フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE123 終局への道標

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユニウスセブンが炎に包まれ、崩壊していく様相は今でもすぐに鮮明に思い出す事が出来る─────。

 炎に焼かれて失われた二十四万三七二一名の命…その中には、アスランの母、レノアも含まれていた。

 

 あの時、アスラン・ザラは思ったのだ。二度とこんな悲劇は起こしてはならないと。これ以上、大切な何かを奪われて堪るものかと。

 固く刻まれた決意の下で、アスランは血の滲むような努力で力を手に入れる。歴史は浅いとはいえ、並み居るコーディネイター達の中で歴代最高の成績で訓練学校を卒業。エリートの証である赤い軍服を身に纏い、宇宙のエース部隊と名高いクルーゼ隊に配属され、祖国を守るべく戦いに臨んだ。

 

 国の命令に従い、敵を討つ─────殺したい訳じゃない。それでも、一日でも早く戦争が終わるならと、アスランは覚悟を固めて戦い続けた。

 

 その果てがこれだ。

 

 掛け替えない友との決別し、新たに心を通わす事が出来る様な仲間を守る事が出来ず、そして今─────アスラン・ザラは、かつての友が愛する男を再びこの手で撃とうとしている。

 

「─────」

 

 目の前の機体、ゼノスがビームライフルを向ける。それを見たアスランが考えるよりも先に機体を動かし、相手からの銃撃を避ける。

 

 アスランとユウ、二人の戦いは当初より膠着を続けていた。銃口を向け合い、刃を交わす。

 

 ゼノスからの銃撃は牽制、そうと読んだアスランは機体を後方へずらす─────直後、読み通りに高速で接近してきたゼノスが斬り掛かって来る。

 その斬撃は先程までジャスティスがいた空間のみを切り裂く。今度はアスランがサーベルを振り切った体勢のゼノスへとビームサーベルで斬り掛かるが、それよりも先にゼノスが一瞬でジャスティスから離れる。

 

 両者の距離が開き、それぞれの得物を手に睨み合う。

 

 ─────許せない…。

 

 心の奥底で漏れだす、黒い憎しみ。それを自覚しながら、アスランは二本目のサーベルと手に握ったサーベルを連結させ、アンビデクストラスモードへと成ったビームハルバードでゼノスへ斬り掛かる。

 

 ─────こいつだけは!どうしても!

 

 ニコルの死も、キラとの決別も、どちらも自身の弱さが原因だと分かっていても。

 

 ニコルを殺し、キラと今を寄り添い続けるユウが、()()()()()()()()()()()()()かを問うてきた。

 

 その守りたいものを奪い続けた、ユウが─────!

 

『キラの事も、ニコルの事も、悪いと思わない訳じゃないがな。だからといって、今のお前を認める訳にもいかないんだよ!』

 

「っ─────!」

 

 ジャスティスの斬撃をゼノスがガントレットで防いだ事で、両者の接触によって開かれた回線を通してユウの声が届けられる。

 

()()が齎すものが争いの終結だけじゃないって事くらい、気付けないお前じゃないだろう!?』

 

 ユウの言葉は見えない刃となって、アスランの胸に突き刺さる。

 

 ()()─────ジェネシスは今も稼働を続けている。月基地を撃っても尚、停止する様子はない。ならば次の照準はどこへ向けられるのか…それは火を見るよりも明らかだ。

 

『ジェネシスが地球へ撃たれればその瞬間、そこに住む生命の半分は滅ぶ。それに留まらず、地球は生命が存在できない死の星になり果てる!』

 

 ユウが語る仮定の話は当然、アスランも考えてはいた。もし、ジェネシスが地球へ撃たれればどうなってしまうのか─────だがそれを、アスランは記憶の奥底へと封じ込めた。それは何故か。

 

 ここでユウやキラ達の正義を認めてしまえば、これまでに築き上げた(アスラン・ザラ)の全てが覆ってしまう。それがどうしようもなく怖い─────。

 

『それでも!お前の本当の望みを叶える為には、今のお前を否定しなくちゃならないんだよッ!』

 

「─────」

 

 胸の奥で微かな恐れを燻らせるアスランへ、ユウから容赦のない言葉が掛けられる。

 

 今度こそ、アスランは息を呑んで思考を白く固まらせてしまう。

 

『自分が信じて来たもの─────、拠り所にして来たもの─────それを全部否定しようとする難しさは理解できる。だけどこのままじゃ、お前が信じたいものに、お前が望む世界が壊されるんだよ!』

 

「─────俺の望む、世界…」

 

『もう一度聞くぞ、アスラン・ザラ─────。お前は本当は、何が欲しかったんだ?』

 

 それは、この戦闘が始まる前にユウが発した問いの繰り返し。あの時は、自身の守りたいもの、欲しかった世界を奪い、壊して来たユウがそれを問うのかと感情が怒りに塗り潰されてしまったが、今のアスランは違った。

 

 感情は熱くならず、ただユウからの質問に答えるべく思考を働かせる。

 

 自分が欲しかった世界は─────一体どんな世界なのだろう、と。

 

 ─────あぁ、そうだ…。俺の本当の望み…それは、()()()()()()()()じゃなかった。

 

 断じてアスランの望みの中にその思いが皆無だったとは言わない。ただ、それが全てだった訳じゃない。

 

 とっくに答えなんて自分の中にあったのに。一日でも早く戦争を終わらせる。争いがない世界を実現させて、誰もが安心して、笑顔で暮らせるように─────そう。かつて、プラントと地球間で戦争なんて起こる筈がないと信じ切って、キラと笑って過ごしたあの時の自分みたいに─────。

 

 理想を叶えるのはもう不可能だけど、それでもその願いを捨てたつもりはない。今でもそれは、自分の中に残っている。

 

「…複雑だな。それを思い出させてくれたのが、よりにもよってお前とは」

 

『不器用過ぎるんだよ、お前は。まあ、それがアスラン・ザラなんだろうけどさ』

 

「黙れ」

 

 憎き相手に諭される現状に苛立ちでもなく羞恥でもなく、とにかく複雑な念に駆られてついつい憎まれ口を叩いてしまう。

 そんなアスランへ、ユウが更に笑みを零すのだから複雑な感情は更に加速する─────やはりここで決着を着けるべきか?

 

『…それで、アスラン。これからどうするつもりだ?』

 

「気安く名前を呼ぶな。…父を止めに行く」

 

 先程までは戦闘中故にツッコむ事はしなかったが、簡単にファーストネームで呼んで来るユウへ軽く拒絶を叩きつけてから、アスランは今度は迷いなくユウの問いに対して返答した。

 

『…いいんだな?』

 

「あぁ。…ジェネシスを止める。その為に、俺はお前達に協力しよう」

 

 自分でも驚く程にすんなりと、答えは口から出てくれた。思わず微かな笑みを零すアスランへと、ユウが『助かる』と一言答える。

 

『一度キラ達と合流しよう。それからアスランは、キラ達を連れてヤキンへ突入してくれ』

 

「それはいいが…。お前はどうするつもりなんだ?」

 

 ユウから発せられたこれからの行動方針は理に叶ったものだ。他の仲間と合流し、ヤキンの中からジェネシスを停止させる─────ただ一つ、アスランの中で引っ掛かりを覚えた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()─────その中に、ユウが含まれていない。

 

 その疑問をぶつければ、ユウは一言簡潔に告げるのだった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが見せ場だ、気を抜くな!」

 

 バルトフェルドがクルーを叱咤する。ドミニオンの決死の突撃によって開けた道を潜り、エターナルとクサナギは懸命に前進しようとしていた。

 激しく撃ち掛けられる砲火を避けながら、今こうしている間にも稼働を続け、母なる大地を死の大地へと堕とそうとするジェネシスへ向けて。

 

「生き延びたら最高のブレンドを飲ませてやるぞ!」

 

「ありがたい事で!」

 

 バルトフェルドとダコスタ、二人の間で軽口の応酬が繰り広げられるが、その言葉の内容に反して表情は焦りが滲んでいる。

 この二人だけではない。艦橋内にいるクルー達の誰も、二人の口から出て来た軽口に見合う様な顔をしてはいない。

 

 エターナルの砲火を浴びたシグーが、エンジン部から炎を噴き出しながら後方へと流れていく。

 

 すれ違いざまに機体が爆発し、周囲の闇を束の間に照らした火を艦橋窓から見つめるのは、艦長席に座するラクス。

 

 ─────わたくし達、人は…恐らくは、戦わなくとも良かった筈の存在…。

 

 エターナル、クサナギから放たれる砲火に幾多のモビルスーツ、戦艦が貫かれる。そうして何十、何百の命が、彼女の周囲で真空の中に散っていく。

 

 ─────なのに、戦ってしまった者達…。

 

 命を守る為に命を散らす矛盾。些細な違いに拘って、共に歩む事は出来ぬと拒絶し、未来を切り捨て、相手の明日を潰す事で自らの明日を手にしようと望む。

 だが彼らの間に一体どれほどの差異があるというのだろう。泣いて、笑って、憎み殺し合う─────その行動に何の違いもないというのに。

 

 何の為に─────守る為に?何を?誰を─────?

 

 憎み合い、殺し合う。この果てにある未来、それは一体何だというのか─────?

 

 幸福─────?

 

 ─────本当に?

 

 彼女は自身に問い掛け続ける。いつまでも答えの出ない問いを。

 

 人という歴史は、戦いの歴史ともいうべき、それ程に人という種は常に争い続けて来た。もうこんな事はあってはならないと、二度と同じ事を繰り返してはならないと、そう願い続けながら、時が経てばその願いを忘れてまた新たな戦いが生まれる。

 

 果たしてこの戦いの歴史に、終わりはあるのだろうか?

 

 それとも、これら全てを終わらせるには、たった一つの手段しかないのか?

 

 滅び─────それこそが、長きに続いた争いに真に終止符を打つ残された方法なのか…?

 

「…っ、ユウ─────」

 

 ラクスの胸を大きな悲しみが満たし、溢れ出したその時─────艦の後方、強大な悪意の闇へ近付く確かな意志を感じ取った。

 

 際限なく広がっていく殺意の渦の中でも尚、ハッキリと存在を感じ取れる希望と失意の二つの意志─────それらがもうすぐぶつかり合うのを感じながら、ラクスは予感する。

 

 もうじき訪れる衝突が、全てを─────今この瞬間に人の歴史に幕を下ろすのか、或いは新たな未来を紡ぐべく足を踏み出す事が出来るのか─────それが決するのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キラとカナードにクルーゼの相手を託したムウは、敵であった筈の地球軍機に乗機を抱えられながらアークエンジェルへと向かっていた。

 

 負傷した箇所から流れ出る血を、自らの手で押さえつける。それと同時にムウは、ストライクを抱える地球軍機を見遣った。

 

 ユウのゼノス、キラのフリーダム、それぞれを相手取り殆ど互角の戦いを繰り広げた機体─────パイロットの腕は言うまでもなく確かだ。メンデルでの戦いから幾度と自分達へ襲い掛かって来た相手が、何故こちらを助ける様な真似をするのか。

 

 このすぐ後、ムウはその理由を悟る事になる。

 

『─────無事ですか、少佐』

 

「っ…、お前─────」

 

 不意に繋がる通信回線。それを通して聞こえてくる声に、ムウは覚えがあった。

 

 ヘリオポリスを出てからアラスカまでの間、旅路を共にした仲間─────その途中からは肩を並べて出撃し、アークエンジェルを守るのに協力してくれた少女。

 だが彼女は、ユウが撃墜された事に心を痛め、心の傷はコーディネイターへの憎しみへと変わっていき、そして自分達の元から離れて復讐の道を選んだ。

 

「フレイ・アルスター、か…!?」

 

 道を違えたとはいえ、かつて意志を同じくして戦場を共にした相手。あの恐るべき難敵のパイロットが彼女だったとは─────驚きを隠せないムウの目の前で、微かに苦い笑みを浮かべるフレイの顔がモニターに映し出された。

 

『お久しぶりです。フラガ少佐』

 

「…そうだな。だがまた、一体どういう心変わりだ?俺達の所から離れたと思ったら突然敵対して、かと思えば、今度は戻って来る。悪いが、今の俺はお前を簡単に信じる事は出来んぞ」

 

 事情を知らないムウからすれば、コーディネイターの憎しみのあまり自分達から離れた以前の仲間が、敵対してくる所まではまだいい。だが、あれだけの立ち回りをしたその人物が、突然掌を返したかのように戻って来た─────怪しく見えてしまうのは当然といえば当然だ。

 

 ムウの個人的な気持ちとしては、フレイの事を疑いたくなんてない。こうして戻って来てくれた事はむしろ嬉しいとすら思っている。

 しかし同時に、そう簡単に今のフレイを信じ込んではいけないと理性が語っているのもまた事実。

 

 だからムウはフレイへ問い掛ける。彼女の真意を聞かせて欲しいと、問いを突き付ける。

 

『…今まで貴方達を殺そうとした事、言い訳はしません。でも、今の私はキラと…ユウや貴方達と共に戦う意思でここにいます』

 

 ムウの問いに対して帰ってきたフレイの声は、極めて真摯なものだった。ムウ達と敵対した事に言い訳はせず、しかし今の自分はその意思はないと、また共に戦いたいのだと簡潔に告げる。

 

 ─────これだけで信じようって思っちまう俺は、チョロいんだろうな…。

 

 キラは当初からそうだが、パイロットとして出撃すると決めたフレイと接する時間が増えるようになってから、ムウは彼女をもう一人の妹分として見るようになっていた。

 

 断じて変な意味ではないが、そんな彼女が可愛くない筈がない。この状況の中で、彼女を信じたいと思ってしまう程度には。

 

『信用できないのは分かっています。でも、私は─────「いいぞ」…え?』

 

 緊張の面持ちで一度言葉を切り、再び口を開いて何かを言おうとしたフレイを遮って、ムウは一言告げる。

 

 緊張で一杯だった表情から一変、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔で呆然とするフレイへ更にムウは続けた。

 

「艦長の事なら安心しろ、俺の方から説得する。…というかむしろ、お前さんが帰って来た事に喜ぶんじゃねぇか?」

 

『…あの、少佐。そんな簡単に決めて大丈夫なんですか?だって私は…』

 

「何だよ。また俺達と一緒に戦いたいって言ったのはそっちだろ?なのに何でそこで躊躇う?さっきの言葉は嘘だったってのか?」

 

『っ、嘘なんかじゃありません!私は本気です!』

 

「…あぁ、分かってるさ。その気持ちが伝わって来たから、俺は了承した。それでこの話は終わりだ」

 

『少、佐…っ。ありがとうございます』

 

 息を呑んでから、映像越しにムウへ向かって頭を下げるフレイ。

 

 嬉しさを滲ませながら、まだどこか納得をしきれていない様な表情のフレイだったが、ムウの方はこれ以上何かを言うつもりはなかった。少なくとも自分は─────。

 

 そうこう話している内に、ジェネシスへ急ぐアークエンジェルの姿が視界に入る。それと同時に通信可能な距離へ近付いた事で、ストライクと艦とで通信が繋がる。

 

 モニターに映るマリューの顔。こちらの機体状況はすでにあちらへ伝わっているのだろう。その証拠に、映し出された彼女の顔は、平静を装いながらも微かな不安を隠せないでいた。少なくとも、ムウにはそれが分かった。

 

「悪ぃ…、クルーゼの新型にやられちまった。もう一度…」

 

『報告は後です!整備班、緊急着艦用ネット!医療班待機!』

 

 ムウの報告を遮って、マリューは艦内通話で矢継ぎ早にクルー達へ指示を出す。

 

 こちらの回収を急いでくれるのは嬉しい。が、今この場で報告すべき事が今のムウにはあるのだ。

 

「マリュー、ストライクと一緒にこの機体も載せてくれ。…頼む」

 

『ムウ…?』

 

 単刀直入にそうお願いすると、指示を出し終えて受話器を置いたマリューの表情に戸惑いが浮かぶ。彼女の周りで、他のクルー達が一瞬騒めいたのも聞こえて来た。

 

 さて、何と説明したものか。地球軍のエース機に乗っていたパイロットが、フレイ・アルスターだったと、その彼女が今は自分達と共に戦いたいと─────うん、我ながら怪しさ満点の説明だ。もしその説明を自身が聞く立場だった場合、そいつは絶対に騙されていると思うだろう。

 

 しかしムウの乏しい語彙力ではその程度の説明の仕方しか思い浮かばない。まずい、このままでは八方塞がりだ─────と思ったその時だった。

 

『お久しぶりです、ラミアス艦長』

 

 ストライク、アークエンジェル間の通信にリベルタスが割り込んだのだ。今、アークエンジェルの艦橋ではフレイの顔が映され、そして彼女の声が届けられている。

 

『フレイ、さん…?』

 

 マリューの顔が驚愕に染まり、戸惑いながらも口を開く。

 

『貴女が、どうして─────』

 

『…私が、皆さんの敵。この機体、リベルタスのパイロットだからです』

 

 フレイの返答を聞いた途端、マリューの瞳が悲しみに揺れる。フレイも一瞬、表情を痛まし気に歪ませたが、すぐにそれを収めて口を開いた。

 

『私がアークエンジェルを離れてから何があったのか、全てお話します。ですがその前に私にはやらなくちゃいけない事がある…。キラを…、ユウを助けたいんです』

 

 気まずさのあまり、今すぐにでも逸らしたいであろう視線をしっかりと定めて、真っ直ぐにマリューと顔を合わせながらフレイは懇願する。

 

『アークエンジェルでこの機体の補給を受けさせてください。お願いします』

 

 先程ムウへしたのと同じように、今度はマリューへと頭を下げるフレイ。

 

 直後、マリューが一瞬視線を()()()()()()のが気になるが、今はそこに触れずに成り行きを見守る。

 

『─────整備班。ストライクと一緒にもう一機、艦へ収容します。収容したもう一機の補給が終わり次第、再出撃させます。いいわね?』

 

『っ…ラミアス艦長』

 

『私からは何も言わないわ。…お帰りなさい、フレイさん』

 

 途中、マリューはムウへと視線を向けていた。まるで、これで良かったのかと問い掛けるかのように─────そのアイコンタクトに、ムウは黙って頷いた。

 そしてマリューはフレイを微笑みと一緒に出迎えるのだった。「お帰り」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リベルタスとストライクがアークエンジェルへと収容される。激しく被弾し、四肢を失ったストライクからムウが出てくると、すぐに医療班にストレッチャーで運ばれて行った。

 

 続けてリベルタスからフレイが降りて来る。マードックを始めとした整備班が、リベルタスの足下でフレイが降りて来るのを待っていた。

 その顔触れに懐かしさを覚え、微笑を浮かべたフレイはふと、その中に整備班ではない見知った顔があるのを見つけた。

 

 その人は整備班の男達を強引に掻き分けて、我先にとフレイを出迎えようとしていた。

 

 艦の床に足を付けたフレイと、顔を合わせる。信じられないと言わんばかりに目を見開いた()へ向けて微笑みかけながら、フレイは口を開けた。

 

「約束通りに帰って来たわ。()()

 

「…あぁ、あぁっ。また会えて嬉しいよ、フレイ…!」

 

 以前の様に心を通わす婚約者同士ではない。だが、別れる時にサイが語ったように、婚約者としてでなくとも、フレイが彼の事を好きでいなくとも─────生きて帰るという約束を今この瞬間、彼女は果たした。

 

「すぐに行くのかい?」

 

「えぇ。まだ私にはやれる事があるから。…だから貴方も」

 

「うん。…フレイ、ありがとう」

 

 こうしてサイが出迎えてくれた事は嬉しいが、彼が自分の役割を一旦投げ出してここへ来てしまった事は頂けない。

 サイがこんな行動に出てしまった原因の大部分は自分にあるのだから、強くは言えないが─────格納庫を出て、また自分のやるべき事をやりに戻るサイを少しの間見つめてから、フレイは彼へ背中を向けてから小さく呟いた。

 

「ありがとう、サイ」

 

 それは以前までの関係を断ち切る言葉であり、またこれから新たに築き上げるフレイとサイの始まりの合図でもあった。

 

 婚約者ではなく、友として─────これからも長く、サイとは付き合っていきたい。

 

 だが今はその前に─────

 

「嬢ちゃん!悪ぃが、バッテリーの補充くらいしかできねぇぞ!?」

 

「分かってます!それで充分です!」

 

 マードックからの問い掛けに頷いて答えるフレイ。

 

 リベルタスは地球軍発のモビルスーツとはいえ、オーブ陣営が保有しているモビルスーツとは仕様が僅かながら異なっている。バッテリーの補充も不可能と言われるのも覚悟していたフレイとしては、むしろそれだけでも有難いくらいだった。

 

 バッテリーの補充のみならばそう時間も経たずに再出撃できる。フレイはコックピットへ再度乗り込み、その時を静かに待つ。

 

 また、キラとユウと、並んで戦える─────その時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




終わりまであと2~3話くらいですかね…。
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