!」

 

 怒声を発しながら、ミゲルはビームライフルで一機のストライクダガーを墜としてから、続けてサーベルを構えて接近してくるもう一機のストライクダガーへと同じくビームサーベルを抜いて斬り掛かる。

 

「そんなに滅ぼしたいのかよ…!それで満足するってのかよ、お前らはッ!?」

 

 スピリットの特性である機動力を上手く活かしながら、包囲を試みる敵部隊に風穴を空けるミゲル。

 

「このッ!」

 

 ミゲルが空けた風穴を、強力な砲撃で広げるのはディアッカとバスター。陣営が乱れた所をインパルス砲で狙い打ち、広がった穴からピースメイカー隊へと迫るのはスウェンのストライク二号機とイザークのデュエルである。

 

 I.W.S.P.を装備したストライクとデュエルのアサルトシュラウド、強力な火力を備えた僚機が間を置かず発射される核ミサイルを見事に撃ち落としていく。

 

「この調子なら、いけるんじゃねぇの!?」

 

「油断をするな!こいつらにはまだ─────」

 

 戦況は拮抗していた。とはいえジェネシスによるダメージが大きい地球軍には、数に限界がある。核ミサイルも残りどれだけ残っているか。この調子ならば、核攻撃部隊を跳ね返せる─────そんな希望を抱いたディアッカが声を上げるが、そこにイザークの諫めの声が割り込む。

 

 確かにこの調子でいけばプラント防衛を果たす事が出来るだろう。だが敵にはまだ核以外の脅威が残っている。それを頭に入れていたイザークが最も早く、驚異の接近に反応した。

 

「避けろディアッカ!」

 

「なっ…、くっ!」

 

 イザークの声を受けて、寸での所で明後日の方向からの砲撃を躱したディアッカだったが、弧を描いて再度迫る光条を躱し切る事が出来なかった。

 

「大丈夫か、ディアッカ!?」

 

「あぁ…。掠っただけだ」

 

 ひやりとはしたが、機体の右肩を掠めただけに留まった。バスターに大きな損傷はなく、自身の呼び掛けにすぐに答えが返って来た事でミゲルは小さく安堵の息を吐く。

 

「こいつ…!」

 

「─────っ」

 

 バスターを狙って砲撃を放った正体が、彼らの前に姿を現し、それに対してスウェンが機体を駆って接近していく。

 

「無茶をするな、スウェンッ!」

 

 現れた()()()()()()に対して何も言わずに殿を買って出たスウェンへミゲルが呼び掛けながら、援護をするべく機体を駆る。

 

「おい、ミゲル!」

 

「くそっ!」

 

 ディアッカとイザークがその後についていこうとするが、まだ地球軍による核攻撃は続いている。スウェンとミゲルのみならず、二人が離れれば迎撃が追い着かなくなる恐れも出てくる。

 

 二人がその場に留まり核ミサイルの迎撃を続ける中、スウェンとミゲルはフォビドゥンとの交戦に入った。

 フォビドゥンから放たれるフレスベルグを巧みに掻い潜り、ビームブーメランで斬り掛かるスウェンだが、展開された装甲が斬撃を妨げる。

 

 防御された直後、フォビドゥンのバックパックに搭載された砲門が臨界を始めたのを見てすぐにその場から後退。再度放たれたフレスベルグをコンバインドシールドで受け止める。

 

「チィッ…!」

 

 対ビームコーティングを施されているシールドだが、GATシリーズ第一世代のストライクと第二世代のフォビドゥンでは出力に大きな差がある。何とか受け切る事に成功するも、出力に押されて機体の体勢が大きく後方へ押しやられてしまう。

 

 その隙を逃すまいと追撃を仕掛けようとするフォビドゥンの前に、ミゲルのスピリットが立ちはだかる。

 

「させるかよっ!」

 

 ビームサーベルで斬り掛かるスピリットに対し、フォビドゥンは再度装甲を展開して斬撃を受け止める。

 

「ッ!」

 

 斬撃を防がれた直後、フォビドゥンが両手に握られたニーズヘグを無造作に振るい、スピリットを弾き飛ばす。

 ビーム出力装置を持たない実体の武器だが、フォビドゥンの馬力によって振るわれた強烈な一撃は強い衝撃をパイロットに齎す。

 

「ぐうぅっ…!」

 

 強烈なGに耐えながら、ミゲルは薄れつつも辛うじて開けた視界に映ったフォビドゥンから機体を遠ざける。

 

 フォビドゥンは体勢を崩したスピリットへ有効なダメージを与えられるビーム砲ではなく、バックパック両側のレールガン()()()()()()を撃ち放つ。

 弾丸は二発、続けざまにスピリットへ命中し、機体は更に大きく後方へ流されてしまう。

 

 今度こそ止めの一撃が放たれる瞬間だった。体勢を大きく崩したスピリットへ、フレスベルグの狙いが定められる。体勢を立て直すのに精一杯であるミゲルにその一撃を躱す余裕などあるはずもなく、この場で戦っているのが彼一人であったならば、この瞬間にその命を散らしていただろう。

 

「ミゲルは殺らせんッ」

 

 今こそ止めの一撃を放たんとするフォビドゥンの前に今度はストライク二号機が割り込む。レール砲、単装砲に加え、シールドに搭載されたバルカン砲を一斉に放つ。

 フォビドゥンは行動を変え、装甲を展開してストライク二号機の砲火を全て防ぎ切る。そうして再度、二機は交錯を始める。

 

「くそ…、スウェン…!」

 

 何とか機体の体勢を立て直したミゲルだったが、彼の意識は混濁して定まらないままだった。先程のフォビドゥンの砲撃がパイロットスーツの対G性能を貫き、ただでさえスピリットの機動力によって負荷が掛かっていたミゲルの身体に、更なるダメージを与えていたのだ。それでも失神を免れたのは彼の頑丈さ故か─────しかし、ハッキリとしない今のミゲルの意識状態では、戦闘続行は不可能であった。

 

 すぐにでも撤退して身体を休めるべき状況だが、それをこの地球、ザフト両軍が死力を尽くす戦場が許す筈もない。

 機体にダメージはなくとも動きが鈍い今のスピリットの状況を見れば、中のパイロットが何かしらの異常を来していると一目で分かる。地球軍の兵達にもそれは当然、即座に理解できた事だろう。

 

 自分達の核攻撃を次々と撃ち落としていった、憎きモビルスーツの内の一機─────スピリットを墜とさんと群がるようにして襲い掛かって来た。

 

 いつものミゲルであれば軽くあしらえただろうが、今の彼の状態はそれを可能としない。見えていても反応が遅く、反応できていても動作が遅い。よろよろと動く今のスピリットは、敵にとっては格好の獲物に過ぎない。

 

「ハッ─────黄昏の魔弾を舐めんじゃねぇぞ…!」

 

 絶望的な状況を前にして尚、ミゲルの戦意は微塵の揺るぎもなかった。斬り掛かって来るストライクダガーを返す刃で斬り伏せる。正面、離れた所から噴かされたライフルのビームをシールドで防ぎ、しかし同時に背後から迫る敵機への反応が遅れてしまう。

 

「グッ…!?」

 

 それでも機体を翻し致命傷を避ける─────が、すぐ脇を通り抜けていったストライクダガーの軌跡を追うように、ビームサーベルを握っていたスピリットの右腕が飛んで行くのが目に見えた。

 

 ─────あぁ、ここまでか。

 

 揺らぐ意識の中で、その思考はやけにハッキリと巡った。視界も開け、先程スピリットの右腕を持って行ったストライクダガーが反転し、再び斬り掛かって来る。後方からは更に二機、同じくサーベルを握ってスピリットへ飛び掛かる。

 

 回避も防御も間に合わない。慈悲なき死神の刃を、ミゲルは避けなかった。

 

 シールドを投げ捨て、ビームライフルを取り出した直後─────迫る三機のストライクダガーが、三方向からサーベルをスピリットへ突き立てる。

 

「ッッッ─────」

 

 声なき悲鳴が漏れる。目の前の画面がショートして、映像に多量のノイズが混じる。

 

 全身が熱い。だけど、あぁ─────良かった。まだ、身体は動かせる。

 

「す、うぇん─────」

 

「っ…、こいつ、まだ…!?」

 

 その動く様は屍人の如く─────不気味ささえ覚えた地球軍兵達が固まるのも目に留めず、ただミゲルはストライク二号機と交錯を続けるフォビドゥンだけを見ていた。

 

「─────」

 

 機体状況は酷いものだが、辛うじて操縦系統は無事だったらしい。スピリットの左腕がゆっくりとだが持ち上がったのを見て、ミゲルは端から血が垂れる口元に笑みを零した。

 

「─────しぶといッ!」

 

「…遅ぇよ」

 

 自身を取り囲む三機の内の一機が、サーベルを引き抜いて再度スピリットへと突き立てようとする。

 

 しかしその刃が届くよりも先に、スピリットのライフルから一筋の光条が放たれるのだった。

 

「ッ!?」

 

 ミゲルが放ったビームは、フォビドゥンのバックパック左側─────装甲との接続部を貫いた。

 目まぐるしく動き回る中で正確に目標を撃ち抜く─────まさに神業。そしてそれは、これ以上なく今のスウェンを救う一撃と相成った。

 

 厄介な防御機構だったが、今のフォビドゥンは片翼を失った鳥と同じ。スウェンを近付かせまいと砲撃を遮二無二に連射するフォビドゥンだが、それを巧みに躱してストライク二号機が迫る。

 

「ウォォォオオオオオオッ!!!」

 

 フレスベルグをコンバインドシールドで真っ向から受け止めながら、更に突き進む。シールドが融解を始めるのも構わず、フォビドゥンの懐にまで飛び込み、砲口にそのシールドを押し付けた。

 直後、凄まじい閃光が奔り、二機は衝撃に弾き飛ばされる。

 

「まだだ─────!」

 

 千載一遇の機会を逃す訳にはいかない。衝撃に飛ばされる機体の姿勢を即座に立て直したスウェンは、未だ後方へと仰け反ったままのフォビドゥンへと突進する。

 

 シールドからビームブーメランを取り出し─────先程の攻防の影響したか、ビームを出力しないそれを投げ捨ててからもう一本を取り出す。

 今度はしっかりとビームが出力され、それをビームソード代わりとしてフォビドゥンへと斬り掛かっていく。

 

 その間に体勢を立て直したフォビドゥン。フレスベルグは先程の攻防で使用不可となり、代わりにレールガンを放ってストライク二号機の接近を妨害しようとするが、命中する事なく白い機体のすぐ傍らを弾丸が通り過ぎていく。

 

 再度弾丸が放たれる前にスウェンがフォビドゥンの懐へと飛び込む。せめてもとフォビドゥンが右側の装甲を展開するが、左側ががら空きのままでは意味を成さない。

 シールドを投げ捨て、空いた左手でフォビドゥンの装甲を掴んで固定─────こちらを薙ぎ払おうと振るわれるフォビドゥンの両腕ごと斬り払い、右手を突き出す。

 ビーム刃がフォビドゥンのコックピットを貫き、推進剤が誘爆を起こして機体は炎に包まれたのだった。

 

「やっ、た…」

 

 死力を尽くした戦闘の直後、スウェンは息を切らしながら呆然と呟いた。

 

 危ない所だった。もしあの時、ミゲルが援護の射撃であいつの装甲を持って行ってくれなければ─────やられていたのはこちらだっただろう。

 

「助かったぞ、ミゲル」

 

 呼吸を整え、自身を助けてくれた相手へ感謝を述べるのもそこそこに、スウェンは再び戦場へと舞い戻ろうと操縦桿を握る両手に力を込める。

 

 違和感を感じたのは、その時だった。

 

「─────ミゲル?」

 

 ()()()()()()。もう一度呼び掛けるが、返答はない。可笑しいと思い、スウェンはモニターに目を移して、画面からスピリットの存在を示す光点が消失している事にようやく気が付いた。

 

「…ミゲルッ」

 

 先程までスピリットが戦っていた方向へとカメラを向け、その場の映像を映す。

 

 そこには、何の形を成さない()()()()()()()()が漂っているだけだった。それが、ミゲルの身に何が起こったのかを過不足なく物語っていた。

 

「─────」

 

 涙もなく、慟哭もなく、スウェンはそこから視線を切り、機体を駆って戦場へと戻っていく。

 

 だが、男の口元は何かを耐えるように歯が食い縛り、その目は爛々と確かな激情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バスターが二つの砲身を繋いで、対装甲散弾砲をアガメムノン級戦艦へ向ける。戦艦は機関部を撃ち抜かれ、光芒を放ちながら沈んでいく。

 続いてデュエルが別の戦艦へと接近─────対空砲火を潜り抜け、艦橋へグレネードを撃ち込んだ。

 

 ストライク二号機は戦艦の足下へ潜り込むと、バックパックに搭載された砲門を一斉に連射して装甲を蜂の巣にする。特にこの三機の鬼神の如き戦いぶりが目を引くが、地球軍にとって脅威はそれだけではない。

 

 ハイペリオンも核弾頭を抱えていると思われる地球軍艦艇を長大なビーム刃で斬り裂いていく。

 

 これらの四機を潜り抜ける事が出来ても、それらのメビウスはストライクルージュとジャスティスが撃ち抜いていく。

 

「あぁ─────」

 

 こんな筈ではなかった、と内心で叫ぶのはドゥーリットル艦長─────ウィリアム・サザーランド。

 

 次々と撃破されていく僚艦、僚機を呆然と眺める事しか出来ないサザーランドは現実を受け止められずにいた。

 

 何故、何故こんな事になった?もう残った艦艇はこのドゥーリットルのみ。モビルスーツもストライクダガーが十数機程度、カラミティもフォビドゥンも敵に墜とされてしまった。

 

「っ…、リベルタスは!?フレイ・アルスターをすぐに呼び戻せ!」

 

「それが─────シグナルはあるのですが、こちらの通信を拒否しているようで…」

 

「な、に─────?」

 

 だがまだ、サザーランドには縋れる希望が残されていた。その希望も、オペレーターからの戸惑い混じりの返答で掻き消されてしまったのだが。

 

 フレイ・アルスターがこちらからの通信を拒否している─────味方である筈の彼女が、何故?

 そんな戸惑いを覚えるのは()()()()()()()()()()()。この場でただ一人、フレイ・アルスターに施された処置を知っているサザーランドだけは正確に事態を把握してしまった。

 

 フレイ・アルスターは、自分達を裏切ったのだと。

 

「あの─────小娘がァァァァアアアアアアッ!!!」

 

 両手で頭を抱え、思わず掻き毟る。

 

 どういう事だ。処置は完璧だった筈だ。裏切ったという事は、記憶を取り戻したに違いない─────が、一体何故?

 

「アークエンジェル接近!」

 

「なっ…」

 

 この場にて彼らが相手取っているのは何もモビルスーツだけではない。戦艦─────アークエンジェルもまた、プラントへ迫る脅威の排除を目的として戦っている事を忘れてはならなかったというのに。

 瞬く間に敵モビルスーツによって味方の数が減らされていく様を目の前にして、完全にアークエンジェルへの警戒が疎かとなってしまった。

 

 光学映像に映し出される白亜の巨艦。すでにその主砲が展開され、今にでもドゥーリットルを撃ち抜かんと臨界を果たそうとしている。

 

「ジブリール様─────」

 

 最早自身の力ではどうにもならないと、サザーランドは再び縋れる相手を求める。

 

 隣に座っている筈の上司は、すでにそこに()()()()()

 

「─────っ、回避!回避ぃ─────ッ!」

 

 力の限りに叫ぶ。だがその叫びも虚しく、白亜の艦から陽電子砲が放たれる。

 

 苦痛もなく、ほんの一瞬で─────ウィリアム・サザーランド。この戦争で最も憎悪を燃やし、最も激しく暴走を続けた一人の男は、余りにも呆気なくその命を散らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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