フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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~前回のあらすじ~
カガリ&アスラン「なんでユニウスセブンが落ちてるんだ!?」
ヨウラン「冗談だけど、地球に落ちた方が案外楽かもブフゥッ!?」(鉄拳制裁)
シン「やり過ぎちゃった、後で謝ろ。それよりもしかして、ユニウスセブンの件って人が原因じゃ…?」
仮面(後方腕組み)


PHASE11 確かめ合う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風に緑が揺れる穏やかな丘に美しい家々が点在する、そんなのどかな風景の中に一際壮大な邸宅があった。持ち主の趣味の良さか、或いは建築した者の腕とセンスの良さか、周りの家々とも一線を画する美しさを誇る邸宅の一室に乗馬服姿の男達が集まっていた。

 

「さてと、とんでもない事態じゃな」

 

 中でも年配の男が葉巻を指で弄びながら言う。そこに居るのは九人の男達。

 

「まさに未曽有の危機。地球滅亡のシナリオですな」

 

 男達は思い思いの場所に置かれた椅子でくつろいでおり、その口から出て来た言葉からは全く深刻さが感じられなかった。

 

()()()()()。ファントムペインを向かわせたのだろう?大丈夫なのか?」

 

 部屋の中央に置かれたスヌーカー台の傍でキューを握る男が、窓際へと視線を向けて問い掛ける。

 

 そこに立っていたのは白に近い髪と褪めたような顔色をした三十台前後の男─────()()()()()()()()()。この邸宅の持ち主であり、この場にいる他の男達を呼んだ張本人─────反コーディネイター団体、ブルーコスモスの現盟主だ。

 

 ジブリールはゆったりと頷くと、最初に口を開いた老人が声を上げた。

 

「しかし、この招集は何だジブリール?大西洋連邦を始めとする各国政府が、よもや()()をあのまま落とすとも思ってはおらんが…、一応我々も避難や対策に忙しいのだぞ」

 

 彼らが先程から口にしているのは、今も刻々と頭上に迫っているユニウスセブンの事だった。まだ世界の中でも一握りの人間しか知らない事実を知りながら、まるで自分達とは無関係であるように語っている。

 

「この度の事には正直申し上げて、私も大変ショックを受けましてね…。ユニウスセブンが?まさかそんな、一体何故?まず思ったのはそんな事ばかりでした」

 

「前置きはいいよ、ジブリール」

 

 演技染みた動作を見せながら訴える彼を、一人の男がバッサリと制する。しかしジブリールは引かず、頭を振って顔を引き締めた。

 

「いえ、ここが肝心なのです」

 

 ジブリールを制した男だけでなく、一同が怪訝な表情を浮かべて彼を見つめる。

 

「やがてこの事態、民衆の耳にも届くでしょう。そうなれば、彼らは何を思いますか?─────()()()()()()()()()()()?私と同じ、世界中の誰もがそう思う事となるでしょう」

 

 男達が微かに息を吐いたのが見えた。

 

 例え答えがあろうとなかろうと、人は必ず誰かに問うだろう。何故─────と。

 

「ならば我々は、答えを与えてやらねば」

 

 微かな騒めきと共に、男達の顔つきが少し変わった。ずっとジブリールの話を右から左に聞き流していた彼らが、聞くべき価値があると感じた瞬間でもあった。

 

「プラントのデュランダルはすでに地球各国に警告を発し、回避、対応に自分達も全力を挙げるとメッセージを送ってきました」

 

「早い対応だったな。奴らも慌てていた」

 

「ならばこれは、本当に自然現象という事かの?だが、それでは…」

 

「事態の理由が本当の所なんだったのか─────()()()()()()()()()()()()のですよ」

 

 ジブリールは老人達の会話を遮り、穏やかに彼らへ問いを投げ掛ける。

 

「重要なのはこの災難の後、嘆く民衆へ我らが与えてやる答えの方でしょう」

 

 再び騒めきが立つ。初めに苦笑と共に気を取り直した、この集まりの中でもジブリールと同じく若い男が口を開いた。

 

「もうそんな先の算段か?」

 

「無論」

 

 簡潔に返答を叩きつけたジブリールは、その声に確かな熱を込めながら激しく怒りを露にする。

 

「原因が何であれ、あの無様な汚物が、間もなく地球に─────我らの頭上に落ちて来る事だけでは確かなんです!どういう事なのですか、これは!?あんなごみ屑の為に…、この私達までもが顔色を変えて逃げ回らねばならない!」

 

 徐々に言葉を苛烈に高ぶらせながら、ジブリールは腕を一文字に振るいながら話に耳を傾ける男達を見回した。

 

「この屈辱はどうあっても晴らさねばなりますまい!あんなものをドカドカ宇宙に造った、コーディネイターどもに!違いますか!?」

 

 怒髪天を衝く、をまさに表現するジブリールとは対照的に他の者達の反応は冷たいものだった。

 

「それは構わんがの。被る被害によっては、戦争をするだけの体力すら残らんぞ?」

 

「だから今日、お集まり頂いたのです」

 

 それぞれで顔を見合わせた後、代表して懸念を口にした老年の男にジブリールは畏まり背筋を伸ばして返す。

 

「事が済んだ後、我らは例のプランで一気に討って出ます。その事だけは、皆様にもご承知頂きたい」

 

「…なるほど、強気だけねぇ」

 

 きっぱりと告げるジブリールへ茶化すように言ったのは、彼とそう歳が変わらない男だった。

 

「コーディネイター憎しで却って力が湧きますかな、民衆は?」

 

「…()()()()()()だがな」

 

「残りをまとめるのでしょう?憎しみという名の愛で」

 

「─────皆、プランに異存はないようじゃの。ジブリール。君は詳細な具体案をまとめておけ。では…、次は事態の後じゃな」

 

 一同が一応の協議を済ませ、反論がない事を確かめた老年の男がジブリールへ命じる。それに対してジブリールは慇懃に頭を下げた。

 

 それを機に他の者達が席を立ち始める。相変わらず危機感を微塵も感じさせない調子で話し合いながら、ゆっくりと邸宅を出て行く。

 

「…貴方は戻らないのですか?」

 

「いや。少し君と二人で話したくてね…」

 

 ただ一人、例に漏れる者がいた。先程、怒りに燃えるジブリールを冷笑していた年若い男だ。

 

 男は笑いながらジブリールへと歩み寄り、馴れ馴れしく彼の肩に手を置きながら言った。

 

「随分と()()()じゃないか、ジブリール。…彼女、ボクにも貸してはくれないかな?」

 

「─────」

 

 ギラリとジブリールの瞳が広がり、厭らしい笑みを浮かべる男と視線が交わる。

 

「…何の事か、さっぱりですな」

 

「おいおい、惚けるなよ。あの()()()()()()()()()()()さん…、君がご執心なのは知ってるんだぜ?」

 

 心の内を見透かすように、男は笑みを深くしながらジブリールの肩に乗せていた手で二度、白い頬を甲で叩く。ジブリールは不快感を隠そうともせず、表情を歪ませて男の手を払う。二人の間にある立場の差を考慮すれば、今のジブリールの行為は無礼千万ではあるが、男に気を悪くした様子はない。むしろ、ジブリールの様子を面白がるように眺めていた。

 

「もし了承してくれるなら君のプラン─────全面的に協力しようじゃないか…。()()()()()()()()()()()、さ」

 

「…」

 

 男からの提案に対してもジブリールは是を示さない。確かにこの男が計画に全面的に協力してくれるのなら、それは魅力的ではある。()()()()()()()()()()()()()()()、という条件がつくが─────だがそれを加味しても、ジブリール側が差し出す要素と男から差し出される要素は釣り合っていない。少なくとも、ジブリールからすればそうだった。

 

 それに、男は一つ()()()をしている。元々ジブリールは自身の計画の中に、この男の事など微塵も含めていない。プラスアルファとして考えるなら話は別だが、()()()()()()の為に何故自分がリスクを負わなければならない?

 

「…考える時間を頂けますか」

 

 突っぱねたっていい。ただ面倒な事に、この男を気に入っているスポンサーもいる以上、粗末に扱う訳にもいかない。そうした事を考え、ジブリールは先延ばしを選択した。この男の始末などいつでもできる─────そう自分に言い聞かせ、愚かにも()()に手を伸ばして汚そうとする男への怒りを鎮める。

 

「…まぁ、今はそれでいいさ。ボクも忙しい身だからね。ただ─────よく考えて答えを出すといいよ?君自身の為にも」

 

「肝に銘じておきましょう」

 

 最後まで欲望に汚れた笑みを変える事がないまま男もようやく邸宅を去って行く。その姿を窓辺から見送ったジブリールは、一人になった一室の中で怒りを爆発させる。

 

「ッ─────!」

 

 声にならない叫びを上げながら、スヌーカーテーブルの上のボールを掴んで投げつける。ボールは部屋の片隅に置かれた精緻な細工の陶器を粉砕し、一瞬の内に無価値な破片の山に変えた。

 

「あの…、愚か者共がァッ!!」

 

 あの愚物共が、これがどういう事態か本当に分かっているのだろうか?コーディネイターが─────あの生きる価値もない汚物が、またも自分達()()の世界を脅かしているというのに。まるで神を気取るかのように自分達の頭上に居座り、見下し、そして世界を汚し続けている。だというのにあの老人達と来れば、まるで対岸の火事を見ている様に─────何たる愚かしさ!

 

「それに…ッ!」

 

 ジブリールがそれ以上に気に入らないのは、先程の提案だった。()()を貸す、だと…?ふざけるな、彼女は自分の傍にいる事こそ相応しい女神だ…。()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。それをむざむざ、あんな愚物に渡すなど冗談じゃない。

 

「何故この私がッ…、あんな奴らに頭を垂れなければならんのだ!」

 

 第一、現在自分を取り巻くこの状況自体が可笑しいのだ。そう、何もかもが可笑しくなった。あの大戦で、宇宙に上がってから全てが─────()によって。

 

()()()()()()()()ァ…ッ!」

 

 ()()()()()から伝えられた忌々しいその名を口にしながら、ジブリールは再びスヌーカー台からボールを握り上げ、また高価な陶器を一つ粉砕する。

 

「宇宙のゴミを一掃した後は、貴様だ…。私の女神を誑かす、凡夫めが!」

 

 ヤキンでの戦いで彼女を誑かし、一度命を落とす切っ掛けとなった。そしてジブリールが今も尚、あの老害共に頭を垂れ続ける原因でもある男、()()()()()()()()。今どこで何をしているかは知らないが、いずれあの男も天誅を下さねばなるまい。

 苦しんで、苦しんで、苦しんで、生まれて来た事を悔やみたくなるほどの苦痛を与えた後に、殺してやる─────ジブリールは爛々とその目に黒い炎を宿しながら、幾度目かも知らない奴への憎悪を更に激しくさせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒髪に、燃える様な赤い瞳─────確か名前は()()と呼ばれていたか。アスランは、部屋の中に設置されたデスクに腰を下ろして考えを巡らせていた。それは先程、レクルームの前ですれ違ったシンという少年についてだった。

 今回のユニウスセブン落下の件について不謹慎な発言をしたザフト軍人の少年─────当然ながらあの時、アスランもカガリもあの場にいて、その発言を耳にしていた。もしシンという彼が行動に出ていなければどうなっていた事か。…怒れるカガリが自身の立場も忘れ、飛び出していたかもしれない。そういう意味では、シンという少年に感謝しなければならない。実際、カガリほどでなくともアスラン自身、怒りを抱いてしまったのは間違いなかったから。

 

 だがアスランにとって引っ掛かっているのは、先程のレクルームでの出来事ではなかった。それは同じ場所であった、もっと前の出来事─────あの時はカガリは傍に居らず、アスラン一人でミネルバの軍人達と邂逅した。自分を挑発してくる赤い髪の少女を諫めたのも、その彼であった。

 

 ─────駄目だ。やはり思い出せない。いや、思い出す、出せない以前に彼と会った事があるかすらも怪しい。しかし、アスランの脳裏にこびりついて離れない。シンという少年があの時一瞬見せた、怒りに満ちた視線。彼は自分を知っているのか?どこで、どうやって?そして何故、彼は自分に怒りを覚えるのか─────覚えさせるような事を、自分はしたのか。

 

「…」

 

 アスランは()()に向けた思考を切る事にした。どれだけ考えても分かりそうもない事柄について引き摺っていても仕方がない。それよりも今は、思考を優先すべき事態があるのだから。

 

 ずっと避け続けて来た─────貫き続けた心情を、アスランはここに至って曲げる事を決意する。

 

「何を考えてるんだ?」

 

「っ…」

 

 背後から声を掛けられ、アスランはドキリと心臓を驚きに震わせながら振り返った。

 

 ここはアスランともう一人、カガリに割り当てられた部屋だ。今この間、この部屋にカガリが休んでいるのは当然ではあるが、深く思考にのめり込んでいたアスランは不意に掛けられた彼女の声に、思わず驚き、飛び上がり掛ける。

 

「ど、どうした?」

 

「どうした、じゃない。今お前、何を考えてる?」

 

「─────」

 

 ついさっきまでベッドで寝ころんでいた筈のカガリはいつの間にか起き上がり、真っ直ぐにアスランを見つめている。見透かされるような─────いや、現に見透かされているのかもしれない。

 

「行くつもりか?」

 

 具体的ではないカガリの問い掛けは、アスランの懸念が正しい事を証明していた。アスランは少しの間、カガリと目を見合わせた後に頷いた。

 

「あぁ」

 

「今は他国の人間であるお前に、()()()()()()()()の許可が出るとは限らないんだぞ。第一、お前が行かなきゃいけない理由がどこにある?」

 

 カガリから投げ掛けられる問いは鋭く、まるで刃の様だった。それは的を射ていて、暗にお前の望みは叶わないだろうという現実を突きつけている様にも聞こえた。

 

 あぁ、そうだ。この事態を何とかしたくとも、高々アスラン一人が加わった所でどれほど力になれるのか。カガリの言う通り、まずアスランが力を貸せる段階に至れるかすらも分からない。それでも、アスランに迷いはなかった。

 

「理由ならあるさ。カガリが大切に思う場所を、俺は守りたい」

 

「─────」

 

 今度はカガリが驚き、目を丸くする番だった。思い返せば、こうやって混じりっけなく真っ直ぐに、自分の考えを口にするのは珍しいかもしれない。アスランの心の内を見透かす鋭い視線を向けていた直前と打って変わり、可愛らしくも思える見開かれた丸い目を見た彼は思わずくすりと笑みを零した。

 

「な、なんだよ!」

 

「いや…」

 

 笑われて憤慨するカガリの頬は、微かに羞恥の色に染まっていた。それがまたアスランの笑いを誘う。「クッ…!」と声を漏らしたカガリは拳を握りながら、しかしそれを誰に向ける事もなく俯くだけだった。

 

「…お前がそういう風に思ってくれるのは、嬉しく思う」

 

 暫し耐えられずにいた笑みが収まり始めると、カガリの静かな声がアスランの耳朶を打った。彼女の顔にはもう羞恥の色はなく、代わりにあるのはここまでずっと自身の片腕にも等しいほどに自分を支えてくれた男を気遣う、心配の色だった。

 

「だけど、その為にお前が苦しむのは…嫌だ」

 

 彼女はいつも真っ直ぐだ。今もこうして、気持ちを真っ直ぐに言葉にしてぶつけてくれる。だから、アスラン・ザラは─────

 

「それでも、それを押してでも俺は君の為に戦いたいんだ」

 

 迷いを振り切ったつもりでも、やはりまた()()()()()()のは嫌だと心は叫んでいる。しかしそれ以上に、彼の心はもう一つの叫びを強く発し続けているのだ。

 

 ─────この人の笑顔を守りたい。この人を泣かせたくない。だから…。

 

「ありがとう、カガリ」

 

「アスラン…」

 

 ずっと立場を言い訳にして封じ込めていた気持ちを、行動にして表現する。我慢を解き放てば、アスランがカガリを両腕に抱き締めるまであっという間だった。

 

「俺は大丈夫だ」

 

 腕の中でまた心配そうに自分の名前を呼ぶ少女に、どうしようもない愛おしさを覚えながら、少女が安心できるように努めて優しく語り掛ける。

 

「君は、俺が守る」

 

 色々な事があった。時には反発し合った事もあったが、彼女の傍から離れようという気持ちは不思議と一度も湧いた事はなかった。それは、何故か。

 

「…帰って来い。私を置いて行ったら、許さないからな」

 

 この少女を、いつの間にか愛してしまっていたからだ。

 

 アスランはカガリの言葉に微笑みながら頷いた。そして、二人の潤んだ視線が交わる。

 

 これ以上、語る言葉はない。後はもう、何も語らず二人の気持ちを確かめ合うだけだった。

 

 どちらからともなく両者の顔が近付く。部屋の灯に照らされながら、二人の影はやがて一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アスランとカガリが最終決戦に挑む主人公とヒロインみたいになってしまった。実際、起きてる事態が最終局面として扱われても可笑しくないからしょうがないしょうがない。
そして何気に運命編になってからちょくちょく存在を示唆されながらも、名前が出るのはプロローグ以来二回目とかいうユウ君。しかも口にしたのがGブリール。我らが主人公がいいのか、それで…???
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