フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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PHASE09 墓標の鳴動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 傷つき、ボロボロとなったミネルバに愕然としながらも無事である事に安堵しつつシンはルナマリアと共に帰艦した。敵にまんまと裏をかかれて仲間を二人も失い、結局またあの三機を捕らえる事も倒す事もできなかった。

 

 不甲斐ない、情けない、何と自分は弱い事か。

 

 力を手に入れた筈だったのに。今の自分はもう、誰かが死んでいくのを見る事しかできなかった無力な子供ではないのに。また、手が届く筈だった誰かを守る事もできなかった。

 

「アスラン・ザラが?」

 

 無力感に苛まれるシンに追い打ちを掛けるように、帰艦したシンとルナマリア、レイに当直を終えたメイリンが戦闘中に艦橋で起こった事を告げたのだった。

 驚愕するシンとルナマリア、一方のレイは眉一つ動かさない。だが一応の興味は覚えているのか、黙ってメイリンの話に耳を傾けている。

 

「だって、議長が彼に言ったのよ。()()()()()()()君って。否定もしなかったし─────でもでも、本当に凄かったんだから!」

 

 サバサバと話す姉のルナマリアとは正反対の、女の子っぽい甘えた口調でメイリンは話す。危機的状況において、アスラン・ザラが提示した起死回生の案を。そして彼の機転によって艦が救われたという事を。

 

 メイリンの話を聞いていく内に、シンは先程の戦闘を思い出し、不機嫌になっていく。自分とルナマリアが敵に翻弄されるばかりだった間、本来部外者である筈の男に仲間の危機を救われていたなんて。

 もしあの男がいなかったら。何かが掛け違い、この艦に乗り込む事がなかったら。今頃自分達は帰る場所を失い、或いは敵によって宇宙の藻屑にされていたかもしれない。そう思うと、胸の奥からふつふつと何かが沸き立つ感覚がした。

 

「でも、何で名前を変えてオーブにいるのかな?生きてたのなら、プラントに帰ってくればいいのに」

 

 レクリエーションルームに向かう間も、メイリンとルナマリアは尚もアスラン・ザラについての話題を続けていた。

 正直もうその話は聞きたくなかったが、メイリンがふと口に出した疑問についてはシンも同感であった。

 

 ルナマリアから疑惑を聞いて驚きはしたが、それと同時に思う事もあった。()()()()()()?正にメイリンの言う通りの疑問だ。生きていたのなら、何故プラントに帰って来ないのか。

 第二次ヤキン・ドゥーエ防衛線での折、軍を裏切ったからか?当時の最高評議会議長であり、自身の父であるパトリック・ザラを撃ったからか?しかし今のプラント全体は、彼の行動に対して同情的な見解を示している。命を賭して地球を救い、絶滅戦争を止めた英雄─────少し大げさな表現をしたが、大まかな見方としてはこれで合っているだろう。現に、アカデミーでの授業ではそのような感じの事を言っていた。

 

「そんな簡単な問題でもないんでしょ。どれだけ凄い事をしようと裏切りは裏切り。軍事裁判は避けられないでしょうし、それに今から帰って来ようものなら色々と面倒が─────」

 

 ルナマリアがメイリンに言い返しながら、レクリエーションルームの入り口を潜った時だった。突然、並んで歩いていた姉妹の足がぴたりと止まる。途端、メイリンが飛び上がり後ろに続いていたシンの背後に慌てて隠れた。

 

「な、なんだよ…」

 

 ぴたりとくっついてくる少女の姿に戸惑いながら、前を歩く少女が後ろに回った事で開けた視界の先でシンは、レクルームのベンチに一人腰掛けていた人物を見つけた。黒髪の、自分達より一、二歳程年上に見える青年が、ルナマリア達の声に気付いてこちらに目を向けた所だった。

 ルナマリアは一度言い掛けた言葉を呑み込んだが、すぐに挑戦的な笑みを浮かべて歩み出る。

 

「へぇ…。丁度貴方の話をしていた所でした。アスラン・ザラ」

 

 あっさりと本人に向けて言ってのけてしまう辺りが、割り切りの良い性格をしたルナマリアらしい所だ。

 

 シンは改めてベンチに座る青年を見直す。格納庫で見かけただけではあるが、確かにアスハ代表の付き人をしていたあいつだ。

 

 ─────これが、アスラン・ザラ…。

 

 かつての伝説的軍のエースパイロットであり、国民的アイドル、ラクス・クラインの元婚約者。そんな輝かしい経歴を持っているようにはどうも思えない。整った顔立ちをしてはいるが、どうも彼からは覇気というか、そういった雰囲気を感じられなかった。

 

「まさかというか、やっぱりというか。伝説のエースにこんな所でお会いできるなんて、光栄です」

 

 だからだろうか。さっぱりした性格とはいえ、あのアスラン・ザラを相手にルナマリアはどんどん言葉を突っ込んでいく。シンの後ろに隠れているメイリンなど、不安そうにオロオロしている。

 

「そんなものじゃない。俺は、アレックスだよ」

 

「だからもう、モビルスーツにも乗らない?」

 

 目を逸らしながら返した青年に、ルナマリアは飽くまで挑発的だった。流石にこれ以上はまずい─────気に障ったように目つきを鋭くさせた青年を見て、そう感じたシンはまだ挑発的な微笑みを収めないルナマリアに歩み寄り、彼女の肩に手を置きながら口を開いた。

 

「よせよ、ルナ。本人が()()()()()()って言ってるんだから。部外者を相手にしている暇があるんなら、早く休もう」

 

 少々()がある言い方であるのは自覚しているが、感情を抑え切れない。格納庫では遠目で見ただけだったから大丈夫だったが、近くでこうして顔を見ると、どうもダメらしい。

 

 アスラン・ザラ─────当時の最新鋭機、ジャスティスを受領してあの()()()()()を指揮した張本人。所謂、シンの家族の仇の一人が今、目の前にいるのだから。

 

「…?」

 

「っ─────」

 

 だが当の本人はそんな事など露知らない。あの戦いで誰が生き、誰が死んだのか─────そんなの分かりようがない。()()に罪悪感を覚えてほしい訳でもないし、謝罪がほしい訳でもない。仇を討ちたい訳でもない。ただ─────自分にはない()を持っている人間が、自分の家族を殺しておきながら()()()()でのうのうと穏やかに座り続けている事が、どうしても認め難かった。

 

「シン?」

 

 そんな自分の感情を理解し、自覚すればもう駄目だった。これ以上ここに居たら、何を喚き散らすか自分でも分からず、堪らずシンは踵を返す。後ろからルナマリアが戸惑いながら呼ぶ声がしたが、無視して早足でその場を後にした。

 

 何で…、何で─────何で!力がある筈なのに!自分よりも強い筈なのに!それを振るわない!誰かを守る為に使おうとしない!

 

 やるせない気持ちを抱えながらシンは一人部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。暫しの間、力なく項垂れていた彼は不意に顔を上げる。シンが立ち上がり、向かった先は彼のデスク。抽斗を開いて、その中に一つポツンと置かれていたのはシンには似つかわしくない、愛らしいストラップのついたピンクの携帯電話だった。シンはそれを手に取り、ジッと見つめる。

 

 少しの逡巡の後、シンはやや躊躇いを感じさせる手つきで携帯を操作した。すると、携帯から幼い少女の声が流れ出す。

 

『はい、マユでーすっ!でもごめんなさいっ!今マユはお話しできません。後で連絡しますので、お名前を…』

 

 とうの昔にこの世から消えた妹の声を聞いたのは、アカデミーに入学した日以来か。あの時からシンは、この携帯を意識的に遠ざけていた。見れば、愛しい家族の声が聴きたくなる。それは弱さだ。家族を奪われたあの憎しみが蘇ってくる。それは醜い。

 

 だが今、シンはどうしようもなくマユの声が聴きたかった。それは何の意味を為さないと分かっていても─────自身の決意を改めて、思い出したかったから。

 

 そうだ。誰が何を思おうと、何をしようと関係ない。()()()が戦わない事を選ぶのなら、それでもいい。その分、自分が強くなって誰かを守るだけだ。誰にも悲しい思いをさせない─────戦いなんて二度と起こさない、そんな力を手に入れるまで、自分は止まらない。その為に故郷(よわさ)を振り切ってここまで来たのだから。

 

「マユ…、見ていてくれ」

 

 あんな光景を、現実を、絶対に認めない。シン・アスカは、あの炎を生み出す者達を絶対に許さない─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()─────。修理もそこそこに駆り出されるとは、上層部もなかなか酷な任務を与えてくれますな」

 

「…私に返答を求めてるのならやめてくれる?うっかり口と一緒に私の首も滑らせたら呪うわよ」

 

 ため息混じりに言ってきたイアンへ鋭く切り返せば、不愛想な彼には珍しくツボに触れたらしく小さく笑みを零していた。

 

 地球連合軍艦、ガーティ・ルー級特殊戦闘艦・一番艦ガーティ・ルーは先の戦闘で手痛い反撃を受けて撤退した後、たった今イアンが言った通り修理が終わって一息つく暇もなく、上層部から与えられた次の任務へと向かっていた。

 

「本当…私達は飽くまで()()。だからってこうも手振り一つで扱われる奴隷みたく思われるのは心外よね」

 

「…今のは私に対する返答ではなく貴女個人の感想、ですかな?」

 

「ヤバッ…。今の音声記録は消しておいてねー!」

 

 イアンの低い問い掛けで我に返ったネオは、今自身が口にした言葉の意味を自覚し慌てた素振りを見せる。といっても、こんなやり取りはいつもの事だ。何かと厳しい任務を休みなく与えがちな上層部に対する愚痴を、彼女は堂々と部下の前で何度も口にしている。その度にイアンが諫め、そしてネオが証拠隠滅を命じる─────今ではこれもクルー達にとっては見慣れた光景で、艦を動かしながらクスクスと笑う者もいる。

 

「─────イアン、私は少し下がるわ。目標との距離が近付いたら、通信を頂戴」

 

「了解」

 

「他の皆も、まだ着くまでには時間が掛かるし、休める人は休みなさい」

 

 ネオはクルー達にそう声を掛けてから艦橋を離れ、自室へと入る。

 

「ユニウスセブンの調査、ね…。嫌な予感しかしない任務ばかり寄越して、本当に─────」

 

 上層部からネオの隊─────第八十一独立機動群、()()()()()()()()・ロアノーク隊にて任務が下されたのは本当につい先程の事だった。

 

 ユニウスセブンにて不穏な動きをする集団あり。すぐに調査に向かわれたし─────。

 

 C.E.70 二月十四日、血のバレンタインと呼ばれた惨劇によって崩壊したコロニー、ユニウスセブンではこれまで何度も、宇宙海賊らが補給等を目的に停泊したりと、似たような件は何度も起こっている。今まで地球連合はそれを承知しておきながら触れては来なかった。

 それが今更、調査?どうせまた海賊が補給をしに寄っただけだろうに─────何故?

 

「…考えても仕方ないわね」

 

 ネオは頭を振って息を吐く。そしてふと、全身に滲む微かな不快感を自覚した。そういえばアーモリーワンでの戦いからここまで、ろくにシャワーも浴びていなかった。

 

「─────」

 

 肩に鼻を寄せれば、気のせいかツンと酸っぱい匂いがする気がする─────いや、気のせいだ。そんな匂いはしない。しないが、これ以上身体を洗わずにいたら本当にそうなっても可笑しくない。それは乙女的にノーだった。

 

 右手を頭の後ろへ持っていき、一瞬の躊躇いの後にパチリと顔の上半分を覆っていたマスクを外す。ヘアゴムを解けば、はらりと長く赤い髪が揺れ落ちる。身に着けていた軍服も下着も脱ぎ捨てて、一歩シャワールームへと足を踏み入れる。そこで最初に目に映るのは、自身の裸体を映す全身鏡だった。

 

 頭の先から足まで、()()()()()()()()()白い柔肌。これが自分の身体─────とある少女を生かす為、忌々しい()()()に選ばれてしまった、哀れな誰か…。

 

「ッ…」

 

 喉奥から込み上げてくる不快感を合図に、ネオは()()()()()を終える。手を伸ばして蛇口を捻れば、心地よい温かなシャワーが流れて来る。頭から全身を濡らしながら、ネオは自身に言い聞かせる。

 

 ()()─────今の私は何者でもない、ただの道具…。私は、ネオ・ロアノークなんだから…!

 

 それでいいと、そうあるべきなのだと、嫌だと叫ぶ彼女の心を抑え込む。しかしいつも、心を抑制しきる前に必ず、抑え切れない心の叫びが漏れ出てしまうのだ。

 

「…助けて」

 

 誰にも声は届かない。届けようとも思っていない。だが、少女の脳裏にはいつも、()()()()を思い浮かべている。

 

 少女の目の端から、シャワーと共に雫が流れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガーティ・ルーが向ける針路を遠く抜けた先で、凍り付いた大地が不気味に鳴動していた。凍った大地の一角には、磨き上げられた美しいモニュメントがある。そこには、ユニウス条約が調印された旨を記した文字が刻まれていた。

 

 そう、ここはユニウスセブン─────無惨にも核の炎に灼かれ、そこに住む人達の命を散らした悲劇の地。

 

『太陽風速度変わらず。フレアレベルS3、到達まで予測三十秒』

 

 そこに彼らは、いた。失われた命に囚われ、憎悪を燃やし、いつしか正義の鉄槌を喰らわせてやるのだという妄執と共に、()を待ち侘びる。

 

 太陽風─────太陽フレアと呼ばれる現象によって放出されるプラズマの奔流。

 

「急げよ!九号機はどうか!?」

 

『はっ!間もなく!』

 

 掛ける声も変える声も、独特の規律正しさを漂わせる。彼らはその太陽風と干渉し、巨大な物体をも動かす事のできる磁場を発生させる装置を取り付けていた。そう、それはこの()()()()()()()()()()()()()()程の強力な─────。

 

 思いを同じくする同志達の作業を見守りながら、ジンハイマニューバⅡ型を駆る、()()()()()()()()()()()()()()()男サトーは、死者の眠りを妨げる様な自分達の行為に対して心の中で頭を下げた。

 だがこれは必要な事なのだ。死者(彼ら)も分かってくれる筈。我々こそが彼らの無念を、最も正しく理解する者だという事を。

 

『放出粒子到達確認。フレアモーター、受動レベルまでカウントダウン、スタート』

 

 作業を終えた仲間達の機体と共に、凍った大地の上空に離脱する。そこでカウントダウンが刻まれていくのを聞く。

 

『粒子到達、フレアモーター作動…!』

 

 機械が作動したのを確認した担当者が上げた声には興奮が混じっていた。

 

 サトー達の目の前で、ユニウスセブンに取り付けられた巨大な装置が次々とシステムを起動していく。稼働ランプが灯り、それはさながら点灯した巨大なクリスマスツリーの様。美しく彩られた墓標は、これからゆっくりと押し出されていく筈だ。

 

 憎きナチュラルが巣食う、青き地球(ほし)へ──────。

 

 仲間達が状況を忘れてシステムの稼働に見入る中、サトーはコックピットに貼られた数枚の写真を向いた。

 

「アラン…クリスティン…」

 

 その中では笑う男女の顔があった。ザフトの制服に身を包んだ青年と、サトー自身と抱き合って笑う若い女性─────何度も苦境を共にした親友と、堅物な自分をそれでも愛していると言ってくれた恋人だ。

 

「これでようやく、俺もお前達に…」

 

 報いる事ができる、と心の中で続ける。写真の中の愛しい人達からの答えは、サトーに届かない。それでも充分だった。今頃彼らも、笑って見守ってくれている筈だから。

 

『ユニウスセブン、移動を開始しました…!』

 

 聞こえて来た言葉通り、巨大な大地がゆっくりと動き始めるのが見て取れた。瞬間、サトーは燃え上がる高揚を抑えないままに高らかに告げた。

 

「さあ行け、我らが墓標よ!嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れるこの世界を─────今度こそ正すのだ!」

 

 それは彼の、世界に対する宣戦布告。その声に応え、仲間達が大きく雄叫びを上げる。

 

「…我らの怒りは、決して消えぬ。ナチュラル共を全て滅ぼすまで─────もう貴様の邪魔は入らんぞ…、()()()()()()()

 

 サトーの怨嗟に満ちた低い声は、雄叫びに搔き消されて仲間達には届かなかった。

 

 かつて、先の大戦─────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()若い少年の顔が思い出される。真にあるべき世界の姿を忘れ、無念と嘆きの悲鳴を忘れ、怒りを忘れ、腐り切って我らの邪魔をした奴はもういない。生きる価値すらない害虫の為に命を張り、哀れな死を遂げた。

 

 英雄と祭り上げられ、死後良い気になっているのだろうが、そうはいかない。貴様の行いは無為に終わる─────この日、ようやく!世界は新たなる一歩を踏み出すのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




曇るシン君と。そしてサトー…気付いていた人も多いと思いますが、実はヤキン内部でアスランが対峙してたのはこの人だったりして。
それとネオちゃん…この話で正体に辿り着けたら凄いと思います。でも割と居そうで怖かったり…、ヤメテネ?
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