フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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今回何と一万文字超え。この作品では初めてじゃないか…?


PHASE120 光の中で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナード達の奮闘もあり、地球軍の核部隊がプラントへ攻撃を届かせる前に墜とされていく。凄まじい数の核ミサイルが発射されて尚、未だその内の一発の弾頭もプラントに炸裂する事はなく戦況は過ぎていく。

 

 キラはそんな状況に気を配る余裕さえなくなっていた。

 

 ミサイル発射管を全開放して弾頭を放つが、その全てが回避、或いはビーム砲での狙撃を受けて撃ち落とされていく。

 

 攻撃の合間が出来たと見るや、イーラはビームサーベルを出力して加速─────斬り掛かって来るイーラへとキラは大型ビームソードを出力して刃を振り払う。

 突如イーラが制動を掛けたかと思えば急上昇してフリーダムの斬撃を躱す。直後には大型のミーティアを振るった事で体勢が流れ、身動きが取れないフリーダムへと再びイーラが斬り掛かる。

 

「くっ!」

 

 体勢が不十分なままでも構わず、ミーティアのスラスターを吹かしてその場から離れる。イーラの斬撃が空を切るが、そこで動きを止めずに今度はサーベルを収めたイーラがビーム砲を撃ち放つ。

 

 放たれた光条は制動を掛けたフリーダムがイーラへと向き直った直後、ミーティアの右アーム部を貫いた。誘爆を起こす前にキラはそれをパージして後退する。

 

「逃がすかよッ!」

 

 切り離されたアームが爆発を起こすその向こう側、イーラが迫って来るのを見たキラは左アーム部のビームソードを出力して迎撃を試みる。

 しかし如何せん、ミーティアの特性上斬撃を振るうにはどうしても大振りになってしまう。火力を重視しながらも確かな機動力を備えたイーラを捉えるには、その大振りでは無謀だった。

 

 掻い潜るようにしてフリーダムの斬撃を回避したイーラが大型のサーベルを振り下ろし、残ったミーティアのアームを斬り落とす。

 

 ここでキラは、ミーティアを諦める。

 この後の戦いを考えれば、まだミーティアの力は役に立つ─────が、この大型ユニットを装備したままではイーラとの戦いを制する事は出来ない。

 

 そう考えたキラはミーティア本体を機体からパージし、その場から離れる。

 直後、イーラから放たれた砲撃の奔流がその場に浮遊したミーティアを貫き、爆発を起こす。

 

「ほぉ?思い切りのいい判断するじゃねェか!」

 

「貴方はっ─────!」

 

 絶対的な火力を誇るミーティアを捨てる判断を下したキラへ、感心したように声を漏らすロイ。

 

 キラは腰のビームサーベルを抜き放ち、イーラへ斬り掛かりながらロイへと問い掛ける。

 

「どうしてこんな事をするの!?ユウに一体何の恨みがあって─────」

 

「恨み?んなもんねぇよ」

 

「─────え?」

 

 斬り掛かって来るフリーダムに対し、シールドを掲げるイーラ。

 

 フリーダムの斬撃とイーラのシールドがぶつかり、両者の視界の中で激しくスパークを起こす。

 

 その中で、キラは自身の問い掛けに対してのロイの返答を聞き、思わず呆けた声を漏らした。

 

「なら、どうして…」

 

「どうしてだぁ?そんなの、面白そうだからに決まってんだろうがァ!」

 

 ロイの咆哮の直後、両者が弾かれる様にして離れる。

 

 バラエーナとクスィフィアス─────フリーダム、イーラ共に搭載された高火力の砲撃を、互いに位置を入れ替えながら撃ち合い交錯する。

 

「頭の中お花畑な糞ガキだと思ってたラクスお嬢様が、あのユウって奴に会ってから女に成長しやがった。柄にもなくときめいちまったよ。…奴が殺された時、あの白くて綺麗な顔がどんな風に絶望に染まるかって考えたら、思わず勃起しちまうくらいになァッ!」

 

「─────」

 

 ユウに対するロイの強い執着。それを見て、キラはてっきりクルーゼのようにユウを含めた何かしらの事情があるのではないかと思っていた。そうであれば何とか話で解決できないかと、矛を収めて貰う事は出来ないかと─────だがそれは大きな勘違いだった。

 

 理解の範疇を超えた快楽主義。他人を顧みず、只管に自分のやりたいと感じた事だけを貫く欲望の化身。それがロイ・セルヴェリオスという男だった。

 

「そんな…、そんな事の為にっ!」

 

 ロイの口から飛び出したこの上なく下品な言葉に背筋が粟立つのを感じると同時、途方もない怒りが込み上げてくる。

 

「テメェにどう思われようが関係ねぇさ。とっととそこからどきな」

 

「絶対に嫌」

 

「…ザフト兵の身で言うのはあれだが、俺は別にこの戦争がどうなろうとどうでもいいって思ってるんだ。お前が俺の邪魔をしないでくれるなら、その後ジェネシスを壊しに行こうがどうしようが自由にすりゃいい」

 

「それでも、私はここからどかない」

 

「─────ハァ~。それなら仕方ねぇ」

 

 ロイの声が低くなったのを感じ、キラは身構える。直後、バラエーナとクスィフィアスを展開しながら、出力したビームサーベルを掲げながらイーラが飛び込んで来た。

 

「ここで死ぬか?嬢ちゃんッ!」

 

「私は死なない。貴方は私が止めるっ!」

 

 動きを止めていた両者は、緑、黄、赤の光条を撃ち交わしながら、再び激しい交錯を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しい砲火が飛び交うのは、プラントからやや離れた宙域─────ヤキン・ドゥーエ周辺。地球軍の核攻撃が止み、戦闘に一端の静寂が訪れたプラント周辺とは一転、この宙域ではますます激しく砲火が撃ち交わされ、空間を火線が埋め尽くしていく。

 

 そんな中を懸命に前進しようとしているのはエターナルとクサナギ、そしてドミニオンだ。前方より放たれる艦砲を躱し、四方八方から襲い来るモビルスーツを迎撃し、目指すはただ一つ─────今も燦然と聳え立つ巨大兵器ジェネシス。

 

「ブルーデルタよりジン二!」

 

「並びにグリーンアルファよりシグー三!」

 

「面舵二十!ゴットフリート、バリアント!てぇーッ!」

 

 敵機、敵艦からの攻撃、或いは接近の報告が引っ切り無しに飛び交うドミニオン艦橋の中でも、ナタルの指示の声はハッキリと通り抜けていく。

 

 ゴットフリートが左前方のシグーへ、バリアントが左後方のジンへと放たれる。その内命中したのは回避しそびれた後方の一機のジンのみだったが、ドミニオンの強烈な艦砲に堪らずその場から離れていくモビルスーツ群に、エターナル、クサナギから追撃の砲撃が撃ち掛けられる。

 

 三隻の艦はゆっくりとだが、しかし確かにジェネシスへと近付いていく。互いに助け合いながら、たった三隻でザフトの防衛網を少しずつ食いちぎっていく。

 

「後方よりナスカ級、数三!」

 

「取り囲まれつつあります、艦長!」

 

「─────クソッ」

 

 だが奮戦する三隻に対し、当然ながらザフトも力の限りに抵抗する。前方に張り巡らされる守備隊との交戦の最中、少しずつ数を裂きながら三隻への包囲が形成されていく。

 

 核攻撃隊の迎撃に成功したと報告が来たのはつい先程。増援が来るのはもう少し先になると考えるべきだ。つまり、この状況をどうにかして、自分達の力だけで何とかしなければならない。どうにかして、この包囲網が形成される前にジェネシスへ─────或いは、網を喰い破らなければ。

 

「ローエングリン一番起動!右側の艦隊を叩く!」

 

 ナタルはモニターを見遣り、数ある光点を睨みつけ包囲が薄い箇所を見つけ出す。

 三隻の中で最も火力を持つドミニオンが前に出て、陽電子砲を放つ。網に穴を空けて包囲を脱出し、そこから更にジェネシスへと接近しようという算段だった。

 

『いけません、バジルール艦長!』

 

 その直後だった。クサナギと共に繋がっている回線を通して、焦燥を滲ませたラクスの声が響いたのは。

 

 何事かと戸惑うナタル。少し遅れて副長席に座るリアムが顔を上げ─────それと同時に、すでにエネルギーの収束を始めていた砲塔をどこからか降り注いだ光条が貫いた。

 

 艦全体を強い衝撃が揺らす。絶大な威力を誇る陽電子砲のエネルギーが行き場を失い起こしたフィードバックは、途轍もないものだ。

 

「っ、何が!?」

 

 今の攻撃─────考えられるのは敵モビルスーツによる射撃だ。しかし、モニターを見る限り通常正確に射撃を可能とする範囲内にモビルスーツは存在しない。なら一体何が…と考えたその時、オペレーターが高速に接近してくる光点を目に捉えた。

 

「モビルスーツ接近!」

 

「くっ…!コリントス、てぇーっ!」

 

 艦のダメージコントロールを行う暇もない。接近してくるモビルスーツへの迎撃を命じるナタルだったが、艦尾の発射管より放たれたミサイルは、敵モビルスーツに届く前にバックパックから分離したユニットより発射されるビームによって全て狙撃されてしまう。

 

「あれは…」

 

 攻防の直後、光学映像が映し出される。そこに映されたのはナタル達の記憶にも新しい、メンデルでの戦闘に於いてゼノスと死闘を繰り広げた、あのザフトの新型モビルスーツ─────()()()()()()()だった。

 だとするならば、先程の射撃にも合点がいく。あの遠隔操作武装、ドラグーンを単独で飛行させて射程範囲にまで潜り込んだのだろう。それに気付かなかったのはこちらの迂闊ではあるが、この乱戦の状況下では見落としてしまうのは果たしてミスと呼べるミスなのか。

 

 それだけではない。三隻を取り囲む包囲網の中に、()()()()()()()()()()()()()というのも今思い返してみれば不自然だ。まるでこちらがそこへ攻撃を撃ち込むように仕向ける作為感を覚えさせる。

 

 これらは全てナタルの個人的な感想だ。全てが想像であり、もしかしたらそんな作為的なものではなく、ただの偶然なのかもしれない。だが、プロヴィデンス─────あの機体に乗っているのが()()()()()()()()()()なのだとしたら。

 

()()()()()()()()()…!」

 

 あのラウ・ル・クルーゼなのだとしたら、この結果に至るよう策謀を組み立てられていても納得がいく。

 

「敵モビルスーツ更に接近!」

 

「イエローチャーリーよりジン四!」

 

 プロヴィデンスを筆頭にザフトのモビルスーツ隊が一斉に押し寄せて来る。四機のジンを始め、更にシグー、ゲイツといったモビルスーツもドミニオン後方のエターナル、クサナギへと襲い掛かる。

 

 三隻は完全に包囲され、身動きがとれなくなってしまった。必死に迎撃を行うが、こうなってしまえば沈むのも時間の問題だ。

 

「っ─────!」

 

 そんな中でも、ナタルは一つだけとある打開策を頭に思い浮かべていた。リスクはあるが、成功すれば確実に()()()()()()()()()()()()()()事ができる。だがそれを実行するには一つ、どうしても無視できない要素が存在していた。

 

 襲い来るモビルスーツ隊の後方、こちらの戦闘を見守るように浮遊しているプロヴィデンス─────全方位攻撃に味方を巻き込まない様にしているのか、プロヴィデンスは戦闘に参加しない。だが、いつその静寂が破られるかは分からない。そしてそれが訪れた時、辛うじて均衡を保ち続けていたこの戦況は、すぐさま崩される事になるのは明白だ。

 

 それ程までに、ナタル達にとってプロヴィデンスの存在は脅威であった。この混戦では三隻の速さで振り切る事も出来ない。小回りが利かない戦艦には、あのオールレンジ攻撃に対して抵抗の手は持ち合わせていなかった。

 

 クサナギが艦首ブロックの上下、二門のゴットフリートを開き、エターナルがミサイル発射管を一斉に展開して撃ち放つ。ドミニオンもナタルの指示の下、決死の抗戦を繰り広げる。だが、三隻を取り囲むモビルスーツ群は次第に、ゆっくりと距離を寄せて来る。危うく懐に潜り込まれそうになる場面も多くなってきた。

 

 ─────駄目だ、このままでは…!

 

 三隻とも、撃沈するのも時間の問題だ。何とかしてこの場面を打開しなければならない。そして、その打開の策はナタルの頭の中に浮かんではいる。それを実行できないのは、未だ何もせずこちらの戦況を静観しているプロヴィデンス─────。

 

「なにっ?」

 

 しかしその直後、こちらを見ていたプロヴィデンスが何かに反応するように虚空を見上げると、突如その視線の先へと飛び上がった。

 

『こちらストライク一号機!全員生きてるな!?』

 

「っ、フラガ少佐!?」

 

 何事かと思ったその時、艦橋内に焦りが滲んだ声が飛び込んでくる。

 

 ナタルの頭上のモニターが開かれ、そこに映ったのはムウの顔だった。

 

 アークエンジェルと共にいる筈の彼が何故この場にいるのか─────考えだして、すぐに思い出す。ユウがそうなように彼もまた、ラウ・ル・クルーゼの存在を感じる事が出来るのだと。

 

『クルーゼの事は俺に任せろ!ドミニオンはすぐに後退するんだ!』

 

 ムウがここにいる理由に腑に落ちたナタルへ更に声が掛かる。

 

 先程のプロヴィデンスの射撃によって受けたダメージは甚大だ。右舷のローエングリンは当然消失、更に放たれようとしたエネルギーが暴発した事によって右舷の大半が吹き飛んでいる。中の作業員がシャッターを閉じ、火災の消火を急いでいるが内部の回路に異常が生じ、ゴットフリート一番がこちらの操作に反応を示さなくなった。

 

 問題は武装だけではない。右舷と共にエンジンの一部が吹き飛んでいる。推力も大幅な低下を起こし、ドミニオンは本来であれば戦闘続行不可能の判断を降さなくてはならない状態にまで陥っている。

 

「…いいえ。私にはまだ、やれる事があります」

 

『なに…?』

 

 だが、この状態でもまだできる事がある。ムウがプロヴィデンスを請け負ってくれるのなら、この策を実行に移す事が出来る…!

 

「バルトフェルド艦長!シャトルの受け入れの準備をお願いします!」

 

『シャトル…?っ…、バジルール艦長、まさか…!』

 

「総員を退艦させた後、ドミニオンを先行させます。ローエングリンで包囲網に穴を開きますので、そこからエターナルとクサナギはジェネシスへ接近してください」

 

 ナタルの考えについて思い至り、目を見開いて言い募ろうとするバルトフェルドを遮って、二人の艦長へ進言する。

 

 ナタルの頭に浮かんでいた策とは、囮だった。というより、この状況で残された手はそれしかなかった。

 

 ムウが言う通り後退しようにも、今の艦のダメージ状況ではモビルスーツ隊を振り切る事はできないだろう。かといってこの場に留まり、今までと同じように戦い続けても今のドミニオンでは他二隻の足を引っ張る事しかできない。

 

 ならばどうするか─────ドミニオンという戦艦と己の命を贄に捧げて、エターナルとクサナギの道を拓く。幸運にもまだ、それを可能とする力は辛うじてドミニオンには残っていた。

 

『馬鹿な事を言うな!そんな事をすれば、アンタは!』

 

「問答している時間はありません。こうしている間にもジェネシスは三射目の準備を続けているのですから。─────話は聞いていたな!総員、今すぐに退艦しろ!」

 

 ストライク一号機と、他二隻との通信を切り、ナタルはクルー達へと命じる。

 

 時が止まる、とはこの事か。正にその言葉通り、つい先程まで慌ただしく報告の声が声が飛び交っていた艦橋が、ナタルの号令によって一瞬にして静寂に包まれる。

 そんな中で、誰もが命令を発した艦長へと顔を向けるが、言葉通りに動き出そうとする者は一人もいなかった。

 

「何をしている?さっさと命令に従え!」

 

 焦るのはナタルだ。動きが遅れれば遅れるだけ、敵は近付いてくる。ただでさえクルーが全員退艦するまでは身動きがとれないのだ。その間、敵が待ってくれる訳もなく、時間が経つ程に撃墜される可能性はどんどん高まっていく。

 

 だが彼女は分かっていなかった。クルー達の事を理解できていなかったのだ。

 

 アメノミハシラでドミニオンの艦長として就任し、彼らと共に戦い続けた日々─────その時間は例え短くとも、彼女の下で働いたクルー達は皆、ナタル・バジルールという人物を敬い、認めていた。

 だからこそ、彼女を見捨ててこの場から逃げるという選択をすぐにとれずにいるのだ。それが尊敬する艦長の命令だったとしても。

 

「…艦長の命令通りにしろ、貴様ら」

 

 戸惑いの目を周りと交わしながら、未だ動けずにいるクルー達へと新たに声を掛ける人物が更に現れる。

 

 副艦長のリアムが席から立ち上がり、クルー達を見回しながら言う。

 

「急げ!我らと運命を共にする必要はない。我らの事を思うなら生きて、ここではないどこかで死ね」

 

「なっ─────」

 

 自分は残ると、遠回しにそう告げたリアムにナタルは驚きの声を上げてから、彼にもこの場から離れるよう口を開く。が、その口はリアムの背中から発せられる、誰にも有無を言わせない迫力を前に数拍の後に閉ざされた。

 

 リアムの言葉はクルー達に効果的だった。どの道、今の艦の状況では先は長くない。この戦いを生き延びられる可能性は限りなく低い。誰もが後ろ髪を引かれる思いだったのは言うまでもない。だが同時に、誰もが死にたくないという思いを持つのは人として当然の感情だ。

 

 クルー達は席から立ち上がり、二人に向かって敬礼をしてから動き出す。艦橋を出て行き、この場にはナタルとリアムの二人だけが残される。

 

「…何故、貴方は行かなかったのですか?」

 

 ナタルはリアムに聞いてみた。もしかしたら答えてくれないかもしれない、と思いながらもどうしても知りたかった。

 

 何故、自分と共に死ぬ事を選んでしまったのか。礎になるのは自分一人で充分だったというのに─────。

 

「男として、惚れた女を一人残して生き永らえるなんて出来ない。ただそれだけですよ」

 

「なっ─────」

 

 先程リアムが遠回しに自分と共に残ると宣言した時と同じく、ナタルは再び驚きの声を上げた。その時と違うのは、彼女の頬に微かな羞恥の色が備わっていた。

 

「そんな、程度の事で─────。大体、何故自分等を…!」

 

「その程度の事に命を張れない奴は男ではないですよ。それと、私が貴女に惚れたのは…そうですね」

 

 リアムは微笑みながらナタルの一つ目の問い掛けに答えた後、続けてもう一つの問い掛けに答えようとして…。

 

「あの世で貴女と再び会えた時に、話すとしましょうか」

 

「─────バカだ、貴方は」

 

「本当の男は皆、バカなんですよ。…そろそろですね」

 

 リアムが操舵席へと座る。

 

 それを見たナタルは改めて、この男の本気さを感じ取った。本気でこの男は、自分と共に死のうとしているのだ。

 女として何の魅力もない自分に惚れたばかりか、自分の命を投げ捨てるなど─────。

 

 ナタルは射撃指揮官席へと腰を下ろしてから、リアムへ向けて再度問い掛けた。

 

「今ならまだ間に合いますが」

 

「その言葉をそっくりそのままお返ししよう。貴方がこの場から逃げるなら、お供しますが」

 

「…それは出来ない。ここで私が逃げてしまえば、あの兵器が地球へと放たれてしまう」

 

「ならば私もここに残ります」

 

「…本当に貴方は愚かだ」

 

「何とでも」

 

 静かに言葉を掛け合った二人は、左舷カタパルトから何機もの脱出艇が離れていくのを見る。

 そして最後の脱出艇がドミニオンを発ったのを確認してから、リアムが舵を握る両手に力を込めた。

 

「それでは、行きましょうか」

 

 振り返り、微笑みかけて来るリアムへ、ナタルもまた自然に浮かんだ微笑みを向けながら頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最早慣れ親しんだといっていい、近い血縁同士が呼び合う感覚。それが()()()()()()()()()()()()()と微かな失望を覚えながらも、クルーゼは機体を自身を呼ぶ感覚が近付いてくる方へと向けた。

 

「貴様では私に勝てないと思い知らせた筈だがね、ムウッ!」

 

 クルーゼが駆るプロヴィデンスへと近付いてくるのは、エールストライカーを装備したストライク。白亜の機体から確かに己に近しい存在を感じながら、更にスラスターを吹かして速度を上げる。

 

 同じく速度を上げて向かってくるストライクとすれ違い、肩に担いだ巨大なビームライフルを向けてトリガーを引く。

 振り返ったストライクが巧みに姿勢制御をしながら連発されるビームを躱し、そして同じくビームライフルを抜いてプロヴィデンスを狙い撃つ。

 

 互いにライフルを撃ち合い、躱し合う射撃戦は二人にとっての様子見。互いの出方を見ながら、隙があれば斬り掛からんと窺い続ける。

 

 ─────黒い足つきは未だ動かずか…?

 

 ストライクと射撃戦を行いながら、クルーゼは戦況を見渡していた。

 彼が特に注視しているのは黒い足つき─────アークエンジェル二番艦ドミニオンだ。

 

 臨界寸前のローエングリンをクルーゼに撃ち抜かれたドミニオンは右舷が吹き飛び、大きなダメージを負ったまま動かない。エターナルとクサナギがそれをフォローしているが、ヤキンの守備隊の包囲が次第に迫っている。あの調子ならば、そう遠くない内に三隻を撃墜させる事が出来るだろう。

 

 となれば自身の役割はハッキリしている。目の前の仇敵の一人を、今この場で殺してやればいい。

 

 射撃戦では埒が明かないと感じたか、プロヴィデンスのビームを躱しながらストライクがライフルからビームサーベルへと持ち替える。

 核動力を備えているプロヴィデンスとは違い、バッテリー機であるストライクはプロヴィデンスとの戦いに於いて消耗戦に持ち込まれてはならない。

 

 短気決戦がお望みか。それに付き合ってやるかどうか、ストライクとの距離を保ちながら思考を働かせるクルーゼの目に、ドミニオンから発ついくつもの脱出艇が入った。

 

 ─────艦を放棄する気か?

 

 迫るストライクへ牽制の一射を入れ、機動を妨げてからビームサーベルを出力、ストライクと斬り結ぶ。

 

 ドミニオンから離れていく脱出艇を見たクルーゼが、艦のダメージを見て放棄したのではと考えるのは自然な流れだ。

 あの状態ではろくな機動もとれず、他の二隻の足枷になる恐れも大いにあった。

 

 それにしてもその艦長の判断は随分と早いものだ、とクルーゼが一瞬の引っ掛かりを覚えたその時だった。

 

「なに─────?」

 

 クルーが脱出したドミニオンが、彼の視界の中で動き出す。左舷のローエングリンを起動しながら、重い艦体をゆっくりと、クルーゼが罠として仕掛けた包囲が薄い右側へと─────。

 

「バカな─────!」

 

 さしものクルーゼも驚愕を隠せない。対空防御のバルカン砲とミサイルを連射しながら、ドミニオンは尚も動き続ける。そしてエターナルとクサナギはその背後に隠れるようにしてついていく─────それを見て、クルーゼは敵がどういう意図で動き出したのかを即座に悟る。

 

 誘いの餌として意図的に薄くした右側の包囲は未だ補充できておらず薄いまま。このまま押し切れると判断した他の指揮官がそれを疎かにしたのが仇となった。

 

 奴らはドミニオンを陽動として、エターナルとクサナギを包囲から逃がすつもりだ。

 

「させるか─────っ、ムウ!」

 

『行かせるかよ!貴様はここで足止めだ!』

 

 そうはさせじと動こうとするクルーゼだったが、その前にムウのストライクが立ちはだかる。

 

 本気を出せば決して負ける事はあり得ないが、即座に仕留めるのはさしものクルーゼとプロヴィデンスとて難しい。どうしても多少の時間は要するだろう─────その多少の時間が、今のクルーゼにとっては命取りであった。

 

「邪魔だ!どけ、ムウ!」

 

『どけと言われて素直に応ずると思ってるのか!?』

 

「─────チィッ!」

 

 斬り掛かって来るストライクに応戦する。こうしている間にも、ドミニオンはローエングリンのエネルギーを溜めながら包囲の右側へ狙いを定める。

 

 モビルスーツ隊が決死の攻撃を仕掛けるが、それに対して決死の抗戦を行うのがドミニオン。いくつもの攻撃を受けながらも艦橋、エネルギーを溜める陽電子砲への致命的な攻撃を受けずに進撃を進める。

 

「─────」

 

 そうしてストライクとの交戦を続けざるを得ないクルーゼを余所に、ドミニオンは陽電子砲の発射態勢を整える。

 

 放たれた砲撃は彼らの狙い通り包囲が薄くなった右側を貫き、確かにその奥へと繋がる道を拓いた。

 

 直後、砲撃を発射して硬直が訪れたドミニオンへとザフト艦、モビルスーツの攻撃が殺到する。

 艦砲が、モビルスーツからの射撃が、ドミニオンの艦体を貫き所々で爆発を起こし、次第に艦体全てを爆発の炎が包み込んでいく。

 

 それを脇目にエターナル、クサナギの両艦が全速力で、ドミニオンが空けた空間から包囲を突破していく。

 

 その様をクルーゼはただ見ている事しか出来ない。あれでは、あの二隻はジェネシスの元へ辿り着く事が出来るだろう。

 

『バジルール…』

 

 あの艦の中に親しい誰かでも乗っていたのか、ムウが小さく何者かの名前を呟いた。

 

 それを聞き流し、クルーゼは仮面の下で嗤った。

 

 確かに感動的で、涙を誘う見事な演出だった。だがそれでも、ジェネシスへ辿り着けても、その手を届かせる事は出来ない。

 

 この世界の行く末を変える事など、出来やしない。何者にも─────それが例え、自分の息子だとしても。絶対に。

 

 その事をまずは、目の前の愚かな出来損ないに教えてやるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界に広がる炎の中で、二人の男女は手を握り合った。渦巻く光に身体を灼かれながら、決して握り合った手を離す事はなく。

 

 死に瀕し、暗くなる視界の中でナタルとリアムは互いの顔を確かに見る。そして、二人は微笑み合いながら、光の中へと消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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