フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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主人公が怒れる瞳な彼のエピローグ三話目です。


PHASE EX.3 シン・アスカ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球連合による核ミサイルとザフトによるジェネシス、そして両軍の暴走を止めるべく介入したオーブ軍。三つ巴の様相を呈し、歴史上類を見ない犠牲を出した第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦から半年─────ようやく、地球連合とプラントの間でユニウス条約が結ばれた。これによって二年にも及んだ連合・プラント大戦は終結する。

 

 NJCの軍事利用禁止、ミラージュコロイドステルスの使用禁止、兵器保有数の制限等々様々な条項を定めたユニウス条約が締結されるまでの間、地球プラント双方の思惑が渦巻き続けた。その上で、双方が妥協を重ねた上で結ばれた終戦条約…地球連合にとってもプラントにとっても、決して奥底から納得できる内容に出来上がったものではなかった。特にプラント側にとってはかなり不利な内容であり、その責任を取ってアイリーン・カナーバが辞職─────後釜としてギルバート・デュランダルが議長に就任し、プラント最高評議会は新体制を構えて新たな年度を迎えようとしている。

 

 そして、新たな年度を心機一転で迎えようとしているのは何も、プラント最高評議会だけではない─────ここにいる少年もまた、その一人だった。名前はシン・アスカ─────ザフトのアカデミー生であり、つい先日にモビルスーツ工学で再試験となりながらも無事に進級する事のできた彼は、明日にアカデミーの新学期を控えている。

 

「で…、何で俺はこんな所へ来る羽目になってんだ…」

 

 そんな彼は、アカデミーが置かれているディセンベルを離れて商業施設が充実している市へと来ていた。アカデミーの長期休暇も最終日となったこの日に、何故シンがこんな所へ来ているかというと─────

 

「何ぶつぶつ言ってんのよ?ほら、さっさと入るわよ」

 

「あっ…、待てよ()()()()()!」

 

 立ち止まり、建物を呆然と見上げていたシンの前を、ショートカットの赤い髪を揺らしてさっさと歩いて中へと入って行くのは()()()()()()()()()。シンとはアカデミーの同期であり、実習ではもう一人、彼とよくつるむ人物と合わせて同じグループになる事が多い人物だ。

 

 ルナマリアから突然連絡が入ったのは、今日の朝の事だった。目覚ましのアラームが鳴るよりも早くシンへと連絡を入れたルナマリアは、開口一番「出掛ける準備しておいて、少ししたら迎えに行くから」と言って、シンの返答を待たずに通話を切ってしまったのだ。

 すぐに何事かと彼女へ通話を入れ返そうとしたシンだったが、通話にルナマリアは出てくれず─────ルナマリアの性格上間違いなく部屋に来襲してくるだろうと考えたシンは、仕方なく言う通りに出掛ける準備を済ませる事とした。

 

 通話が切れてから二時間程経った頃だろうか、ルナマリアは本当にシンの部屋へと来るとこう言った。

 

『買い物に付き合って!あ、拒否権はないから』

 

 出掛ける準備もしていた手前、拒否するつもりもなかったのだが─────ディセンベルを出てここまで辿り着いた時、シンは正気に戻った。そして冒頭へと遡り、シンは思うのだ。何でこんな事になったのか─────と。

 

「なぁ、一体どうしたんだよ…。急に買い物なんて、大体何で俺?」

 

「メイリンはまだ休みの課題が終わってなかったからダメだった。他の人も誘ってみたけど、用事があったりとか彼氏と約束があったりとか…あ、まずい。腹立ってきた」

 

「…」

 

 第一に何故自分を誘って来たのかと尋ねるが、結論はルナマリアの口から出て来ない…が、要するに消去法で自分に至ったのだろうと予想を立てる。そしてどうして急に、それも休みの最終日に遠出までして買い物に行こうなんて思い至ったのか、その理由も─────隣で腹を立てているルナマリアを見ていて、何となく予想を立てる事が出来たシンであった。

 

「えっと…、うん。お気の毒に…?」

 

 そう声を掛ければ、ルナマリアがギロッと睨みつけてきた為シンはすぐにソッポを向いた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()─────そんな噂がシンの耳に入って来たのは、つい昨日の事だった。ただの噂だし、まさかとも思ったし、それにそこまで気にする義理もないと考えてさっきまですっかりその事を忘れていたシンだったが…どうやら噂は本当だったらしい。

 

「最近怪しいとは思ってたのよ…。けど人の彼氏に手を出す普通!?()()()()…そこまでとは思ってなかったわ」

 

 噂が本当だったのだと知ったシンが次に気になったのは、では誰がルナマリアの彼氏を略奪したのか─────という事だった。流石にそこを自分から聞く程に空気が読めない自負はなかったシンだが、ルナマリアの方からあっさりと教えてくれた。

 

「ねぇシン、またアグネスに()()()()()()()()()()?」

 

「嫌だよ。ていうか、別に俺は何もしてないし」

 

「いやいや…。教官が止めに入らなかったら本当に一発殴りそうだったわよ、シン?」

 

 ()()()()()()()()()()()()─────ルナマリアの彼氏を奪った下手人であり、ルナマリアと同じようにシンとはアカデミーの同期だ。成績はシンやルナマリア以上に優秀なのだが、如何せん性格に難ありで、以前あったとある事件も相まって、シンとしては出来る限り関わりたくないと感じている相手でもあった。

 ただ、そのとある事件の所為でアグネス側から因縁をつけられる事もあり、シンの密かな願いは叶う気配がない。

 

 新学期からもまた彼女と顔を合わせる事になるのか、なんて憂鬱に感じていたシンの隣で、突如ルナマリアがとある方向を見ながら大声を上げた。

 

「あ────っ!あれ、ずっと探してた乳液…まだ残ってる!」

 

「あ…おいっ」

 

 プラント内でも最も規模のある商業複合施設に入ってそう時間は経っていないが、何やら目当ての商品を見つけたらしいルナマリアが離れていってしまった為に、シンは早速迷子になりかける。すぐに追い掛けたお陰で、施設内放送でシン・アスカ君が呼び掛けられる─────という事態は避けられた。

 何を冗談をと思われるかもしれないが、ルナマリアならやりかねない。というより絶対にやる。そして羞恥に顔を真っ赤にしながら迷子センターに来たシンを指差しながら彼女は笑うのだ。…これはシンの勝手な想像だが。

 

 化粧品の小売店へと入っていったルナマリアは、あれやこれやと商品に手を伸ばし、見比べながらどれを買おうかと吟味していた。

 その様子を暫し眺めていたシンだったが、ふと視線が周囲に行き渡る。化粧品の中には男性向けの物はあれど、この場に並んでいるのは女性向けの物ばかり。最早店内の雰囲気そのものが、女性の為にあるお店という空気が漂っている様にシンには感じられた。その証拠に、店内にいる人の殆どは女性─────というより、男はシン一人しかいない。周りの女性客からは、無遠慮に好奇の視線がシンへと向けられていた。

 

 それだけではなく、友人同士で来たと思われる二人組は何やら声を潜めて話し合っているようだった。それもどうも、シンだけではなく、ルナマリアも見ているようで…表情からは不快さ等の感情は見えないし、不審に思われている訳ではなさそうだが─────。

 

 ─────居づらい、正にその一言だった。

 

 しかしここでルナマリアから離れてしまえば、下手をすれば先程可能性が過った迷子センター事件が現実に起きてしまう事だってあり得る。何しろこの様な場所に来たのは久し振り─────それこそ、まだ()()()()()()()以来…。

 

「っ─────」

 

 そこまで考えた時、シンの脳裏に血に塗れた光景が過った。爆風に巻き込まれて吹き飛び、回る視界の中でもやけにハッキリと見えてしまった、同じように吹き飛んだ父と母の姿─────何故か生き残ってしまった自分の視界に次に入ったのは、際限なく広がっていく戦火。

 

 戦争によって奪われた家族─────父も、母も、妹も、皆…いなくなってしまった。自分一人が世界に残されて、失意と絶望のどん底の中で立ち尽くしていたシンを、それでも救い上げてくれた人がいた。

 その人が例え自軍を裏切った戦犯だとしても、何者だったとしても…あの人は命の恩人であり、これからを生きていこうとシンに思わせる切っ掛けをくれた人だった。

 

 だからあの時、アグネスが放った言葉が許せなかった─────ルナマリアの言う通りだ。あの時の自分は、教官が止めに入って来なければ彼女を殴るつもりだった。一発等と言わず、何発でも─────少なくとも、彼女が謝罪の言葉を吐くまでは。

 

「ちょっとシン?何ボーッとしてるのよ」

 

 肩をチョン、と突かれた感触と、すぐ隣から呼び掛けたルナマリアのお陰で我を取り戻すシン。

 

 ─────こんな所まで来て、一体何を考えているのか。ルナマリアは素直にこの場所を楽しんでいるのに、自分と来たら…いや、無理やり引っ張り出されて楽しむも何もないのは確かだが、少なくともこの場に相応しくない事を思い出していたのは確かだ。

 

 家族を喪った事も、絶望の淵にいた自分の命を救ってくれたあの人の事も、どちらも今のシンを象る大切な記憶だ。それを糧にして、シンはこれ以上何も奪われない為の力を得ようとしている─────が、今はそうではない。()()も『休息は大事だぞ』と言っていた。…この時間が果たして休息になり得るか、甚だ疑問ではあるが、これもまた力を得る為と自身に言い聞かせ納得しようとする。

 

「ちょっと…、ここに居辛いなって思って」

 

「あー、そうね。このお店、男の人は滅多に来ないだろうし」

 

「いや、それもそうなんだけど…」

 

 ルナマリアの言う通り、男であるシンがこの場にいる事への興味の視線もあるのだろうが…どうもそれだけではない気がしてならないシンだった。何しろ周囲の視線はシンだけではなく、ルナマリアへも向けられているのだから。何といえばいいのだろうか…、ハッキリしないが─────そう。

 

 まるで、この場に()()()()()()()()()()()がいる事に興味が向けられているかの様な─────。

 

「何よ、ハッキリしないわねー。ま、いいわ。それよりもちゃんとついてきてよね。折角呼んだ荷物持ちが迷子になったら意味ないでしょ?」

 

「あ、あぁ─────おい、待てよルナ。今、何て言った?」

 

「さぁ?覚えてませーん」

 

「惚けるなよ。お前今、荷物持ちって言ったか?その為に俺を呼んだのか?おい、ルナッ!」

 

 あぁ────やっぱり休息になんてならないかもしれない。今頃になって、この場に来てしまった事を後悔するシンなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、お腹空いたー!ねぇ、シンは何食べる?」

 

 こいつ、何でこんな元気なんだ…?という疑問を投げかける気力もなく、テーブルに突っ伏すシンの前でルナマリアがメニューを広げながら尋ねて来た。

 

 ショッピングモールへ着いてから数時間、すでに昼時は過ぎ、フードコートの席は待つ事もなく所々空いておりすぐに座る事が出来た。これについては本当に助かった。ルナマリアが買った服やら化粧品やらを全て両手に抱えながら長距離を歩いたシンはほぼグロッキー状態だったからだ。

 

「何でもいい…、適当に頼んどいてくれ…」

 

「何よ、だらしないわねー。何でもいいんなら、シンにはボンゴレビアンコを頼もうかしら…」

 

「やめろ!やっぱり自分で選ぶから、メニュー寄越せ!」

 

 貝類が嫌いなシンにとって堪えられないメニューを頼もうとする悪魔(ルナマリア)から、先程までグロッキー状態だったとは思えない程の俊敏な動きでメニュー表をふんだくったシンは、一度ルナマリアを睨みつけてから料理の写真が多く載せられた表に目を配る。

 

 手元のメニュー表を分捕られたルナマリアは、少しの間呆けてから声を上げて笑い出す。何がそんなに面白いのか─────もう一度彼女を睨みつけたシンは、早々に頼むメニューを決め、呼び寄せた店員へルナマリアと一緒に注文する。

 

「…思えば、アカデミーではよくシンとつるんでるけど、こうしてプライベートで一緒にいるのって初めてよね」

 

 注文をしてからしばらく、どちらからも会話をする事もなく静かな時間が流れていた。その沈黙を破ったのはルナマリアだった。

 

「…そう?」

 

「そうよ。これでも私、シンを遊びに誘おうって考えた事もあったのよ?…あ、勘違いしないでね。デートに行こうとか、そういうのじゃないから」

 

「分かってるよ、そんな事」

 

 何の釘を差しているのやら…と呆れるシンの前で、ルナマリアは頬杖を突きながら真っ直ぐにシンを見つめて続ける。

 

「でもシン、いつも必死だから。あんまり邪魔しない方がいいかも?って思って。…今回も、シンに連絡する前は止めた方がいいかも、って思ってたけど、思いの外あっさりついて来てくれたから驚いちゃった」

 

「いや、出掛ける準備しろって有無を言わさず通話を切ったのはルナじゃないか…」

 

「でも、シンは準備をしないで断る事もできた。違う?」

 

 ルナマリアの言う通りだ。確かに有無を言わさず通話を切られ、その後ルナマリアは本当にシンの部屋にまで押し掛けて来たが、その上で断ろうと思えば断れた筈だ。後は怖いが、居留守を使う事だって出来たし、それで後日ルナマリアに問い詰められても、急用が出来たとか何とか、いくらでも言い訳は立った。

 

「だから嬉しかったよ、シン。いつも一線引かれてるみたく感じてたけど、そうじゃないって分かって」

 

「…一線引いてなんてないさ、別に」

 

 言葉ではそう言いながらも、過去の自身の行動を振り返って、そう思われても仕方ないかもしれないとシンは思った。先程シン自身が言ったようにそんな自覚は毛頭なかったが、思い返せばこうして誰かと息抜きに出掛けるのは勿論、オフの日に誰かと一緒にいる事自体した事がなかった。

 アカデミーの同期の中では、ルナマリアと一緒に過ごす時間は特に多かった。グループ演習等を通して、今では気の置けない仲になったと思ってはいたが─────そんなルナマリアでもシンに対してそう感じていたのだ。他の交流のある同期達にはどんな風に思われているのか。

 

「…ねぇシン、聞いてもいい?答えたくないなら、それでも構わないから」

 

「いいけど、何だよ改まって…」

 

 頬杖を突いていたルナマリアが不意に居直ると、真っ直ぐにシンを見つめながら口を開いた。

 

 こんな風にルナマリアから真っ直ぐに、真剣な眼差しを向けられるのは初めてかもしれない。演習で同じグループになった時は勿論、シンもルナマリアも真剣に取り組んではいるが─────今回はそれとは別種の真剣さな気がする。

 

「シンって、どうして軍人になろうって思ったの?」

 

「─────」

 

 どうして、そう問われたシンが真っ先に思い出したのは、()()()()()()()()()()()姿()だった。人の本質の一端をシンに説き、家族を殺した戦争というものへの新しい見方を教えてくれたあの人は─────もういない。

 前大戦で最も規模が大きく、最も犠牲者を多く出した第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦にて、敵軍のエースとの激しい交戦の末に戦死したと、当時はまだカーペンタリア基地にいたシンは耳にした。そして、プラント本国からあの人に対して戦犯の疑いが掛けられている事も、同時に─────。

 

「…それをルナに教える義理はあるのかよ」

 

「うーっわ、感じ悪ぅ~。だからアンタは他人と一線引いてるって思われるのよ」

 

「じゃあルナはどうして軍人になろうとしたんだよ。俺に教えてくれるのか?」

 

「え?そんな大層な理由じゃないわよ?ただアタシが暮らしてるこの国を守る手伝いを、少しでもしたいって思っただけ」

 

「…」

 

 ルナマリアは話している内に店員が持って来たドリンクに口を付ける。その所作は自然で、たった今自身が発した言葉の大きさなんてまるで自覚していない様子だ。

 

 プラントを守りたい─────そう思う人達は数多くいれど、彼女の様に実際に軍人として戦う為にアカデミーの門戸を叩ける者はそう多くはない。大層な理由じゃないという前置きを聞いた時は、もっと世俗的な理由が出て来るんじゃないかと予想していたシンは、事も無げに立派な思いを口にしたルナマリアに感心するのだった。

 

「大層な理由じゃないって…全然そんな事ないじゃないか」

 

「そう?で、シンは?」

 

「…」

 

 その褒め言葉はシンの本心から出たものだ。その裏で、こうして褒めれば何だかんだの流れで自分への追及を忘れてくれるのではないか、なんて考えていたりいなかったり…結局、そんなシンの甘々な打算は続くルナマリアの問い掛けにあっさりと破られてしまったのだが。

 

「─────誓ったんだよ。最後まで戦うんだって」

 

 真っ直ぐに向けられる視線は真剣で、シンの事を知りたいという思いが伝わって来た。だから、だろうか。自分も正直に答えるべきだ、なんて思ってしまったのは。

 

「俺みたいな人間をこれ以上生み出さない為に戦い続けるって─────どれだけそれが不可能なんだって思い知らされても、絶対に諦めないんだって」

 

 自分の大切な人達を奪った世界を壊したいと、憎いと思った。だけどそれ以上に、この手で自分のような人を生み出す事はしたくないと─────シンはあの時、カーペンタリア基地の病室の中で吐露した。

 そしてその時の思いは、意志は、()()()()()()に誓いとなって、シンの胸に刻まれている。

 

 だから戦う道を選んだのだと。その為に力を得たい、強くなりたいと、シンは必死になっている。どれだけ必死になろうとも、自身の誓いが果たされるのかは分からない。それでも、と─────どこまでも貪欲に。

 

「シン。その、誓った相手の人って…」

 

「…そうだよ。()()()()()()()()()─────ザフトの情報だけに留まらず、N()J()C()を流出させたって言われてる…俺の命の恩人だ」

 

 ザフト内は勿論、軍の教育を受けるアカデミー生…いや、そうでなくともプラントに暮らす人達にとってその名は、決して許してはならない大犯罪人として知れ渡っている。

 

 ラウ・ル・クルーゼ。仮面のトップエースとして、多くの戦果を挙げ続けた彼は、プラント─────いや、世界を混沌に陥れた極悪人。シンがそんな男に命を拾われ、プラントに渡って来たのだという事もまた軍関係者内では有名だった。

 女性向け化粧品店の中での会話の中で出た、()()()()()()()()()()()()()()()()()─────軍人の父を持つ彼女が、シン・アスカとラウ・ル・クルーゼとの繋がりを知り、それについて突いてきた事が切っ掛けで起きた出来事だった。シンもラウがプラントにとってどういう人物であるかは知っており、自身がどういう評価を受けているかも想像はついていて、それについて何かを言われる事への覚悟も出来ていた。

 

 だが、それでもシンにとって許せない一言をアグネスは口にした。それによって衝動的に起こした行動を、シンは今でも後悔していないし、反省をするつもりもない。

 どこの誰であろうとも、否定などさせない。あの人の優しさを─────それが自分との短い会話の中でも、たった一言だったとしても、自分を気遣ってくれたあの言葉を、否定されてたまるか。

 

「ごめん」

 

 不意にルナマリアが謝罪の言葉を口にしたのを聞いて、シンはハッと顔を上げて口を開く。

 

「何だよ、急に謝り出して」

 

「だってシン、アタシの質問に答えたくなさそうだったし。それなのにアタシが無理矢理答えさせたから、怒ってるんでしょ?」

 

 怒っている様に見えたのか─────とシンは今になって自覚する。事実内心で怒り狂ってはいたのだが、その矛先はルナマリアではない。その事を伝えようと、シンは再度口を開いた。

 

「怒ってたのはそうだけど…、ルナに怒ってた訳じゃない。…クルーゼさんの話をしてたら、アグネスの事を思い出して」

 

「…あぁ~」

 

 シンの返答を聞いて合点がいったルナマリアは苦笑を浮かべた。それ程までに、当時のアグネスは酷い言葉を吐いていた。

 シンに対しては勿論、故人であるラウに対しても─────戦犯である以上、言われても仕方ないと受け入れられる部分はあれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その一言に激怒したシンに掴み掛られても、実際の人となりを知らない相手を自身の感性で決めつけ、意見を最後まで曲げなかったアグネスに対してルナマリアは引いていた。

 

 繰り返すが、ラウが戦犯である以上、言われても仕方ないと受け入れられる部分はあった。その上で、アグネスはシンにとって許せない一線を超えたのだった。

 

「お待たせ致しました。カツカレーセットとオムライスでございます」

 

 アグネスの所為で二人の間で微妙な空気が流れ始めた時、それを切り裂くように二人が注文した料理を手に店員が現れてくれた。

 シンの前にカツカレーセットが、ルナマリアの前にオムライスが置かれる。二つの料理からは食欲を掻き立てる香りが漂う。

 

「まあ、暗い話はここまでにして!まだまだ行きたいお店もあるんだし、食べるわよ!」

 

「その暗い話を始めたのはルナじゃ─────え?まだ周るつもり?食べたら帰るんじゃないの?」

 

「あふぁいまえれひょ」

 

「食べながら話すなよ、行儀の悪い!」

 

 ルナマリアが努めて明るく話している事は鈍いシンでも察する事ができた。その明るさに感謝をしつつ、シンもスプーンを片手に料理に手を付けようとした。

 

「あ、シン。暗い話が終わる前に、最後に一つだけ言わせて」

 

「は?なに?」

 

 暗い話はここまでじゃなかったのか、とツッコまなかった自分を内心褒め称えながら、シンは次のルナマリアの返答を待った。

 

「アタシの質問に答えてくれてありがとう。嬉しかった」

 

 だがシンは、ツッコんで茶々を入れなかった自分にすぐに後悔した。そうすればルナマリアが臍を曲げて、こんな聞いてるこっちが気恥ずかしくなるような真っ直ぐなお礼の言葉なんて、聞かずに済んだかもしれないのに。

 

 思わずスプーンを持ち上げた手をテーブルに置いて、もう一方の手でポリポリと頬を軽く掻きながらソッポを向く。シンにとってはルナマリアに悟られないように照れ隠しをしている。が、僅かに揺れる瞳と、隠し切れない頬の羞恥の色は正面のルナマリアからハッキリと見えていたのだった。

 

「あ、何よシン。照れてるの?」

 

「う、うるさいな…。黙って食えよ、冷めるぞ」

 

「それ、そっくりそのまま返してあげるわ。ほら、いつまでも照れてないでさっさと食べなさい」

 

「照れてないし!…くそっ、覚えてろよ」

 

 揶揄われた事による羞恥と悔しさで、先程の怒りが押し流されていく。ルナマリアへの悔恨で手の動きが荒くなり、食器がぶつかる音が少々激しくシンの手元から鳴るが、それに気を悪くした様子もなくただただルナマリアは面白そうにシンの行動を眺めている。

 

 その事に気付いたシンがまた、「何だよ!こっち見んな!」とルナマリアの笑いを誘うムキになる姿を見せる事になるのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シン・アスカ─────激動の運命に呑み込まれるまでおよそ半年となる、とある穏やかな一日のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クルーゼとの邂逅と死別によって原作より少し達観(?)してるシンでした。あとルナマリアとこっそりレイ。書きながらルナマリアと少し仲良くしすぎか?とも思ったのですが、シンルナレイのドラマCDでは仲良く喧嘩するシンルナがいましたし、このくらいのやり取りしてても大丈夫かと思い自分にGOサインを出しました。

…にしても少し甘くしすぎたかな?まあ、いいでしょう。いいよね?

え、アグネス?知らない子ですね、誰ですか?(;´・ω・)
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