え、もう十二月?と戦慄しながら、
~前回のあらすじ~
サトー「地獄へ落ちろアスラン・ザラァ!」
アスラン「嫌だ!」
タリア「もう無理!撃てぇ!」
ユウ「遅れてもーた…。アスラン、生きててくれぇ…」
暗闇のキャンバスを描くは光の軌跡。空を駆け抜け、人々の頭上を通り過ぎる光景は幻想的ともいえた。しかしこの世の誰も、美しさ覚える筈のそれに魅入られる事はない。何故ならそれは、自分達に地獄を齎す死の流星だと誰もが知っているから─────。
地獄が顕現するまで、そう時間は掛からなかった。長く白煙の尾をたなびかせ、巨大な火の玉が次々と地表を捉える。ジャングルに、砂漠に、海に、そして街に降り注いでいく。落下した場所は一瞬の内に閃光に呑み込まれ、円形に広がっていく炎によって命も、無機物も、何もかもが焼き払われていく。当然、生きている者など存在しない─────コンマの世界の中で千、万単位の命が瞬く間に消えていく。
海面では高波が巻き起こされる。巨大なうねりを起こして、人類史上類を見ない津波となって沿岸部へと押し寄せる。逃げ遅れた者は容赦なく、災禍に呑み込まれていった。
轟音は遥か地中深くにも伝わっていた。ビリビリと壁を震わせる衝撃に目を上げるのは、個人専用のシェルターに身を隠し、地上に地獄が広がっているとは考えられない優雅な所作で、ブランデーグラスを一人傾けるロード・ジブリールだ。
巨大な書棚が並ぶ広々とした円形のフロアの中央で、これまた豪華な椅子に座りながら、膝の上に乗る黒猫を撫でる彼は苛立ちに目を細めた。
いつまでも震動も、続く腹の底に響く轟音も、ジブリールにとってはただただ不快なだけだった。これらを巻き起こす流星によって多くの人の命が失われている事など、彼にはどうでも良かった。むしろ、多少減ってくれた方が後々やりやすいとすら思っていた。彼にとって重要なのはそんな些事ではなく、何故自分がこんな穴の中に押し込まれ、息を潜めていなければならないのか─────それのみだった。
このような災厄が起きたのは何故なのか─────決まっている。あの宙の化け物共が、不調法にもあんな
「っ…」
響き続ける震動が不意に大きくなり、ジブリールは天井を見上げながら歯を軋ませた。
屈辱─────そして、どうこの屈辱を宇宙を我が物顔でのさばり続ける畜生共にお返しするか。今、彼の頭の中を占めるのはそれだけだった。
「うっわ、マジすげぇ…」
宇宙ではガーティ・ルーが地球の軌道上から状況を観測していた。艦の展望室で地表を見ていたアウルが、目を見開きながら呆然と呟く。この場所からも落下の様子はハッキリと見る事ができた。
「…クソォッ!」
スティングは悔しさに呻きながら、掌を拳で殴りつけた。地表に広がる炎の中で今まさに、多くの人達が命を落としているのだと思うと、悔しくて堪らなかった。彼らを救う事ができない─────できなかった自分の弱さを、スティングは只管に悔いていた。
「死ぬの?…みんな─────死ぬの?」
彼らの横で、ステラもまた目を大きく瞠り、呆然と地獄の光景を見下ろしていた。
美しい青い惑星に、無数の炎の筋が模様を描いていく。その下では炎のドームが膨らみ、ステラ達が今いる場所からは美しくも見える光景だった。だが、あの中では数知れぬ命が今まさに焼き尽くされているのだ。皆死んだのだ。あの炎の中で…
スティングは胸を憎しみに焦がしながら奥歯を噛み締めた。気付いた時にはそうであると色々な人達に教えられてきた事─────コーディネイターは悪だ、と。あの星の上で人々を殺しているのは悪…コーディネイターなのだと、スティングは知っていた。何故なら、そうとしかスティングは教えられていないから。
─────目を染める感情の色はそれぞれながら、一様に眼下の光景に目を奪われている三人の後方。気配を消して、三人と同じ光景を見守る人影があった。
地球軍将校の服を身に着け、顔の上半分を仮面で覆い隠した少女─────ネオ・ロアノークは主に流星が降り注ぐ面に、
彼女が想う人達は恐らく無事であろう事を確信して、ネオは静かにその場を立ち去った。
これから、忙しくなるだろう。そう時が掛からない内に、
「…」
そうやって微かな期待を持てば、あっさりとそれは裏切られる。展望室を出てすぐ、ネオを待っていたのは端末のコール音。それはネオの予感が正しい事を裏付ける、彼女直属の上司からの通信であった。
眼下に広がる青い海が、映像を通してシンの目にも見えるようになった。計器も大気圏を抜けた事を報せ、シンは同時に機体を操作する。
流星と化した無数のユニウスセブンの破片と、ミネルバの砲撃から辛うじて逃れたインパルスは安定した姿勢で降下を続けていた。コックピット内の温度は上昇し、ヘルメットの中で汗に額を滲ませる。しかし元々インパルスは単体での大気圏降下を可能とする機体だ。問題は、シンの方ではないのだ。
「あの人は…?」
機体の姿勢を上手く制御しながら、シンが気にしていたのはアスランのザクだ。ザクもまた、スペック上は大気圏の単独突破を可能とする機体だが、アスランのザクは損傷している。あの高温の中で果たして保ったのだろうか。
気掛かりに覚えながらシンはセンサーを操作し、僚機の位置を探る。上方に反応はない、なら下に─────いた。
アスランのザクもまた降下姿勢を取り、インパルスの足下を落下していた。大気圏突入の衝撃によるものか、或いは熱によるものか、スラスターに異常をきたしているらしく、正常に稼働していない。シンはすぐさま通信機器を操作して呼び掛ける。
「アスランさんっ!無事ですか!?」
呼びかけを続けつつ、機体をザクの方へと急がせる。ザクの装甲は高温に耐える事ができたが、問題は残っている。このままでは、ザクはこの猛烈な速度のまま落下を続け、最後にはこの勢いで海面に叩きつけられてしまう。そうなれば中のパイロット諸共、機体は無事では済まないだろう。
『─────、無事だったか!?』
シンからの呼び掛けに気付いたアスランの声が、酷いノイズに混じって聞こえて来た。機体の中で死んでいた、等という事はなくシンは少し安堵した。
「待ってください!今すぐそっちに行きます!」
スカイダイビングの要領で機体の落下速度を上げ、ザクへと近付いていく。
『よすんだ!いくらインパルスの推進力でも、二機分の落下エネルギーを支えるのは無理だ!!』
「っ…、このッ!」
あのユニウスセブンでの無茶な行動といい、どうしてこの人はこうも自分を蔑ろにするんだ。シンは反射的にカッ、となりながら怒鳴り返した。
「やってみなくちゃ分からないでしょうが!?大体、こんな事になったのは貴方の無茶な行動のせいなんですからね!?大人しくこっちのいう事を聞いて、助けられてりゃいいんですよッ!!!」
距離が詰まった事で通信が明瞭に繋がり、モニターがアスランの顔をクリアに映し出す。画面の中の彼は、苦笑いを浮かべていた。
「こんな時くらい、“俺を助けろコノヤロー”とか言ってみたらどうです?」
『…お望みならそうするが?』
「…やっぱり結構です」
冗談で言ったつもりが、馬鹿正直に聞き返してくるものだから面を喰らった。これで本当にそうしてほしい、と自分が言ったらどうするつもりだったのか。─────あのアスラン・ザラが、「俺を助けろコノヤロー!」と叫ぶ所なんてレアシーン過ぎて逆に見たくなってくるが、少し考えてから拒否を返した。
理由も根拠もないが、この人が傍若無人になったらかなり面倒臭くなる気がしたからだ。本当に、理由も根拠もないのだが…、気を抜くのは止めにしよう。何だか一件落着みたいな雰囲気が流れそうになっているが、このままでは二人共海の藻屑になるという無惨な結末が待っている。
センサーを頼りにミネルバを探る。しかしどうも電波状態が悪い…恐らくだが、破片落下の影響なのだろう。レーザーでも熱センサーでも、とにかく急いで母艦を探さなければ─────シンの心の片隅で焦りが滲みそうになったその時だった。インパルスのセンサーが反応を捉える。
「─────ミネルバ!」
照合された識別を見て、シンは笑顔を綻ばせながら歓声を上げた。直後、コックピット内の映像に傷つきながらも健在な、グレーの船体が映し出された。
先にこちらの位置を捉えていたのだろう。ミネルバは真っ直ぐにこちらへ向かって来ている。シンも機体を向け直し、こちら側からも艦へと接近していくとゆっくりとハッチが開かれる。限界まで機体を減速させながら、シンはその中へと飛び込んでいくのだった。
とことん、死神は自分の首が嫌いらしい─────格納庫へと運ばれたボロボロのザクの中で、アスランは苦笑を浮かべながら短く息を吐いた。流石の死神も、この汚らしい首を刈るのは躊躇うらしい。今回はそれに助けられたが…、ハッチを開き、アスランはコックピットから降り立った。
「アスラン!」
自身の足を床へ着けた途端、カガリの声がした。キャットウォークの上で身を乗り出したカガリは、遠目でも息を切らしているのが分かった。自分が戻って来たのを知って、艦橋からここまで走って来てくれたのだろうか。その心遣いが嬉しくもあり、同時に相当の心配を掛けてしまった事への申し訳なさも感じる。
だけど─────帰って来たのだ。生きて、彼女の元へ。アスランの顔に笑みが浮かび掛けた時、大きな衝撃が艦を襲った。
「な、なに!?まだ何か…!?」
「…恐らく地球を一周してきた、最初の落下の衝撃波だろう」
周囲のクルーが色めき立つ中、冷静な声でレイが指摘する。空気を伝わって来た衝撃波だけで、艦体を揺るがす程の威力─────それも、地球を一周して尚これなのだ。地上は果たしてどれ程の被害を受けているのか。様々な懸念を過らせる中、ミネルバは降下を続けていた。艦内放送で警報が響き、これより艦が着水を始める事が周知される。クルーは近くのシートに着き、衝撃に備えた。
それより暫し、ミネルバの巨体は倒れ込むように完全に着水した。アーサーの声が再びスピーカーから流れると、クルー達は安堵の表情を浮かべながら通路へと出て行く。彼らの足が自然と向いたのは、ミネルバの甲板デッキだった。アスランもまたパイロットスーツから着替えた後、そちらに赴いていた。
外は生憎の天気だった。どんよりとした雲に覆われた空からは太陽は覗けず、まるでこれからの未来を暗示しているようでアスランは苦さを覚えた。せめて晴天であれば、太陽光に反射した綺麗な海面に気休めでも心が洗われたろうに。
「けど、地球かぁ…。太平洋って海に降りたんだろ?あの、すんげーデカイ」
「そんな呑気な事言ってられる場合かよ!どうしてそうなんだ、お前は!」
柵から身を乗り出しながら海を覗くクルーの一人、ヴィーノが目を丸くして、隠せない興奮と共に言った。この状況において、それは余りにもお気楽すぎると呆れながら、隣に立っていたヨウランがすぐに咎める。
確かにそんな事を言っている場合ではない。今頃世界中は大混乱に陥っているだろうし、彼らにとっては太平洋の真ん中にたった一隻で漂っている状況なのだ。一難を切り抜けた事に変わりはないが、一息を吐いていられる暇はない。
とはいえ、状況に一区切りついた事に間違いはないのだ。それをここに至りようやく自覚したアスランは、今になって強烈な疲労感に襲われていた。
地球の存続を掛けた戦いと、何より目を背け続けて来た自身の罪との対峙─────それを乗り越えた彼の身体は疲れ切っていた。
「大丈夫ですか?」
弱々しく息を吐いたのと同時、不意に背後から声を掛けられて驚きに体を固まらせる。振り返れば、短い時間ではあるが死線を共にした少年、シンが立っていた。シンもまた、あれだけの戦いの直後で疲れているだろうに。爛々と力強い輝きが印象だった赤い瞳も、今はやや翳りが見えていた。
「…あぁ。君こそ、体調はどうだ?インパルスとはいえ、大気圏突入は堪えたろう?」
「それを言うなら貴方こそ、ザクで大気圏は自殺行為でしょう?…それに」
努めて笑みを浮かべながらアスランはシンの体調を気遣うが、あっさりと聞き返されてしまう。そして直後、シンはまた別の言葉を紡ごうとするが、その前に気まずそうに口を噤む。
その態度を見て、アスランはシンが何を言おうとしたのか、何故口を噤んでしまったのかをすぐに察する。
「俺は大丈夫だよ。けど…うん、流石に疲れた。先に休ませてもらうよ」
「あ…、はい」
何と言い返せばいいのか、答えを出す事ができなかったアスランがとった選択は
─────遠ざかっていく背中を見送るシンに、静かに歩み寄る少女がいた。
「どうしたの?」
「…ルナ」
先程までクルー達に輪の中で海を見下ろしていた筈のルナマリアが、いつの間にか傍らにいた。ルナマリアはシンが見ていた方、丁度艦内へと入っていくアスランの背中を見つけて口を開いた。
「なんか、疲労困憊って感じね。まあ、流石にあんな事を成し遂げちゃったんだから、当然か」
「…」
今回の戦闘で、アスラン・ザラが成した功績は大きかった。破砕作業への尽力に、ジュール隊と連携しながら撃破した敵機は多数。そしてザク単機での大気圏突破─────簡潔に言い並べた様に見えるルナマリアも、心なしかその声は興奮気味に聞こえた。
だが─────
「…馬鹿馬鹿しい」
そこまで考えてシンは我に返る。何で自分があんな奴の事を、ここまで気遣ってやらなくちゃいけないのだ。
関係などない。親交もない相手の為に何かをしてやるつもりもないし、考える時間だって無駄だ。第一あいつは─────あいつは、家族の仇なんだ。だからあの改造ジン部隊の奴らのように憎しみを正当化して、八つ当たりをしようとするつもりはないが、かといって優しくするつもりだってない。
「シンも疲れたんじゃないの?作業は私とレイに任せて、アンタも休んで来たら?」
「別に疲れてない。俺はあの人みたいに柔じゃない」
「…なんか、苛々してない?強がらなくていいから、ホントに休んでいいのよ?」
「苛々してない。強がってもない!」
プイッとソッポを向きながら声を荒げるシンに、ルナマリアは溜息を吐きながら「なんなの、もう…」と小さく呟いた。その呟きをシンの耳はハッキリと捉えていたが、ここで言い返したら余りに子供染みていると自身に言い聞かせて我慢する。
─────弱音なんて吐いていられない。だってあの人は、あれだけの事がありながらまだ立っていたんだから。
ミネルバの窮地を救ってみせたデブリ帯と、記憶に新しいユニウスセブンでの戦闘。アスラン・ザラの強さを目の当たりにしたシンは、彼をほんの少し勘違いしていた。
身体的に限界まで追い詰められ、精神的にも叩きのめされても尚、ああして立ち続けているアスランは確かに強いのかもしれない。だが─────何も彼は、一人孤独に歩いている訳ではないのだ。
思い足取りで廊下を歩く。心は酷く散らかって、繋ぎ止めようにも気力が湧かない。今にも倒れ込みたいのを堪えて、アスランはやっとの思いで部屋へと辿り着く。
「お帰り、アスラン」
「─────」
ベッドに腰掛けて足を揺らしながら、部屋に入って来たアスランに気付いた先客…カガリが笑顔を以て出迎えた。そこでようやく、格納庫で顔を合わせてから今まで、彼女が隣に居なかった事にアスランは気が付いた。そんな事に気付けない程に、自分は追い詰められていたのだと思い知る。
「疲れてるだろ。無理しないで、とっとと休めよ」
カガリは普段通りだ。いつもそうしている様に、アスランを労る。何ら変わらない彼女の声と態度が、今のアスランにはとても染み渡った。
「…聞かないのか?何も」
アスランの様子が可笑しい事に、カガリは気付いている筈だ。それなのにいつも通りのカガリに、アスランは問い掛ける。
「何だ、聞いてほしいのか?」
カガリはあっさりと聞き返す。思わぬ切り返し方に、アスランは所在なさげに視線を揺らしてから俯いてしまう。そんな少々情けない愛する人の姿に、慈愛が籠もった微笑みを浮かべながらカガリは手招きをする。
首を傾げながらカガリの元へ歩み寄るアスラン。カガリは微笑んだままアスランを見上げて、手を揺らすジェスチャーをする。無言のままのカガリに、これで正しいのかと不安になりながらも屈むアスランの頭に小さな温もりが乗っかった。
「私から言いたいのは一つだけだ。…生きていてくれて良かった」
両膝に手を突いて屈むアスランと、ベッドに座ったままのカガリの目が至近距離で交わる。カガリは微笑みを浮かべたまま手を伸ばして、優しくアスランの頭を撫でていた。
「かが、り…」
「まあ、あそこで何があったのかは後々報告として受け取らなくちゃならないが─────それよりも私は、お前にお礼を言う事を優先する」
カガリの手がアスランの頭から離れ、ゆっくりと今度は頬に触れる。
「ありがとう、アスラン。私の元へ帰って来てくれて」
「あ─────、あぁ…。ああああぁ…!」
自身に言い聞かせて繋ぎ止めているつもりでもその実、アスランの心は今にも引き裂かれそうだった。どこまでいっても自分は、決して逃げられないのだと、囚われたままなのだと、結局この先の未来を生きる価値なんてないのだと─────また、そう思い込みそうになっていた。
この世界から逃げ出したい衝動から心を守る為には、何もかもを冷たく凍り付かせるしかなかった。その冷たさすらも、アスランから気力を奪い、希望を吸い尽くす。それを分かっていても、今を生き続ける為にはそうせざるを得なかったのだ。
だけどカガリは、アスランの冷たく凍った心を解かした。解き放たれ、発狂しかけたアスランの心を、彼女の言葉で繋ぎ止めた。
生きていいのだと、それが自分は嬉しいのだと、そのカガリの言葉が、アスランの胸に温かな火を灯す。火によって溶けた氷は雫となって、アスランの目から涙となって決壊する。アスランはいつしかカガリの膝へ縋りつき、泣き叫んでいた。
「あああぁ!ああああああぁ─────ッ!ああああああああああぁぁ───────ッ!!!」
言葉にならない叫びを上げるアスランの頭を、カガリの手がまた撫でる。彼女にはアスランの身に何があったのか、彼が何を見て、何を聞いたのか、その全てが分からない。
知りたい、とは思う。だけどそれ以上に今は、傷つき壊れそうなこの人の心を救わなければならない─────否。救ってあげたいと、カガリはそう思うのだった。
「ローマ、上海、ゴビ砂漠、ケベック…。フィラデルフィアに、大西洋北部にもだ」
プラント、アプリリウス市に置かれた行政府の執務室。壁面モニターに映る地名を歌うように読み上げるのは、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルだ。
今、彼が口にした地名は全て、ユニウスセブンの破片が落下した地点だ。今頃多くの人が死に、生き残った人々は泣き叫ぶ─────そんな地獄の様な光景が形成されているであろう場所では、これからもまだ死者の数は増えていくのだろう。
「傷ましいな…、だが」
組んだ足を解いて立ち上がったデュランダルは、執務室の窓から眼下に広がる風景を見下ろした。整然と区画された町並みと、行き交う身綺麗な人々。遠く離れた宇宙に暮らす彼らにとって、地球の惨劇は対岸の火事。地球で何が起こったのかは当然知っている。それによって多くの人々の命が失われた事も、実に気の毒に思っている。それでも、所詮自分達には何も出来ないと、他人事として捉える─────これが人の性だ。ナチュラル達も、他国が自然災害に襲われても、口では心配だと言っても何も行動を起こさない。被害国への募金すら、寄付する者の数の方が少ない、これが現実だ。
しかし、この男はそうはいかない。一国の主として、今回の惨劇の原因を知る一人の人として、対岸の火事と捉える訳にはいかないのだ。
「これからだな…。本当に大変なのは」
だが、何故だろう。窓の外を眺めたままデュランダルの口から漏れた呟きは、地上の惨禍に対する同情の言葉の筈だ。だというのに、彼の顔には微かな笑みが浮かんでいた。
「君もこれから忙しくなるだろう。
デュランダルは微笑を浮かべたまま振り返り、先程まで彼が座っていたソファの対面─────すらりとした体格の人物がじっと座っていた。
細くともしなやかに鍛えられた身体だが、服の上からでも見て取れる特有の柔らかさが女性であると示している。長く伸びた銀髪を揺らしながら振り向いた彼女が、鋭い刃物のような目をデュランダルへと向けた。
無言の肯定─────それを受け取ったデュランダルはまた少し、笑みを深めたのだった。
新キャラ…銀髪の少女…???