フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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この話には劇場版ガンダムSEEDのネタバレがあります。
ご注意ください。


PHASE12 歌姫との対面

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心臓がうるさいくらいに鼓動を刻む。

 落ち着けと自身に言い聞かせながら、その意思に反して滲み出てくる冷や汗。

 乱れる呼吸、震える身体。

 

 ようやく思考が復活し始めたのは、臨時で割り当てられた自室に辿り着いてからだった。

 

 壁に寄り掛かり、必死に呼吸を整えながらあの時─────ラクス・クラインに触れ、視線を交わしたあの時に何が起こったのかを頭の中で整理する。

 

 感覚としては、クルーゼと対峙したあの時の感覚…意識が共鳴し、通信機を介さず感情で会話が可能となったあの時の感覚に似ていた。

 だが、似てはいたものの、その時の感覚とは全くの別物だった。

 

「…アコードの力、か?」

 

 可能性として唯一思い当たるのは、劇場版にて登場した()()()()

 アコードとは、人の遺伝子そのものを直接改造する事で、通常のコーディネイターを超える力を持って産まれた者達だ。

 

 頭脳、身体能力は勿論、アコードには改造の結果ある特殊能力が備わっている。

 それは、他人の精神へ干渉する能力。

 それによって、アコードは自身が選択した対象の思考を読んだり、更には一種の洗脳状態に陥れて操る事も可能としている。

 

 そしてもう一つ、アコードはテレパシーの様な感応能力を持ち、互いの精神を読んで実際に言葉を交わさずともコミュニケーションをとる事が可能だ。

 これはフラガに伝わる能力を持つ、俺とクルーゼも可能としており、今回の現象の理由として俺の中で上がっているのがこれだ。

 

 だが、もし理由がこれだとして、どうしてもあの現象の中で説明が出来ない部分がある。

 

 俺は、テレパシーでラクスと会話をした訳ではない。

 俺とラクスの間で交わされたのは、感情、記憶、それらが互いに伝わり合っていた。

 

 劇場版では、ラクスと彼女の運命の相手として登場したオルフェ・ラム・タオというアコードの男との間でテレパシーによる会話が行われていた。

 しかしあの時、確かに二人は会話こそ行っていたが、先程の様な現象は起きていたか…?

 

 アコードは対象の読心は出来ても、対象の記憶を読み取る事までは出来なかった筈だ。

 少なくとも、劇場版ではそういった描写はなかった。

 

「…俺がラクスやオルフェの後に造られたアコード─────という訳でもないだろうしな」

 

 もし俺がアコードで、ラクスやオルフェよりも強い感応能力を持って産まれたのだとしたらあの現象も頷ける。

 だが俺はナチュラルだ。証拠…とは言い難いが、根拠もある。

 何しろ俺の父、アル・ダ・フラガはコーディネイターに対して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と評していたのだから。

 

 コーディネイターを忌み嫌っていた訳じゃない。

 アルの中でコーディネイターに向けて特別な感情があった訳じゃない。

 ただ、例えどれだけ遺伝子を操作して才能を向上させたとしても、自身には遠く及ばないという自負…或いは驕り。

 故に、アルが自身の子供に遺伝子操作を施す理由がないのだ。子に自身の才能が受け継がれてさえいれば、そんなものは必要ないという考えがアルの中にあった筈だから。

 

「フラガの特殊能力…なら、クルーゼと対峙した時にも同じ現象が起きていた筈だ。…くそ、ダメだ。分からん」

 

 どれだけ思考を回しても、結局俺の中で合点がいく結論は出てこなかった。

 

 それならいっそ、あの現象が何なのかという疑問は置いておく事にする。

 そう、あの現象が何なのかなんて別に今すぐ解明する必要なんてない。

 

 今すぐすべきなのは、俺の中の記憶を読み取ってしまったラクスへの対応だ。

 ラクスへ伝わった記憶の中には、前世での記憶─────そう、機動戦士ガンダムSEEDという作品の記憶も込められている。

 

 恐らくラクスに伝わってしまった筈だ。

 俺が持っている、この世界の流れ、未来の記憶。

 その果てに彼女に待つ、あの結末(ハッピーエンド)も。

 

「…」

 

 室内に来客を知らせるチャイムが鳴る。

 扉の脇にある機械を操作すると、その画面に映し出されたのは心配そうに扉の前に立つ兄さんの姿だった。

 

 格納庫を飛び出した俺を追い掛けて来たのだろう。

 俺はボタンを押す。

 

「ユウ。…大丈夫か?」

 

 先に口を開いたのは兄さんだった。

 通話が繋がった事に気付いた兄さんは、俺に尋ねてくる。

 

「うん、大丈夫だよ。…今、開けるから」

 

 俺は扉を開け、兄さんと顔を合わせる。

 

 …今俺は、上手く笑えているだろうか。

 

 笑えてないんだろうな。

 兄さんが俺の顔を見て、痛ましいものを見た様な表情になってるし。

 

「兄さん。ら…あの子は?」

 

 ただ、心配してくれる兄さんには悪いが、俺が逃げてからどうなったのかを聞かなければならない。

 何事もなければ原作通り、兄さんとラミアス大尉とバジルール少尉の三人で、ラクスの取り調べが行われる。

 

 しかし、兄さんはこの場に居り、その前にラクスと触れた直後に俺が逃げ出すという事態が起きた。

 原作の流れから何かが外れてもおかしくはない。

 

「あぁ…。あの後、独房へ連行されたよ」

 

「は…?ど、独房!?なんで!?」

 

「なんでって…。どうもあの子、ザフトの関係者っぽいし。それに、お前もあの子に何かされたろ?」

 

 おかしくはないと思ってはいたが、まさかそんな事になっているとは予想していなかった。

 

 だが、兄さんは何か勘違いをしている。

 俺は何もされていないし、あの時に俺が逃げ出したのはラクスが原因ではあっても、ラクスが悪い訳ではない。

 

「俺は何もされてない!流石に独房行きはやりすぎだ!」

 

「いや…。でもあの時のお前の様子は尋常じゃなかったぞ?あの嬢ちゃんに何かされたんじゃないなら、一体どうしたってんだよ?」

 

「それ、は─────」

 

 兄さんの問い掛けを前に言い淀む。

 

 言える筈がない。

 俺かラクスか、どちらかの何らかの能力が影響して互いの感情、記憶が読み取れてしまいましたなんて。

 いや、フラガ家特有の能力の持ち主である兄さんなら、もしかしたら信じてくれるかもしれないけど…。

 

「…ごめん、言えない」

 

「ユウ」

 

「でも、あの子は何も悪くないんだ!艦内を自由にさせる訳にはいかないだろうけど、そんな犯罪者のような扱いを受ける謂れは、あの子にはない!」

 

 信じて貰えるか不確定な以上、あの現象については話さないという選択を取らざるを得ない。

 

 あの時に何があったのかは言えない。

 でも、ラクスは悪くない。

 そんな事を言っても、兄さんには何も分からないだろうし、受け入れ難い事だというのは理解している。

 

 それでも俺にはこうする事しか出来ない。

 ラクスを解放する為に、俺が出来る事は、こうして兄さんに必死に頼み込むしかなかった。

 

「ったく、なんでそんなに必死になるんだか…。分かったよ。嬢ちゃんを独房から出すって約束は出来ねぇが、艦長達と話はしてみるよ」

 

「っ!」

 

 兄さんの表情が厳しいまま中々変わらなかったから、一瞬駄目かと諦めかけたけど、兄さんは不意に大きく溜息を吐いて、苦笑しながらそう言った。

 

「兄さん…!」

 

「勘違いするなよ。さっきも言ったが、話をするだけだ。嬢ちゃんを独房から解放するかどうかの判断は、艦長に委ねる。…分かるな?」

 

「分かってる。だけど…、ありがとう」

 

 お礼を言うと、兄さんは小さく微笑み、俺の頭を掌で二度優しく叩いてからその場から去っていく。

 

 その背中を眺めながら─────俺はふとある事を思い出し、慌てて兄さんを呼び止める。

 

「兄さん!」

 

「ん?どうした?」

 

「ごめん。…もう一つ頼みたい事があるんだ」

 

 俺は、不思議そうに首を傾げた兄さんに向けて続けた。

 

「いつでもいいんだ。あの子の取り調べが終わってからでも、いつでもいい。…あの子と二人で、話がしたいんだ」

 

 話をしたい。しなければならない。

 

 俺の頼みが、さっきの頼み以上に無理難題である事は重々承知だ。

 

 だけど…、俺は彼女と、ラクス・クラインと話をしなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嬢ちゃんには、しばらくこの部屋で待機をしてもらう。食事も、食堂じゃなくここでとってもらう。何か要望があれば、そこの機械で艦橋と通信を繋いでくれ」

 

「…分かりました」

 

 当初、独房へ入れられていたラクスは、マリューとナタル、ムウの三人による取り調べが終わってから、一人用の居室へと案内された。

 案内人であるムウの説明に頷きながら、ラクスは不思議に思う。

 

 どうして、自分は独房に戻るのではなく、ここへ連れて来られたのだろう─────。

 

「あの…!わたくしは、どうしてここへ連れて来られたのですか?」

 

「?そりゃあ、アンタに艦内を自由に歩き回られたら困るからな。言っとくが、外に出られないよう、ロックは掛けさせてもらうぞ」

 

「そうではなくて…。わたくしはてっきり、また独房へ入れられるのではないかと…」

 

 不思議そうにするムウにラクスが続けると、ムウは納得したように小さく声を上げた。

 

「…弟からの頼みでな。艦長達の許可も貰ったから、気にするこたないよ」

 

「貴方の…弟?」

 

「さっき、アンタから慌てて逃げてった奴が居たろ。そいつだよ」

 

「っ─────」

 

 自分が独房ではなくこの部屋へ連れて来られたのは、ムウの弟…それも、さっき自分に触れてすぐ、どこかへ逃げてしまったあの少年の頼みが受け入れられたからだという。

 

 その事を知ったラクスは、あの少年と触れ合った時に感じた感覚を思い出す。

 

 まるで世界に、自分とあの少年の二人だけが取り残されたかのようなあの感覚。

 あの少年から伝わって来た感情、記憶。そして同時に、自分の中の感情と記憶が、あの少年へと流れていくのが分かった。

 

 自分の全てが開き出されたかのような、だというのに不快感はまるで感じず、むしろ温かささえ覚えた感覚。

 

 あの少年が自分から逃げ出したのは、その感覚からラクスが解き放たれた直後だった。

 自分を見る少年の目に映っていたのは、戸惑い、そして恐怖。

 どうしてそんな目をするのだろう、と尋ねようとしたその瞬間、あの少年は自分から遠ざかっていった。

 

 話をしたかった。

 あの感覚が一体何なのかは勿論、少年と共有したあの景色の中で流れて来た様々な光景について。

 憎しみに満ちた世界の中で、見知らぬ青年と笑い合っていた、自分の姿についても─────。

 

「そうそう。その俺の弟だけど、これからここへ来るから」

 

「…え?」

 

「アンタと話がしたいんだと。その様子だと、アンタも同じみたいだな。感謝しろよ?この俺が、艦長と副艦長の説得をしたんだからな」

 

 胸を張り、誇るようにして自分を親指で指しながら言うムウを、ラクスは呆然と見つめた。

 

 来る?

 あの少年が?

 さっきはあんなに必死に、自分から逃げて行った彼が?

 

 いや、そんな事は良い。これからここへ彼が来るのなら、もし自分が彼に何かをしたのなら、謝ればいい。

 それよりも─────彼と、話が出来る…!

 

「お、来たみたいだな」

 

 来客を知らせるチャイムが鳴る。

 ムウが扉の前へと向かい、機械を操作して扉を開ける。

 

 開いた扉の向こうには、ムウと同じく金髪の少年が立っていた。

 彼は、サファイア色の瞳をムウへと向けながら、何やら一言二言交わしてから、ムウとすれ違い部屋の中へと入ってくる。

 

 中と外を隔てる扉が閉まる。

 ムウは部屋を出て行き、この部屋の中に居るのはラクスと少年の二人のみとなった。

 

 ラクスの視線と少年の視線が交わる。

 今度は、先程の様な感覚は訪れなかった。

 だけど、その視線から感じられるのは、先程の恐怖ではなく、あの感覚の中で感じた温かさ。

 

 きっとそれは、この少年が元来持っているものなのだろうとラクスは思う。

 

 きっとこの人は、優しい人なのだ、と。

 

「さっきは突然逃げ出して、失礼な事をしました」

 

「っ…!頭を上げてください。その…気にしていません」

 

 先に口を開いたのは、少年の方だった。

 少年はまず、ラクスへ謝罪をしてから頭を下げる。

 

 その姿を見たラクスは慌てて、少年へ頭を上げるように言う。

 しかし、少年はラクスの言葉は聞かずにしばらく頭を下げたままだった。

 

 少年はやがて頭を上げると、ラクスへ向けて小さく微笑む。

 

「もうご存じでしょうが、一応自己紹介を…。俺は、ユウ・ラ・フラガといいます」

 

 ラクスはその名を知っていた。

 知っていた、というよりも、つい先程知った。

 あの感覚の中で、流れ込んで来た彼の記憶の中で、彼の─────ユウ・ラ・フラガという名を知った。

 

「…わたくしも、自己紹介を致します。ラクス・クラインです。わたくしが独房ではなく、この部屋に居られるのは、貴方様の嘆願によるものとお聞きしました。…ありがとうございます」

 

 彼、ユウもまた、自身の名を知っていると分かっていながら、ラクスはユウに倣って自己紹介をする。

 

 それに加え、自分がこの部屋で過ごせるよう取り計らってくれた事への感謝をユウへと伝えた。

 ユウは一度頷いてから口を開いた。

 

「先に失礼な事をしたのはこちらです。気にしないでください。…それよりも、俺がここへ来た理由は、お分かりですね」

 

「─────」

 

 ユウはラクスへ当たり障りのない返事をしてから、浮かべていた微笑みを収めて言う。

 

 その言葉に、ラクスは息を呑む。

 

 ユウがここへ、自分の前へ現れた理由。

 

 聞くまでもない。ラクスもまた、ユウと同じ気持ちなのだから。

 

「話をしよう、ラクス・クライン」

 

 それは、ラクスが待ち望んでいた誘いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本文にあったアルのコーディネイターに対しての評価ですが、完全なオリジナル設定です。公式ではありません。
ただ、アルは普通にコーディネイターを見下してそうと思うのは私だけですかね?
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