フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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~前回のあらすじ~
ジブリール「NTR許すまじ!」
アスラン「カガリを守る」
カガリ「私の元へ帰って来い」
カナード「む?」


PHASE12 正体不明

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後方に長くストリングスを靡かせるユニウスセブンは、地球の重力に引かれて少しずつ加速していく。刻はもうすでにそこまで迫っている。しかし、サトーは微塵も油断も隙も心に残してはいなかった。

 すでにこの事態はプラント、地球共に知れ渡っている筈だ。地球側ではどうか分からないが、現最高評議会議長の政治方針を考えれば、ザフトはとっくに行動を開始している。恐らく、もうじきここへ到着する頃だろう。

 

「…どうやら、()()()()()上手く事を運べているようだな」

 

 無論、ザフト側の妨害を警戒しているサトーではあるが、彼にはもう一つ大きな懸念があった。今回の計画について知恵を貸してくれた人物─────D()と名乗った男が警告した、最も大きな不確定要素。そちらの足止めは引き受けると言ってはいたが、ここに至るまで未だ何の妨害もない所を見るに、奴の宣言通り足止めには成功しているらしい。

 

「フンッ…。()()()()()如きに後れを取る筈があるまいに、余計な事を」

 

 対峙する敵の数を減らしてくれた事自体には感謝してやってもいいが、たかがナチュラルを相手に何故そこまで警戒する必要があるのか。地球ではどれだけ高名な家の出だろうが、そんな輩が新たなる頂に相応しい我らに届く筈もない。

 ナチュラルにしてはやるのだとしても、我らが後れをとる筈がない─────!

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()─────あのDという男が零した呟きをサトーは頭の中から打ち消し、今も尚地球へ向けて接近し続ける墓標の中で身を潜める。

 改造を施され、従来のジンとは一線を画する性能を誇ってはいるが、機体そのものが持つシグナルには手をつけていない。つまり、あちらからはこちらが味方に見えるという事だ。それに加え、ユニウスセブンの地上は荒れ果て巨大なモビルスーツでも身を隠す場所には困らない。

 

 もうじき来るであろう敵を待ち伏せるサトー機の元へ、不意に一つの通信が入った。

 

『サトー、偵察隊から連絡が来た。接近する艦影あり、恐らくはボルテール…()()()()()()()()()の隊との事だ』

 

「…そうか。かの女傑、エザリア・ジュールの息子も─────母と共に牙を捥がれ、軟弱者に成り下がったか」

 

 画面に映し出された思いを同じくする同志の口から出て来た名前に、サトーは一瞬失望の表情を見せた。

 

 ()()()()という家名を聞けば、真っ先の頭に思い浮かぶのは大戦期に最高評議会議員を務め、ザラ派のナンバーツーとして働いていたエザリア・ジュールだ。その息子であるイザーク・ジュールもまた、模範的ザフト軍人として名を上げていた。

 地球連合の艦からの脱出艇を容赦なく撃ち落としたと聞いた当時は、骨のある新人が現れたと感心したのも記憶に新しい。後にその脱出艇が民間人を乗せたものだと発覚し、裁判にかけられたとも聞いたが…まさかそれで牙が捥がれた訳でもあるまい。エザリアも今ではただの好々婆に成り下がった。親子共々…、何てザマだ。

 

 若き隊長に任命されたイザーク・ジュールを内心蔑むサトーだが、決して油断をしている訳ではない。パイロットとしての腕は確かであり、更にジュール隊という事は、かつてクルーゼ隊にイザークと共に所属し、最前線で戦い続けたディアッカ・エルスマンもついてくる。更に二人程ではないが名が知られているシホ・ハーネンフースもおり、年若き名パイロットが揃う厄介な隊だ。

 

「だが、我らの勝利は敵の()()()()()()

 

 仮にサトー達がユニウスセブンへ来る敵を殲滅しようとすればそれは至難を極めるだろう。しかし、彼らの目的はそうではない。()()()()()()()()()()()─────その為の時間を稼げればそれで良いのだから。

 

「来るなら来い。…我らの怒りと絶望を、思い知らせてやる」

 

 何者にも邪魔をさせてなるものか。この歪んでしまった世界を、あるべき正しき姿へと戻す為に─────自分はまだ、愛する者達の元へは帰れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフト軍、ナスカ級艦ボルテール─────その環境で、接近しつつあるプラントの残骸を見つめる者達がいた。海中を漂う巨大なクラゲを思わせる様で地球の引力に引かれるユニウスセブンを見ながら、赤い制服を着た金髪の青年が口を開いた。

 

「こうして改めて見ると、デカいな!」

 

 いつも斜に構えた笑みを浮かべる事が多い浅黒い顔は、今はモニターに映し出される光景に圧倒されて真剣な表情が浮かんでいる。

 

「当たり前だ。住んでるんだぞ、俺達は。同じような場所に!」

 

 噛みつくように返したのは、彼の傍らに立つ指揮官服姿の青年だ。浅黒い肌の青年とは逆に、白く映える顔と切れ長の目筋、そして真っ直ぐな銀髪。冷たい印象を与えかねない容貌をしているが、たった今返した口調はどこか気の置けない者に対するぞんざいさを感じさせた。

 

「それを砕け、って今回の仕事がどんだけ大ごとか、改めて分かったって話だよ!」

 

 金髪の青年が、こちらも上官に対する敬意など欠片もない調子で言い返す。

 

 ディアッカ・エルスマン。それが彼の名前だ。

 

「フンッ、普段から言っているだろう。お前はもう少し危機意識を持てというんだ」

 

 鼻を鳴らしながら冷たく返す、この若い指揮官はイザーク・ジュールという。アカデミー時代からの付き合いであるディアッカは、腕を組んで不機嫌そうでいるイザークへ飄々と返した。

 

「へいへい。悪ぅござんした、隊長殿ォ」

 

「…隊長と呼ぶならもう少し敬意を込めろ」

 

「すまん、今更無理だろ」

 

「…」

 

 ハンッ、と笑い飛ばすディアッカを睨みながらこめかみに青筋を立てるイザーク。二人のやり取りを艦橋クルーはまた始まった、とでもいうように笑みを堪えて見守っている。

 

「ま、でもさ…。こんな時に言う事じゃないけど、少しだけ思わねぇ?」

 

「何がだ!」

 

 先程の発言に怒り心頭といった具合のイザークに怯まず、ディアッカは続けた。

 

「モビルスーツが()()()()()()使()()()()ってのが、少しいいなってさ」

 

 自在に動く四肢と、生身の人間にとっては致命的な宇宙放射線をも物ともしないモビルスーツ。兵器として開発されたものではあるが、今回のような作業にはうってつけな船外作業機器でもある。

 競い、争い、壊れていく事が宿命の兵器だが、ディアッカが言うように()()()()()()使()()()()方がもしかしたら幸せかもしれない、なんて。イザークは彼の言葉の底にあるものを読み取って、一瞬複雑な表情を浮かべるが、すぐに気分を切り替え鋭く指示を与えた。

 

「いいか?たっぷり時間がある訳じゃない。ミネルバも来る。手際よく動けよ!」

 

「了解!」

 

 ディアッカは片目を閉じて、いい加減な敬礼を送ってから艦橋後方のエレベーターへと乗り込んだ。

 

 今回、ジュール隊に下された任務はユニウスセブンの破砕だ。では、どうやってあの巨大な構造物を砕いていくのか─────それは()()()()()()()()という機器を用いて行う事となる。

 三本足の台座の中央にドリルを装着したこの作業機器は、本来小惑星などの破砕に用いられる道具だ。これをユニウスセブンの各所に打ち込み、地中で爆発させる。そうして大気圏で燃え尽きるサイズにまで砕いていくというのが、ユニウスセブン破砕の手順だ。

 

「問題は…時間だな」

 

 すでにパイロットスーツに着替え、今の彼の愛機であるガナーザクウォーリアへ乗り込んだディアッカは、機体を立ち上げながら呟いた。

 

 これまでも、プラントにとって危険な軌道を描く小惑星の破砕にメテオブレイカーは用いられ続けて来た。これを使えば間違いなく、ユニウスセブンを砕く事は出来るだろう。問題は、()()。今こうしている間にもユニウスセブンは地球へと迫っている。あれが大気圏に突入し、こちらが手出し出来なくなる領域に突入するまでに破砕に成功しなければならない。

 

 だが、その為に残されている時間は短い。

 

 問題はまだある。それは()()()()()だ。今回、ユニウスセブン破砕の任務にジュール隊が選ばれたのは、何かしらの事情があった訳ではない。ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。他の隊が選ばれなかったのは、ここへ来られないのは到着するまでにはもう全てを終わらせなければならない─────つまり単純に間に合わないから。

 

 先程イザークが()()()()()()()とは言ったが、あちらに配属されているパイロットの数を考えれば、本当に猫の手も借りるといった諺が当て嵌まるだろう。

 

「─────させるかよ」

 

 絶望的な状況とそれを裏付ける理由がある。かといって、諦める訳にもいかない。ディアッカにとって地球は、今やただの敵国が存在するものではないのだ。かつて、()()()が命を賭して守った場所を、あの志を()()()は引き継いでいかなければならない。

 

 ボルテールのリニアカタパルトから、次々とモビルスーツが発進する。漆黒の空間へと飛び出したゲイツRが、母艦から射出されたメテオブレイカーを受け取り、ユニウスセブンへと向かう。

 それに続き、ディアッカのザクともう一機のザクが最後に発進し、二機のザクは先発隊の後方からついていく。

 

「行くぞ!ジュール隊長が急げってよ!」

 

 ディアッカは部隊に声を掛けながら、触手をたなびかせる巨大なクラゲを思わせる人口の大地に目を向ける。

 

 ─────きっちりこいつを片付けてやるぜ!

 

 密かに心の中で誓うディアッカは、先行した工作隊が凍った大地に舞い降りる所を確認する。工作隊はすぐにメテオブレイカーの設置に取り掛かった。出撃前に前もって決めていた予定のポイントへ、メテオブレイカーを持ったゲイツRが着地する。

 

 その時、作業中のゲイツRが続けざまに二機、大破した。

 

「は─────?」

 

 何の脈絡もなく、しかしどこかからの攻撃によって撃破されたのだと数拍遅れて理解したディアッカは、素早く自身に襲い掛かったビームの矢から飛びずさった。

 

「何だよッ!これは!?」

 

 狼狽するディアッカを状況は待ってはくれない。コックピットにアラートが鳴り響く中、ディアッカの周囲ではあちこちから自分の部隊ではない機体が、ビームライフルを連射しながら飛び出してくる。

 

 カラーリングと何やら追加されている装備と、細かな変化はありつつもそれらのモビルスーツの原型を見てとる事は容易かった。ジン─────だが、本来友軍で機である筈の機体が、目の前で僚機を次々に撃ち落としていく。

 

「えぇい!下がれ!ひとまず下がるんだッ!」

 

 ディアッカはオルトロスで応戦しながら部隊に呼び掛けた。工作隊のゲイツRは丸腰だ。対抗手段を持たないまま、一機、また一機と撃破されていく。

 

『副隊長!』

 

()()!そっちは無事か!?」

 

『いいえ…、まさかそちらも!?』

 

 何とか僚機を守ろうとオルトロスを撃ち続けるディアッカの元へ、一つの通信が入った。コックピットの上部に映し出されるのは、赤いパイロットスーツに身を包んだ少女の顔─────ディアッカと同じくジュール隊に所属するパイロット、シホ・ハーネンフースだ。

 

 ディアッカがいる地点からやや離れた場所で行っている作業の護衛をしている彼女の表情を見て、すぐにあちらでも同じ事態が発生しているのだと察する。同時にシホもまた、ディアッカの言動と表情から、彼と同じ結論に至った。

 

『ディアッカ!シホ!』

 

 その時、部下から状況の報告を受けたイザークが母艦からノイズ混じりの叫び声を二人に届かせる。

 

『ゲイツのライフルを射出する!二人はメテオブレイカーを守るんだ!俺もすぐに出るッ!』

 

『くっ…、了解!』

 

「急げよイザーク!こいつら、結構()()ぞ!」

 

 怒りと焦燥のあまりにイザークを急かすディアッカの眼前では、自身の射撃を見事なまでに躱していく改造ジン部隊がいる。

 

 こいつらは一体何者なのか。何故自分達の邪魔をするのか。早くしなければユニウスセブンはこのまま地球に落下してしまうというのに─────これでは、まるで…まるで?

 

「まさか、こいつらが…!?」

 

『え…?』

 

 その時、背筋を冷たい感覚が這い上がり、彼は改めて改造ジン部隊を見遣った。ディアッカの口から漏れた呟きは、未だ回線が繋がったままのシホ機にも届いており、彼女も衝撃に目を見開く。

 

 安定軌道にあった筈のユニウスセブンが何故動き出したのか─────誰もが抱いた疑問の答えを、今彼は得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モビルスーツ発進三分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す。発進三分前、各パイロットは────』

 

 アナウンスの流れる格納庫を、赤のパイロットスーツを着用したシンはコアスプレンダーを目指して飛んだ。

 

「粉砕作業の支援っていったって、何すればいいのよ…」

 

 途中、赤いザクの前で技術スタッフと話し合っていたルナマリアの声が聞こえて来た。

 

 今回彼らに課せられた任務は、これまでの戦いと比べて異色のものだった。シンとしても、正に先程のルナマリアの言葉通りの心情、不安がない訳ではなかった。銃を撃つべき敵はいない。銃を撃っても、刃を振るっても壊せる代物でもない。

 破砕作業の詳細はすでに頭に入ってはいた。しかし作戦の要の道具であるメテオブレイカーの操作を主に行うのは、すでに先にユニウスセブンに到着している先行隊が行う事となっている。シン達は作業を行う者達の護衛という事だが、状況によってはメテオブレイカーの打ち込み作業にも加わるだろうと頭に入れておくようタリアから言われていた。

 

 アカデミーでメテオブレイカーについては学んでいるし、先程のミーティングでも操作方法は説明されているが、果たしてうまく操作が出来るかどうか─────内心不安でいたシンの目に、本来この場にいるべきではない姿が映り、彼は思わず足を止めた。

 

「─────」

 

 モスグリーンのザクのハッチに姿を消していったのは、()()()()()()()─────何故彼がこんな所にいるのか。そして、ザフトのものであるザクに乗り込んでいるのか。

 

 沸騰しそうになる頭を内心言い聞かせて無理やり冷やし込み、思い直す。先の大戦から二年というブランクがあるとはいえ、アスラン・ザラ程の人材を艦に留めさせておくには惜しい、という事だろう。あのデブリ帯での戦闘で二人殉職し、今ミネルバにパイロットはシン、ルナマリア、レイの三人しかいない。

 それでもオーブの人間をモビルスーツに乗せるのはどうかと思うが、今回の出撃は飽くまで破砕作業─────戦闘にならないのならば、という判断なのだろう。

 

「シン」

 

「っ!?」

 

 尤もらしい事を考えてはいるが、これは飽くまで自分を納得させる為の方便だ。その実をまるで見透かすしているかの如きタイミングで、背後から掛けられた声にシンは跳ね上がった。

 

「レ…、レイ?どうしたんだよ」

 

「それはこちらの台詞だ。出撃までもうすぐだぞ」

 

 左脇にヘルメットを抱えて声を掛けてくるレイはいつもの何を考えているか分からない無表情だ。最早見慣れたその表情に、逆に安堵すら覚えるシンに、レイは続けて声を掛けた。

 

「さっきの事を気にしているのなら杞憂だ。ヨウランはあの後、確かに反省していた」

 

「さっき─────あぁ…」

 

 シンが危惧していた事に言及はなく、代わりに例の口から出たのはレクルームでシンがヨウランを殴り飛ばした事についてだった。ヨウランが反省─────当たり前の事ではあるが、自身の想定を超えた最低野郎でなくて安心する。それと同時に、レイが自身の本当の内心を見抜いた訳ではない事にも安堵していた。

 

「別に気にしてないよ。むしろ、後で謝ろうって思ってたくらいで…」

 

「謝る…?何故だ」

 

「え?」

 

 自分の言葉に対して無表情を貫きながら、その声に微かな戸惑いを乗せたレイ。その理由が分からず、今度はシンが戸惑い呆けた声を漏らした。

 

「お前は何も間違った事はしていない。あれは全般的にヨウランが悪い。お前が謝る必要はどこにもないと思うが」

 

「…レイ」

 

 ハッキリとそう告げたレイを、驚きの目で見返すシン。直後、二人の足下から怒声が上がる。アナウンスが掛かっているにも関わらず、いつまでも機体に乗り込もうとしない二人に業を煮やした作業員に怒鳴られてしまった。

 

 慌てて再び機体へ向かうシン。途中、目線だけ振り返ればレイもまた、ザクファントムの元へと辿り着きハッチから身を躍らせていた。

 

「…ありがとう」

 

 彼の耳には届かないと分かっていても、お礼を言わずにはいられなかった。多少の糾弾を受ける事はあれど、ああもハッキリと正しいと言われるとは思っていなかったから。あの時感じた怒りを正しいと、仲間が言ってくれた事が嬉しかった。

 

 とはいえ、レイはそう言ってくれたが、流石に殴ったのはやり過ぎだという考えは変わらない。やはり後で、殴った事に関しては謝るべきだろう。

 

『発進停止!状況変化!』

 

 再びアナウンスが流れたのは、シンがコックピットに乗り込もうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか本当に許可が出るとは─────先程カガリとの会話を通して、更に決意と想いを強くしたアスランは、艦橋にいるデュランダルの元へ赴いた。その理由は、ユニウスセブンの破砕作業への協力と、モビルスーツ貸与の許可を貰いたいが為。

 しかし実の所、本当に貸して貰えるかは微妙だと思っていたし、不可能だと断じられればそれで諦めるつもりでいた。それなのに、デュランダルは思いの外あっさりと、アスランへモビルスーツの貸し出しを認めてしまった。

 

 丁度デュランダルとユニウスセブンの対応について話し合っていたであろうタリアは渋っていたが、それを彼は議長権限だと押し切って許可を出してしまった。ありがたい事ではあるが、一体どういうつもりなのだろうか─────?

 

『ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中!各機、対モビルスーツ戦闘用に装備を変更してください!』

 

 アスランの中で湧き上がる疑念は、突然慌ただしく上がった管制の声に掻き消される。そして告げられた言葉に、彼は二重の意味で驚いた。

 

「イザーク…?」

 

 士官学校を同期卒業し、その後同部隊に配属された戦友であるイザーク。そんな彼は今、ここに来ているらしい。それも交戦中…何故?アンノウンとは何者なのか?

 

 疑問が脳内を駆け巡る内に、更なる報告がアスランの耳に飛び込む。

 

『更にボギーワン確認!グリーン二十五デルタ!』

 

 つい先日、激闘を繰り広げた末に取り逃がしてしまったあの不明艦の名が飛び出し、アスランは目を見開く。状況が全く掴めない。ユニウスセブンの軌道変化から始まり、破砕作業に取り組むイザーク達を妨害するアンノウン、そしてボギーワン─────混雑する状況の中、思わずアスランは声を荒げて管制官に尋ねた。

 

「どういう事だ!?」

 

『分かりません!しかし、本艦の任務がジュール隊の支援である事に変わりなし!換装終了次第、各機発進願います!』

 

 モニターに映った赤い髪の少女が困惑顔で返答する。

 

 対モビルスーツ戦闘という思わぬ事になったが、彼女の言う通り目的に変わりはない。とにかく出撃しなければ、自身がすべき事も分からない。

 

 気になる事はたくさんある。だがそれを一度振り払い、アスランは深く、ゆっくりと呼吸をして集中する。

 

 あぁ、懐かしい感覚だ。思い出したくはなかったが、いざこうして再びこの世界に立ち戻ると懐かしさが身を包む。

 

 ─────自分はまた、戻って来てしまった。

 

『状況が変わりましたね』

 

 不意に回線が開き、モニターにルナマリアの顔が映る。彼女は挑むようにアスランへ言った。

 

『危ないですよ。お止めになります?』

 

 彼女からすると、自分は前時代の遺物にでも見えるのだろうか。今後関わりのないであろう相手からの見え方等どうでもいいが、気になるのは今のルナマリアの表情。

 

 侮り、軽視、見下し─────別にそれらが自身に向けられるのは構わないが、タイミングが頂けない。

 

「危ないのはお互い様だ。気を引き締めろ。…今回の戦闘は、()()ある」

 

 アスラン自身、今の状況の裏に潜む()()の正体に辿り着いてはいないが、一応警告はしておく。

 

 思わぬカウンターを喰らったからか、ルナマリアの表情が一瞬ムッとするが、彼女が言い返す前にザクウォーリアがカタパルトへと運ばれていく。

 

 コアスプレンダー、ザクファントムに続いてルナマリアのザクも発進していく。そして最後に出撃の番を迎えたアスラン機もまた、カタパルトへと運ばれる。

 今、彼の目の前にはハッチに切り取られた瞬かない星空が広がっていた。

 

 迷いはない。愛する人に誓ったのだ。それに今、この宙では友が戦っている。舞い戻る事を躊躇う理由など、どこにもない─────!

 

 ランプがグリーンに変わる。アスランは進路の先を真っ直ぐに見据えた。

 

「アスラン・ザラ、出る!」

 

 アスランの意を受けたグリーン色の機体が、暗闇の真空へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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