フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

143 / 176
PHASE08 見え隠れする渦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りのデブリを灼きながら、砲撃が交錯する。カオスがデブリの間を縫ってドラグーン、ビームライフルでインパルスを狙えば、デブリに身を隠しつつ射撃をやり過ごしてインパルスが強烈な砲撃を撃ち返したと思えば、直後アビスが両肩、胸部、合わせて七門の砲門を一斉に展開。強烈な弾幕をインパルスへと浴びせかける。

 

「クソッ…、こんな事をしてる暇はないのに!」

 

 何とか反撃するのもやっとな状況から抜け出し、まともな撃ち合いへと持ち込む事ができた現在のシンではあるが、ミネルバへの援護はまだまだ向かえそうにはなかった。

 それはルナマリアも同じで、彼女も性能が劣る機体でありながら巧みに周囲に浮かぶコロニーの破片を利用しながらガイアと渡り合っている。アカデミー時代はデブリ戦の成績が他と比べて明らかに低く、苦手としていたにも関わらず、実戦に強いのかルナマリアの動きは冴えていた。

 

『シンっ!』

 

 カオスから放たれたミサイルを、周囲のデブリを駆使しつつ躱していくシンへルナマリアの声が掛かる。それと同時にコックピット内に響くアラーム音。咄嗟に後ろへ振り返ったシンの視界を青い影が過る。

 宇宙での仕様としては砲戦を想定されたモビルスーツが故に、格闘戦用の武装に乏しいアビス。当然その知識はシンの頭の中にも入っており、それ故にまさか砲撃の間合いを保つ事を目的としたビームランスで格闘戦を挑んでくるとは思いも寄らなかった。

 

 それでもルナマリアからの警告のお陰で辛うじてビーム刃で一突きにされる事は免れる。しかし間一髪で躱した直後、アビスはビームランスを回し、柄をぶつける事でインパルスを弾き飛ばす。

 

「ぐ…ッ!」

 

 衝撃でシェイクされるシートの上で歯を食い縛りながら機体の姿勢制御に努めるシン。それは間に合わず、近くのデブリに機体の背中を叩きつけられたインパルスの中で、激しく息を漏らしながら視界を回して敵の姿を探す。

 正面から尚もビームランスを手に突撃してくるアビス。バッテリーの残量を気にしているのか、或いはパイロットの性格故か─────それならばこちらも、お望み通り格闘戦で応戦してやるとシンの中で対抗心が燃え上がり、ケルベロスの砲身内部にマウントされているデファイアントビームジャベリンを取り出そうとした時、不意に脳内に電撃が奔った様な感覚が訪れる。

 

 ─────カオスは…?

 

「ッ─────!」

 

 勘に身を任せた、咄嗟の行動だった。ペダルを踏み、バーニアを噴かせてその場から退避。直後、シンの背後にあったデブリがどこからともなく降り注いだ二条の光条に貫かれた。

 シンがアビスの応戦を始めた頃から息を潜めていたカオスが、デブリの向こう側から姿を現す。二基のドラグーンの砲門が火を噴き、更に別方向からはアビスが再び砲撃でインパルスを攻め立てる。

 

 反撃、という思考を一旦脇に置いてシンはとにかく回避に集中する。何でもいいから敵に向けて砲撃を撃ち、この連携攻撃の妨害を行いたいという欲求を我慢して、ひたすらに弾幕の軌道を読む事と、そして攻撃の隙間を探す事。シンの意識はこの二つに注がれていた。

 

 紅い瞳が奔る。機体を目に映った点へ置き、シンはビームライフルを取り出して照準を合わせる。その先にあったのは、カオスのドラグーンの片割れ─────シンが引き金を引き、それと同時にカオスが突如その場で翻る。

 砲撃はカオスのすぐ脇を通り抜けていき、シンが放った射撃がドラグーンを貫く。それに伴いカオスからの攻撃は一先ず止み、そしてカオスが向く方にいる()()へ向けてシンは声を掛ける。

 

「ルナ!助かった!」

 

『余計なお世話だったかもしれないけどね!』

 

 カオス、アビスから猛攻に晒されるシンをルナマリアは助けようとしたのだろうが、当のシンは自力で二機の攻撃から抜け出て反撃の一射を放っていた。しかし実際、ルナマリアによる攻撃がなければ果たして、先程の射撃でドラグーンを撃ち抜けていたかは分からない。あの砲撃の回避の為に、カオスのパイロットの意識は確かにそちらに逸れていただろう。そうでなければシンの反撃の一射も躱されていたかも分からない。

 

 ルナマリアは自身の後を追いかけて来たガイアとまた激しく撃ち合っている。

 

 シンの礼の一言を素直に受け取らないルナマリアに言い募りたい気持ちはあるが、それはこの戦いを生き延びてからでも遅くはない。ルナマリアへ告げるべき感謝の気持ちは一旦封じ込め、シンは再び迫る二機へと意識を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦艦は足を止められたら終わり─────先の戦いで、ネオは自艦の一部を分離、爆破させる事でミネルバの速度を削ぎ逃げる隙を作りだした。今回、実行した作戦もそれに通じるもので、ミネルバが盾代わりとして選んだ小惑星を逆に利用した。小惑星という遮蔽物のせいで効果的な砲撃を封じられていたが、岩壁を砕き、ミネルバの船体へ降り落とす事で直接攻撃、或いは進路を塞ぐ壁とする事に成功した。

 張り付いている間は少なくとも致命的な攻撃は避けられた筈の小惑星は今、ミネルバの身動きを封じる牢獄と化したのだった。

 

 ネオは先に出撃していた部下と共に止めを刺すべく、エグザスに乗り込んだ。カタパルトから飛び出した機体の中から、灰色の船体を確認する。

 

「…そうね。そういえばこいつは、まだ出撃していなかったか」

 

 発進進路も取れていないだろうに、開いたミネルバのカタパルトからのそりと歩いて出てくるのは白いザク。今ミネルバに残された唯一の戦力。カオス、ガイア、アビスと渡り合っているインパルス、赤いザクと並んで厄介な相手だ。

 

「まあ、関係ないけどね!」

 

 ミネルバから離れ、エグザスの存在に気付いたザクファントムが光るモノアイを向けて臨戦態勢に入る。それと同時にネオはエグザスからビームガンバレルを分離し、展開。上下左右に散開させ、時間差でビームを次々と放って行く。

 

「ッ─────!」

 

 ザクのコックピット内では、レイが背筋に粟立つ冷たい感覚に従って機体を動かす。一射、二射、三射、四射と機体の位置、体勢を入れ替えながら放たれる光条を躱していく。

 四方から攻め立てられながら、閃光はザクに掠りもしない。まるで前もって向けられる射撃の角度、位置を知っているかのようにレイは見事にガンバレルの攻撃を避ける。

 

 弾幕から抜けると今度はレイが反撃に移る。ビーム突撃銃を構え、引き金を引くと同時にエグザスが動く。

 

 先程の砲撃によって散らばった無数の岩塊の間を縫うように飛行するエグザスは、岩塊を盾代わりにしてレイの射撃を回避する。直後、岩塊の陰から飛び出したエグザスがザクへレール砲を放ち、それをザクが躱す。

 浮かぶ岩塊を挟みながら、両者は砲撃を交わす。ザクの突撃銃と、エグザスのビームガンバレル─────激しく撃ち合う両者の戦闘に、ネオの部下が気付くまでそう時間は掛からなかった。

 

 初めに気付き、真っ先にネオの援護に入ろうと飛来したダガーLがザクに対艦用バズーカとビームライフルを向ける。するとザクは、ガンバレルのビームを躱してエグザスに対して岩塊に身を隠すと、無造作に振り向きざまビーム突撃銃を放つ。その一射はダガーLを確実に貫いた。

 

『ヨーン!』

 

「ミラー、下がりなさい!こいつの相手は私がするから、貴方は戦艦を!」

 

 一瞬にして炎に呑まれた同僚の名を呼びながら、怒りに囚われたかもう一機のダガーLが下手人へ一直線に向かっていく。

 それを諫め、指示を送るネオだがその命令が耳に入った様子はない。

 

 岩陰からザクが姿を現す。岩の隙間を縫って向かってくるダガーLを見据えたのを見て、ネオがビームガンバレルをけしかける。しかしザクもまた、散らばる岩塊の中へと飛び込んでいく。岩に邪魔され、ザクを捉える事ができない。

 

 しかしそれは敵もまた同じ。命令違反は後で説教するとして、今はミラーと協力してあの白いザクを墜とす─────そう考えていたネオの目の前で、彼女の予測を覆す光景が繰り広げられる。

 

 ザクの背面のモジュールが開き、中からミサイルが一斉にばら撒かれると、前面に浮遊する無数の岩塊を吹き飛ばした。その先には事態を未だ呑み込めないまま全身を続けるミラーのダガーL。

 

「っ、避けなさい!ミラー!」

 

 射線は確保された。ネオが声を飛ばすも、この状況を覆す反応速度をただのナチュラルであるミラーは持ち合わせていなかった。

 ザクの銃口からビームが迸り、真っ直ぐにダガーLへ向かう。正面から光輝を受けたダガーLが四散する。

 

「く…っ、やられた!」

 

 岩塊が吹き飛ばされた事で射線が確保されたのは、ネオにとっても同じ。ビームガンバレルから放たれるビームは、何物にも邪魔される事なくザクへと殺到する。それをいっそ見事と言いたくなる程に躱していくザクの姿を目にしながら、ネオは苛立ちを吐き飛ばした。

 

 これは自身の判断ミスだ。あのザクが装備しているモジュールの中にミサイルポッドが搭載されている事を知っていながら、この展開を予測できなかった─────しかしこれでは、ミネルバに止めを刺すのは思っていた以上に骨が折れそうだ。

 早々にあそこから抜け出す事はないだろうが、自身がもしこのザクに手間取った場合、逃げ出す時間を稼がれる恐れは大いにある。本当ならば一気に勝負を掛けたい所ではあるが、それを許してくれる甘い相手でもない。

 

「…ごめんなさい、リー。ちょっと遅くなりそうだけど、痺れを切らさないでね!」

 

 今頃、今か今かとネオが露払いを終えるのを艦で待っている男へ届かない謝罪を口にしながら、彼女は機体を加速させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 味方のモビルスーツ隊が必死の戦いを繰り広げる中、ミネルバの艦橋ではどうやってこの状況を打破するかに考えを巡らせていた。

 

「艦長、タンホイザーで前方の岩塊を…」

 

 焦った面持ちで戦況を見守るアスランの前で、アーサーがタリアへ提案した。武装の名前について全く知らないが、少なくとも眼前の岩を吹き飛ばす事は出来るであろうと想像はつく。

 しかしあの岩を撃ち、吹き飛ばす事が出来たとしても─────

 

「ダメよ。それだと、岩肌を抉ってまた同じ量の岩塊を撒き散らすだけだわ」

 

 ある程度岩との距離が開けていればその選択もとりようがあったのだろうが─────まずその前に、それだけの距離があればここで足を止めて等いなかった。

 

 ミネルバは相変わらず身動きできず、敵艦は背後から着々と迫っている。タリアも問題の解決案に頭を悩ませているが、アスランの位置から見える指が忙しなく動き続けている。アスランと同様、良い策は全く思いつけていないらしい。

 

「…っ」

 

 ふと、アスランは隣のカガリを見遣る。緊張した面持ちでいる彼女の心境は見て余りある。せめて、自分が乗れるモビルスーツがあれば…、だとしてもどこまで力になれるかは分からないが─────いや、ないもの強請りをしていても何にもならない。

 ならばこの艦に、ここのクルー達に何とかしてもらうしかないのだ。直接手出しは出来ないが、何か案を捻りだす事が出来れば。

 

「─────右舷のスラスターはいくつ生きていますか?」

 

 その時ハッ、とアスランの頭の中で閃いたものがあった。ここまでミネルバは地形を利用して敵の攻撃をやり過ごした。そして敵はミネルバが盾として選んだ小惑星を利用して攻撃を仕掛けて来た。ならばとことん、こちらもこの地形を利用してやればいい。

 

「…六基よ。でもそんなのでのこのこ出て行っても、またいい的にされるだけだわ!」

 

 唐突に言葉を発したアスランに、考えを中断されたタリアが明らかに険悪な目を向ける。しかしそこにデュランダルが声を掛け、タリアへ向けて促すように頷いた。

 渋々といった調子で返答したタリアは、これで話は終わったと再び前へ向き直ろうとする。

 

「スラスターを噴かせると同時に、右舷の砲を一斉に小惑星に向けて撃つんです!爆圧で一気に船体を押し出すんですよ!」

 

「あ…」

 

 タリアの背に向かって畳み掛けるように言うと、彼女は驚きの表情を浮かべて再びアスランを見た。それはタリアには思いも掛けない発想だったのかもしれない。しかし同時に、酷くリスクの高い方法でもあった。小惑星を撃てば、当然また岩塊が撒き散らされる。それは先程敵の砲撃で受けたダメージと同じダメージを再び受けるという事でもあった。

 

「馬鹿言うな!そんな事をしたら、ミネルバの船体だってどうなるか分からないんだぞ!?」

 

 アスランの提案が齎すリスクについて辿り着く者は当然いる。声を上げたアーサーは勿論、不満げにアスランを見て来るクルー達は大勢いた。

 それでも譲れない。彼らが別の良い提案を思いつくのを待っている時間もない。ならば、リスクを承知で行動に出るしかないのだ。

 

「今は状況回避が先です!このままここにいたって、ただ的になるだけだ!」

 

 真っ向から二人の視線がぶつかり合う。アーサーの顔にはありありと、部外者が口を出すなと書かれているがアスランは彼から目を逸らさなかった。

 

 確かにアスランはこの艦のクルーではない。艦に対する愛着もなく、彼らの痛みなど理解できない。名を偽り、国を棄てた彼はその通り、部外者だ。

 

 ─────だからどうした。だから、ここに居る人達と運命を共にしろというのか?何も出来ないまま、大切に思う人も守れず。…ふざけるな。俺は、ここで死ねない!

 

「…確かにね。いいわ、やってみましょう」

 

 その時、静かにタリアが声を上げる。無言で視線をぶつけ合っていた二人が、同時に彼女へと目を向けた。

 

「艦長っ!?」

 

「この件は後で話しましょう、アーサー」

 

 心外そうに声を上げたアーサーを制し、タリアは指示を飛ばし始める。

 

「右舷側の火砲を全て発射準備!右舷スラスター全開と同時に一斉発射!タイミング、合わせてよ」

 

 タリアが指示を下す裏で、アーサーが納得いかない表情で最後にアスランを一瞥する。

 

 後ろめたい気持ちがない訳ではない。だが、それ以上にここで死ぬのは御免だった。アスランはアーサーの方を見ようとせず前を向く。今、彼を見たら謝罪の言葉が突いて出そうだったから。

 

 絶望すら感じさせる沈黙に包まれていた艦橋が粟立つように騒がしくなる。タリアがクルー達と確認を取り合いながら、ミネルバは再び立ち上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 交錯する光条。すれ違う両者。交わす射線は激しさを増していき、ネオの集中は研ぎ澄まされていく。

 

 最早、自身を待つ部下への罪悪感など微塵も抱いていなかった。あるのは目の前の敵を倒す事のみ。相手の動きを読みながら、ビームガンバレルを巧みに操る。しかし敵もさる者、ネオの想像以上に手強い相手であった。

 スティング、ステラ、アウル─────あの三人も、ここまで見事に自身のオールレンジ攻撃を躱す事は出来なかった。敵の新型も、ガンバレルに対してこれ程の動きは出来なかった。空間認識という点において、ネオが知る中でもかなり上の方の能力を相手は持っている。

 

 とはいえ戦いが進めば進むほど、滲み出てくるのは経験不足。長く戦場に立ち続けたネオと、対して相手は溢れんばかりの才能こそ感じられるものの、まだ実戦に出て時間が浅いのだろう。長引けば有利なのは確実に自分だとネオは自負していた。事実、敵はネオの攻撃に対して防御の手段をとる回数が多くなっている。相手も今頃実感している筈だ。自身の反応が次第に追いつかなくなっている事を。

 

 後はもう時間の問題だ。このザクを戦闘不能にさせれば、もうあの艦を守る者はいない。そしてスティング達が相手しているあの新型も、そこに自分が加われば鹵獲は可能だろう。

 ネオの頭の中で詰みまでの路が組み立てられつつあった。そんな彼女の集中と思考を途切ったのは、思わぬ方向からの轟音だった。

 

「なに─────!?」

 

 ネオだけでなく、目の前のザクも突然響いた爆発音に動きを止めた。爆音に驚き声を漏らしたネオは次の瞬間、彼女の目に映った信じられない光景に驚き目を見開いた。

 

 ミネルバが動いている。爆発で砕かれた岩塊と共に、ミネルバが横滑りして飛び出して来た。

 

「嘘でしょ!?」

 

 飛来する岩を躱しながらネオはミネルバの艦首が開き、そこから引き出される砲塔を目にする。背後からにじり寄っていたガーティ・ルーと、岩塊の拘束から解き放たれたミネルバとの距離は恐らく八百は切っている。

 覗いた砲口は真っ直ぐにガーティ・ルーを捉え、そしてエネルギーの臨界を始める。

 

 咄嗟にガーティ・ルーが旋回を試みるが、間に合わない。ネオの目の前で太い光条がデブリを貫いて迸る。ミネルバから放たれた陽電子砲がガーティ・ルーの右舷を掠め、一瞬にして蒸発した装甲が暗闇を照らす。

 敵の視界が飛び散った岩塊によって万全ではなかった事と、イアンが素早く反応し回避を試みていなければどうなっていたか。今頃、ネオ達の帰る場所は失われていたかもしれない。

 

「こんな方法で脱出してくるなんて…」

 

 相手がとった戦法を理解し、ネオは絶句するしかなかった。右舷に接した小惑星を砲撃する事で、反動と爆発のエネルギーを得る。先程のネオの戦法によってダメージを負った船体に更に鞭打つ作戦をとってくるとは─────。

 

「…こうなったら、もう無理ね」

 

 敵のダメージは甚大だがこちらもそれは同じ。性能差がある以上、正面からの撃ち合いでは圧倒的に分が悪い。

 

「─────()()()()()()、この感覚」

 

 後方からザクが追い縋り、ビーム突撃銃を乱射する。それを躱して母艦を目指しながら、とんでもない光景を見せてくれた敵艦を見ながらネオは小さく笑みを零した。

 

 そういえば、以前も多くの危機をこんな風に、とんでもない方法で乗り越え続けた艦があったな─────。

 

「次は容赦しないわ」

 

 次の瞬間には、もうネオの顔に笑みはなかった。冷酷にミネルバを見下ろしながら、彼女は信号弾を撃ち上げた。それは、退却を意味するものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボギーワン、離脱します!」

 

「インパルス、ザクルナマリア機、パワー危険域です」

 

「艦長、さっきの爆発で更に第二エンジンと、左舷熱センサーが…」

 

 起死回生の一手で敵に一矢報いたミネルバだったが、アスランの耳に入って来るタリアへ向けられた報告は、これ以上の戦闘継続は不可能だという一つの事実を語っていた。撃沈こそ免れたものの、ミネルバは最早満身創痍だった。

 

「グラディス艦長。もういい、後は別の策を講じる。私もアスハ代表を、これ以上振り回す訳にもいかん」

 

「…申し訳ありません」

 

 デュランダルが立ち上がって、タリアへと声を掛ける。それに対してタリアは、口惜しそうに声を震わせながら返す。

 

 先程のデュランダルの言葉は任務の失敗を意味していた。最新鋭の戦艦、最新鋭のモビルスーツを与えられながら、敵を撃破できず逃げられてしまった。今、彼女の中にはさぞ忸怩たる思いがある事だろう。

 デュランダルはタリアを叱責する事はなく、むしろ優しく気遣おうとしている様に思える。だがその気遣いは、きっと彼女の胸を刺すのだろう。

 

「本当に申し訳ありませんでした、アスハ代表」

 

 タリアから視線をカガリへと移したデュランダルは、彼女の前に立つと謝罪の言葉を発する。

 今まで艦橋でのやり取りを見守るだけだったカガリは席から立ち上がり、落ち着いた言葉を返す。

 

「いや、こちらの事など気にしないでくれ。ただ、このような結果に終わった事を私も残念に思う。早期の解決を心よりお祈りする」

 

 落ち着いた言葉ではあったが、そこには確かな懸念が籠っていた。

 

 カガリからの激励の言葉にデュランダルがお礼を口にしてから、ほどなくアスランは二人と付き添いに来たタリアと共に艦橋を後にした。

 

 ─────カガリの言う通りだな。

 

 艦橋後方のエレベーターに乗り込んでから、アスランは思う。先程カガリが言った、早期の解決を祈るという一言。かつて自身が身を寄せていた故郷を思う気持ちとはまた別に、今回の事件は世界の情勢を大きく刺激するだろう。オーブから直接的な支援をする事は出来ないが、カガリと同じくアスランも、心の底からプラントの今後を憂いていた。

 

 ─────これが、前触れでなければいいが…。

 

 そしてそれと同時に、アスランは心の隅で嫌な予感を覚えていた。果たしてこれで終わるのか、と。

 

 新型機を奪取した目的も、まずオーブでも知り得なかったその情報をどうやって掴んだのか。未公開の新型機の奪取とその後の破壊の限りに目がいきがちになるが、今回の事件には余りにも謎が多すぎる。ここでどれだけ考えても到底真相には辿り着きはしない。だが─────アスランは人々の意識が向けられる派手な事件の裏で、確かな闇が渦巻いているのをこの時、予感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。