フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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~前回のあらすじ~
元クルーゼ隊生き残り「「「懐かしいなー」」」(敵ボコボコ)
シン「え、何この人達。強すぎなんですけど」
ネオ「…ユウ?」
??「フレイ?」


PHASE15 怨嗟の理由

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボギーワンから打ち上がる帰還信号は、ミネルバ艦橋からも確認できた。それを見たデュランダルが、安堵の息を吐き出す。

 

「ようやく信じてくれたのか…」

 

「そうかもしれませんし、別の理由かもしれません」

 

 デュランダルとは裏腹に、タリアの口調は乾いていた。

 

「別の理由?」

 

「高度です」

 

 デュランダルが聞き返し、タリアが短く答える。二人の会話を聞いていたカガリはハッと我に返り、窓外を見遣った。ユニウスセブンに気を取られていた内に、いつの間にか眼下の青い惑星は視界を覆い尽くす程に近付いている。タリアは計器の数値を見つめながら続けた。

 

「ユニウスセブンと共にこのまま降下していけば、やがて艦も地球の引力から逃れられなくなります」

 

 カガリはモニターに目を移す。モビルスーツ隊の尽力によっていくつかの破片に砕かれたものの、あのまま地球に落下すれば大きな災厄になり得るだろう。モビルスーツ隊は尚も、砕かれた破片にメテオブレイカーを打ち込み、細分化しようとしている。

 

 しかしこれ以上の作業は彼らにとっても危険だ。すでに大気圏へと至っている今、このままでは作業を続ける者達までユニウスセブンの落下に巻き込まれてしまう。

 

「…考えるまでもないわね」

 

「艦長?」

 

 不意にタリアが小さく呟いたのがカガリの耳に聞こえて来た。同じくタリアの呟きを耳に捉えたデュランダルが、不審げに彼女へ声を掛けた。

 

 呼び掛けられたタリアは艦長席から立ち上がって振り返る。そして彼女はデュランダル、そしてカガリへと順に視線を見回しながら口を開いた。

 

「この状況下に申し訳ありませんが、議長と代表はボルテールへお移り頂けますか?」

 

 いきなりの要請に、カガリとデュランダルは訳が分からずに眉を寄せながら顔を見合わせる。他の艦に、それも今この時に乗り換えろとは一体どういう意図なのか。二人の無言の問い掛けに答えるように、タリアは更に続けた。

 

「ミネルバはこれより大気圏に突入し、限界までの艦主砲による対象の破砕を行いたいと思います」

 

「え、えええぇっ!!?」

 

 彼女が凛とした声で告げた直後、アーサーの素っ頓狂な大声が響き渡った。

 

 彼が驚くのも無理はない。他のクルー達は勿論、カガリもデュランダルも目を見開き息を呑んだ。

 

 それと同時に、カガリは先程タリアが漏らした呟きを思い出した。()()()()()()()()─────あれは彼女の中で起こった一瞬の葛藤に、決着を着ける一言だったのだ。艦のクルー達を危険に巻き込んでしまう危惧と、それでも尚地球の為に尽力を続けようとする彼女の意志─────それらが掛かった天秤が、後者に傾いたのだ。

 

「どこまで出来るかは分かりませんが…。でも、出来るだけの力を持っているのに、やらずに見ているだけなど、後味悪いですわ」

 

 カガリはふと、ザフトの少年が口にした言葉を思い出していた。本心でそう思っている訳ではない事も、冗談のつもりで言ったであろう事も分かっていた。だが、失望の念を感じたのは紛れもない事実だった。地球など滅びてしまえ等と─────そんな軽い気持ちで発していい言葉ではない事すら分からなくなってしまったのか、と。或いは、本当の意味でそう思っている者がいるのではないか、と。

 

 だが違う。タリアを始め、今もユニウスセブンに残って作業を続けるパイロット達は皆、何の関りもない筈の地球の人々を救いたいと願っているのだ。

 

「タリア、しかし…」

 

 デュランダルが気遣わし気に声を掛ける。彼が懸念している事に、カガリは気付いていた。

 

 ミネルバは恐らく、大気圏突入可能なスペックを持っているのだろう。だが艦は先の戦闘で大きなダメージを負っている。一度修理を施したとはいえ、カタログスペック上の耐熱値を当てには出来ない。つまり、タリアがしようとしている事はかなりのリスクを伴う行為なのだ。

 

「私はこれでも運の強い女です。お任せください」

 

 しかし、タリアは笑ってそう言い切った。真っ直ぐに彼女の視線がデュランダルへとぶつけられ、暫し彼も気遣いの視線を返し続けていたが、やがて諦めた様に息を吐きながら口を開いた。

 

「…分かった。タリア、ありがとう」

 

「いえ、議長もお急ぎください。ボルテールにデュランダル議長の移乗を通達!モビルスーツに帰還信号!」

 

 タリアは別れのしるしに敬礼した後、すぐにクルーへと指示を出す。デュランダルは一瞬、見送るかのように彼女の背中を見遣ってから慌ただしく立ち上がり、カガリを促す。

 

「では、代表」

 

 デュランダルから差し出される手。その手を前に、カガリは頭を振ってから視線を持ち上げ彼を見上げた。

 

「申し訳ないが、私はここに残る」

 

 カガリへ手を差し出した格好のまま、デュランダルが呆気にとられる。先程前に向き直った筈のタリアも、彼と似たような表情で振り返り、自身を見つめている。

 信じられないだろう。正気を疑うだろう。だが、カガリの決意は固かった。

 

「地球の為に命を張る者達がいる。それは本来、私達の役目だというのに─────彼らに押し付けたまま安全な所に等、行けるはずがない…!」

 

 この状況で一人、安全な所へ引き籠ってなんていられない。ここに居て何が出来る訳でもないが、それでもここから逃げ出す真似など我慢がならない。彼らがここまでしてくれるというのなら、自分も共に往きたい。

 

 それに─────まだ、戻って来ない人がいる。目を背けたままでいたかっただろうに。そこへ行くのはまだ刻まれた傷が痛むだろうに。それでも、カガリの為にと負して戦い続ける人がいる。

 

 ─────アスラン…!

 

 あそこにいる。カガリの愛する人が─────彼を置いて逃げるなんて、出来よう筈がなかった。

 

「タリア…」

 

「…分かりました。代表がそれをお望みなのでしたら」

 

「…すまない」

 

 諦めた様に溜息を吐いた後、デュランダルが促すとタリアはカガリの希望を受け止める。

 

 実の所、カガリに残ってほしくはないというのが彼女の本音だろう。それでも譲るつもりはなかった。申し訳なさを謝罪の言葉にのせて吐き出し、カガリは前へと向き直る。

 背後からデュランダルが乗ったエレベーターが閉まる音がする。

 

 タリアの命に従って打ち上げられた信号弾が、宇宙の闇を照らす。同様にボルテールからも帰還信号が上がり、最後まで残って作業していたレイのザクやジュール隊のモビルスーツ、そして露払いをしていたルナマリアのザクが母艦へと戻っていく。

 

 すでにセカンドシリーズの三機は撤退し、作業の妨害を続けていた改造ジン部隊の姿も見えない。モビルスーツが去ったユニウスセブンには静けさが戻り、この場に残るは()()と共に未だ降下を続けるミネルバのみ。

 それなのに、カガリはどうも胸騒ぎがして仕方がなかった。まだ─────()()がある。形容し難い感覚が拭えず、しかし今の彼女には事態を見つめる事しか出来ない。

 

「…アスラン」

 

 少しずつ胸騒ぎが大きくなっていく。

 

 待ち人はまだ、戻って来てはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 帰還信号に遅れて機体へ入って来たレーザー通信を見て、シンは目を見開いた。その直後、外で砕き切れずに残る巨大な破片を見て事態を察する。

 

 ジン部隊による奇襲と、カオス、ガイア、アビスの乱入─────それらによって破砕作業は大幅に遅れ、結果当初の予定とは掛け離れた進捗で作業を中止せざるを得なかった。

 そうして残ったのは、一辺数キロメートルはあるであろう大きさの破片。確か大気圏で燃え尽きる範囲は、直径二十メートルの物体までだった筈。あれらがそのまま落ちれば、地上の被害は目を覆うものとなるだろう。艦長の決定には驚かされたが、それで少しでも地上への被害が減るのなら─────その決定にシンは感謝の念を抱いた。

 

 これ以上ここに残っても出来る事などない。そう見切りをつけて立ち去ろうとした時、残る破片の中でも巨大な物の上で何かが動いた。機体を止め、映像をズームしながら目を凝らし、今度こそシンは仰天する。一機のザクウォーリアが、破片の上にメテオブレイカーを設置しようとしているのだ。すぐに識別コードを確認すると、それはミネルバ所属の機体─────アスラン・ザラが搭乗したものだった。

 

 すでに灼熱のガスに包まれている破片もある。ザクがいるあの破片も、もうすぐ同じ途を辿る。そうなれば、もうモビルスーツの推力では上がって来られず、重力によって地上へと引き摺り込まれるしかない。

 

「何をやってるんですっ!」

 

 機体を引き返させたシンは、彼の蛮勇へ怒りを覚えながら怒鳴りつけた。

 

「帰艦命令が出たでしょう!?通信も入った筈だ!」

 

 遠慮がないシンの叫びに対して、アスランは彼を見向きもせず作業を続けている。

 

『あぁ、分かっている。君は早く戻れ』

 

「戻れって…、一緒に吹っ飛ばされますよ?いいんですか!?」

 

『ミネルバの艦首砲といっても、外からの攻撃では確実とはいえない!せめてこれだけでも…』

 

 黙々と作業を続けるアスランの言っている事は、決して理解の出来ないものではなかった。強大な威力を誇るミネルバの艦首砲、タンホイザーではあるがあれだけの質量の破片を確実に割る事が出来るのか。アスランの懸念は正しい─────が、この人は本当に分かっているのか。ここに残って作業をする事の危険性は何も、大気圏突入への時間制限だけではない。ミネルバからの通信があったように、もうすぐこの空間はタンホイザーによって薙ぎ払われるのだ。間に合わなければ、砲撃に巻き込まれユニウスセブンの欠片と共に藻屑として散る事となる。

 

 ─────この人は馬鹿だ。…そして、俺も馬鹿だ。

 

 シンは機体をメテオブレイカーへと寄せて、設置作業を手伝い始める。あんな風に言われて、自分だけすごすご逃げ帰るなんて出来ると思っているのだろうか。

 アスラン機は驚いた様に一瞬だけ動きを止めるが、すぐに作業を再開する。

 

 ─────どうして…、どうして、こんな人が…!

 

 二年というブランクが空いても錆がない腕と、身の危険も顧みず限界まで誰かの為に殉ずる心。その姿を見て、シンの中で相手のイメージが更に書き換えられていくと同時に、苛立ちが募っていく。

 

 彼がパトリック・ザラの様な人間であったのなら、迷う事なく軽蔑できたのに。

 

 どうしてこの人が─────こんな人が、()()()()なのだろう。

 

「え…っ!」

 

 敬意と憎悪の狭間で葛藤しながら作業を続けるシンは、この場にはすでに自分たち以外には存在しないと思い込んでいた。しかしそれは直後に鳴り響いたアラートによって否定される。

 

 咄嗟に機体を翻すと、一筋のビームがインパルスを掠める。驚いて振り仰いだ先には、あの改造ジンが三機、それぞれ得物を握って襲い掛かって来た。その内の二機は腕を、或いは足を失い破損している。だが戦闘の重斬刀を抜き放った一機は装甲に刻まれた傷跡こそ目立つのみだった。

 

 三機とも躊躇いを見せずに突っ込んでくるのに対し、シンもまたビームライフルを構えた。

 

「こいつら、まだ…!」

 

 シンが放ったビームを散開して躱すと、先頭の一機がアスランのザクへと突っ込んでいく。すでに突撃銃を失っていたアスランはシールドからビームトマホークを抜き、メテオブレイカーの前に立ちはだかってジンを迎え撃った。

 

 残る二機がインパルスへと襲い来るのに身構えたシンの耳に突然、怨嗟の声が飛び込んで来た。

 

『我が娘のこの墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!』

 

 目の前に迫ったジンのパイロットの声だ。

 

 ()…?声に混じって聞こえて来た一言に引っ掛かりを覚えながら、シンは背中からビームサーベルを抜き放ち、すれ違い様にジンの胴を斬り払う。背後で爆発したジンを、唖然としながら振り返るシン。

 

『なにを…』

 

 回線を通して、シンと同じ声を聞いていたアスランも驚きに声を上げていた。彼は斬り掛かって来た別のジンを受け止め、そして今度は別のパイロットの声が二人へ叩きつけられる。

 

『ここで無惨に散った命の嘆きを忘れ、撃った者らと何故偽りの世界で笑うか!貴様らはッ!?』

 

 シン達が生きている今を偽りと吐き捨てて尚、憎悪と糾弾をジンのパイロットは止めない。

 

 ずっとこの部隊に憤りと疑問を抱いていた。何故こんなバカな事を、何故こんな酷い事を、と。だが、彼らには彼らにとって我慢ならないものがあったのだ。失い、裏切られ、募り続けた怒りと憎悪が溢れた結果、今回の事件を起こした。

 

『軟弱なクラインの後継者共に騙され、ザフトは変わってしまった…!ッ、何故気付かぬか!?』

 

 彼らにはユニウスセブンを落とすに至った理由と経緯があったのだ。同情する価値はない。同意など絶対にしない。しかし、その行為に走ってしまう─────理解するに足る理由が。

 

『我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラのとった道こそが、唯一正しきものと!』

 

「─────」

 

 それでも、続く言葉だけは受け入れられなかった。まるで頭を殴られたような衝撃に、シンは気が遠くなるほどの怒りを覚えた。それと同時に、あの地獄を思い出す。シンの世界を一度奪った炎が記憶に蘇る。

 

 ふざけるな─────あれが、正しいものだと…こいつは今、そう言ったのか!

 

 何もかもかなぐり捨ててでも、今すぐあいつを殺してやりたいと、憎悪に堕ちかけたシンの目の前で煌めく敵の刃によって、一瞬がら空きになったアスラン機の右腕が叩き斬られた。

 

「っ、アスランさん!」

 

 憎悪に呑まれかけたのは一瞬。アスラン機が損傷を受けた焦りと、自身の理性によって憎しみを抑え込んだシンはインパルスを向かわせようとする。

 

『逃がさんっ!』

 

「なっ…!?」

 

 そちらに注意が向いたのを隙として、背後からジンがインパルスへと踊り掛かる。しかし、突然の奇襲に驚かせられながらも反応速度を覆すまでには至らず、咄嗟に機体を反転させたシンによってジンの重斬刀を握った腕が斬り飛ばされる。

 

『この程度で─────我らが止まると思うなァッ!』

 

「くっ…!」

 

 止まらない─────腕を斬り飛ばされたジンは尚、がむしゃらに追い縋りインパルスに組み付いた。動きを封じられるが、インパルスの馬力ならばすぐに抜け出せる。機体を動かし、ジンを押しやろうとするシンの耳に再び怨嗟の叫びが届けられる。

 

『我らのこの思い─────、今度こそナチュラル共にィッ!!』

 

 次の瞬間、閃光がシンの目を灼いた。同時に強烈にシェイクされるインパルスのコックピット。─────インパルスにしがみついたジンが自爆したのだ。

 

「っ────、…」

 

 吹き飛ばされる機体の中で、シンは頭部に衝撃を受ける。コックピットのどこかにぶつけたのか…、シンは正確に事態を把握できないまま、黒く意識を閉ざしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




文字数が凄い事になりそうだったのでここで切ります。次回はようやく戦闘inユニウスセブン決着です。出来れば明日また投稿出来ればいいなと思ってます。
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