今更ですが、本作品の文字数が百万を超えました。こんなに書いてたんですね…。我ながら凄いなと自画自賛しながら、
~前回のあらすじ~
ジブリール「(#^ω^)ピキピキ」
シン「あの人は大丈夫なんだろうか…」
アスラン「(カガリセラピー中)」
デュランダル「フフフ…(悪い顔)」
テレビ画面には各地の被害状況が映し出されていた。黒煙を上げ続ける巨大なクレーター、衝撃波によって形成された瓦礫の山。沿岸部は高波によって被害を受け、町は倒壊したビルが散乱している。何もかもを失い、呆然と座り込む人々─────しかしある意味、彼らは幸運なのかもしれない。避難が間に合わなかった人達、或いは避難したシェルターごと運命を共にした人達もまた大勢いた。
尤も、大気圏内に巻き上げられた大量の粉塵などによる長期的な影響や、今後の復興について考えれば、生き延びた事が果たして幸運であるかどうかは分からないが─────。
『やれやれ、だいぶやられたな』
『パルテノンが吹っ飛んでしまったわ』
しかし、この地獄が顕現したに等しい光景を目にしながら、男達の態度には緊張感も危機感も微塵も存在しなかった。モニターに映された容貌も身綺麗で、地上の被害などまるで他人事として捉えているようだ。
─────いや、事実他人事なのだ。どれだけ被害を受けようが、どれだけ人が死のうが、この男達には関係ない。彼らにとって人は、自身の私腹を肥やす為の家畜でしかない。むしろ今回の件は、増えすぎた家畜を減らす丁度いい屠殺程度にしか思っていないのだろう。…反吐が出る。
モニターの前で優雅にワイングラスを片手に佇むジブリールの傍らで、彼の招集を受けて駆け付けたネオ・ロアノークは仮面で昏い怒りを覆い隠していた。
『で?これからどうするのだ、ジブリール?』
二人の前に並ぶ八つのモニターの中から、一人の男が渋い顔で尋ねた。
『デュランダルの動きは早いぞ。奴め、もう甘い言葉を吐きながら、何だかんだと手を出してきておる』
今回の事態に瀕し、プラントの動きはこの男の言う通り迅速だった。各国への通達と、曲がりなりにも破砕作業を成功させている事もそうだが、事後の対応も素早い。すでに地上のザフト関連施設から被災地域へ、救援物資や救助要員などを乗せたヘリが続々と到着しており、プラント本国からも増援を送るとデュランダル直々に発表があったのはつい先程の事だった。
デュランダルが打つ手は余りに的確だった。これで市民感情がプラントに傾いてしまえば、開戦が難しくなってしまう。しかし、ジブリールの手には、ネオが齎した切り札があった。
「それについては心配ありません。彼女が大変面白いモノを持って来てくれましたから────ネオ」
掌サイズの端末を素早く操作する。端末に保存されたとある映像を読み込み、そして目の前のモニターに映る男達の元へとそれを送信した。
すぐに男達は手元へ転送された映像を目にして、目を見開き唸る。
『これは…』
『やれやれ…、結局はそういう事かね』
男達の元には、現在ジブリールのディスプレイにあるものと同じ映像が映し出されている筈だ。
「思いも掛けぬ、最高のカードです」
してやったりと言いたげな笑顔を浮かべるジブリールを、彼の斜め後ろから冷たい視線で見遣るネオ。
確かに今回の事態を引き起こしたのは、映像に映されている改造ジンの部隊だ。しかし恐らく奴らは現在のプラントの方向性の違いを理由に、組織を脱した者達─────ザフト機が彼らと戦闘を繰り広げる場面を外して上手く切り抜き、そして公開するつもりなのだろう。そんな映像を被害者達が見れば、どう思うか。
「これを許せる人間など、この世のどこにもいはしない。そしてそれは、この上なく強き我らの絆となるでしょう」
怒り、恨み、憎む─────そして、この男達の望むままに人は叫ぶだろう。
「
モニターの中に居並ぶ面々から、反論の言葉は出ない。これが乗るに足る賭けだと、彼らが認めたという事だった。
その後の話し合いは恙なく進み、細かい打ち合わせを終えてシェルター内に静寂が戻る。モニターは切れ、被害地域を映し出したテレビも画面は暗く、この場にいるネオとジブリールの呼吸の音だけが微かに響くのみ。
「…それでは、私はこれで─────」
「ネオ」
用は済んだとネオが踵を返した直後、彼女は背後から呼び止められる。何かがコトリと置かれる音がしたかと思えば、ゆっくりと足音が近付いてくる。
すぐ背後で男の息遣いがしたのと同時、ネオは後ろからジブリールの両腕に抱きすくめられた。
「疲れているだろうに…、こんな所にまで呼び出してすまなかった。君が無事かどうか、この目で確かめたかったのだ」
「…気にしないでください。貴方の意に従い、動く。それが私の役目ですから」
男からの甘い言葉は、ネオの心には何ら響かない。本当に心配であるのなら、こんな巣穴から飛び出して自ら来れば良かったのだ。それすらもせず、自身に甘い言葉を囁くこの男に最早哀れさすら覚える。今、ネオがこの男に対して何を思っているのか、どういった感情を抱いているかなんて考えた事もないのだろう。全ては自分のものだと、自分の思い通りに動くのだと信じて疑っていないのだから。
─────そんな男に付き従う自分もまた、同類の屑なのだが。
ネオの綺麗な赤い髪に鼻元を埋めながら、深く呼吸をするジブリールに、怖気が奔りながらも震えを堪える。
「ネオ。…今日は、ここに泊まりなさい。これは命令だ」
「…畏まりました」
可能であればこのままこの場から去りたいという淡い願いは叶わず、ネオはジブリールに縫い留められる。しかし、何だかんだネオを気遣う素振りを見せ続けて来たこの男にしては意外だという思いもあった。
宇宙から呼びつけたその日、普段であれば多少の休みを貰えた所。しかもジブリールが求めた任務を完遂し、機嫌も良い筈だというのに。
先日、先程まで話していた男達の内の一人と、ネオ自身にも関わるとある会話をジブリールがしていた事など露知らず、どの道逃げられはしないと諦めて彼女はジブリールの腕の中に身を委ねる。
もう、すでに
求められ、応じる度に何かが軋む音をネオは無視する。何故なら、自分に何かを痛がる資格なんてないからだ。
「ネオ…」
「─────」
愛おし気に名前を呼ぶジブリールを肩口で受け止める。目の端から流れ落ちた一筋の雫には、気付かないフリをした。
地球の軌道上に、その戦艦は停留していた。他の戦艦、モビルスーツのセンサーからは捉えられない迷彩技術、ミラージュコロイドで艦体を覆って擬態したその艦の名は
「また、厄介なものが出回ってますねェ…」
サッバーフの艦橋、やや照明が弱く暗い感じを受ける空間の中でライトブルーのスーツに身を包んだ男が、モニターに映し出された画像を見上げながら呟いた。
「まだ市井に公開はされていませんが、恐らくそれも時間の問題かと…。先の
「…とにかく今、最も急がなければならないのは被災地、被災者への支援です。至急アメノミハシラへ戻り、地上と連絡を繋げます」
この艦の責任者であるスーツ姿の男、ムルタ・アズラエルの指示によって艦の針路が定められる。すぐに指示が行き渡り、クルー達がそれぞれ行動を始める。
「─────という事になりますが、何か異論はありますか?
作業を続けるクルー達を少しの間眺めてから、アズラエルは振り返る。艦橋の後方、エレベーターの扉の前でメイド服姿の女性を傍らに伴った少年が立っていた。
アズラエルから名前を呼ばれた少年─────ユウ・ラ・フラガは口元に手を当てて、何やら考え込む所作を見せてから口を開いた。
「いえ…。アズラエルさんの言う通り、まずは地上と連絡を取る事だと思います。ただ、その後すぐに地球へ降りたいんです」
「…確かに、私もなるべく早く地球へ降りるべきとは思っていますが」
ユウはアズラエルの示した方針に概ね同意をしながら、最後に引っ掛かる言い方をした。
降りるべき、ではなく
「アズラエルさん。あの所属不明の部隊ですが─────多分、
「─────」
ユウの口から出て来た一言に、アズラエルは大きく目を見開いた。
アコードという言葉の意味を、すでにアズラエルはユウから教えられて知っている。だがだとしたらまた新たな疑問が湧いてくるのだ。
「貴方の見立てでは、動き出すまではまだ掛かる筈なのでは?」
「えぇ。奴らはまだ世界を敵に回す程の勢力を得ていない─────筈だったんですがね…」
コーディネイターの次の進化人類として生み出された、アコード─────何を根拠にこちらを襲って来た部隊をそうだと言っているのかは分からないが、ユウの言い方からして彼自身も確信を持っていないのだろうとアズラエルは断定する。
しかし、アコード達は地下に潜り、力を蓄えている筈なのだ。ユウからアコードについて教えられた後、アズラエルも彼が持つパイプを使って調べたが、ユーラシア南部の小国で静かにしているという報告を受けていた。本当に静かにしているのか─────国内で何をしているかまでは調査の手を届かせる事は出来なかったが、少なくともユウの見立ては正しいだろうとアズラエルも判断していた。
「…
不意にアズラエルが口を開く。彼が呟いたDという単語に、俯いていたユウが顔を上げた。
D─────アズラエル達がその名に辿り着いたのは、半年程前の事だった。あの時も、所属不明のモビルスーツ部隊に襲撃を受けたのを思い出す。撃退には成功した上、部隊の内の一機を鹵獲し中のパイロットを尋問に掛けた所、その口からDという名が出て来たのだ。
今そのパイロットはアズラエルの部下の監視の下で働いているが、D或いはDに連なる誰かが奪還しに来る気配はまるでない。こちら側で確保されても問題はないと考えての事か─────事実、知っている情報といえばDと名乗る何者かにアズラエル達を襲撃しろと依頼を受けたというものだけだった。
依頼を受けたのも秘匿回線を通してで、ならばと通信を受けた側から探りを入れてやろうと下手人達の拠点を突き止め、ガサ入れを試みた時には時すでに遅く、Dに先手を打たれていた。拠点は瓦礫の山と化し、組織の構成員も全滅。Dへと繋がる糸は、完全に断たれてしまった。
だがDにとってアズラエル達は相当に目障りらしく、それからも何度かDの意を受けたものと思われる組織からの襲撃を受け続けた。今回もそう。今までと同じ突然の襲撃─────それも、ユニウスセブン落下の混乱に乗じて、だ。明確にこちらを狙った襲撃はこれまでの傾向を考えれば、Dの手のものと考えていい。だとすれば、アズラエル達は初めて、Dへと繋がる糸をその手に握り締めたのかもしれない。
「
「…張られてますよ、恐らく」
アコードと、D。それを繋げる手掛かりが何かある場所をと考えた時、真っ先にアズラエルの頭に浮かんだのは
一度、メンデルへ調査の手を伸ばした事があった。中の施設に潜入し、アズラエル達はアコードの情報ともう一つ、
Dはメンデル周辺に目を届かせている。恐らく、今も。またアコードと思われるあの連中を当てられては堪らない。ユウと共に旅立ってから今までで、正真正銘初めて命の危機を感じ肝を冷やしたのだから。もしこの艦に戦えるパイロットがユウ一人だったなら─────もし、今もユウの傍らに無言で傅くあのメイドがいなければ、アズラエル達は宇宙に散るデブリの仲間入りをしていたかもしれない。それ程までに強敵だった。
「…メンデルの調査について考えるのは後でもいいでしょう。それよりもユウ君。地球へ降りるのを急ぎたい、理由を聞かせて頂きましょうか」
少し話がずれたのをアズラエルが引き戻す。これからすぐにアメノミハシラへと戻る事は確定として、その後どこへ向かうか─────アズラエルとしては被害国への支援は、地上にいる穏健派閥の人員達に暫くの間は任せて、こちらは見張られているのを覚悟で一度メンデルを覗きに行きたいと感じていた。自分達の敵かもしれないアコードという存在を、もっと詳しく知る事が出来るかもしれない。ならば、危険を推してでも行く価値はあると考えたからだ。
しかし、アズラエルとしてもユウからの意見を無視はできない。ユウの勘は、何かと
「…敵がアコードだと仮定して、奴らは喉から手が出る程に欲しているものがあります」
ユウは一拍置いた後、アズラエルの問い掛けに答える。何故、という質問に対しての答えとしては少々ずれた答え方の様にも聞こえるが、すでにアコードという存在について知らされているアズラエルにとっては、ユウが懸念している事の解答へ、その言葉だけで辿り着く事が出来た。
「─────まさか」
「アズラエルさん。俺はなるべく早く地球へ─────
証拠も根拠も何もない。そうであるとも限らず、むしろそうでない可能性の方が高いまであるだろう。だが俺自身の─────何より、この身体に備わった血の感覚が逆立ち、俺へ叫び掛けていた。
アコードの…奴らの狙いは一つ。奴らが理想とする世界を体現する為に不可欠なピース─────ラクス・クラインだ。先の襲撃の下手人がアコードであるならば水面下でとはいえ、武力行使へ走れる程に動けるようになっているのならば、彼女の確保へと動き出しても可笑しくはない─────否。ユニウスセブン落下によって世界が混乱に陥っている今こそ、それに乗じてラクスを捕らえる絶好のチャンス。奴らがそれをむざむざ見逃す筈がない。
─────アメノミハシラからカガリへ連絡を取るべきか。いや、しかし…。
本来なら、カガリへ裏からラクスの護衛を依頼するのが適切な措置だろう。カガリとアスランを乗せたミネルバは、そろそろオーブへ寄港する頃だ。こちらがアメノミハシラへ到着が先になる、という事は恐らくはない、筈。カガリへの連絡も、こちらが所持している専用の回線を使えば恙なく行える。
─────
しかし、
…我ながら、随分とDという存在を大きく評価しているものだ。だが、何故だろう─────血が騒いで仕方ないのだ。この血に刻まれた感覚が、俺の中でずっと燻っていた違和感の正体を叫び続けている。
ずっと、違和感を覚えていた。
大西洋連邦の表向きの発表は、さっき上げた通り、NJCの独自開発成功だ。だが─────
─────本当は、原作のクルーゼ同様に
世界の裏で暗躍をするDという男の存在を知った時、俺は何故か二年前に抱いた違和感を思い出した。そして同時に、総毛立つように血の感覚が粟立ったのだ。
あぁ─────こいつだ、と。
「ユウ様」
「────え、あ、…なんだ?
初めてDについて知ったあの時の感覚を全身で思い出した時、不意に耳元で静かに、されど不思議としっかりと耳に伝わって来る声で名前を呼ばれた。
この二年間で、またも聞き馴染みが出て来た涼やかな声の主は、戦後の二年間殆ど片時も俺の傍から離れようとしない、物心がついた時から俺の世話を続けている従者─────メテラ・ヘレシスだ。
アズラエルさんについていく条件として出した、キラとラクスの説得については、あの人が二人に叩きのめされながらも、俺も助力をしたからか何とか納得してもらえた。なのに、メテラはどうしても譲らなかった。絶対に俺についていくと…、また目を離した隙に無茶をされたら堪らないと。
…メテラの目を盗んでこっそりとヘリオポリスに行った事を相当根に持ってるらしい。ただ心配を掛けた事は事実だし、それを持ち出されては俺は何も言えなかった。
そこでまた、メテラがついていくのならとキラとラクスとの一悶着があったのだが、そこは俺が話をして納得してもらった。…代償*1は大きかったけどな。
だけどメテラについて来てもらったのは本当に正解だった。本邸にいた時から家事は勿論、様々な分野に於いて能力を発揮していた彼女だったが、まさかモビルスーツの操縦まで出来るとは思わなかった。アコードと思われる部隊との戦闘も、メテラがいなかったらどうなっていたか。
「なんだ、ではありません。何を呆けておられるのですか?疲れているのでしたら、話も終わった事ですし、お部屋で休まれてはいかがでしょう」
「─────」
思考にのめり込んでいる内に、気付けば目の前にアズラエルさんの姿はなかった。
「…そうだな。戻るぞ、メテラ」
すでにクルー達はこれから艦を発進すべく手を動かしている。目的地は、さっきアズラエルさん自身で言っていたアメノミハシラで間違いないだろう。
ここに突っ立っていてはただの邪魔でしかない。メテラを伴って、背後のエレベーターに乗り込み艦橋を出る。
エレベーターが昇っていく浮遊感を感じながら、またあの思考が脳裏を過る。D─────
これまでは、
だが、今は違う。原作知識など、当てにならない─────当てにしてはいけない。Dによって、歯車が掛け違ったまま回り始めていた。
もう、そんな男はいない─────俺はもう、この世界の辿る先が
─────しっかりしろ。元々、俺という存在がいる時点で原作知識なんて当てにならなくなる時は来ると覚悟していた筈だ。その時が、俺が思っていたよりも早く来ただけ。それに、今すべき事はハッキリしているのだから。
「…ラクス、キラ」
何らかの形で、アコードはラクスに接近してくる筈だ。最も最悪なのは、武力を行使した襲撃─────もしそれが行われれば、ラクスと一緒にいるキラだって危険だ。
まずはアメノミハシラへ向かう。そこで地上と共有すべき情報、事項を伝え合ってからすぐに地球へと降りてオーブへ急ぐ。
今、俺がすべきなのは─────二人を守る為に力を尽くす事なのだから。
本格的なユウの登場。そして盛りに盛られていく黒幕の存在感。
え?前半でとんでもない事が起きてるって?…(;´・ω・)