フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PAHSE13 思わぬ返答

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、嬢ちゃん!どうした!?」

 

「あっ…、すみません!」

 

 ユニウスセブンにて回収した物資の積み込み作業を、ストライクに搭乗して行っていたキラは、外に居るマードックからの呼び掛けで手が止まっている事に気付く。

 

 すぐに謝罪をしてから作業を再開させるも、キラの心はここに非ずだった。

 

「(ユウ…)」

 

 キラの中で過るのは、この艦に乗る事となったラクス・クラインの事。

 そして、ラクスと触れ合ってから突然豹変し、逃げ出していったユウの事。

 

 あれからラクスは兵士達に囲まれ、独房へと連れて行かれてしまった。

 あれでは、ラクスがユウに何かしたのではないかと疑いを持つのが自然だし、現にキラも同じだった。

 

 しかし、その後行われた取り調べを、短い時間ではあるが目撃したキラには、ラクスがユウへ何か悪い事をする様な人物には思えなかった。

 

 柔らかな物腰に、言葉遣いも丁寧で、まるで穢れを知らない箱入り娘の様な─────だけどそれならどうして、ユウはそんなラクスから逃げ出すような事をしたのだろう?

 キラだけでなく、フレイやミリアリア、トール達も不思議そうにしていた。「別に怖そうな子でもないのに」と。

 

 ─────誰にも言っていないが、あの時…ユウとラクスが触れ合ったあの瞬間、キラは微かに不思議な感覚を覚えた。

 

 それがどんな感覚だったのか、形容が難しく、キラ自身説明が出来ない。

 ただあの時、キラの中で何かがざわついたのは確かだった。

 

 その直後、ユウはラクスの手を振り払い、逃げ出していった。

 

「(…もしかしてユウも、同じものを感じた?)」

 

 そうだとして、果たしてユウは逃げていくだろうか?

 あんな微かな感覚に驚き、怖がって?あのユウが?

 

 今、ラクスはマリューが割り当てた個室で待機している。

 独房ではなく個室を用意されたのは、ユウの嘆願があったからだという事を、キラはムウの口から話していたのを耳にした。

 

 分からない。

 もしかしたら、自分には分からない何かが、あの二人の間で起こったのか。

 そしてそれは、あの時感じた感覚と関係があるのか。

 

「…?」

 

 自分には分からない、二人の間だけで起こった何か、そう考えた時、キラの胸に小さな痛みが奔った。

 

 何だろう、とそっと掌で胸を押さえた時には、すでにその痛みは消えていて─────

 

「おい嬢ちゃんっ!」

 

「ご、ごめんなさいっ!」

 

 マードックからの再度の呼び掛けにより、またも作業の手が止まっていた事に気付いた時には、先程奔った痛みの事などすっかり頭の中から抜けていた。

 

 この時、キラが感じた感情の正体が何なのか─────それを彼女が知るのは、もう少し後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に聞く。見たか?」

 

 話をしようとラクスに持ち掛け、すぐに問い掛ける。

 

 その切り出し方はどうなんだと自分で思わないでもないが、回りくどい聞き方をしても仕方ない。

 色々と省略した質問になってしまったが、今の彼女ならこの聞き方で充分通じるだろう。

 

「…えぇ、見ました。貴方の記憶…なのでしょうか、あれは。貴方も…その、わたくしの…」

 

「あぁ、見た。貴女がこの世界で過ごしてきた十六年間の記憶…全て、ではないだろうが、その中で感じてきた気持ちも、思い出も」

 

「…」

 

 俺が問い掛ければラクスは肯定すると、今度は俺に同じ質問を投げ掛けてきた。

 その質問へ肯定の答えを返すと、ラクスは小さく息を呑んだ。

 

 ─────そう、ラクスが俺の中の記憶、思い出を見た様に、俺もラクスの中の記憶、思い出をあの感覚の中で目の当たりにした。

 優しい両親に囲まれ、幸せに過ごしていた日々。大好きな歌を歌い続ける日々。

 やがて彼女の歌声は世に広まり、歌姫として祭り上げられ─────そんな中で、彼女の中で過る()()も、俺は見た。

 

「あれは…貴方が?」

 

「いや。少なくとも、意図的じゃない。アンタもそうなんだろ?」

 

 ラクスの問い掛けに答えた後、俺の問い掛けにラクスが頷いて答える。

 

 やはりラクスが意図してあの現象を引き起こした訳じゃないらしい。

 そんな事は聞くまでもなく分かっていた事だが、念のために聞いておきたかった。

 

「…さっきから俺から聞いてばかりだが、アンタも俺に聞きたい事はあるんじゃないのか」

 

「─────」

 

 俺がそう言うと、ラクスは一瞬体を震わせた。

 

「…あの時、わたくしが見たものは…未来の出来事、なのでしょうか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 ラクスは俺の記憶を通して見た筈だ。

 

 この戦争がこれから、どういった末路を辿るのか。

 その結果、何が起き、どれだけの人達が犠牲になったのか。

 その果てに起きた、二度目の戦争─────そして、繰り返される争いの果てに、自分がどのような未来を迎えるのかを。

 

「…ですが、その記憶の中に、貴方は居ませんでした」

 

 少しの空白の後、絞り出すようにしてラクスがそう言う。

 

 彼女の言う通り、彼女が見た未来の出来事は、()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 だが、この世界は違う。ユウ・ラ・フラガという異分子が存在した、正規のルートから分岐した世界。

 

「そうだな。俺が持っている未来の記憶に、ユウ・ラ・フラガという男は存在しない。本来、そんな男は存在しなかった筈なんだ」

 

「それは…一体どういう事なのですか?」

 

 今のラクスの問い掛けを聞き、俺はラクスが俺の記憶全てを覗いたのではないのだと確信する。

 俺の前世の記憶までは読み取れなかったのか、しかし、俺が持っているガンダムSEEDという作品の記憶は全てラクスの中へ流れていったと見て良いだろう。

 

「悪いが、その事に関して詳しく話すつもりはない。だが…、それ以外のアンタが聞きたい事には答えていくつもりだ。例えば─────この戦争の結末、とか」

 

 話をしようと持ち掛けておきながら隠し事をするのは心苦しいが、それ以外のラクスの質問には答えるつもりでいる。

 それこそ、俺が持つ未来の記憶を全て話してほしいと頼まれれば、俺は全て話していただろう。

 

「…いいえ、結構ですわ」

 

「は…?」

 

 それなのに、ラクスは頭を振ってからそう言った。

 

 俺は思わず間抜けな声を漏らす。

 きっと、俺の顔も今漏れた声と同じ、間抜けな顔になっているんだろう。

 

「え…?え?知りたくないの?いや、俺の記憶を見たんだから分かってはいるんだろうけど…知りたくない?その結末に至る詳しい経緯とか、その経緯の中でアンタがどういう行動をとるのか、とか…」

 

「いいえ。だって貴方が知っているのは、貴方がいない未来の事なのでしょう?」

 

 そう言いながら、ラクスは初めて俺に向かって微笑んだ。

 その微笑みを前に、俺は言葉を返す事が出来なかった。

 

「今、ここに貴方がいる。それならきっと、わたくしが見たものとは違う未来が待っている筈です。…貴方が知らない未来が」

 

「─────」

 

「貴方が存在しない未来になんて、興味はありませんわ」

 

 ラクスは微笑みながら、そう言い切った。

 

 確かに、俺が知っているこの世界の流れの中には俺は存在しない。

 ラクスの言う通り、俺という異分子が居る以上、本来の原作の流れからは外れた進み方をするかもしれない。

 現に、今この段階でも原作崩壊は所々で起きてるし…。

 

 でもだからといって、人の行動というものはそうは変わらない。

 俺が居ようが居まいが、関係なく行動を進める人物は間違いなく居る。

 

「そんな事よりも、わたくしは貴方の事が知りたいですわ。そうだっ!改めて自己紹介を致しましょう?」

 

「え?いや、自己紹介はさっき─────」

 

「わたくしはラクス・クラインです。以後、よろしくお願い致します」

 

「あ、えっと…どうも。ユウ・ラ・フラガです、よろしく…」

 

 ラクスにそう伝えるも、彼女はそんな話に聞く耳も持たず、ポヤポヤとマイペースに会話を進めていく。

 

 自己紹介って、さっきもしたのに…。

 完全に毒気を抜かれた俺は、ラクスにつられてもう一度名を名乗る。

 

「ユウ、とお呼びしてもよろしいでしょうか?わたくしの事は、ラクスとお呼びくださいな」

 

「え?…えぇ?」

 

「…」

 

「…ラクス?」

 

「はいっ」

 

 な、なんだこの子。

 いや、確かにラクスは登場したての頃はかなり天然に描かれてはいたが、実際にこうして対面していると本来のラクス・クラインの性格がよく分かる。

 

 SEED後半、或いはDestiny、Freedomで見られたカリスマ溢れる姿ではない。

 ラクス・クラインという一人の少女の等身大の姿が、俺の目の前にはあったのだ。

 

「ユウ様は、何故この艦に?」

 

「…それ、あの時に見て分かる筈じゃない?」

 

「貴方の口から聞きたいのです」

 

「…」

 

 それにしたって、何か押しが強くない?

 俺を見るラクスの目がいやに輝いてるように思えるし…、一体どうしてこうなった?

 

「?」

 

「あら?」

 

 俺がこの艦に乗る事になった経緯や、この艦に乗る前は何をしていたか等、ラクスの質問攻めが続く中で不意に来客を知らせるチャイムが鳴る。

 

 俺とラクスが同時に振り返る。

 

 俺が立ち上がり、来客の対応をすべく扉を開けた。

 

「うわっ…ゆ、ユウ?」

 

「キラ?なんで…あぁ」

 

 扉の前に立っていたのはキラだった。

 何故キラがここに居るのか、尋ねようとした俺の目に、キラが持っていたお盆が映る。

 

 なるほど、原作では食事を持っていく係について揉めていたが、ここでは揉める場面は起こらずキラがその係になったという事か。

 

「ど、どうしてユウがここに…?」

 

「…ちょっと、彼女と話したい事g「ユウ。誰が来たのですか?何やらいい匂いが…」ちょっ、ラクス、いきなりこっちに来るな」

 

「─────」

 

 俺がここに居る事に戸惑い、その理由を尋ねて来たキラに答えようとした時、俺の背後からラクスがひょっこり顔を覗かせる。

 

 来客であるキラの顔を確かめに来たのか、それともキラが持ってきた食事の匂いに釣られて来たのか─────どちらでもいいが、ラクスが現れた直後、キラが驚き目を見開かせる。

 

「貴女は?」

 

「…え?えっと、貴方の食事を持ってきました…。その、どうぞ…」

 

「まあっ、ありがとうございます。丁度、お腹が空いていた所でしたの」

 

 ラクスが俺の前に出て、キラから食事が載ったお盆を受け取る。

 

 すると、お盆を両手に乗せたまま俺の方へと振り向いて、ラクスは口を開いた。

 

「ユウも、一緒にどうですか?」

 

「え?」

 

 そう問い掛けてきたラクスへ、一番に反応したのは俺ではなくキラだった。

 

 …何でお前がそこまで驚くんだ?

 いや、ザフトの関係者であるラクスから仲間が食事に誘われたら驚く、のか?

 

「悪いけど、それは出来ない。こうやって話に来ただけでも相当な無理をしてるんだ」

 

「そう、ですか…。残念ですわ…」

 

 俺が誘いを断ると、ラクスは俯き暗い顔になる。

 …くそ。

 

「…あー、もし許可が貰えたら、また話をしに来るよ」

 

「っ…!本当ですか!?」

 

「え?いや、許可が貰えたらだからな?本当に来れるかどうかは分からないんだからな?」

 

 何がそこまで嬉しいのか、花が咲き誇らんばかりの笑顔がラクスから弾ける。

 

 でも、そんなにも喜ばれると俺としても悪い気はしない。

 …これからまた無茶を頼まれる兄さんの事を思うと、やっぱり少し申し訳ないけど。

 

 それにどうせ、俺がここへ来れなかったとしてもハロが鍵を開けて部屋を勝手に出るんだろうし、またどこかで話す機会があるだろう。

 

 キラが来た事で良い区切りがつき、話はここまでとして俺はキラと一緒に部屋を出る。

 

 …そういや俺、飯まだだったな。

 これから食いに行くとしよう。

 

「…あの子と、随分仲良くなったんだね」

 

「ん?」

 

 道中、俺と並んで歩いていたキラが不意にそんな事を言い出した。

 

 いきなり何をと思い、視線をキラに向けるが─────あれ、なんかこの子、怒ってない?

 

「仲良くって、別にそんな事はないぞ」

 

「…でも、名前で呼び合ってたじゃん。あの子を独房じゃなく個室に居られる様に頼んでたって言うし…、それに、どうしてあの子の部屋に居たの?」

 

「それは…、謝りたかったんだよ。初対面であんな失礼な事しちゃったしな。名前で呼び合う様になったのは…話の流れというか?」

 

 何でだろう。

 どうして俺は、キラにこんな事を詰問されているんだろう?

 そんな事は断じてないのに、俺がキラへ悪い事をした気分になってくるのは何でだろう?

 

「あの、キラさん?なんか怒ってません?」

 

「怒ってないよ!」

 

「いや、怒ってるじゃん…」

 

「怒ってないってば!」

 

 もう知らないっ、なんて言いながら俺からそっぽを向いてずんずん先を行くキラ。

 

 ぷりぷり怒るその姿は第三者視点から見れば可愛いものだろうが、その感情を向けられている立場としては全くそうは感じられない。

 普通に怖い。

 

「ちょっ、待ってキラ。悪かった、悪かったから許してくれ」

 

「…本当に悪い事をしたって思ってる?」

 

「…」

 

「…ユウのバカぁっ!」

 

 そう言い残し、キラは去っていった。

 

 本当に、どうしてキラを怒らせたのか、原因がさっぱりだった。

 とりあえず、原因が分からないままキラを追い掛けても逆効果だと、一先ず時間を置くべきだと判断した俺は、食堂で食事をとる事にした。

 

 因みにこのやり取りから一時間くらい経った後、キラから謝りに来た。

 

 …本当に何だったんだろう?

 ラクスとの事と良い、キラとの事と良い、今日は俺にとって疑問ばかりが残る日となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉が閉まり、先程まで自分と話をしていたユウの姿が見えなくなる。

 

 それからラクスはキラから受け取った食事をデスクの上に置いてから、先程の会話について思い返す。

 

 ユウと再び会うまでは、たくさん聞きたい事があった。

 あの世界の中で垣間見た様々な光景─────ユウの中にあった未来の記憶について、たくさん話を聞くつもりだった。

 

 だが、ユウと対面し、ユウの顔を見て、ラクスはとある事に気が付いた。

 あの世界で見たどの光景の中にも、ユウが存在しなかった事に。

 

 それについて尋ねれば、ユウが持っている未来の記憶に、ユウ・ラ・フラガという男は存在しないのだという。

 続けて、ユウ・ラ・フラガという男は本来存在しない筈なのだという言葉には引っ掛かりを覚えたが、その事については話すつもりはないと拒まれてしまった。

 

 とにかく、ラクスはその言葉を聞いた途端、あの世界で見た未来の記憶から興味を失ってしまった。

 

 今、目の前にはユウ・ラ・フラガという少年が居る。

 確かに、ユウ・ラ・フラガという一人の人間が生きている。

 それならば、ユウ・ラ・フラガが存在しない世界の記憶など、何の価値もない。

 

 それよりも─────あの世界で感じた温かさの持ち主である、ユウという一人の人間と話がしたいと、ラクスは思ったのだ。

 

「マイド!マイド!オオキニ!」

 

 ユウとの会話の間、スリープモードとなって待機していたハロが再び喋り出す。

 

 ラクスは飛び跳ねるハロを膝に乗せ、キラが持ってきた食事に手を付ける。

 

 本当は、この時間もユウと共に過ごしたかったのだが、それは断られてしまった。

 しかしその代わり、可能であればまた、ユウは自分と話にここへ来てくれると約束してくれた。

 

「…そういえば」

 

 次はいつ、ユウと話せるだろう。

 

 心を浮つかせつつあったラクスは、ふと先程自分に食事を届けてくれた少女の事を思い出す。

 確か─────ユウから、キラ、と呼ばれていた筈だ。

 

「あの方、わたくしが見た記憶の中にも居た様な…」

 

 そう。

 ユウの記憶の中に居た自分が心を許していた青年。

 その青年と、あの少女はよく似ていた─────が。

 

「…気のせいですわね。ユウの記憶に居たあの方は男の方でした」

 

 そう、性別が違う以上、ユウの記憶の中で見た人物とキラと呼ばれたあの少女は別人だ。

 

 そう断じたラクスはこれ以上、その青年について考えるのを止めるのだった。

 ユウが存在しない未来の記憶になんて興味はない。

 その青年については、実際に出会ってから考えればいい。

 

 ─────まさか、その青年(少女)とつい先程、邂逅を果たしていた等と、当のラクスは思いもしないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という事でラクスとの対話、そしてキラちゃんの嫉妬回でした。

感想欄でもありましたが、ラクス→ユウへの印象はかなり好いです。
キラちゃんとの初対面ではなかったあの現象で、むしろラクスの方が初めのユウへの印象は好く思っています。
互いの記憶を曝け出し合って、それでも不快感がなかったとかそりゃあね…?
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