地球連合軍艦隊旗艦ドゥーリットルを始めとした核搭載戦艦の悉くを撃ち落とし、いよいよ残る脅威はジェネシスのみとなった。核攻撃を防ぐべくプラント最終防衛ライン付近に残っていたアークエンジェルと他モビルスーツ達は、先にジェネシスへ向かった別動隊の援護へと針路を変える。
針路を変えた彼らに次に襲い掛かるのはザフト兵達だ。稼働を続けるジェネシスを守るべく、アークエンジェルへと殺到するジンやシグーを、ハイペリオン、ストライク二号機、ストライクルージュとM1隊が必死に押し返す。
誰もが必死に戦い続ける宙域で、最も経験が浅いのはカガリだ。それをフォローするようにジュリ機、マユラ機、アサギ機が飛び回る。
「っ、マユラ!後ろだあっ!」
味方は数少なく、周囲を飛び回る機体の殆どは敵機だ。その中で常に集中と空間認識を強いられ続けたパイロット達の体力は削られ続け、彼女らも限界が近く訪れようとしていた。
前方のジンとビームを撃ち合うマユラ機の背後から、ビームクローを翳したゲイツが迫るのに最初に気付いたのはカガリだった。すぐに声を張り上げマユラに迫る危機を伝えるが、彼女がその声に反応し、振り返った時にはゲイツはマユラ機の懐の中、回避不能の距離まで近付いていた。
「あぁっ─────!」
ゲイツのビームクローがマユラ機を貫き、次いで反撃のビームサーベルが同じくゲイツを貫く。
二機がスパークを起こしながら同時に爆発する光景を、悲痛な声を上げながら目の当たりにするカガリ。だが、近しい間柄の者の死を嘆く時間など、この戦場は決して与えない。
『カガリ様!』
ジュリが呼ぶ声がする、と思ったその時にはコックピット内にロックされた事を報せるアラートが鳴り響いていた。何が起こったのか、呑み込む暇もなく─────ストライクルージュを狙ったジンとの射線に割り込んだジュリ機が、ジンの放ったビームによって爆散する。
「ジュリ─────」
悲劇はそこで終わらない。ジュリ機を撃ったジンが次に狙いを向けたのはストライクルージュ。だがそこにアサギ機が斬り掛かり、その斬撃でジンを斬り裂いたかと思えば、彼女もまた瞬く間に三機のシグーに取り囲まれてしまう。
「やめろ…っ、クソッ!」
すぐにライフルを向けて支援するも、カガリが落とせたのは一機のみ。もう一機をアサギが再度ビームサーベルで斬り伏せる事に成功するが、その隙に残りの一機が袈裟斬りにアサギ機を斬り裂いた。
「アサギ─────、っお前らァァァァアアアアアアッ!!!」
あっという間の出来事だった。つい先程まで隣で共に戦い、共に生きて帰る事を疑わなかった仲間達の命が、ものの数十秒という間にして失われた。
怒りと悲しみに頭が沸騰しそうになる。しかし直後、カガリの奥底で何かが弾け、視界がひんやりと冴え渡っていった。
周囲の何もかもが手に取るように感じ取れる。まずカガリは先程アサギ機を切り裂いたシグーをビームで撃ち落とすと、今度は後方からストライクルージュへ迫るゲイツ、シグー、ジンの三機へと向き直った。
それぞれが放つビームを躱しながらライフルをマウントしてビームサーベルへと持ち替える。エールストライカーのスラスターを吹かし、正面から放たれるビームを機体を傾け躱し、シールドを駆使して防ぎながら接近していく。
ゲイツ、シグーがストライクルージュから距離を取るが、逃げ遅れたジンへと刃を振り下ろす。その機体が爆発の光を放つより先に次の一機へ向けて、機体を走らせる。
シグーを斬り払った後、ゲイツから放たれるビームをシールドで受け止めながらサーベルからライフルへと持ち替え、掲げるシールドの陰に隠れながらライフルの照準を合わせて引き金を引く。
今、カガリはOSが制御できる限界以上の機体スペックでストライクルージュを操っていた。その機体捌きはとてもルーキーとは思えないものであったが、しかし戦闘経験の浅さは本人が意識しない所で垣間見せる。
三機の機体を一気に屠ったカガリは、神懸っていた集中を解いてしまう。その隙を敵が見逃す筈もなく、また新たな敵機がルージュを取り囲もうとする。
『カガリ!』
そこに現れたのがハイペリオン、そしてストライク二号機だった。ストライク二号機がルージュを狙う一団へと斬り込んでいき、その周囲から支援に割り込もうとする敵機をハイペリオンがミサイルを放って撃ち落としていく。
『大丈夫か?』
「─────あぁ、私は大丈夫だ。それよりも先を急ごう」
カナードとスウェンにも、M1三機の反応が消失したのは見えていた筈だ。
仲間を失ったカガリを気遣い、カナードが声を掛けてくる。彼からの問い掛けに一拍を置いた後、カガリは再び深く集中しながら答えた。
その目には確かな決意が宿っている。何者にも彼女の歩みは止められない。ルージュが先頭を往き、その後にハイペリオンとストライク二号機が続く。
彼らが見据えているものはただ一つ─────殺戮兵器ジェネシスの破壊、それのみだ。
「隊長、私達も追わないと…」
「…」
そんな彼らの進軍を眺める者達がいた。イザーク率いるジュール隊の面々である。
バスターと並んで浮遊するデュエルへ寄って来たゲイツから通信が入り、イザークの耳にシホの声が入る。
「どうすんだ、イザーク?」
シホに続いてディアッカから問いが投げ掛けられる。ただ彼女と違うのは、彼の声に微かな揶揄いの色が籠っている事だ。きっとイザークが何を考えているのか、何を選択するのか、彼は気付いているのだろう。
腸が煮えくり返りそうになるのを抑えながら、イザークは努めて冷静に口を開いた。
「俺達の任務は
「隊長…」
ジュール隊に与えられた任務はプラントの防衛である。ジェネシスへと進軍していくアークエンジェルを追うという事は、その任務を放棄するに等しい─────という名目で、イザークは彼らを追わずここへ残る事を選んだ。
「ったく、素直じゃねぇなお前は」
「五月蠅いッ!…とにかくそういう事だ。総員、持ち場に戻れ。我らはここを離れる訳にはいかないのだからな」
ニヤニヤしながら言ってくるディアッカに怒声を発しながら彼との通信を切ってから、改めて隊員達へ命令を伝える。
これはイザークにとって精一杯の、アークエンジェル組への支援だった。
ザフトという組織に属している以上、表立って彼らへの支援を行う事はイザークには出来ない。だがせめて、このくらいはしたかった。
イザークとてジェネシスの存在を認めたくはない。今も地球への第三射の準備を着々と進めるあの兵器を破壊しようとする彼らを、本当ならばもっと直接的な形で支援をしたかった。しかし今のイザークには立場がある。自身を敬い、慕ってくれる部下達が、掛け替えのない友が、そしてどういう形であれ本物の愛を一心に注いでくれる母がいる。
ここで彼らを翻意にする選択を、イザーク・ジュールは取る事が出来なかった。
─────スマン、ミゲル。これが俺の出来る事の限界らしい。
心の中で、志半ばで戦場に散っていったかつての仲間の顔を思い浮かべる。
もし彼が今のイザークを見たら、何と言うだろうか?何を思うだろうか?
果たして、いつもの陽気な笑顔で今の自分を見守ってくれているだろうか─────?
フレイとの再会を果たした後、あいつとは一旦別れて俺はジェネシスの方へと─────正確には、俺を呼ぶ感覚がする方へと機体を急がせていた。
その感覚の正体はすでに掴めている。言うまでもなく、クルーゼだ。だが、クルーゼの近くにはもう一人、奴と似た気配を持つ誰かが居る。
「兄さん…。駄目だ、あいつとは戦っちゃ…!」
同じ血の繋がりを持つ残りの一人─────兄さんはすでに、クルーゼとの交戦に入っていると思われる。
兄さんが弱い訳じゃ断じてない。むしろ兄さんのパイロットとしての腕に並び立てる者は、ほんの一握りだろう。しかし相手が悪い。兄さん以上の経験と空間認識能力を持つクルーゼが、兄さんが乗る機体以上のスペックを誇る機体に乗っているのだ。
アカツキに乗っていたら話はかなり変わって来るが、そういう訳にもいかないのが現実で、その上で兄さんの命を拾う為に俺は急がなければならない。
「─────」
急がなければならないのだが、俺はふと視界に入った
同じように紅の機体も動きを止めて、互いに向き直る。
『─────ユウ・ラ・フラガだな』
対峙して数秒の空白の後、通信を通して声を届けて来たのは相手─────アスランからだった。
ジャスティスから届いた通信とゼノスの回線を繋げ、こちらも口を開く。
「アスラン・ザラ」
『っ…』
何故俺の名前を知っているのかという疑問はさておいて、こちらも驚かされた礼とばかりに相手の名前を告げてやる。すると、通信の向こう側から息を呑む音がした。
『ジェネシスへ行く気か?』
「そうだ。だからそこをどいてくれ、アスラン・ザラ」
『…それは、できない』
震えた声で問い掛けて来たアスランは、俺からの返答に対してまたも声を震わせながら返した。
「何故?」
『俺は…俺が、ザフトのアスラン・ザラだからだ。ザフトの一人の兵として、お前を通す訳にはいかない』
今度は俺の方から問い掛ける。すると返って来た答えは、俺には聞き覚えのあるものだった。
俺が知っているアスラン・ザラは軍人としての自身を否定して、戦争を終わらせる為にキラと手を取り合った。
しかし今、俺の目の前にいるアスラン・ザラは違う。自国を守る為に、或いは他にも譲れない何かがあるのか─────軍人としてその場に留まり続けている。
『ここを通りたいのなら、俺を殺して行くんだな』
「…俺にはお前を殺せない。キラがそう望んでいるからな」
『っ─────』
俺の口から出て来たその名前に、アスランが息を呑んだのが分かった。
『何を…!』
「キラはまたお前と手を取り合いたいと─────友達になりたいと言っていた。…俺がこれを聞くのはどうかとも思うが、アスラン。お前はどうなんだ?」
『…』
例えその願いが拒まれても、ほんの少しでもアスランの中に同じ気持ちが芽生えているのなら諦めたくない─────前に、俺の前でキラが口にした宣言だ。
そしてアスランもキラと同じの筈なのだ。何にそこまで駆り立てられているのかは分からないが、その心の奥底では今の行動とは真逆の本音が眠っている筈。
『…あいつにはオーブでの戦闘で俺の意志をすでに伝えている。あいつと交わす言葉はもうない』
「アスラン─────」
アスランの口から語られたのはキラに対しての決別の言葉。だが…俺は気付いているぞ、アスラン。お前は自分で気付いていないのか?
「自分すら騙せない言葉で、俺を騙せると思うなよ」
俺の返答に対してアスランから返って来る言葉はなかった。
これで何かを言い返してくるようであれば、アスランの中でキラは敵として定まってしまったのだと諦めてしまえたのだが─────いや、今更だ。何しろアスランの声はずっと震えっぱなしなのだから。
『違う…』
「アスラン」
『俺は…、俺はッ!あいつの敵だッ!お前の敵だッ!ザフトの兵として、プラントを守る─────』
「そうやって自分に言い訳をしなきゃ戦えないのか?随分と腑抜けたな。…早く気付け。お前はキラの敵になんてなりたくないし、今のまま戦いたくなんてない。お前が戦ってでも守りたいものは何だ?」
あぁ、どうして俺はこんな事をアスランに問い掛けなくちゃいけない。
アスランが本当に守りたいものの悉くを奪って来たのは、
だけど…、ここでこいつを無視していく訳にもいかない。そうしては取り返しのつかない事になる。
だから─────俺は例えアスランにこの上なく憎まれようとも、突きつけなくちゃいけない。
『俺が、守りたいもの…?それを問うのか…?お前が、俺に─────』
「っ…」
『俺から友を奪い続けて来たお前がッ、戯言を口にするな!ユウ・ラ・フラガァァァアアアアアアッ!!!』
ジャスティスから感じられる闘志と殺気が一気に膨れ上がると同時に、ビームサーベルを連結させてアンビデクストラス・ハルバードで斬り掛かって来る。
こちらも臨戦態勢を整える。シールドを掲げ、迫るジャスティスの動きを目で追いながら互いの距離を計る。
「悪く思うなよ!キラの代わりに俺がお前を修正してやる!」
『二度も言わせるんじゃないッ!戯言を口にするなッ!!』
ジャスティスが振り下ろす斬撃目掛けてシールドを持ち上げ、弾き返す。
シールドバッシュで後方へと押し返されたジャスティスだが、即座にハルバードの連結を解いて弾かれた勢いを利用してサーベルを振るう。
こちらももう一方の右腕をジャスティスの左腕にぶつけて、斬撃を妨げる。
操縦する両手に伝わって来る相手からの圧力─────それはアスランのずっと抑えられていた憤怒。歯を食い縛りながら俺はそれを受け止めるのだった。
ミーティアをかなぐり捨てたフリーダムは縦横無尽に飛び回る。イーラから放たれる砲撃はその影を追うばかりで、白亜の機体に掠りもしない。
「クソが…ッ」
ロイは苛立ちを吐き捨てる。つい先程までは
イーラとて決して鈍い機体ではない。だがフリーダムと同系統でありながら、それ以上の火力を誇るばかりに機動力という点では後塵を拝しているのはロイとしても認めざるを得なかった。しかし─────
「これでっ!」
「調子に乗ってんじゃねぇぞォッ!」
砲撃を振り切ったフリーダムが反転して攻勢に出る。バラエーナ、クスィフィアス、ビームライフル、フリーダムに備わった全砲門を展開してフルバースト。すぐさまスラスターを吹かしてその場から移動して、砲撃の奔流をやり過ごすと、お返しとばかりにイーラもバラエーナとクスィフィアスの四門を一斉に展開してフリーダムへ向けて撃ち放つ。
激しい砲撃の応酬。互いに距離を保ちながら砲火を交わし、時にどちらかが近付こうとするものならそうはさせじと距離を取る。
だが、ただ砲撃を撃ち合うだけならば火力で上回るイーラの方が優位に立つ筈だった。その戦力差を、キラはフリーダムを巧みに操る事で埋めている。
どれだけ激しい攻勢に見舞われても、フリーダムはするりと抜け出してしまう。対してロイは、自身の不利をここに至って悟り始めていた。
─────こいつ…、動きのタイミングが早くなってやがる!
ロイとイーラが繰り出す激しい砲撃に晒されながら、キラは次第にロイの攻撃の呼吸を捉え始めていたのだ。その証拠に、フリーダムからの攻撃にロイがひやりと肝を冷やす場面が増えてきている。
現に今も─────
「っ─────!」
バラエーナとクスィフィアスの四門、その後のスキュラの砲撃全てを潜り抜け、フリーダムがイーラの懐へ飛び込んでくる。
目を見開きながらロイは咄嗟にシールドを自身とフリーダムの間に割り込ませる。
「くっ…!」
「この…、ガキがァッ!」
寸での所で防御が間に合う。斬撃を防がれたフリーダムはすぐさま後退、それを追い掛けながらイーラが砲撃を浴びせかける。
ひらり、ひらりと翼をはためかせそれらの砲撃を全て躱したフリーダムが再度フルバーストモードへと移行。五門の砲門を開き、イーラへと全砲火を撃ち放つ。
「く、そが…っ!」
またしてもフリーダムからの砲撃の奔流は躱される。だがその動きをキラはしっかりと視認し、その先を読んでいた。
回避行動を取ったイーラの行く先に向けて放たれたビームライフルの一射が、遂に目標の左肩を掠める。
「─────」
被弾、とまではいかずとも攻撃を受けてしまったのは事実。もう、認めざるを得なかった。
憎たらしいが、単純な力勝負ではロイ・セルヴェリオスはキラ・ヤマトに敵わない。
そうと分かれば話は早い。本当ならば自身に害を被る絡め手は
ロイはイーラのスラスターを吹かし、
「っ!?」
一方のキラは、突如イーラが見せた動きに思わず驚きを露にした。
ここまで徹底して砲撃戦を挑み続けていたイーラが、ビームサーベルを出力してフリーダムへと向かって来たのだ。
しかし驚きながらもキラは冷静だった。相手との間合いを計りながら、ビームライフルで向かってくるイーラへと牽制目的の射撃を撃ち込んでいく。
それらを掻い潜り、イーラは尚も迫る。ビームサーベルを出力したまま─────その中でも、キラは決してイーラの
射撃を止め、ビームライフルからビームサーベルへと持ち替え真っ向から向かってくるイーラを迎え撃つ。
─────あのビームサーベルは
シールドを掲げるフリーダムと、ビームサーベルを振り下ろすイーラ。その陰で動きを見せたイーラの右腕を、キラは見逃さなかった。
「右手の砲撃!」
激しい動きの中、擦れて見える視界に本体からの供給が突如止まり、砲口の中でエネルギーが収縮していくのが見えた。
やはり斬撃をカモフラージュとした砲撃を試みていた。だがそれをキラは見抜いていた。
「クッ─────ソがァァァァアアアアアアアッ!!!」
咆哮と共に、今度は本当にサーベルが振り下ろされる。だが全霊の策を不意にされた怒りか、斬撃が大振りだ。
その隙を突いて懐に潜り込むのもいいが、ギリギリの勝負に持ち込むには今の戦況はキラにとって優位過ぎた。
キラは余裕を持って防御を選択する。それは文句なしに正しい選択だっただろう。
キラの考え通り、本当にロイの全霊の策が
「甘ェなァ…」
「なっ…?」
防盾から出力されていたビームサーベルが
その光景にキラが驚愕のあまり目を見開いたと同時、イーラの防盾に搭載されていた二門の砲門がフリーダムに向けられる。
あの右手のスキュラさえも囮だったのだと気付いた時には、もう遅かった。
「策ってのは何重にも張り巡らされるもんだぜ、嬢ちゃんッ!」
言いながら放たれるビーム砲。防御は間に合わないと咄嗟に機体を翻したキラだったが躱し切れず、二条のビームの内の一条がフリーダムの左腕を貫く。
「くっ…!」
スパークする左腕をパージし、誘爆から逃れる。だがこの間の硬直を見逃してくれるほど、目の前の相手は甘くはない。
「じゃあな、嬢ちゃん。結構楽しめたよ」
「─────」
キラの目の前で、失った右腕以外の全砲門を構えるイーラの姿がある。
先程左腕と一緒にシールドは失われ、防御手段はない。それ処か、この状況では回避も間に合わないだろう。防盾のビーム砲だけならばともかく、バラエーナとクスィフィアスの照射も合わされば、もう─────。
それでもと、もしかしたらコックピットを外してくれるかもと、自身の生死を運に任せて機体を翻そうとするキラ。
諦める訳にはいかないから。ここで死ぬ訳にはいかないから。キラの生への執着はここに至って未だ、擦り切れる事はなかった。
「─────は?」
直後、呆けた声を漏らしたのはロイだった。キラもその目に飛び込んで来た光景に、愕然とする。
自分ではない。当然ロイのものでもない。イーラの後方からビームが放たれ、胸部を貫かれたのだ。
「くっ─────ハハッ。アーッハッハッハッハッハッ!」
胸部の空白から火花が散り、散った火花は激しく爆発として広がっていき、瞬く間にイーラの全身を炎が包んでいく。
「ハッハッハッハッハッ!アーーーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」
機体と共に炎に包まれながら、ロイの笑い声が止む事はなかった。
キラはどこまでも、心底楽しそうに響き渡るその嗤い声に耐えられずイーラとの通信を途絶する。
胸部を貫かれたイーラは爆発を起こしながら、藻屑となって消えていった。その様を最後まで見届けたキラは、イーラを撃ったのは、自分を助けてくれたのは何者なのか、周囲を見回して探した。
「あ─────」
視線を向けた先で見つけたのは、ゆっくりとこちらへ向かってくる一機のモビルスーツ。
それを見てキラは、小さく声を漏らしながら瞳を潤ませた。
『キラ』
距離が近くなり、回線が開くと同時に相手のパイロットから声が届く。
その声は、キラがずっと本当の再会を待ち望んでいた相手の、本当の声だった。
『今までごめんなさい。…やっと、帰って来られたわ』
「…本当だよ。遅すぎだよ─────」
抑え切れず零れる涙を拭いもせず、それと同時に自然に零れる笑顔と一緒に、キラは自分を助けてくれた親友の名前を口にする。
「フレイ─────」
こうして二人は、本当の意味での再会を果たしたのだった。