フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE05 女神の出撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軍の機動兵器に乗り込んだ部外者という立場である以上、致し方ないとはいえ面倒な事になった。背後にカガリを庇いながら、アスランは前方を取り囲むように立つザフト兵と対峙していた。

 

 何者かに奪取された新型機三機が突然撤退を始め、それをザフト機が追っていったのを見届けてから、アスランは追撃を止めてどこかに機体を着艦できないかを探した。ただでさえ今のアスランはザフトにとっては部外者であり、それに加えてコックピットには彼のみならずカガリも一緒に乗せているのだから当然の選択だ。

 情報を探りながらドックは無事だと知り、そこに駐留している新造艦を目指す事に決めたアスランは途中、デュランダル議長が艦へ乗り込んでいったのも目にした。大混乱の事態の中、自分達の存在という更なる心労を掛けてしまう事に罪悪感を覚えなくもなかったが、アスラン達の身元を保証してくれるのはデュランダルだけといっていい。火災によって工廠内に有毒ガスが発生しているのもあって、やはりこの新造艦に助けを求めるのが適当だろうと考えたアスランは、当初の選択通りにザクを着艦させた。

 

 そして、ザクから降りて来たアスランとカガリは即座に赤服の少女に見つかり、今の事態に至る。

 

「なんだお前達は?軍の者ではないな?何故その機体に乗っている!?」

 

 矢継ぎ早に少女は尋ねてくる。当然の質問ではあるが、かなり気が立っているようなのは何故か─────そこまで考えた所でアスランは、彼女らが自分達を警戒するもう一つの理由に気が付いた。彼女らはたった今、同じような部外者にザフトの機体が乗っ取られた直後なのだ。

 

「…どうする?」

 

 アスランの耳元で、潜めた声でカガリが問い掛ける。どうするも何も、正直に自分達の身元を明かすしかないだろう。それを証明する手立てはない。だが、カガリ・ユラ・アスハという名を耳にすれば、正か偽りか、どちらにしても答えがハッキリするまでは、一軍人である彼女らは慎重に振る舞わざるを得ない。

 

 一歩、アスランが足を前に踏み出す。その姿を見て、彼女らの警戒が更に一段階上がる。

 

「あ─────」

 

 緊張感が奔る中、口を開いたのはアスランでもカガリでも、包囲する軍人の中心にいる赤服の少女でもなかった。

 二人を包囲する兵士の一人が、唖然と目を見開き、両手を震わせながら銃口を降ろす。

 

 その兵士は真っ直ぐに、アスランを見つめていた。

 

 それは至極当然の事であり、何ら可笑しくもない。ただ、他兵士の視線の含まれる警戒とは違う、その兵士はただアスランの顔を見ながら、信じられないと言わんばかりに驚愕していた。

 

 ─────突然ではあるが、今のアスランは変装のサングラスを外している。外しているというより、先程の騒動によって吹き飛ばされた、という方が正しいか。とにかく、今アスランは素顔を晒している状態だ。本国ではないとはいえプラントの一画、それも工廠区。そこに勤めている軍人の中には当然、とある例に当て嵌まる者もいる訳だ。

 

「アスラン・ザラ─────?」

 

 初めに一斉に、その名を口にした兵士に視線が集まる。その次の瞬間、二人を取り囲む兵士達がまたも一斉にアスランへと視線を向ける。

 

 何をしても時すでに遅し。アスランはただ呆然とそこに立ち尽くすしかなく、周囲にはカガリが吐いた諦めの溜め息だけが嫌に響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフトのモビルスーツを撃退したネオは、アーモリーワンの外壁付近で潜伏─────自身が送り出した部下達の帰りを待っていた。

 様子を窺う内、プラントの一画からビームが放たれた。外壁に穿たれた穴から黒いモビルスーツが一機、次いで二機が連なるように飛び出して来た。情報通り三機の新型モビルスーツ、遅れはしたものの三人はネオの期待通り任務を遂行してくれた。

 

「随分と遅いお帰りだけど…」

 

 小声で呟きながら、ネオは三機に更に続いてもう一機、白を基調とした見た事のない機体が外壁の穴から飛び出したのを目にした。

 ネオは彼らが遅れた理由を悟り、自嘲する。

 

「四機目の新型─────そう。これは私のミスね」

 

 ガーティ・ルーへ三機の奪還が成功した事、そして四機目の新型機を発見した事を報せる簡単な通信文を送信してから、ネオはエグザスを走らせる。

 軽くスラスターを操り急加速、ガンバレルを分離して周囲を探索する四機目の新型機─────インパルスへと襲い掛かった。

 

 インパルスはギリギリのタイミングでガンバレルのビームに反応し、紙一重の所で連射されるビームを躱していく。

 

「流石あの子達が手古摺る相手…、やるわね」

 

 中々の反応に素直に褒め称えながらも、ネオは攻撃の手を緩めない。機体下部のレールガンを放ちながらインパルスへと接近し、僅かに横をすり抜ける。

 接近してきたエグザスに注意を引かれ、視線を追うインパルスの死角からガンバレルを発射させる。自身に注意を引いて、意識の外からガンバレルで撃ち抜く─────この機体に乗っている時のネオの常套戦法だ。しかし、この戦法にインパルスは対応する。

 

「やっぱりこの程度じゃあ、やられてくれないわね!」

 

 身を翻して放たれるビームを躱したインパルスはビームライフルを取り出し、先程火を噴いたガンバレルへとビームを撃ち返す。しかしネオも負けてはおらず、ガンバレルを操作してインパルスが放ったビームを避ける。

 

 一射、二射、三射─────時間差をつけてインパルスの動きを見極めつつ、ビームを放つ。直撃を狙ったものではなく、回避行動を促しながら誘導…ネオにとっての必中のタイミングで、不可避の一撃を撃ち放つ。

 だがそれをもインパルスは身を翻し、シールドを割り込ませて防ぎ切る。

 

「こいつ─────ッ!」

 

 狙いはメインカメラ、そうでなくともどこかしらの損傷は避けられなかった筈の一射を防がれた。ネオは歯噛みしながら攻めの手を緩めない。ガンバレルとレールガンで狙い撃つも、インパルスはそのいずれも躱し、逆にビームライフルで反撃の射撃を撃ち放ってくる。

 

 そして、ネオの敵はインパルスだけではなかった。ふと意識に引っ掛かるものを感じたネオが視界を横へとずらし、インパルスの後方から突撃銃を構えて迫る白い機体を捉えた。

 白い機体、ザクは突撃銃をエグザスへ向けて連射しながら更に接近。ネオがザクからの射撃を回避したのを見て、インパルスがガンバレルの包囲を抜けてザクと共にエグザスへと迫る。

 

 ガンバレルを引き戻し、二機の周りを飛び回る自機の周囲へ配置。近付いてくるインパルスとザクへ向けて一斉に斉射する。

 二機は散開してビームを回避。ビームサーベルを抜いてインパルスが前面に、引き続き突撃銃を握るザクが後衛の構え。連携でこちらを追い込むつもりらしい。

 

「そうはいかないわよ」

 

 確かに難敵ではある。その上、ネオが乗っている機体は()()()()()()ではないというハンデ付き。しかしやられるつもりはない。

 どうせなら、この四機目の新型機も頂いていくつもりのネオであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い宇宙空間で高速で飛び回り、兵装ポッドが矢継ぎ早にビームを放つ。ドラグーン─────地球連合内ではガンバレルと呼ばれているのだったか。シンはひらりと機体をバレルロールさせ、光条が横をすり抜けるのを見届けてから振り返り、背後から放たれたビームをサーベルで斬り払う。

 

「こいつ…、何でコックピットを狙わない?」

 

 旋回しながら放たれるレールガンをスラスターを吹かして躱しながら、ふとシンが呟く。それは赤紫色のモビルアーマー、エグザスと戦闘を繰り広げながら頭の中に浮かんだ一つの疑問。

 

 エグザスによって放たれる弾幕は凄まじいものがある。ただそのいずれも、インパルスのコックピットを狙ってはいなかった。

 何故─────自身を舐めている、手加減をしている、だとしたらその認識を是が非でも改めさせなければなるまい。

 

 ペダルを踏み、インパルスのスラスターを全開に。ガンバレルの弾幕の間を縫いながらエグザスへと迫る。後方からはレイの援護射撃が、エグザスの攻撃行動を妨げ、シンに突撃の隙間を与える。

 

「これでッ、どうだぁッ!」

 

 エグザスの眼前に迫り、ビームサーベルを振り下ろす。しかし、斬撃が装甲を切り裂くその直前にエグザスが急激に方向転換─────刃は空を切り、シンの背後へと獲物がすり抜けていく。

 

「クソッ!」

 

 悪態を吐きながら、シンはサーベルをマウントしてビームライフルへ持ち替える。そしてエグザスへと照準を合わせようとした、その時だった。

 

 コックピットに響き渡る、警告音とは違う、寒気を誘う音が短く鳴った。ッそれと同時にバッテリーがゼロをさし、VPSが落ちる。宇宙空間へと敵を追って飛び出してからおよそ五分弱、インパルスのパワーが切れたのだ。

 

「しまったっ!」

 

 思わず声を上げるシン。装甲から色が抜け落ち、グレー一色へと変わる。その様を見ていたのだろう、周囲を飛び回っていたエグザスが一直線にインパルスへと向かう。

 

『シンっ!』

 

 インパルスのVPSダウンを同じく目にしたレイがシンのフォローへと急ぐ。インパルスとの連携を取っていたザクの方が先に間に合い、エグザスの追撃を阻む。

 

『退がれ、シン!インパルスまで奪われる訳にはいかない!』

 

「くっ…!」

 

 まだ戦える、と言い返したい所だがパワーが切れた今、この場に留まっても何をする事も出来ない。出来る事といえば、レイの足を引っ張るくらいだ。

 エグザスと砲火を交わすザクから離れるシン。だが、今の彼らにとって敵は一機でも、警戒するべき対象は敵機本体だけではない。

 

 エグザスと交錯するザクの警戒を潜り抜け、ガンバレルが後退するインパルスを狙い撃つ。パワーダウンしても動かせるスラスターを吹かして辛うじてビームを躱すが、しつこくエグザスが追い縋ってくる。

 ザクと交錯を繰り返しながら、ガンバレルで尚もビームを撃ち掛けて来る。レイとの交戦に思考が割かれているにも関わらず、自分へ向けられる鋭い射撃。そのマルチタスクの精密さには舌を巻くしかないが、かといって素直にやられてやる訳にもいかない。

 

 これ以上インパルスを狙わせまいと、レイが更に激しくエグザスを攻め立てる。次第にエグザスから向けられる弾幕が、インパルスからザクへと移っていく。やがてシンへ撃ってくるビームが途絶えた時、別方向から巨大な艦影が接近してくるのが見えた。

 

「ミネルバ…!?」

 

 近付いてくるライトグレーの戦艦を見て、シンは目を瞠る。それは、進水式を済ませていないシンの母艦だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦艦ですって?」

 

 アーモリーワンを回り込んでくるグレーの戦艦に気付いたネオは、頭の中で状況を整理する。

 

 戦況はネオに有利に進んでいた。工廠内での戦闘で消耗していたインパルスはパワーダウンを起こし、後は目の前の白いザクさえ落とせば最後の新型機も頂ける所まで来ていた。

 だがネオの思う以上に粘られ、やむなく彼女の意識がザクへと集中を始めた時だった。視界にグレーの戦艦が映ったのは。

 

「ッ─────欲張り過ぎは元も子もないわね」

 

 現れた戦艦に気を取られた僅かな隙に、ザクにガンバレル一基を撃ち落とされてしまった。

 

 ネオはここらが潮時と判断する。情報になかったもう一機の新型こそ奪い損ねてしまったが、当初の作戦通りにカオス、ガイア、アビスの奪取には成功したのだ。

 これ以上の継戦は身を滅ぼしかねないと予感したネオは、すぐさま機体を返す。突然の退却に、インパルスもザクも反応できず、二機との距離をあっという間に開けていく。

 

 カメラを切り替えし、後方を確認。二機による追撃の警戒だったが、グレーの戦艦から信号弾が発せられており、二機も退却を始めていた。

 とにかく、対モビルスーツの戦闘はこれにて一段落が着いた。

 

 後は、最後に出て来た、明日に進水式を控えた新造艦と思われるあの戦艦から逃げ遂せる事が出来るのか─────ネオはガーティ・ルーへと機体を急がせる。

 

「戦艦と思しき熱源接近!類別不能!レッド五十三マーク八十デルタ!」

 

「例の新造艦か…!面舵十五、加速三十パーセント、イーゲルシュテルン起動!」

 

 エグザスを着艦させ、ネオが艦橋へと戻った時にはすでに戦闘は始まっていた。敵艦の左舷から複数のミサイルが射出され、イアンが叫ぶ。

 

「回避ーッ!」

 

 船体下部のバルカン砲が迫り来るミサイルを撃ち落としていく。弾幕を掻い潜った最後のミサイルが襲い掛かるが、寸での所で辛うじて撃破され、至近距離で爆発を起こす。直後、艦内が爆発の煽りを喰らって大きく揺れた。

 

「回頭、機関最大!」

 

「敵艦尚も接近!ブルーゼロ、距離百十!」

 

 イアンの指示通りに艦が動き出す。その時、振り返ったオペレーターからの報告にネオとイアンがモニターを見遣る。

 

「かなり足の速い艦のようです。厄介ですぞ」

 

「そうね。なら、強烈な向かい風を喰らわせてやりましょう」

 

 後部イーゲルシュテルンが艦尾に食らいつこうとするミサイルを片っ端から叩き落していく。近接の爆発に突き上げられるように船体が揺れる中、ネオが大きく声を張り上げた。

 

「両舷の推進予備タンクを分離後爆破!アームごとでいいわ!同時に上げ三十五、取り舵十、機関最大!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドックを出たミネルバはすぐにタリアの号令の下、敵母艦を補足して特定を試みる。しかしライブラリにデータは存在せず、一先ず敵を表すボギーという単語を用いて未知の艦にコードネームを割り振った。

 そして敵のモビルアーマーと交戦をするインパルスとザクの無事を確認し、すぐに艦を戦闘態勢へと移した。

 

 今、タリア達がいる艦橋は出港前に位置していた上階から下階のCICへと移行している。この艦橋遮蔽システムは戦闘ステータスへのスムーズな移行を可能とすると同時に、船体の突端に位置する無防備な艦橋を防護する機能でもある。

 

「信号弾上げ!インパルスとザク収容後、一気にボギーワンを叩きます!進路イエローアルファ!」

 

 ミネルバの火器類を起動後、タリアの指示に従い艦から信号弾が撃ち上げられる。すでにインパルスがパワーダウンしている事もあり肝を冷やしたが、敵も冷静だったらしい。ミネルバの姿を見るや否や、不利を感じたか母艦へと戻っていく。

 インパルスとザクも撤退を始め、すぐにミネルバの中へと着艦した。それと同時にミネルバが加速、前進していく。敵艦もかなりの高速艦のようだが、最新鋭艦であるこちらの足には敵うまい。このまま例の三機を抱えたまま逃げ延びさせてたまるものか。

 

 タリアを始めとしたクルー達が焦りを覚えながら見つめるモニターの中で、ボギーワンの両舷から突き出していた構造物がゆらりと揺らぎ、本体から切り離される。

 

「ボギーワン、船体の一部を分離!」

 

 その光景を前に、タリアは身を乗り出して映像に目を凝らす。一見、逃げる為に重量を減らしたようにも見える。だが気になるのは構造物の造形だ。突き出した支柱の先端には噴射口のようなものを備え、基部近くでタンクが支柱を取り巻いている。

 それが慣性のままミネルバの進路へと漂っていき─────ようやくここで、タリアは構造物の正体に気付き鋭い声で叫んだ。

 

「撃ち方待て!面舵十、機関最大っ!」

 

 矢継ぎ早に告げられる彼女の命令に従って、操舵士のマリク・ヤードバーズが舵を切るが、遅かった。艦の目前にまで迫っていた構造物のタンクが次の瞬間膨れ上がり、炸裂する。

 至近距離で起こった爆発により、艦が激しく揺さぶられる。艦内に悲鳴が響く中、タリアはシートのアームを掴んで衝撃に耐え、唇を噛み締める。

 

 あの分離した構造物は予備の推進装置。手つかずのタンクの中には推進剤がたっぷり詰まっており、それを機雷よろしく叩きつけて来たのだ。

 

「各ステーション!状況を報告せよ!」

 

 アーサーが通信機へ向けて指示を出す。状況整理は一旦彼に任せ、タリアは索敵担当に問い掛ける。

 

「敵艦の位置は!?」

 

「待ってください!まだ…」

 

 爆発の影響でモニターが変調した事で、位置の捕捉に苦戦していた。彼からの結果の報告を待たず、タリアは次の命令を下す。

 

「CIWS起動、アンチビーム爆雷発射!次は撃ってくるわよ!」

 

 誰もこんな事態になるとは考えてもいなかっただろう。タリアとてその通りで、まさかいきなりこんな修羅場を経験する羽目になるとは─────。

 とにかく敵はこちらが態勢を整えている隙に反撃に転じて来る筈だ。そう予測を立てるタリアだったが、その考えは次の瞬間裏切られる。

 

「見つけました!レッド八十八、マーク六チャーリー!距離五百!」

 

 索敵担当、バート・ハイムの口から発せられた座標の意味する事を理解したアーサーが、唖然として叫んだ。

 

「逃げたのか!?」

 

 誰もが敵艦との交戦に入るものだと考えていた。しかしこちらが身構えるのを嘲笑うかのように、ボギーワンはこちらに背を向けて逃走を図ったのだ。

 タリアは忌々し気に溜息を吐きながら、シートに凭れ掛かった。

 

「やられたわ…。こんな手で逃げようなんて!」

 

「どうやら、だいぶ手強い部隊のようだな」

 

「そのようですね。ですが尚の事、このまま逃がす訳にはいきません。そんな連中にあの機体が渡れば─────」

 

 背後から声を掛けて来たデュランダルに向き直ったタリアが言い返すと、彼は懸念に表情を翳らせながら無言で頷いた。

 

 カオス、ガイア、アビス─────プラントが最新鋭の技術をつぎ込み、一騎当千の力を誇るあの三機が奪われたとなれば、機密漏洩の危険が引き起こされるだけではない。プラント、地球連合、両勢力のパワーバランスが大きく傾く恐れだってある。

 

「私は本艦がこのままあれを追うべきと考えます。…議長のご判断は?」

 

 それらの危険性を理解していたタリアは、デュランダルへと伺いを立てる。

 

 ミネルバがこのままボギーワンの追跡に入れば、つまりデュランダルには艦に留まってもらう事になる。直接言葉には出さずとも、タリアが問いたい真意を理解したデュランダルは深刻な表情のまま口を開いた。

 

「私の事は気にしないでくれたまえ、艦長。私とてこの火種、放置したらどれほどの大火となって戻って来るのか理解しているさ。…あれの奪還、もしくは破壊は、現時点での最優先責務だよ」

 

「ありがとうございます」

 

 タリアへ同意の言葉を送ってから柔らかく微笑んだデュランダル。彼へ礼をとってから、タリアは前を向いた。

 

「トレースは?」

 

「まだ追えます!」

 

 センサーを見続けていたバートが、待ってましたと言わんばかりに即答する。

 

「では、本艦はこれより更なるボギーワンの追撃戦を開始する!進路イエローアルファ、機関最大!」

 

 タリアの号令を受けて、艦橋の空気が一機に動き出す。

 

 アーサーが艦内へ命令の伝達を行っている間、タリアは警戒レベルをイエローへと下げ、艦橋の遮蔽の解除を指示する。

 

 せり上がっていく艦橋の中でタリアはようやく肩の力を抜いてから、再びデュランダルに向き直った。

 

「議長も少し艦長室でお休みください。敵もかなりの高速艦ですから、すぐにどうという事はないでしょう。…アーサー、レイに議長の案内を任せたいわ。呼び出せる?」

 

 艦に留まらせる事になってしまったが、流石に艦橋へ居座らせられない。この状況でなければ自ら案内する事も出来るが、そういう訳にもいかず─────そういえば()()()()彼との知り合いがいた事を思い出し、タリアはアーサーへレイを呼び出すよう命じた。

 

『艦長』

 

 艦内から艦橋へ通信が入ったのはその時だった。

 

「どうしたの?」

 

 モニターに映ったのはルナマリア・ホーク、機体のトラブルで帰艦せざるを得なかったが、本当ならばシン、レイと共に並んであの三機の追撃にあたっていた筈のもう一人のパイロットだった。

 

 …彼女の顔を見た途端、何故かタリアは嫌な予感がした。そして嫌な予感というものは何故か、よく当たるものである。

 

『戦闘中の事もありご報告が遅れましたが…。本艦発進時に格納庫にて、ザクに搭乗した二名の民間人を発見致しました』

 

「え?」

 

 嫌な顔を表に出さなかった事を褒めてやりたい。

 だがまずい事になった。この艦はこれから戦闘に向かうというのに、もし万が一その民間人の身に何かがあれば大事になる。

 

 そう考えるタリアの耳に、ルナマリアから信じ難い言葉が届けられる。

 

『これを拘束した所、二名はオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハとその随員と名乗っていました。デュランダル議長との面会を希望しておりますが…』

 

「オーブの!?」

 

 大事どころではない、とタリアが認識を無理やり改めさせられる中、今の会話が聞こえていたデュランダルが驚愕の表情で引き返して来た。

 

 本来、今日は明日に向けての準備で忙しくとも何事もない日々の一つに過ぎない筈だった。それがアーモリーワンが襲撃を受け、滅茶苦茶にされ、進水式を待たず出撃を余儀なくされ、その上二人の国家元首を乗せて敵艦の追撃?

 

 衆目を集めるのも構わず、タリアは頭を抱えたくなった。それで思い出すのは、ミネルバの艦長の任を受けてから散々陰口を叩いていた憎たらしい奴ら。

 あの時は潜めきれない悪口が耳に入ってくる度に反骨心に燃えていたタリアだが、今ならばハッキリと言える。

 

 ─────成り代わりたいのなら喜んで、この席を譲ってやる!

 

 念の為に胃薬を準備しておいて良かったと、心の底から思ったタリアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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