今回、短いですが切り良い所まで書けたので投稿です。
今のプラントに期待などしていないつもりだった。しかし、いざメテオブレイカーを持ち出し、ユニウスセブンへ打ち込もうと作業をする工作隊の姿を見て失望の念を抱く自分はやはり、まだ諦め切れていなかったらしい。
だがそれも、もう終わりだ。死んでいった同胞達の思いにも気付かず、またも偽善を重ねようとしている愚者へ向けて、サトーはビームを浴びせかける。
「我らの思い、やらせはせんわ!今更ッ!」
ジンハイマニューバにブースターを追加する事で、次世代機であるゲイツRに匹敵する機動性を得たジンハイマニューバⅡ型。しかし機体性能は互角でも、乗り手の差は歴然だ。ぬるま湯に浸かり、安穏とした輩共に後れをとる者はこの隊にはいない。
背負う信念の重さに於いても、こんなひよっこ達が自分達に優る要素など微塵もない。
サトーはメテオブレイカーを守りながら後退しようとするゲイツに迫り、すれ違いざまに重斬刀を抜き放つ。コックピットを切り裂かれ、上下の装甲が斜めに切り分かれたその瞬間、サトーの背後でゲイツが四散する。
サトー機が戦場を舞い踊る。次々にかつて自分達が属していた組織の機体を屠っていく。やがて母艦からライフルが射出され、それを掴んだゲイツが応戦を始めるのも関係なし。放たれるビームは狂い飛ぶサトー機に掠りもせず、そして一機、また一機と懐に侵入を許したゲイツが切り裂かれていく。
「ムッ…!」
調子よく敵を撃破していたサトーだったが、このまま彼の快進撃を許すほど敵も甘くはなかった。また別のゲイツに狙いを定めた彼は、コックピット内にアラートが鳴り響いた直後、機体を翻す。傍らを通り過ぎていく光条、サトーが目を向けた先には彼に砲口を向ける黒いザクウォーリアの姿。
反撃に出ようとするサトーだったが、続けざまに敵の接近を報せるアラートが鳴る。視線をずらし、シールドを掲げる─────視界で青の軌跡が過った直後、コックピット内に衝撃が奔る。
歯を食い縛り、操縦桿を握る両手に力を込めて機体が押し負けないよう努める。しかし敵もさながら、威力のある斬撃は数瞬の拮抗の後、サトー機を後方へ弾き飛ばす。
シールドによる防御が間に合い、辛うじて損傷はなし。ぶれる体勢を整えたサトーは、先程自身に襲い掛かった敵を見遣り、正体を見破る。
スラッシュザクファントム─────青のカラーリングに施されたこの機体の乗り手は、サトーの知る限り一人だった。
「イザーク・ジュールか!」
ビームライフルを取り出し、再びサトーへ斬りかかろうとするザクファントムを牽制する。しかしサトーの射撃は悉く回避され、ザクファントムの接近は止められない。
堪らずビームライフルを投げ出し、再びシールドを掲げてザクファントムの斬撃を押さえる。
「チィッ…!」
改造を施し、ゲイツRとの性能差こそ埋める事に成功したものの、現最新鋭機であるザク相手では分が悪い。更にそれを操るは、前大戦を生き残り、かの第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦を経験したエースパイロット。力で押し込まれないよう立ち回るが、相手の技量もさるもの。サトーの太刀筋は見切られ、視界下部の死角から機体が蹴り上げられる。
「グッ…!」
思わず口から漏れる呻き。揺れるコックピットの中でそれでも相手から目を離さず、シールドを構えてザクファントムの一閃に備える。
シールドと斬撃がぶつかり合った直後、ジンの姿勢が不十分だったのも相まって一瞬にして押し込まれる。機体は後方へと勢いよく吹き飛ばされ、凍り付いた大地に叩きつけられた。
─────こいつら、一体何者だ…!?
ボルテールからザクファントムで出撃したイザークは、動き良く部下達を屠ってくれた改造ジン一機を吹き飛ばし、周囲を見回した。
対抗手段を得た隊員達だが、相手の部隊はかなりの手練れであり、反撃の一射で捉える事が出来ないでいた。あのディアッカですら、砲撃を当てる事に苦しんでいる様子。イザークも先程は敵の一機を容易く行動不能に陥れた様にも見えるが、その実、交わした攻防は紙一重のものだった。もし何かが履き違えていたら─────もし、相手が乗っていたのが性能に劣るジンでなかったら。逆の結果になっていたかもしれない。
「っ、工作隊は破砕作業を進めろ!これでは奴らの思うつぼだぞ!」
不要な思考を掻き消し、鋭い声で指示を出す。奇襲に驚かされはしたが、このまま応戦ばかり続けては本来の目的から遠ざかってしまう。
今も尚、ユニウスセブンは地球への落下を続けている─────それを阻止する為にこの場にいるのだという事を、イザークは決して忘れてはいなかった。
彼の眼下で、メテオブレイカーを保持するゲイツへ突貫するジンがいた。イザークは素早くビーム突撃銃を構えると、無造作にさえ見える精射で敵を一撃で捉えてみせた。
「シホ!そちらはどうなっている!?」
『奇襲で二機やられましたが、態勢を整えて作業を再開します!』
「よし…、そちらは頼むぞ!」
犠牲はありつつ、まだ落ち着く余地がありそうなあちら側の作業の指示はシホに任せるとして、問題はイザークがいる側だ。浮足立っていた工作隊は、隊長の到着によって統制を取り戻しつつある。だが如何せん、敵の攻勢が激しい。これでは、作業に移る事が出来ない─────
「ッ、なんだ!?」
ビームアックスを振り上げ、迫るジンをまた一機切り裂いた直後、イザークのコックピットに警告音が響き始める。熱源探知機に三つの光点が入り込み、それは凄まじい速度でこちらに接近していた。
肉眼でそれらの機影を捉えるよりも先に、大出力のビームが付近の宙域に降り注ぐ。それは所属不明のジンも、交戦中のゲイツも無差別に薙ぎ払い、主を失い浮遊するメテオブレイカーをも焼き尽くした。
─────敵!?何が起こっている!
戸惑うイザークの前で熱紋が照合され、それらが友軍機のものである事を報せる。正確には、かつてそうだった機体である、と。
「カオス、ガイア、アビスだと!?」
『アーモリーワンで強奪された機体か!?』
アーモリーワンで起きた襲撃事件については、当然イザーク達の耳にも入っていた。それによってザフトが秘密裏に開発していた機体三機を奪われてしまった事も。しかし、その機体が何故こんな場所に?一体何の意図でこんな戦闘に介入する?
「狼狽えるな!工作隊はとにかく作業を続けるんだ!ディアッカ!」
『あぁ、分かってる!』
相手が撃ってくる異常、その意図を問う余裕などない。ただでさえ不明部隊の襲撃を受けて破砕作業に大きな遅れが出ているのだ。イザークはディアッカに呼び掛け、作業中の工作隊を守るように展開した。
迫る三機を前に、退かず砲口を向けたのだった。
ユニウスセブンで作業をするジュール隊が、謎の部隊とあのボギーワンの部隊から襲撃を受けている事は急ぐミネルバの艦橋にも伝わっていた。
三つの勢力が交わり、戦況が混迷を窮めていく中で部屋でじっとなどしていられず、デュランダルから許可を得て先の戦闘と同じように艦橋にいたカガリは頭の中で状況を整理していた。
話を聞く限り、ジュール隊を襲っている部隊が使用しているのはジンの改修機。更に付近に母艦も見当たらないという。そして今やミネルバにとっても因縁深いボギーワンの部隊─────だが仮に、この部隊の正体がカガリの予想通りだとしたら、今それよりも重要なのは改造されたジンを使用している部隊の方だ。
もしカガリの予想が当たっているのならば─────ユニウスセブンの軌道をずらし、地球へと落とそうとしているのはその謎のジン部隊だ。一体何者なのか、何を為す為にこんな事を仕出かしているのか。それは定かではないが、ここで問題になるのは
一つはこのままでは破砕作業など出来ないという事。そして、もう一つは─────
「議長。現時点でボギーワンをどう判断されますか?」
唐突にタリアが口を開き、デュランダルへ尋ねた。それはたった今、カガリが彼へ問おうとした内容そのものであった。
「海賊と?それとも…地球軍と?」
意味を計るようにタリアを見ていたデュランダルは、重ねて彼女に問われると、難しい表情を浮かべて答える。
「…私はあの部隊を、
「どんな火種になるか、分かりませんものね」
「あぁ。─────だが、状況は変わった」
心を決めた様にデュランダルが言うと、引き取るようにタリアが続ける。
「この非常時に際し、彼らが自らを地球軍、もしくはそれに準ずる部隊だと認めるのなら…この場での戦闘には何の意味もありません」
「逆にあのジン部隊を庇っているとも思われかねんな…」
そう。これがもう一つの問題だ。
アーモリーワンでの騒ぎを起こしたあの部隊の正体、それが地球連合軍所属だった場合、タリアの言う通りどんな火種になるのか分かったものではない。それ故に、たった今デュランダルが言ったように、
しかしあの部隊が地球連合軍所属でなかった場合、この場に出て来る理由が不透明だ。むしろ、地球連合軍所属の部隊であったならと考えた方が、突如あそこに姿を現した事に納得がいく。
「そんな!」
「仕方ないわ。あの機体がダガーだったら、貴方だって地球軍の関与を疑うでしょう?」
心外そうに声を上げるアーサーへ、タリアが言葉をぶつける。
そう、今のこの状況を事情を知らない第三者から見れば、ザフトがユニウスセブンを地球へ落とそうとしていると見られても仕方がない。
これが人為的に引き起こされた厄災であるだけでもまずいのに、この誤解を放置すれば取り返しのつかない事になる。
「ボギーワンとコンタクトはとれるか?」
「国際救難チャンネルを使えば」
「ならばそれで呼び掛けてくれ。我々はユニウスセブン落下阻止の為の破砕作業を行っているのだと」
デュランダルとタリアはこの状況でも落ち着いている。呼び掛け─────確かに、ザフト側としては現状出来る事といえばそれくらいしかない。彼らがとった選択は、現状とれる最善の一手だとカガリも思う。
だが─────カガリはどうしても、違和感を拭えずにいた。
ユニウスセブン落下の下手人が、プラントの現体制に不満を覚えた者達によって構成されたテロリスト集団なのは間違いない。そうだとして、高々テロリスト達が、あの巨大な質量を持つコロニーの残骸の軌道を操るなんて大それた事が果たして出来るのか…?少なくともカガリには、テログループのみで成立させた事件とは到底思えなかった。奴らの裏には、誰かがいる。
そしてもう一つ。
だというのに、奴らは今この場にいる。ミネルバとの戦闘で受けた損傷を修復し、短くとも休息を与えられても何ら可笑しくない筈なのに。まるで、ここで何かが起こるのを
「っ─────」
思考がそこまで至った時、何故だろう。カガリは
『
先の大戦末期、地球連合はNJCの独自開発に成功したのは記憶に新しい。それによって核という強大な戦力を得た地球連合は、核によるプラントへの直接攻撃を試みた。それが戦争を更なる泥沼へと陥らせる事となるのだが、今はその話は置いておこう。
地球連合がNJCの開発に成功した─────それが表向きの発表だった。だが友人─────
何故この期に、ユウのこんな言葉を思い出したのか─────しかし、カガリはふととある考えに思い至り背筋を凍らせる。
─────もし、
あり得ない、とんだ妄想だ。あのテロリスト達がユニウスセブンを地球へぶつけようとする理由は、恐らくナチュラルへの憎悪故だ。それに協力するのなら、裏に潜む何者かも同様の憎悪を抱いている可能性が高い。
だから、理由がないのだ。ナチュラルへ憎悪を抱いているというのなら、地球連合へユニウスセブン落下の情報を流すその理由が。この二つの要素は、決して同時に成立し得ない絶対の矛盾を含んでいる。
カガリは繰り返しあり得ない、と自分に言い聞かせ、頭に浮かんだ一つの限りなくゼロに等しい可能性の記憶を打ち消そうとする。なのに、出来ない。カガリの意思に反して、強く彼女の頭の中にそれは刻まれる。まるで彼女自身に警告するかのように、心臓が強く鼓動を高鳴らせている。
まるで、決して忘れてはならないと、身体の主に必死に伝えようとしているかの如く─────。
「─────」
どうしても拭う事の出来ない不安を胸に抱くカガリはこの時、気付く事が出来なかった。
彼女が座っている席から少し離れた場所─────タリアとの話が終わり、同様に腰を下ろしていたデュランダルが鋭い視線をカガリへ送っていた。