フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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別作品に分けて投稿をするかどうか悩みましたが、このまま続けた方が読者の皆様も楽かなと思い、引き続きフラガとか聞いてないの方でDESTINY編を始めます。

それでは皆様、よろしくお願いします。


DESTINY編
プロローグ


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 C.E.73─────農業プラントユニウスセブンへと核ミサイルが撃ち込まれ、血のバレンタインとして人々の記憶に刻まれた事件を発端として勃発した、地球圏全体を巻き込んだ大戦が終結してから一年と半年が経った。

 大戦を引き起こす切っ掛けとなったユニウスセブン跡地にて締結されたユニウス条約によって、様々な問題は残されたものの、地球各国とプラントはこの時、今後の相互理解努力と平和を誓い、世界は安定へと歩み始めた筈だった。

 

 だが現実には、旧来の人類であるナチュラルと、遺伝子の調整を受けて卓越した能力を持って生み出されるコーディネイターとの間に生じた溝は未だ埋まっていない。

 ユニウスセブンにて発せられた筈の両国の誓いは、早くもその効力を失いかけていた。

 

 終戦協定締結後も、各国は軍備の増強に歯止めを掛けようとしなかった。条約の項目の中には、各国の保有戦力に対しての制限を定める内容が書かれている。現状、その内容に反する戦力を表立って保持していない各国ではあるが、制限を無視しかねない勢いで軍備の増強が進められているという情報を()()()()()()()()は掴んでいた。

 

「…危うく自分達が滅びかけた大戦のすぐ後だというのに、よくやるものだな」

 

「急にどうした?」

 

 手元の紙面に目を落としながら潜めて呟いたカガリだったが、静寂に包まれた同室で作業をしていたアスランの耳にその声は届いていた。

 聞き返されたカガリは「いや、何でもない」と頭を振りながら答えてパラパラと紙面を捲りそこに書かれた内容に目を通していく。

 

 国内外に問わず、あらゆる情報がカガリの元に入って来る。それを整理し、今後オーブという国はどういう方針を以て行動していくか─────それを決める義務が今の彼女にはあった。

 

 先の大戦が終結してから二年の間に、カガリはオーブの()代表ウズミ・ナラ・アスハからその座を受け継いでいた。

 当時、ウズミの口からカガリへと代表の座を明け渡すという話が出た時は、オーブの中枢でそれはもう大騒ぎに─────なんていう事は特になかった。何しろあのウズミという男、自身が代表を辞してカガリに明け渡すつもりだと、彼女が知らぬ所で首長達へ打ち明けて前もって工作を行っていたのだ。

 

 中には反発する声もあったというが、代表を辞しても政治から完全に離れるつもりはなく、カガリが不慣れな間はサポートをするつもりだという意思を聞いて引き下がったという。それでも完全に納得はしていないのだろうというのは、実際に代表として振る舞う現在のカガリにも分かっているのだが─────とにかく、こうしてカガリが知らない間に着々と引き継ぎの準備は進められており、ある日突然彼女の元へ国家元首という役割が降って来たのだった。

 

『もう私も老いた。それでも以前までのお前なら明け渡す訳にもいかなかったが─────今のお前ならば』

 

 ウズミからカガリへ、親から娘へ、国家元首の座が引き継がれる事をカガリへと初めて知らされた時、ウズミは微笑みながらそう言った。

 父から受けた愛情の数々─────その中でもとびきりの、認められたという嬉しさに心が満ちたのを今でもカガリは思い出す。自分で大丈夫なのかという不安もあったが、ウズミや彼と共に首長の座を退く者達も合わせて、裏からサポートするという心強い言葉もあって、カガリは立ち上がる決意を固めたのだ。

 

 なお、彼女の想像以上に首長の務めは過酷であった。カガリの心は膨大な仕事と情報の量を前に折れそうになっていた。

 

「カガリ。大西洋連邦から問い合わせが来ているぞ」

 

「…」

 

 ただでさえ決して機嫌が良くはなさそうな顔をしていたカガリが、苛立たし気に表情を歪ませた。

 

 アスランから差し出された紙面を受け取り、そこに書かれた文章を読み通してから大きく溜息を吐きながらデスクの上にそれを放り投げた。

 

 国家同士の重要なやり取り、それに対する扱いでは断じてないが最早カガリの方も苛立ちが限界を迎えていた。

 

「また、か?」

 

「あぁ。また、だ!」

 

 カガリの表情を見ていたアスランが何かを察した様に苦笑いを浮かべると、控えめな声で問い掛けて来た。カガリは最早不機嫌さを隠そうともせず吐き捨てるように返事をした。

 

 実の所、カガリが代表に就いた頃から大西洋連邦から度々同じ要請、問い合わせをオーブは受け続けていた。その内容とは、プラントへ対しオーブが条約違反の軍事供与をしているのではないか、というものだ。無論、このような直接的な指摘をオーブが受けている訳ではない。書かれている内容を吟味し、彼らがオーブに対して何を疑っているのか─────出された結論が上記のそれである。

 

 しかし大西洋連邦も本気でそれを疑っている訳ではない。彼らは何とかして、オーブから何かしらの利を引き出そうと必死なのだ。正確には何とかしてオーブを弱体化させようとしている─────だろうか。

 

 先の大戦、地球、プラント共に大きな損害を被った。だが仮に戦勝国を戦争参加国の中で選ぶとしたら、それはオーブだ。大戦終盤に混沌と化していく戦渦を憂いたウズミの決意の下で参戦したオーブは、地球連合、プラントを相手に三つ巴の戦いを繰り広げた。

 決してオーブの力で終戦に導いた訳ではない。結局あれは、地球もプラントも自ら破滅の道を辿っていくのを辛うじて思い留まった、その結果だ。しかし仮にあそこでオーブが参戦を決意していなければ─────繰り返される戦いの果てで最悪の結果を迎えていただろう、と考える有識者は多くいた。その声は大きく、多くの人達の耳にも届き、オーブという国を英雄視する者達もまた多い。

 

「恐ろしい─────んだろうな。オーブが」

 

 大海に浮かぶ高々地球の一国家が地球連合を、そして性能で勝る筈のコーディネイター集団であるザフトを相手にして尚、オーブは大きな損害を被ってはいない。その上で遅れて民衆から発せられるオーブへの好評。未だ対コーディネイターの姿勢を裏で引き続けている大西洋連邦が、良い顔をする筈もなく。

 そして何より、全勢力を以ても潰す事が出来なかったオーブという国を、大西洋連邦は恐れているのだ。

 

「だからといってこれはない」

 

 大西洋連邦のそうした姿勢に対し、対抗力を放棄する訳にもいかずカガリは密かに軍備の増強を続けていた。国と民を焼かせない為にも必要な事なのだと割り切って、それが大西洋連邦の懸念を加速させている事も承知の上で─────かといって、()()は流石にただの難癖である。

 オーブは明確な根拠と共に、プラントへ条約違反の軍事供与はしていないと発した。しかし大西洋連邦は引き下がらなかった。

 

 以前、()()()()()()()()()()()O()S()()()()()()()()事があり、それを理由として大西洋連邦はプラントへの件でオーブを突き続けた。

 テロリストへのOS流出の件も、先の大戦のいざこざに紛れて鹵獲されたM1アストレイを解析されてしまったからであって、オーブが自ら流出させた訳ではないという事も回答した。…が、今はこの件は良いだろうとカガリは思考を持ち直す。とにかく、しつこい大西洋連邦に対してどう回答をするか─────

 

「─────いや。言葉で分からないなら、姿勢で示すのも良いか…?」

 

「カガリ?」

 

 思考を回している内に、カガリの頭の中で不意に別の選択肢が浮かぶ。声を潜めて呟く彼女へアスランが声を掛ける。

 だがカガリはぶつぶつと呟くのを止めず、頭の中で思考を固めていく。

 

「…よし。アスラン、私は決めたぞ」

 

「何をだ?」

 

「プラントへ行く」

 

「そうか。─────は?」

 

 目と口をポカンと開けてカガリの顔を見るアスラン。カガリは先程とは打って変わって微笑みながらアスランを見返して言う。

 

「言葉で駄目なら行動で示すんだよ。それで向こうが納得するとは思ってないが、少しは大人しくなってくれるんじゃないか?」

 

「いや、そうかもしれないが…」

 

「なるべく早い内に…うん、一月以内には行っておきたいな。勿論、プラント側の都合もあるだろうが」

 

「…」

 

 マジか、と言わんばかりの顔で呆然と自身を見つめているアスランに気付いたカガリがデスクから立ち上がると、彼に歩み寄ってポンとその肩に手を置いて無情にも告げる。

 

「頼むよ、()()()()()

 

「…畏まりました、()()

 

 陰鬱とした表情を隠そうとしないまま、アスランは大きく溜息を吐きながら頷いた。

 その姿を眺めて満足げに、カガリも頷いてから再び彼女は考え込む。

 

「さて…。とすれば、護衛をどうするかだが─────」

 

 アポイントメントはアスランに任せるとして、実際にプラントへ行くとなると当然カガリ一人で行く訳にもいかない。誰かしら護衛を就けなくてはならない。

 

()()─────は白兵戦では頼りないし、かといって()()は若すぎるしな…。あー、こういう時に()()がいてくれたら話は簡単だったんだが…」

 

 頭の中で候補者について整理していく。

 

 真っ先に出て来た候補者、キラはモビルスーツの操縦であれば右に出る者はほぼいないが、生身の戦闘となると話は変わる。言っては悪いが、正式な軍事訓練を受けていないキラは白兵戦が余りにも弱すぎる。

 もう一人の候補者─────()()()()()()はキラとは違って軍事訓練を受けており、未だ正式な軍人ではないがパイロットとしても一流の腕を誇り、白兵戦でもある程度戦えるレベルになっているというのは、彼女を養子として引き取ったオーブ国防軍海軍所属の()()()()()()()()一佐が語っていた。しかし一国家元首の護衛を任せるには少々不安が残ってしまう。

 

 となるとやはり、経験豊富な信の置ける軍人を斡旋して貰うのが一番なのだろうか─────と考えるカガリの頭の片隅で、とある一人の少年の顔が浮かぶ。

 ユウ・ラ・フラガ─────モビルスーツの操縦の腕は言わずもがな、正式な訓練を受けていないにも関わらず白兵戦もアスラン、カナード程ではないものの一介の軍人では相手にならない程に強いというナチュラル界のバグ(カガリなりの誉め言葉)だ。ただユウは今、オーブ国内にはいない。アズラエルと共に国を出ており、今どこで何をしているのかはキラとラクスですらも分からないという。

 たまに連絡が来るらしいが、ユウの居場所等の話はしておらず、彼女達からもそういった質問はしていないという。二人曰く、今のユウにその質問をしても簡単に答えられないだろうし、ユウが嫌な話はしたくない─────この話を聞いた時、カガリは憤慨した。こんな良い女二人を置いて行く等、あいつは何を考えているのか…ただそれも二人にとっては単なるお節介だった様で、『今ユウが頑張っているのは、わたくし達の為ですから』とラクスが笑いながら言っていた。

 それを聞いたカガリの胸の中でまた複雑な念が渦巻くのだが、当の本人達がそれで納得しているのなら口を挟む事ではないと自身を納得させた。

 

 話はずれたが、とにかくユウも当然護衛に就ける事は出来ない。アスランとカナードも同じくだ。アスランはプラント内では死人として扱われているし、カナードも脱走兵の身分。カナーバ前議長が取った措置のお陰で彼らへの追及の手は止まっているが、プラント国内には当然二人の顔を知っている者もいる筈。

 その中に連れて行くのは余りにも危険だ。その為に、カガリは初めからアスラン、カナード、この二人を護衛の選択肢から外していたのだが─────

 

「カガリ。…俺じゃ、ダメかな?」

 

「─────は?」

 

 不意に投げ掛けられたアスランからの提案に、カガリは思わず抜けた声を漏らした。

 

 先程挙げた理由もあり、アスラン、或いはカナード、この二人はまず護衛には就けられないと考えたばかりだった故に、数秒硬直してしまう。

 

「お前─────自分で何を言っているのか、分かってるのか?」

 

「あぁ。…その上で言っている。俺を連れて行ってくれないか?」

 

 言われるまでもなく分かっていると信じた上で、アスランにカガリは問い掛ける。それでもアスランは真っ直ぐにカガリを見据えたまま頷いて、再び同じ提案を投げ掛けた。

 

 本気で言っている─────と感じたカガリは、アスランと視線を交わしたままどうしたものかと考えを巡らせる。

 突っぱねるのは簡単だ。だが、アスランがオーブへ来てカガリの下で働くようになってから、こうして真剣な頼み事をしてくるのは初めてだった。出来る限り、アスランの望みを叶えてあげたいという、親心にも似た思いがカガリの中で芽生えてしまう。

 

 元々、側近には気心の知れた者が出来ればいてほしいと考えていた。モビルスーツの操縦、白兵戦の強さ、そして気心の知れた相手─────この三つの条件全てがアスランには当て嵌まっている。ただそれらを打ち消す危険性があるからこそ、アスランを選択肢から外していた訳で。

 

「…」

 

 迷うカガリをアスランはまだ真っ直ぐに見つめたままだった。真剣に、真摯に、どこまでも純粋に─────これでカガリに断られた場合、アスランは素直に引き下がるのだろう。きっと、物凄く落ち込みながら。

 

「─────分かったよ」

 

 我ながら甘いとは思いつつも、カガリは苦笑いを浮かべながら折れた。直後、アスランは柔らかく表情を解いて嬉しそうに微笑んだ。

 今までに見た事のないアスランの嬉しそうな顔に、カガリも諦めた様に溜息を吐きながら微笑みを浮かべて口を開く。

 

「だがまずは議長とのアポイントメントをとる所だな」

 

「あぁ、分かってる」

 

 先程は実に陰鬱な顔をしていたアスランだったが、今ではその表情は一変している。選り好みはせず、どの仕事にも真摯に取り組み続けていたアスランだが、今回の仕事は流石にやる気に満ちているらしい。

 

 ずっと故郷を気に掛けていたのだろう。プラント訪問を決め、自身の護衛について悩むカガリを見ながら自分が、と強く考えていたのだろう。

 カナードと共に常に自身を支えてくれた男へ、いつか報いて上げたいと考えていた。この護衛が少しでもそれに報いる事になるのなら、それもまた良いかもしれない、と自身の甘さを自覚しながらもカガリは考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カガリの思惑通り、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルとの会談は実現する。時はC.E.73年10月2日、場所はプラントの軍事工廠アーモリーワン。

 

 二人の国家元首は奇しくも再び世界が激しく動き始めるその日に、顔を合わせる事となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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